陽キャを滅する 〜ロックの歌声編〜

花野りら

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第五章 AIシャットダウン

1 4月6日 16:10──

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「イケボ……よき……」
 
 玉木ヨシカは、AI教師の流暢な英会話にうっとりしていた。
 英語は何をいっているか、ぜーんぜんわからないが、心地いい声音が耳をくすぐり、たいくつなはずの授業も楽しめた。これなら英語の成績は、あがるかもしれない。
 教室を見回してみても、居眠りをする生徒はいなかった。みんな真剣に授業を受けている。そのなかで、温水幸太はタッチペンを走らせていた。英語をリスニングして翻訳しているのだろう。将来の夢は海外で活躍するサッカー選手だけあって、語学を身につけたい気持ちがうかがえた。
 
──ぬこくんって勉強もできるんだ……。

 ヨシカは、ぬこくんに関心を寄せていた。
 なぜなら彼は女子たちから虐められている。それと同時に、王子を転落させた犯人として疑われているからだ。家業が探偵であるヨシカは、とても正義感が強い。よって、このような状況は放っておけないし、脅迫状を陰陽館に送りつけた人物を調査するためのパートナー。つまり相棒に、ぬこくんはうってつけだ。そう考えていたのである。
 
──ぬこくんと友達になろう。
 
 ヨシカは、ふふっと微笑みを浮かべた。
 
 キンコンカーン、鐘の音が鳴る。
 
 すべての授業が終わった。
 浮つく教室の喧騒。帰り支度をする生徒たち。かたや、逆にいつまでも教室に居残る生徒がいる。そのなかで、AI教師のもとに集まる女子生徒たちが数名いた。彼女たちは指先で、ぽちぽちとAI教師の髪や身体に触れている。
 
「きゃはは、先生ってかわいいー」
「触っちゃお~」
「うふふ」

 彼女たちは、等身大のイケメンCGがどんな反応をするのか楽しんでいるようだ。まるで、ペットの犬と戯れて遊んでいるかのように。
 
『先生に触ってはいけません』

 困り顔のAI教師は注意をする。
 だが、女子生徒たちはやめる気配はない。むしろ、興奮している。ヨシカも満更でもなく、頬がゆるむ。

「いいじゃん、いいじゃん」

 といって女子生徒たちは、イケメンCGを、ベタベタとタッチする。

『あっ、そんなとこ触っては、ダメですよっ! あっ』

 イケボの裏返った声を聞いて、さぞ気持ちがいいのだろうか。
 
「かわいい~」

 女子生徒たちは歓喜の声をあげた。
 するとそこに、ポニーテールの女子が近づく。背が高くてスポーティーだが、眼鏡をかけており知的な印象もある。動物の群れにボスがいるように、生徒の群れにも“学級委員長”というボスがいるのだ。ヨシカの背中に緊張感が走った。
 
「やめなさい、あなたたち。指紋がつくからお掃除ロボットの仕事が増えるじゃない」

 しゅん、とする女子生徒多たちは肩を落とした。
 ごめんなさい、委員長、とひとりの女子がいって頭をさげると、他の生徒も頭をさげた。委員長は、にっこりと慈悲深い笑みをたたえながら、
 
「触るなら自分の彼氏にしなさい」

 なんて冗談をかますから、女子たちはケラケラと爆笑した。

「彼氏なんていないよ~」

 と、やんわり否定する女子たち。
 委員長は、あら、と首を傾けると、横から、オーホホホと笑い声があがる。
 
「あら、平民のあなたたちは、ネット上に彼氏がいるじゃなくって?」

 オーホホホ、と高笑いをするのは西園寺絵里だ。右手のこうを口もとにあてている。なんだか貴族みたいで、髪型が金髪ドリルなのは、言うまでもない。

──癖が、強いなあ。

 ははは……と苦笑いを浮かべるヨシカだったが、エリザベスの平民という言葉が気になった。たとえ貴族っぽいとはいえ、クラスメイトのことを平民などと呼ぶのは、いかがなものか? 
 差別的な言葉であることは間違いない。だが、ここは郷に入っては郷に従えの精神でいこうと考えた。生徒たちの名前は、愛称で呼ぶことにする。
 
「AI彼氏なんてまだやってるの?」

 桜庭二胡、愛称バニーが、平民女子たちに訊いた。
 やってます、と答える女子もいたが、首を振る女子もおり、反応は半々。いまだに需要はあるのだろう。

──AI彼氏か、懐かしいな。

 AI彼氏──数年前に流行った恋愛シュミレーションアプリ。理想の男性像をいくつかのジャンルから選択し、彼氏となるアバターをカスタマイズする。そのあとはデートしたりイチャラブして擬似恋愛を楽しむことができるゲームだった。社会現象としては、スマホの画面をタッチすれば、いろいろな反応をするイケメンCGに、きゅんきゅんする女子が急増した。課金をすれば、エッチなこともできるらしい。
 
──私はやったことないけど……楽しいのかな?

 と、ヨシカは心のなかで疑問を抱いた。

「ゲームに恋するなんて陰キャだけかと思った~」

 ぴょんぴょん、と跳ねる女子。別奈ゆり、愛称ゆりりんがそういうと、委員長が、「現実逃避は、ほどほどにしてください」といって平民女子に向かって微笑みかけた。
 はい、という平民女子はバックを脇に抱え、そそくさと教室を出ていく。すると、AI教師が、ぱっと姿を消した。生徒たちなどの動く物体が周辺にいなくなると、センサーが感知して自動的に消えるシステムなのだろう。
 するとそのとき、グヒヒヒ、という不気味な声が響いた。
 
──なに?

 眉をひそめたヨシカが、おそるおそる不気味な声がするほうを見ると、三人の男子がひとつの机を囲って座っていた。彼らは、デブにチビにハゲという特徴を持っていた。
 机の上にはタブレットがあり、なにやら動画を視聴しているようだ。映されている画像は、美少女戦士っぽいアニメ。彼らは、それを神にでも拝む信者のように見つめていた。
 
「グヒヒ、このアミュちゃんのコスがさ~、たまランチセットなのである~」
「そうであろう、そうであろう」
「神回っすな~」

──げっ、オタク?

 正直、気持ち悪かった。
 いたいた、クラスにこういう人たち、とヨシカは思った。かたや、他の男子生徒たちは部活動があるのだろう。バックを抱え、教室から出ていく。ぬこくんもその集団のなかに混じって消えた。ヨシカも、そろそろ移動しようと席を立とうとした、そのとき。
 
「な~に教室で見てんのよっ! 気持ち悪りぃ陰キャどもがっ!」

 そう叫んだのは、バニーだった。
 彼女は、ガシャッと足の裏で机を蹴った。ストレスの発散をしたいのだろうか。しかし、席に座る男子生徒があまりにもデブなので、バニーは弾き返されて、すっ転んだ。
 
「いててて……」

 尻もちをついたバニーのスカートがめくれ、あわやレースの下着が、チラッと見えていた。

「バニーちゃんのおパンツは白なのである……」
「そうであろう、そうであろう」
「おお、神よっ!」

 みるなー! と叫んだバニーは、ささっと立ちあがった。顔はまっかで、プンスカと拳を作っているが、見た目が可愛いから怖くもなんともない。オタク男子たちは、ニヤニヤ笑いながらバニーのことを見ていた。

 グヒヒヒ、なんとも気持ち悪いオタク特有の笑い声。
 それと混ざるように、くすくす、とかすかに別の笑い声が聞こえてきた。
 ヨシカの耳はいい。
 生まれつき、聴力がずば抜けていいのだ。探偵業にもそれは役に立っている。猫を探すときなど、非常に重宝する。

「あの子たちか……」

 耳をすますヨシカ。
 さっと振り向くと、教室のうしろのほうでかたまる女子生徒がいた。彼女たちは三人いて、開けられたロッカーのなかをのぞきながら、ニヤニヤと笑っている。

 ちなみに、ロッカーの大きさは駅などによくある中型のコインロッカーくらいで、クラスの生徒人数ぶん三十台がずらりと並んでいた。セラミック加工された滑らかなデザインで、高校生の貴重品を保管する箱にしては贅沢すぎる。

「ああん、イライラするぅー! おいっ腐女子っ!」

 バニーの大声に、びくっと肩を震えわせる女子四人は、さっとロッカーを閉めた。
 
──おや? 何かマズイものでも入っているのだろうか?

 バニーちゃんおこ? とゆりりんが訊いた。
 
「おこだよぉ! プンプンっ!」
「こわいこわい……ぴえん」

 目を潤ませるゆりりん。
 彼女の精神年齢は背の低さに比例しているようだ。仕草や言葉使いなどから察するに、まだ小学生くらいだな、とヨシカは思った。ぴょんぴょん、と跳ねるゆりりんはうさぎみたいに、さっと委員長の大きな身体の裏に隠れている。

──おや?

 ゆりりんの手がどさくさに紛れて委員長のお尻を、さわさわと触っているのを、ヨシカは見逃さなかった。痴漢を捕まえるときに培った眼力が、今まさに冴えているのである。
 
──ゆりりんって百合っぽい……。
 
「ぜんぜん、こわくねえ」

 そう横から口を挟むのは、内藤翔也、愛称はナイト。
 彼は、布に巻かれた竹刀を背負っていた。剣道部に所属しているのだろう。ツーブロックの髪型が男らしく、身体のつくりも大人びて見えた。
 
「うっせぇわ! ナイトぉ!」

 さっとバニーはナイトの背後にまわると、えいっとばかりに竹刀を奪った。

「おい、返せ!」

 と、ナイトは腕を伸ばすが、バニーは意外と素早かったので、空振りにおわる。剣を奪われた剣士ほど、滑稽なことはない。
 それにしても、ナイトは道場に竹刀を保管できなかったのか? なぜ竹刀を持ち歩いているか謎めいている。もしかしたら彼は、武器を手放せない中毒症状があるのかもしれない。快楽殺人者に、ありがちな傾向だ。

「ははは、ナイトのバーカ」

 笑い、飛びあがるバニー。
 返せっ! とナイトは食いつく。
 バニーは、腐女子たちに近づくと、えいっ! と竹刀を振った。
 
「おい! 腐女子……ロッカーにあるものをだせっ」

 ひぃっ、と変な声をあげる三人の女子。
 彼女たちは、腐女子といわれるだけあって、ずっと下ばかり向いている。
 
「はやくっ!」

 と、バニーに脅され、腐女子のひとりがロッカーに手を伸ばす。ぐるぐる天然パーマの少女。その爪にはくすんだピンク色のジェルネイルが塗られていた。地味な腐女子にしては、そこだけ妙におしゃれな印象を受けた。
 
──可愛らしいネイルしてる……。
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