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第五章 AIシャットダウン
2 4月6日 16:35──
しおりを挟むロッカーは、電子ロックされた厳重なものだった。
暗証番号を入力するパネルがあり、名入れには、『日向小春』と表記されてある。
愛称──こはる。
その名前をヨシカは、ばっちり記憶した。
こはるは、ぽちぽちと四回、ボタンを押して施錠を外す。
ガチャリ、ゆっくりと扉が開かれていく。
バニーは、なかをのぞき、「あはは」とあざけ笑った。
「やっぱりBLもってきてるよ~こいつらぁ、エッロ~い」
やばぁ、とゆりりんがいう。
あらあら、とエリザベスが眉をひそめた。
きらり、と眼鏡を光らせる委員長が、ツカツカと歩き、ロッカーのなかに手を伸ばす。
「これは委員長の権限を持って没収します」
そんなぁ、と小春たち腐女子が、ぴえんと泣いた。
「学校にこんな卑猥な書物を持ってくるなんて……まったく」
委員長はそういうと、おもむろに自分のバックにBLの本をしまおうとしている。表紙にイラストされた裸体で抱き合う男と男の、
『スパダリを犯しちゃおう! お○ぽぬるぬる大作戦♡』
という意味不明なタイトルを、しかと目でとらえたヨシカは、
「なにあれ?」
といって、頬を赤く染めた。
「委員長! 読んだあとに貸してください」
オーホホホ、とエリザベスは高笑いをした。
「なにをいってるのエリザベス? これはゴミに捨てますから」
「え? そうなのですか?」
エリザベスは、はらりと肩を落とした。
「たくっ、もう少しバニーは女らしくしろよっ」
やっと竹刀を奪い返したナイトが、バニーにそう忠告した。
うっせぇ、といったバニーを見つめて、ナイトは、ふんと鼻で笑う。
──このクラス、ほんと癖が強い……。
ヨシカは、驚きを隠せず目を丸くしていた。すると、隣の席に座っている男子生徒が、「ねえ」といって話しかけてきた。
「たまちゃんって声フェチなの?」
──はい? いきなり何を訊いてくるん、この子!?
ヨシカは、眉をひそめた。
隣に座っているのは、神楽六輔、愛称ロック。
えっと……といってヨシカは苦笑いを浮かべた。唐突に男子高校生から話しかられて、乙女モードが起動。
「……んっ、えっと」
うまく話せない。
「僕は神楽六輔、みんなからはロックって呼ばれてる、よろしく」
「ろ、ロックくんね……よろしく~」
で、声フェチなの? とロックが訊くと、なぜそう思うの? とヨシカは逆に訊き返した。だって、といいかけたロックは、大きく息を吸い込んだ。
「先生ー!」
その声に反応するように、天井のプロジェクターが、キュインと光りを放ちAI教師をふたたび投影させた。イケメン特有のさわかやな笑顔が、教室に召喚されていた。
『どうしました? 神楽六輔くん?』
え、すごっ! といってヨシカは驚いた。生徒の声に反応して出現する技術もさることながら、しっかりとロックの声だと認識するAIに脱帽してしまう。
しかしロックは、AIには何も答えず、ニコニコとヨシカだけを見つめていた。
「ほら、イケメンの声を聞いたとき、君の頬は赤く染まる」
そんな……といってヨシカは、下を向いた。
──やだ、二十歳の私が男子高校生にからかわれてる……。
ロックは、おもむろにスマホを取り出すと、指先で弾いた。シルバーに色づけされたネイルアートに、ヨシカは、おしゃれだな~と思った、そのとき。
「あ、ちょうどよかった。先生っ!」
といって委員長が、すっと手を挙げた。
菖蒲さん、なんでしょうか? とAI教師は応答した。
「王子の容態を教えてください」と委員長は尋ねた。
その質問はクラスメイトたち一番の関心。みな、ぴくりと顔をあげた。
ピコン、と電子音が鳴り響く。イケメンAI教師の口が開いた。
『王子──月乃城王子は、月乃城病院に運ばれ、診察の結果、しばらく入院することになりました。容態は右足首の骨折および精神疾患です』
「精神疾患?」委員長が訊いた。
『はい、自殺願望があるようで、ストレスを緩和するため療養が必要、とのことです』
「ストレスなんてあったの? エロ王子に」バニーが皮肉った。
『ストレスは誰にでもあります。ただ、王子の心理カウンセリングの結果はひどいものでした。先生の私がいうのもなんですが王子は、あたおか、という表現があっていると認識します』
あたおか~、といってゆりりんが笑った。
ナイトが、竹刀をバシバシ叩いた。
「にしても王子を階段から突き飛ばしたやつ、許せねえぜ」
陽キャたちは、こくりとうなずいた。
「やっぱり第一発見者のぬこくんが怪しい」とバニー。
「下僕を疑うのですかぁ」とエリザベスは肩を落とした。
「その動機は?」と委員長。
先生~! 誰が犯人なの? とゆりりんが元気な声で訊いた。
人工知能は、肩をすくめた。
『わかりません。ちょうど監視カメラに映っていなかったので……』
バニーは、残念とばかりに両手を頭のうしろで組んだ。
「あ~あ、肝心なときに役に立たないんだから、このポンコツロボ」
──バニーって子は口が悪いな……。
ヨシカは、バニーを一瞥すると、その面影に記憶があった。どこかで見たことがあるのだ。それはインターネット上でのことのような気がする。
──オモチャを遊んでいる子どもの動画配信だったような……、
おぼろげな情報だったので、秒でバニーへの関心は薄れた。
「じゃあ、もういいわ先生、さようなら」
委員長がそういって、さっと手のひらを泳がせた。
はい、といったAI教師は、ブゥンと電子音を響かせ消えた。
「先生を召喚して正解だったな」
そういったロックは、さっとマッシュヘアをかきあげると、にっこりと笑った。その髪の色はくすんだピンク色をしていた。
「あなたの髪の色すてきね」
ヨシカが、ロックを見つめて褒めると、
「灰桜だよ」
とロックは答え、机の横にかけてあったギターをかついだ。
ヨシカは、頭のなかで色を重ねていた。
記憶に新しい少女のネイルとロックの髪の色を。
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