陽キャを滅する 〜ロックの歌声編〜

花野りら

文字の大きさ
24 / 42
第五章 AIシャットダウン

4 4月6日 17:00──

しおりを挟む

「AIをシャットダウンって、どういうことですか?」

 ヨシカの質問に、りゅ先生は困った顔をした。
 
「詳しくは教頭先生に聞いてくれ。さあ、入って……」

 りゅ先生の手が伸びて、ヨシカに肩に触れた。部屋のなかに引き寄られると、ウィンと扉は閉まっていく。久しぶりに男性から触れられたヨシカは、不覚にもドキッとしてしまった。りゅ先生は何歳だろうか、という疑問がふと頭をかすめたが、首を振って煩悩を払う。
 
「君が信用できる生徒?」

 ゲームミングチェアに座っている男が、くるりとこちらを向いた。
 教頭の陸奥です、というと手を軽くあげた。手首の時計はカルティエ、スーツはアルマーニだったので、高級取りなことがうかがえる。ヨシカは、金持ちが嫌いだ。物欲にまみれた人間を見ると吐き気がするし、どこか信用できない。
 
「私が信用できる生徒に見えますか?」

 ヨシカの問いに、陸奥の目は女をたしなめる視線に変わった。
 
「うーん、どうかな? 女子高生にしては大人っぽいが、りゅ先生が連れてきた子だから信用するほかにないだろう」

──はい? この陸奥って男、苦手だ……。
 
 眉をひそめるヨシカをよそに、陸奥は、カタカタと手もとのキーボードをたたく。しなる指先は、ピアニストを彷彿とさせた。広がる手のひらは、ラフマニノフさながらの大きさを見せている。彼は、ニヤリと笑うと眼鏡を指先であげた。

「さあ、さっそくだがこれを見てくれ」
「屋上へのアプローチ……監視カメラの映像ですか?」
「ああ、まもなくひとりの女子生徒が映るから、誰か教えて欲しい」

──カッターの少女か……。
 
 映像が流れはじめた。エリザベス、ゆりりん、バニー、委員長につづき、ロックとナイトが、わははと笑いながら足早に画面から消えていく。しばらくして、王子が、のっそりとまるで幽霊のように現れた。怖いくらい猫背だった。目線は下に落ちている。垂れる金髪が、ブルーの瞳にかかっていた。
 
──やはり歩きタブレットか、見るからに危なっかしいな……

 つまり、このような王子の足取りなら、ローションでぬるぬるになった階段を一歩でも踏めば、すってん転んでも不思議はない。そう思いながら映像を見ていたが、肝心の階段が映っていない。ヨシカは思わず指さした。
 
「あの~、階段を見たいんだけど?」

 死角エリアだ、と陸奥は答えた。
 はい? ヨシカは、少しだけいぶかしんだ。
 りゅ先生が、後頭部をかきながら気まずそうに口を開く。

「じつは、陰陽館には監視カメラがとらえていない場所があるらしい」
「じゃあ、王子はその死角エリアで転倒したってこと?」

 ああ、とりゅ先生はうなずいた
 
「……はあ」

 ヨシカは、肩を落とした。事件は簡単に解決してくれそうにない。何か手がかりがあればと勇んできてみたが、収穫できた情報は杜撰な監視体制だったので呆れてものもいえない。
 ほどなくして、問題の少女が現れた。だが走っていたので、髪が乱れて顔がよく見えない。かろうじて観察できたのは、身長と髪の長さ、それと……ネイルの色。
 
「この子、誰かわかるかい? たまちゃん」

 りゅ先生の問いに、たまちゃんは微笑みで返した。

──大収穫じゃない!

「りゅ先生……」
「なんだ? わかったか?」
「あの~私、昨日転校したばかりなんですよ? クラスメイトのことなんかわかりませんよぉ」

 やっぱりか、とりゅ先生は苦笑いを浮かべた。
 ゲーミングチェアにのけぞって座っていた陸奥が、大きなあくびをする。
 
「ふわぁ、じゃあ、もういい? あまりにもAIがダウンしている時間が長いとメンテナンスじゃないってバレるからさ、なっ、もういいだろ?」
「ああ、ごめんなさい、教頭先生」
「これは大きな貸しですよ、りゅ先生」

 え? りゅ先生は目を丸くした。
 陸奥はタッチパネルの上にあったスマホを、ぐいっと顎で示した。
 
「白峯先生との親睦会を企画してくださいよ」
「はい?」
「先生会議ですよ~、人間の先生は僕たちしかいないんだから仲良くしなきゃ」
「はあ……」

 りゅ先生は、ため息まじりにうなずいた。
 うふふ、ヨシカは笑った。

「じゃあ、私はサッカー部を見にいきますね」
「サッカー部?」
「ぬこくんがいるんですよぉ」

 そっかそっか、といってりゅ先生は微笑んだあと、腰を低くした。

「ああ、なんかごめんね、たまちゃん……でも、このことは……」
「わかってますよ」
 
 ヨシカは唇に人差し指を当てて、しーとささやいた。
 
──いうわけがない。犯人の手がかりを依頼主以外の人に教えるわけがない。私には守秘義務があるのだ。あくまでも私の依頼主は神楽校長なのだから……。

 ヨシカは、中央監視室を出た。
 窓の外では少年たちが白いボールを追いかけている。緑の芝生、一本の殺人的なキラーパスがとおる。その瞬間、英雄が駆けた。ピー! オフサイドの笛が、空高く鳴り響いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...