陽キャを滅する 〜ロックの歌声編〜

花野りら

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第七章 歌声を滅する

1 4月8日 14:36──

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 事件は、被害者にとっては突然に起こるものであり、起こったときにはすでに勝負は決まっていると、わたしは考えている。
 犯人は緻密に計画を練られるのにたいして、被害者はあらゆる防犯対策を徹底しておくことしかできないわけだが……。

 さて、今回の事件の発生現場には、たまたま探偵がいた。

──玉木ヨシカ……。

 とても、犯人は逃げられないだろう。
 
 14:36──
 
 神楽六輔、愛称ロックは、喉の痛みを訴えて倒れた。 
 五時間目の授業が終わったあとの休憩時間。浮ついた教室のなかで起きた事件であった。
 
 犯人は2Aのなかにいることは確実。だが、わたしには犯人を特定することができない。悔しいが、あとのことは探偵にまかせている。仮想探偵の彼女に……。

 事件の全容はこうだ。
 ロックの机には、おしゃれな木目調の蓋が外されたサーモステンレス製のボトルがあった。イニシャルの英字で『ROCK』と名入れされている。既製品だが、たまたま自分の名前が入っていたので使用しているのだろう。
 4桁の暗証番号で電子施錠可能なロッカー。
 ロックは、このボトルをロッカーにしまっており、休憩時間になったので、取り出して飲んだ。
 
 というのも彼は、インディーズバンドのヴォーカルということもあり喉の乾燥を嫌う。美しい歌声は、つねにケアが欠かせない。
 
 時間はさかのぼり、13:34──

 お昼休み。このときの監視カメラの映像では、ロックはロッカーの暗証番号を入力して開けた直後だった。ボトルを取り出し、ゴクリとお茶を飲んでいる姿をとらえいた。このときは、特に苦しむ様子なない。
 
 14:36──
 
 再び、ロッカーを開錠したロックはボトルを取り出し、ごくごくとお茶を飲み、喉に潤いを与えていた。だが、ボトルを机の上に置いた瞬間、強烈な違和感が、喉に流れたもよう。

「ウガァァァ!」

 うめきならが喉を掻きむしるロック。
 声帯が潰れたのか、何もしゃべれることができず、「グガァァァ」と獣物のように叫び、身をよじらせた。かなり、激しい痛みが走っていると予想された。
 すると、不審に思った委員長が、机のボトルに触れようとした。
 そのとき。
 
「さわらないで!」

 と、女子生徒の声が教室に響く。
 すべての生徒が顔を向ける先にいたのは、たまちゃんだった。
 
「みんな、動かないでください」

 彼女は凛として、つづけた。
 
「アイ、救急車の手配を! それと、りゅ先生を呼んでください」

 と、天井に向かって指示をだした。
 反応を示したのは、ホワイトボートに投影されたAI教師。
 
「了解しました」

 たまちゃんは、その言葉を聞いて納得すると、ショルダーバッグから小物ポーチを取り出し、薄手の透明なゴム手袋をぬいて、パチンとはめた。指紋をつけないためだろう。
 
「クンクン、お茶の香りのなかに、かすかに刺激臭がある……これは……」

 ボトルのなかに鼻を近づけ、ひらひらと手であおぎ匂いを嗅いでいるたまちゃんの姿は、まるで研究者のようだ。それともうひとつ、ある名称がわたしの頭に浮かんだところで、平凡な男子生徒がその言葉を叫んだ。
 
「たまちゃんって探偵みたい!」

 それな、それな、と同意する男子生徒たち。
 そんな教室のなかで、委員長は唇を噛んでいた。不審物に素手で触るのは調査においてタブー。別に、委員長は警察でもなければ探偵でもないのだが、たまちゃんにバカにされているような気がして、イラついているもよう。
 そのとき。
 ウィン、扉が開き、りゅ先生が教室に入ってきた。

「おい! 神楽どうした?」
 
 りゅ先生は、秒でロックに近づいて片膝をつき、

「何があった?」

 と、横にいるナイトに訊いた。
 
「ロックのやつ、急に苦しみだして倒れたんだ」
「はあ? おい! 神楽っ!」

 りゅ先生がロックの肩を叩くが、ロックは声が出せず、ただひたすらもがいていた。
 
「オーホホホ」


 と、笑い声が響く。
 エリザベスが、口もとに手のこうを当てていた。
 
「王子の次は、ロックが襲われてしまいましたわ~」

 こわいこわい、といったゆりりんが、ひゅっと委員長のお尻の裏に隠れ、身を震わせた。委員長はエリザベスに向かって、
 
「笑い事じゃないでしょっ!」

 と、叱った。
 肩をすくめるエリザベスは、

「なによぉ、委員長だって笑ってたじゃない……」
 
 と、小声でつぶやいた。
 すでにロックに駆け寄っていたナイトが、ロックを抱きあげた。
 
「たまちゃん、玄関までロックを運ぶか?」


 お願いします、とたまちゃんは答えた。
 ナイトは、任せろと言わんばかりの顔をして、ロックを運んでいく。そのたくましい姿にクラスメイトたちは、わっと盛り上がった。それと同時に、なぜロックがあんなことに? という疑問が頭をかめているもよう。
 騒然とする教室、「静かにしましょう」というボーカロイドの声だけが、冷静に流れたが、生徒たちはいうことを聞かない。
 立ち上がったりゅ先生は、たまちゃんを見つめた。
 
「ロックに何があった?」
「このボトルに、化学薬品が混入されてる可能性が高い」
「なんだそれ? 誰かがボトルに入れたってことか?」

 こくり、とうなずくたまちゃんは虚空に向かって、
 
「苛性ソーダ、硫酸……」

 と、ささやきながら、ボトルに蓋をしたあとビニール袋に入れ、りゅ先生に渡した。
 
「これを神楽校長のところで持っていって保管してください」
「ああ、わかった」
 
 りゅ先生は、受け取ると教室を出ていった。学校側の人間である彼は、たまちゃんの意図が読み取れたようで、聞き分けがいい。
 
「どうするつもり? 警察には連絡しないの?」

 委員長が、たまちゃんに訊いた。
 にっこりと笑い返すたまちゃんは、やおら口を開く。
 
「ロックが被害届けを出した場合は警察も動くでしょうが、犯人が生徒の可能性もありますし、現段階では闇雲に警察に連絡するべきではないと判断します」
「犯人は2Aにいるってこと?」
「その可能性が高い。どうでしょう、ここは親でもある神楽校長に話を持っていきたいと考えていますが……委員長は不服でもありますか?」
「……」

 ありません、といって委員長は下を向いた。
 プライドが傷ついたのだろうか。委員長の眼鏡が、どんよりと曇っている。お尻の裏で隠れていたゆりりんが、両手を振った。
 
「委員長を口で負かすなんて、たまちゃんって凛ちゃんみたいだね~」
「負けてないっ!」

 委員長は、ギリっとゆりりんをにらんだ。
 “負ける”という言葉の地雷を踏んだゆりりんは、ぴょんぴょん飛んで逃げ、教室のうしろにあるロッカーに寄りかかった。そこには、陰キャの女子三人がいた。シャケ、イクラ、こはるの三人だった。彼女たちは漫画を読んでいたが、ひょいっと横から腕が伸びて、その漫画が何者かに取り上げられた。

「あんたたち、また学校にそんなエッチなもの持ってきてるの~」

 バニーが漫画を、ひらひらと手のなかで踊らせている。
 ばちん、とイクラの頭をそれで叩いた。
 きゃっ、とイクラが悲鳴をあげると、シャケが、陽キャ嫌い、と震えた声でいった。
 
「返してくださいっ!」

 と、こはるが訴えるが、バニーは無視して委員長に漫画を渡そうとした。
 いらないわ……と委員長が首を振った。

「あっそ」

 と、バニーは吐き捨てると同時に、えいっと漫画を投げた。無常にも、『婚約破棄した王子をメスイキ調教』というタイトルの漫画は放物線を描くと、ストン、とゴミ箱に落ちた。
 
「ナイッシュー! ですわ」

 ゴミ箱の蓋を開けていたエリザベスが褒めた。
 すると、バニーはすたすたと歩き、ぬこくんの机を、バンッと叩いた。
 
「ぬこくん! あんたでしょ? ロックをやったの」

 はい? ぬこくんの声は裏返っていた。
 聞いたよ、といってバニーはつづける。
 
「沙織を襲ったでしょ?」

 サオリ? とぬこくんは訊き返した。
 
「だれ? 知らないけど……」

 あら? といってエリザベスが首を傾けた。手もとにあるスマホには、グルチャの画面が映っている。

「ぬこくん……こんな画像どしたの?」

 いぶかしむぬこくんは、スマホを取り出して指を動かす。開いたのは『陰陽館2A』グルチャの画面を見つめ、はっと驚愕し、首を振った。
 
「なにこれ? 俺は送ってないよ……」

 グルチャには、数枚の画像が貼られていた。
 それらはロックが、女子生徒に性行為しているものだった。
 抱きしめている画像。
 制服を脱がせる画像。
 キスをしている画像。
 胸を揉んでいる画像。
 しかしながら、女子生徒の目線は赤く血のように塗りつぶされ、誰かわからない配慮がされてある。送信者はぬこくん。時間は14:38だった。
 
「ぬこくんは犯人ではありませんっ!」
 
 突然、たまちゃんが叫んだ。
 空気が張り詰め、教室じゅうが、しんと静まり返った。
 ぬこくんは、たまちゃんを見つめたまま立ち尽くしている。
 そのとき。
 水を打ったような静寂のなか、ピコンと電子音が鳴り響く。
 
『授業をはじめます。席についてください』

 AI教師の穏やかな声が響いた。綺麗な女性のCGが、ホワイトボードに投影されると、生徒たちは席についていく。
 授業がはじまった。古典の授業だったが、生徒たちはどこかうわの空で、机の下で隠れてスマホをいじくっている。みんなが見ている画面は、『陰陽館2A』のグルチャだった。

──ん? なぜ?

 わたしは目を疑った。グルチャのメンバー人数が『31人』になっていたからだ。
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