きっと彼女はこの星にいる

花野りら

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プロローグ 無知の知を知る

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 俺には彼女ができなかった。
 和泉、おまえは男が好きなのか? と男友達に冗談を言われたが、むしろそうなってくれたほうが楽だろうなとも思った。大学生になった俺は、生きる目的を見つけようと必死になっていた。とにかく身体と脳を動かした。そうしないと気が滅入ってしまい、うつになってしまうからだ。
 
 ジムに通って筋トレをした。他にも、空手、柔道、剣道、弓道、野球、サッカー、バスケ、ラグビーなどの競技で身体を鍛えた。また、家にいるときなんかは本を読んだ。図書館からいろいろなジャンルの本をかたっぱしから借りて読んだ。文芸、実用、ビジネス・経営・経済、人文学、社会学、理工学、医学、芸術学、などの専門書を読みあさり。さらに大学では法学部に進んでいた。

 がむしゃらに何かに打ち込んで気を紛らわしていたかった。立ち止まるとそのとたんに、真里がいなくなった現実が足下に広がって薄氷を踏む思いがした。
 
 おかげで大学の卒業を迎えるころには、俺の性格は明るくてポジティブになっていた。両親も友達もそのほうがおまえらしいと言ってくれた。しかし心とは裏腹に身体のどこかで、真里を求めている夜もあった。

 真里がいなくなってもう6年の月日が流れていた。そのころになると、もうみんな、真里が行方不明になった事など、まるで嘘だったかのように風化していた。仲間内でも家族でも、誰もその話題に触れなくなっていた。警察署のほうでも、事件解決に向けて何らかの動きを見せてるかと言えば、その期待は薄いものだった。

 俺は大学を卒業したら警察官になろうとも思ったが、やめておいた。なぜなら極悪非道の悪魔に鉄槌を下せるのは、警察でもなく、検察でもなく、ましてや、裁判官でさえないからだ。そんな神のような存在はこの日本にはない。いや、この星そのものにいないということを、彼女がいなくなって学んだ。

 先人である昔の大人たちが作り上げた社会、いや、この星に絶望していた。人間が人間を裁くには限界があり、ましてや、この星は人類というホモサピエンスというとるに足らない有機体が作りだした虚構の社会だから、何もかもが試行錯誤の連続で、失敗を繰り返しまくっている。そのたびに死んでいく者が山のようにいて、その山のような死体を見ることもなく、のほほんと贅沢三昧をして生きているごく一部の金持ちがいて、逆に食べる物もなく、お腹を空かせて餓死する人が十億人以上、この星に生まれて死んでいく。
 
 そんな星に住んでいて、生きる目的はなんだと問われたら、俺はこんな答えを導き出していた。両親にもその思いは伝えていた。
 
「俺は大学を卒業したら探偵になるよ」

 なぜ? と両親に訊かれたからこう答えた。
 
「きっと彼女はこの星にいるからさ」
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