6 / 46
プロローグ 無知の知を知る
6
しおりを挟む
俺には彼女ができなかった。
和泉、おまえは男が好きなのか? と男友達に冗談を言われたが、むしろそうなってくれたほうが楽だろうなとも思った。大学生になった俺は、生きる目的を見つけようと必死になっていた。とにかく身体と脳を動かした。そうしないと気が滅入ってしまい、うつになってしまうからだ。
ジムに通って筋トレをした。他にも、空手、柔道、剣道、弓道、野球、サッカー、バスケ、ラグビーなどの競技で身体を鍛えた。また、家にいるときなんかは本を読んだ。図書館からいろいろなジャンルの本をかたっぱしから借りて読んだ。文芸、実用、ビジネス・経営・経済、人文学、社会学、理工学、医学、芸術学、などの専門書を読みあさり。さらに大学では法学部に進んでいた。
がむしゃらに何かに打ち込んで気を紛らわしていたかった。立ち止まるとそのとたんに、真里がいなくなった現実が足下に広がって薄氷を踏む思いがした。
おかげで大学の卒業を迎えるころには、俺の性格は明るくてポジティブになっていた。両親も友達もそのほうがおまえらしいと言ってくれた。しかし心とは裏腹に身体のどこかで、真里を求めている夜もあった。
真里がいなくなってもう6年の月日が流れていた。そのころになると、もうみんな、真里が行方不明になった事など、まるで嘘だったかのように風化していた。仲間内でも家族でも、誰もその話題に触れなくなっていた。警察署のほうでも、事件解決に向けて何らかの動きを見せてるかと言えば、その期待は薄いものだった。
俺は大学を卒業したら警察官になろうとも思ったが、やめておいた。なぜなら極悪非道の悪魔に鉄槌を下せるのは、警察でもなく、検察でもなく、ましてや、裁判官でさえないからだ。そんな神のような存在はこの日本にはない。いや、この星そのものにいないということを、彼女がいなくなって学んだ。
先人である昔の大人たちが作り上げた社会、いや、この星に絶望していた。人間が人間を裁くには限界があり、ましてや、この星は人類というホモサピエンスというとるに足らない有機体が作りだした虚構の社会だから、何もかもが試行錯誤の連続で、失敗を繰り返しまくっている。そのたびに死んでいく者が山のようにいて、その山のような死体を見ることもなく、のほほんと贅沢三昧をして生きているごく一部の金持ちがいて、逆に食べる物もなく、お腹を空かせて餓死する人が十億人以上、この星に生まれて死んでいく。
そんな星に住んでいて、生きる目的はなんだと問われたら、俺はこんな答えを導き出していた。両親にもその思いは伝えていた。
「俺は大学を卒業したら探偵になるよ」
なぜ? と両親に訊かれたからこう答えた。
「きっと彼女はこの星にいるからさ」
和泉、おまえは男が好きなのか? と男友達に冗談を言われたが、むしろそうなってくれたほうが楽だろうなとも思った。大学生になった俺は、生きる目的を見つけようと必死になっていた。とにかく身体と脳を動かした。そうしないと気が滅入ってしまい、うつになってしまうからだ。
ジムに通って筋トレをした。他にも、空手、柔道、剣道、弓道、野球、サッカー、バスケ、ラグビーなどの競技で身体を鍛えた。また、家にいるときなんかは本を読んだ。図書館からいろいろなジャンルの本をかたっぱしから借りて読んだ。文芸、実用、ビジネス・経営・経済、人文学、社会学、理工学、医学、芸術学、などの専門書を読みあさり。さらに大学では法学部に進んでいた。
がむしゃらに何かに打ち込んで気を紛らわしていたかった。立ち止まるとそのとたんに、真里がいなくなった現実が足下に広がって薄氷を踏む思いがした。
おかげで大学の卒業を迎えるころには、俺の性格は明るくてポジティブになっていた。両親も友達もそのほうがおまえらしいと言ってくれた。しかし心とは裏腹に身体のどこかで、真里を求めている夜もあった。
真里がいなくなってもう6年の月日が流れていた。そのころになると、もうみんな、真里が行方不明になった事など、まるで嘘だったかのように風化していた。仲間内でも家族でも、誰もその話題に触れなくなっていた。警察署のほうでも、事件解決に向けて何らかの動きを見せてるかと言えば、その期待は薄いものだった。
俺は大学を卒業したら警察官になろうとも思ったが、やめておいた。なぜなら極悪非道の悪魔に鉄槌を下せるのは、警察でもなく、検察でもなく、ましてや、裁判官でさえないからだ。そんな神のような存在はこの日本にはない。いや、この星そのものにいないということを、彼女がいなくなって学んだ。
先人である昔の大人たちが作り上げた社会、いや、この星に絶望していた。人間が人間を裁くには限界があり、ましてや、この星は人類というホモサピエンスというとるに足らない有機体が作りだした虚構の社会だから、何もかもが試行錯誤の連続で、失敗を繰り返しまくっている。そのたびに死んでいく者が山のようにいて、その山のような死体を見ることもなく、のほほんと贅沢三昧をして生きているごく一部の金持ちがいて、逆に食べる物もなく、お腹を空かせて餓死する人が十億人以上、この星に生まれて死んでいく。
そんな星に住んでいて、生きる目的はなんだと問われたら、俺はこんな答えを導き出していた。両親にもその思いは伝えていた。
「俺は大学を卒業したら探偵になるよ」
なぜ? と両親に訊かれたからこう答えた。
「きっと彼女はこの星にいるからさ」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる