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青年時代
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しおりを挟む「なんでお姉様ばっかり、いつもいつもっ! くそっ!」
アルティーク家の自室で、そう叫んでいたロゼッタは、ふと足下で尻尾を振る小型犬を両手で持ちあげた。
アルティーク家で飼われている犬。
三年前に領地に迷い込んできた犬。名前を、わんまる、と姉が名付けたから、ルージュは余計に腹が立つ。イライラが抑えられない。
「くっそぉぉぉ! あたしのほうが顔も可愛いし、おっぱいだって大きいのにぃぃ」
彼女の手はわんまるの首にかけられ、ぐいっと力が込められていく。
「死ねぇぇぇ、ルージュぅぅぅぅ!」
鳴くこともできないわんまるは、ロゼッタに首を絞められ続けた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はっ……!?」
やがて、ロゼッタは気が済んだのか、ふぅ、と息を吐くとわんまるを放り投げた。ベッドに横たわり、ぴくぴくと痙攣している彼は、いったい何を思うのだろうか……。
「ったく、ラムス様もなんなのよっ、婚約者の僕を好きではないのですか、ルージュさん? なんて言ってさ、バカじゃないの? ルージュは絵を描くことしかでない頭でっかち女なんだからさ、恋なんてできないわよ、ふんっ」
ロゼッタはベッドに飛び乗って寝転んだ。
すると、わんまるは息を吹き返し、ベッドから飛び降りた。死んではいなかったようだ。ロゼッタはわんまるのことを一瞥すると、ふん、と鼻で笑った。
「あーあ、なんとかならないかしらね……あたしが幸せになるために……」
天井を見上げるが、水晶のシャンデリアだけがきらきらと輝いているだけで、ロゼッタの頭には何も浮かんでこなかった。
彼女は本能のままに生きるタイプの女。
まどろっこしいことが大の苦手。
よって、ラムスことが好きというより、姉のものを奪いたいという独占欲のほうが強い。
「無理矢理にでもラムスと性行為しようかしら……」
顔が赤くなった。
ふと、気づくと手が下半身に伸びている。
しかし、すぐに首を振った。
「ダメダメ、まだ外は明るいのに……ああっ」
窓の外を眺めれば、白いカーテンに茜が射している。
遠くから聞こえるカラスの歌、少しだけ部屋が寒く感じた。
ふと思い起こすのは、姉との会話、それと、姉のことを見つめるラムスの姿。そして、姉がいうには、第一王子・ノワールには愛妾がいるらしい。ノワール王子は、暴君、という噂は、やはり本当だったのだ。
姉がなぜ確証を持ってその事実を自分に告げたのか、その真意は定かではないが、少しは自分のことを心配してくれていることだけは、ロゼッタにもわかった。憎い姉だが、あいつは根は優しいのだ、そう思うロゼッタは唇を噛んだ。
「ほんっとお人好しなんだからお姉様ったら。少しは自分の心配をしたらいいのに……天才芸術家だからって自惚れてるのね、自分が一番頭がいい、そう思ってる。哀れなお姉様、うふふ」
うすら笑いを浮かべたあと、ロゼッタはぴょんと飛び起きると、おもむろに机の抽斗を開けた。中から小袋を取り出す。
「ふふふ、お姉様は明日、ベッドから出られないでしょうねぇ」
不敵に笑うロゼッタは、小袋の中身を抜いた。白い粉が入った透明な瓶が入っていた。それを持ちあげ、顔に近づけてのぞく。
「さらさらの粉……こんなんで人って死んじゃうのかしら? まあ、最低でも腹痛になればいい、そうすれば明日ラムスと会うのは、このあたしだから」
さて、何に混ぜようかしら、なんて考えながら部屋を出て、ニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべながら廊下を歩き、厨房に向かう。
「ふんふん、何がいいかなっ、何がいいかなっ」
不思議と心が躍っていた。
邪魔な姉が死んで、この世にいなくなる。
ああ、こんなに幸せなことはない。
すべてがあたしの思い通りになる明るい世界だ。
ラムスを手に入れ、アルティーク家を手に入れ……。
そんなことを思いながらロゼッタは、ガサゴソ、と厨房のなかを漁る。
「あら、お姉様の大好きなクッキーね……」
ロゼッタは棚からクッキーの箱を見つけた。
王都の菓子屋にいった使用人が買ってきたものだろう。
包装紙には有名店の名前が載っている。
ロゼッタは震える手で包装紙をビリビリに破り、箱の蓋を開ける。
「うふふ、忌々しいお姉様の命を奪って、すべてあたしのものにしてやるっ!」
薄暗い厨房のなかでロゼッタの不敵な笑みが、怪しく浮かんでいた。
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