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第2章 ピアノコンクール編
23 父さんとケリー
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俺、父さん、ケリーの三人がコンサートホールから出てくる。
歩きながら、俺が父さんかケリーかどちらの車に乗って帰るか相談していた。
「じゃあね~、徹、また家でゆっくり話しましょう。ミサオ、帰るわよ」
と、ケリーは俺の腕を引っ張る。
「いやいや、久しぶりに親子が再開したんだ。ミサオ、父さんの車に乗るよな?」
父さんは照れ臭そうに指先で鼻をかいた。
父さんとケリーは見つめあい、そして、笑いあう。
やれやれ……。
「わかったよ。父さんの車はどこにおいたの?」
「ああ、ここを真っ直ぐに行った左奥だ。場所はDエリアの3だ」
「わかった。鍵をかして」
ミサオは徹から車の鍵を受け取ると、そそくさと去っていった。
鍵にはキャデラックのエンブレムが施されている。
アメリカ開拓時代。
デトロイトの街を切り開いたフランスの探検家アントワーヌ・ドラモス・キャデラックは、デトロイトの父として親しまれる敬意から、高級乗用車のブランドネームとしてつけられた由来がある。
そして、このエンブレムはキャデラック伯爵の家紋をモチーフとし、ヨーロッパの美術家、モンドリアンによってアレンジされたものであった。
モンドリアンといえば、黒い線で四角を描き、その中に赤、黄、青で構成されたコンポジションが有名であるが、誰でも描けそうな絵であるような気がするが、いざ描こうとしても、
「いいデザインだな」
と、俺はつぶやいた。
~♪
ケリーはミサオの後ろ姿が小さくなったところを確認すると、優しい微笑みで首を傾けて徹のハグを待つ。
徹はケリーの首もとに軽く頬を寄せると、両手で肩を抱いていった。
ケリーは嬉しいらしく満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ、しょうがない、ミサオをお願いね」
「ああ、わかったよ。途中でどこか店によってランチするけどいいかな?」
「ええ! ずるい、わたしも一緒にいくわ」
「じゃあ、家の近くのハンバーガー屋さんはどう?」
「イネナウトのこと?」
「そう、インアンドアウトバーガー、そこにしよう」
「わかったわ」
二人は意見が合い微笑む。
が、徹はもう一人の家族である可愛い女の子のことを思い出す。
「でも、クロエが家でお昼ご飯待っているんじゃないの?」
クロエはケリーの娘で十六歳の女子高生だ。
今日は日曜で学校が休みなので、家にいるか友達と遊びに行っているのが慣例だと思っている徹であったが、クロエの学業以外での活動である副業については知らなかった。
「あれ? 徹はクロエのことあまり知らないのね」
と、ケリーに鼻で笑われる程度の情報しか、徹はクロエのことを知らなかった。
「クロエは今日何しているの?」
「クロエは今日はモデルの仕事をしているわ」
「モデル? グラビア?」
「徹……。あなたバカじゃないの? クロエはまだ十六歳の女子高生よ」
ケリーは変態をあしらうかのような冷ややかな目つきでいった。
「ティーン向けのファッション雑誌あるでしょ? クロエはそれの専属モデルなの」
「へー、そうなんだ。知らなかった……」
と、徹の頭のなかで学生服姿のクロエがウインクする。
くびれたウエストにヒップラインを強調するかのようにスカートがなびく。
たしかに、このスタイルならモデルで活躍できそうだと納得をする徹であった。
そして、クロエの母親であるケリーを改めて見ると、37歳の熟女にしては、
「ケリーもモデルとしていけそうだけどなぁ……」
と、さりげなくケリーのスタイルは若々しいと褒める徹であった。
「あら、こんなおばさんでも需要あるかしら」
「ああ、十分にあるよ」
「まあ、嬉しい」
ケリーはハグというよりは、もはや抱きつく勢いで徹の首に両腕を回す。
そして、チュッ、と頬にキスをする。
徹は恥ずかしいのか顔が火照り、まるで思春期の男の子ように心が踊った。
というのも、ケリーに渡したい品物があったためだ。
スラックスの右ポケットの膨らみに手を突っ込む。
「ああ、そうだケリー、ドバイのお土産を渡しておくよ」
「あら……」
ケリーの手のひらには高級感のある小さな宝石箱がのせられた。
ケリーは、開けてもいいかと沈黙の問いを徹に投げかける。
徹は微笑みうなずく。
パカッと、開けた宝石箱にはダイヤの指輪があった。
ケリーは左手の薬指に指輪をつけた。
左手の薬指は、アニバーサリーリングと呼ばれ、創造性を主張する指で、昔から直接心臓につながっているといわれ、命に一番近い指として神への聖なる誓いの指とされてきた。
その効果は愛と絆を深め、願い事を叶えてくれるらしく、
「ありがとう」
と、ケリーは微笑む。
ケリーは心の中で思った。
もっと二人の絆が深まるための愛の結晶が欲しいな……。
二人は別れると、それぞれ自分の車へと向かう。
時おりに振り返り手を振る姿は、なんとも、仲睦まじいものがあった。
歩きながら、俺が父さんかケリーかどちらの車に乗って帰るか相談していた。
「じゃあね~、徹、また家でゆっくり話しましょう。ミサオ、帰るわよ」
と、ケリーは俺の腕を引っ張る。
「いやいや、久しぶりに親子が再開したんだ。ミサオ、父さんの車に乗るよな?」
父さんは照れ臭そうに指先で鼻をかいた。
父さんとケリーは見つめあい、そして、笑いあう。
やれやれ……。
「わかったよ。父さんの車はどこにおいたの?」
「ああ、ここを真っ直ぐに行った左奥だ。場所はDエリアの3だ」
「わかった。鍵をかして」
ミサオは徹から車の鍵を受け取ると、そそくさと去っていった。
鍵にはキャデラックのエンブレムが施されている。
アメリカ開拓時代。
デトロイトの街を切り開いたフランスの探検家アントワーヌ・ドラモス・キャデラックは、デトロイトの父として親しまれる敬意から、高級乗用車のブランドネームとしてつけられた由来がある。
そして、このエンブレムはキャデラック伯爵の家紋をモチーフとし、ヨーロッパの美術家、モンドリアンによってアレンジされたものであった。
モンドリアンといえば、黒い線で四角を描き、その中に赤、黄、青で構成されたコンポジションが有名であるが、誰でも描けそうな絵であるような気がするが、いざ描こうとしても、
「いいデザインだな」
と、俺はつぶやいた。
~♪
ケリーはミサオの後ろ姿が小さくなったところを確認すると、優しい微笑みで首を傾けて徹のハグを待つ。
徹はケリーの首もとに軽く頬を寄せると、両手で肩を抱いていった。
ケリーは嬉しいらしく満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ、しょうがない、ミサオをお願いね」
「ああ、わかったよ。途中でどこか店によってランチするけどいいかな?」
「ええ! ずるい、わたしも一緒にいくわ」
「じゃあ、家の近くのハンバーガー屋さんはどう?」
「イネナウトのこと?」
「そう、インアンドアウトバーガー、そこにしよう」
「わかったわ」
二人は意見が合い微笑む。
が、徹はもう一人の家族である可愛い女の子のことを思い出す。
「でも、クロエが家でお昼ご飯待っているんじゃないの?」
クロエはケリーの娘で十六歳の女子高生だ。
今日は日曜で学校が休みなので、家にいるか友達と遊びに行っているのが慣例だと思っている徹であったが、クロエの学業以外での活動である副業については知らなかった。
「あれ? 徹はクロエのことあまり知らないのね」
と、ケリーに鼻で笑われる程度の情報しか、徹はクロエのことを知らなかった。
「クロエは今日何しているの?」
「クロエは今日はモデルの仕事をしているわ」
「モデル? グラビア?」
「徹……。あなたバカじゃないの? クロエはまだ十六歳の女子高生よ」
ケリーは変態をあしらうかのような冷ややかな目つきでいった。
「ティーン向けのファッション雑誌あるでしょ? クロエはそれの専属モデルなの」
「へー、そうなんだ。知らなかった……」
と、徹の頭のなかで学生服姿のクロエがウインクする。
くびれたウエストにヒップラインを強調するかのようにスカートがなびく。
たしかに、このスタイルならモデルで活躍できそうだと納得をする徹であった。
そして、クロエの母親であるケリーを改めて見ると、37歳の熟女にしては、
「ケリーもモデルとしていけそうだけどなぁ……」
と、さりげなくケリーのスタイルは若々しいと褒める徹であった。
「あら、こんなおばさんでも需要あるかしら」
「ああ、十分にあるよ」
「まあ、嬉しい」
ケリーはハグというよりは、もはや抱きつく勢いで徹の首に両腕を回す。
そして、チュッ、と頬にキスをする。
徹は恥ずかしいのか顔が火照り、まるで思春期の男の子ように心が踊った。
というのも、ケリーに渡したい品物があったためだ。
スラックスの右ポケットの膨らみに手を突っ込む。
「ああ、そうだケリー、ドバイのお土産を渡しておくよ」
「あら……」
ケリーの手のひらには高級感のある小さな宝石箱がのせられた。
ケリーは、開けてもいいかと沈黙の問いを徹に投げかける。
徹は微笑みうなずく。
パカッと、開けた宝石箱にはダイヤの指輪があった。
ケリーは左手の薬指に指輪をつけた。
左手の薬指は、アニバーサリーリングと呼ばれ、創造性を主張する指で、昔から直接心臓につながっているといわれ、命に一番近い指として神への聖なる誓いの指とされてきた。
その効果は愛と絆を深め、願い事を叶えてくれるらしく、
「ありがとう」
と、ケリーは微笑む。
ケリーは心の中で思った。
もっと二人の絆が深まるための愛の結晶が欲しいな……。
二人は別れると、それぞれ自分の車へと向かう。
時おりに振り返り手を振る姿は、なんとも、仲睦まじいものがあった。
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