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第二章 楽ちん国づくり
1 現在、魔法王国アートコア
しおりを挟む「君主、やっぱりここでしたか……探しましたよ」
そう言って歩いてきたのは、聖騎士ディーン。
青い鎧がよく似合う、我が国最強の武将だ。
彼はグランドツリーを見上げ、身体を震わせている。
壮大な精霊の力を感じ取り、圧倒されているのだろう。
僕は、抱っこしていたノームを降ろす。
土の精霊──ノーム、見た目は女の子。
だが、推定年齢は百万歳だと言う、というか覚えていないらしい。
「えー、もう抱っこおわり?」
不満げな顔をするノーム。
僕は彼女の頭をなで、
「どうした?」
とディーンに聞いた。
「西の砦をマドリー兵が襲撃しています。和平を結んでいたのに……なぜ?」
「……そうか、おそらくそれはフェイクだ」
「え? フェイク?」
「ああ、襲撃しているのはマドリー兵ではない。マドリー兵の鎧を装備した魔族だ」
「ま、魔族ですか?」
「うむ、どうやら、マドリーは魔族に支配されたらしい」
え? と驚くディーンの額から、汗が流れた。
「ディーン、家族をこっちに住まわせておいてよかったな」
「はい、やはり魔法王国アートコアに移住して正解でした」
「うむ、しかしこの国は問題がある」
「はい、例の魔王ですか?」
「ああ、いよいよ魔王が本腰を入れて、このグランドツリーを狙いに来たようだ」
「……君主、どうしますか?」
そうだな、と言った僕は、腕を組む。
着物の袖に手を入れて、しばらく知略をめぐらす。
敵は魔族と人間の両方だ。
よって、結界の影響がない西の砦を襲撃しているのは、人間ではなく魔族だ。
そして、人間のマドリー兵を通過させ、グランドツリーまで攻め込ませる作戦だろう。
つまり、すでに人間兵が我が領土に入っている、そう思っていい。
となれば……。
「ディーン、人間のマドリー兵がもうここに攻めてくるだろう。城壁に兵を配備させ戦闘態勢に入れ!」
「はっ」
「我は西の砦を守りにいく!」
「君主、お一人でですか?」
「いや、こいつを連れていく……」
僕はグランドツリーに触れながら、詠唱をはじめる。
「いでよ……タイタン……」
グゴゴゴゴ! と地震が起き、ディーンはよろめく。
突風が吹き荒れ、大樹がすさまじく揺れ動いた。
あたりの土、岩石、汚泥、草、あらゆる地表がえぐられ、一つの塊になっていく。
それは螺旋を描いて、まるで遺伝子配列のように組まれ、やがて人間の形に完成された。
──タイタン 土の巨人兵
それは、ドシン、ドシン、と歩いてくる。
その背丈は、グランドツリーほど。
王国は、雲に覆われたように、暗くなった。
タイタンは、ゆっくりと膝をついて僕にお辞儀すると、グゴゴ、と口を開く。
「ヒイロ……マタ、アバレテモイイ?」
ありえん光景に、腰が抜けたディーン。
「く、君主、これはなんですか?」
「タイタン……我が創造した霊力の塊だ」
「こ、こんなのが動いたら国が破壊されちゃいますよ……」
「たしかに、大きくしすぎたな、次はもう少し小さく創造するよ」
僕はそう言って、パチンと指を弾いた。
すると、タイタンの身体が光り、亀裂が入り、その形が崩れていく。
やがて、心臓の部分に、コアが現れた。
それは赤黒く輝き、ドクンドクン、と鼓動している。
大きさにして僕の拳ほど、それはふわりと浮かび上がり、こちらに近づいた。
僕は、ガシッと捕まえ、着物の袖に入れる。
──タイタンのコア 詠唱すると巨人兵となる
「実は、コアをグランドツリーの枝に隠しておいたのさ」
「……君主、あなたは素晴らしい!」
「そう、褒めるでない。我だけの力ではないのだから……な? ノーム」
うん、とうなずくノームは、ニッコリと笑った。
「ヒイロは初めて会ったときね、火傷して死にかけてたんだよ~」
「にゃはは、そうそう、あのときはヤバかった」
まじっすか? と言ったディーンは、疑いの目で僕を見つめる。
僕は、ノームの頭をなでなでしながら、
「ああ、もともとここは何もない平原であった。ディーン、君も知ってるだろ?」
と、逆に質問した。
「はい、このディーン、君主とともに国を大きくしたと思っています。でも、死にかけていた、という話は初耳ですなぁ」
「にゃはは、もう四年も前の話だ。また酒でも飲みながら話そう。戦争がおわったら寿司りたい」
「スシは最高です! あ、そういえば、酒場のマスターが新作エールが完成した、そう言っていましたよ」
ほう、と僕は言って、顎に手を当てた。
──エール フルーティーで飲みやすいビール。
僕の年齢は、もう二十歳になっている。
思えば、異世界転移して、四年も経っているのか。
十六歳の僕か、なんだか懐かしいな。
あの頃は、ボロい家をつくっては壊れ、畑を耕してはノラ獣に食われ、魚を釣りすぎて絶滅危惧種にさせたり、いろいろな失敗をやらかした。
「ああ、懐かしい……」
僕は、グランドツリーに触れながら、眼下に広がる王国を見渡した。
──魔法王国 アートコア
我が創造した、最高傑作。
魔導の力を最大限に活かした国家だ。
領土は完全に守られている。
ぐるりと囲む堅牢な戦闘用の城壁、そこには魔導砲や狙撃魔槍などの兵器が設置され、兵士が駐屯している。
城壁なかは、綺麗に整備された道路、それらがまるでローマに続く道のように、魔法道具や兵器を製造する工場、さらに食糧を生産する畑、田んぼ、酪農場へとつながり、広大な豊潤地帯を見せていた。
川の水を城壁の間から流入させた水路、防災用の池では魚の養殖がある。
この魚で作った寿司が、美味い。
料理してくれるのは、街のコックだ。
街は、見晴らしのいい丘に築かれている。
モデルは自分の好きな中華風にした。
美しい宮殿、整然とされた街並みは、まるで碁盤の目のように設計されている。
──ふふふ、我が国の資源は、この異世界でトップクラスだ。
だから攻め込まれたときは、全力で守らなければならない。
南には水龍が住む川、北には大鷲が住む山、東と西には砦が設置され、タワーディフェンスの対策は完璧だ。
しかし僕がくる前、ここは何もない、荒地だった。
目を閉じると思い出す、草の緑と土の茶色が混ざり溶け合う広大な地。
まっさらなキャンパスに夢を描くように、僕はこの国をつくった。
──そう、すべては異世界転移したあの日から、国づくりは始まったのだ……。
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