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第二章 楽ちん国づくり

4  池をつくった

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「わーいわーい! 魚、魚、魚ぁぁぁ!」

 そう言って、ガルルは走り回っている。
 完全にテンアゲなのだろう。しっぽが踊り狂っていた。
 ノームは、池のなかを泳ぐ魚を見て、
  
「おおおおお! ヒイロぉぉ! すっごいね!」

 と言って興奮している。
 彼女は土の精霊。近くで魚を見るのは、生まれて初めてなのだろう。
 まぁな、と言った僕は、水のなかに網を入れて、魚をすくった。
 異世界の魚はでかい。これってなんて魚だ?
 
 ──川魚 サーモン

 なんだ鮭か。
 生でお刺身にするもよし、焼いて食べても美味いだろう。
 ってか、白米が欲しいな。よし、田んぼもつくろう。

「ねえ、これどうやってつくったの? この池」

 ノームの質問に、僕は待ってましたとばかりにステータスオープン。
 そこに構図を映しながら、説明をはじめた。

「オホン、まず、土魔法で穴を四角に掘って、そのまわりを石で固めた。いわゆるプールってやつだよ」
「プール?」
「水槽とも言えるけどね、まあ、ようは魚を入れておく場所さ」
「へー、じゃあ、水はどうやって入れたの?」
「それは、川から水をひっぱってきただけ。これも土魔法で水路をつくった」
「ふぅん、でも魚が集まってきたのは、なぜ? 警戒しないの?」
「このプールにエサをばら撒いた。そうすると、川から水路を通って魚が泳いできたってわけさ」

 エサ? とノームが聞くので、僕は石でつくった箱を取り出した。
 フタがついており、開けると、

「きゃーー! かわいい!」

 ノームは、飛び跳ねて喜んだ。
 石の箱のなかには、なんと、ミミズが大量に入っている。
 げぇ、うにょうにょしてて、気持ちわるい……。
 僕は、ちょっと引いたけど、ノームは嬉しいらしい。
 
 ──さすが、土の精霊だ。虫が大好きなのだろう。

 ノームは、ミミズをつかむと、プールに投げ入れた。

「ほら、お食べー!」

 そうすると、何匹ものサーモンが水しぶきをあげて、エサをパクパク食べる。
 まるで、池の鯉にエサをあげている光景と似ていた。
 現実の世界で、よく公園でカップルがやっている、あれだ。
 まさか、異世界で精霊の女の子といっしょにエサやりをするとは、思わなかったが……。

「ヒイロぉぉ、楽しいな、これ!」
「うんうん、気持ちわるいほど食うな、こいつら」
「キモい、キモい、キャハハ」
「でも、このエサに寄ってくるから、網で簡単に釣れちゃう、ほら!」

 ザバン、と網をあげれば、サーモンが面白いように収穫できる。
 ちなみに、網は僕が土魔法でつくった。
 竿は木の枝。
 網の部分は、土のなかに含まれる鉄を利用した。

 ──土魔法 ディスサンブル分解

 使い方は簡単。大地に両手を置き、それを詠唱するだけでいい。
 すると不思議なことに、今回は鉄だが、自分が欲しいと思った成分だけが、ゴゴゴ、と地面から鈍い音をあげて浮かびあがってくるのだ。
 それはまるで、微粒子のダンス。
 土に含まれた鉄の成分が、宙でひとつの塊になっていく。
 しかし、まだ僕の魔法レベルが低いせいだろう。
 ある程度の重さになると、それ以上は集まらなくなって落ちる。

『 職業 土魔道士 レベル28 』
 
 これが今の僕の魔法レベル。
 鉄の塊は、僕の拳ほどであった。
 
 ──レベル99になると、どうなるのだろう。試してみたいな。

 あ……気持ちを網に戻そう。
 で、あとは鉄の塊を、ストーンプレイで加工すればいいだけ。
 ようは、鉄を細長く生成し、繊維状にして、それをうまく繋いで完成だ。
 ちなみに僕は、網以外にもいろいろな道具をつくった。
 ナイフ、まな板、鍋、フライパンなどの料理器具だ。
 コンロをつくろうとしたが、やっぱりやめた。
 なぜなら、フイールドワークをした結果によると、この地域には、天然のメタンガスが発生していなかったからだ。
 異世界をくまなく散策すれば、どこかにメタンガスが眠っているとは思うが、それを探すよりも、火魔法を使える魔道士を国に住まわせれば、話は簡単だろう。
 だが、もっと国らしく街を設置しないと、人はやってこないだろうな……。
  
「よいっしょ、ゆっくり国づくりしてこっと……」

 僕は、魚をナイフでさばいてみた。
 ステータスオープンして、魚のさばき方を検索。
 すると、動画が出てきた。まるでユーチューブだった。
 しかも親切なことに映っているのは、料理人のおじさん。
 女神が、隠し撮りしたものなのだろうか?
 おじさんは、チラリともこちらを見ない。 
 だが、鮮やかなに魚をさばく動画は、大いに役に立った。

「お待たせ~、刺身だよ」

 僕は、さばいた魚を盛りつけた皿を机に置いた。
 ガルルのために、ひとつは床に置いておく。
 おおおお! とうなるガルルとノームは、大喜びで飛び跳ねた。
 いただきます、とも言わずに、パクパク、むしゃむしゃ食べはじめる。
 僕は、塩をふった一切れを口に入れて、舌鼓をうつ。

「うーん、脂がのって美味いなぁ」
「んまんま、ヒイロ氏、サイコー!」
「ガルル、焼いた魚も食べたいよな?」
「でも焼けるンゴ? ヒイロ氏は火の魔法が使えないクズだったような……」
「おい、クズって言うな、クズって」
「どうかにして、火を起こしたいでやんすねぇ」

 ああ、と僕は言いながら、空を仰いだ。
 白い雲のなかに、黒っぽいものが混じっている。
 
 ──雨が降りそうだな。   
 
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