壊れゆく聖女と影の少年〜神の加護は心を癒してはくれないから、俺が先生を守ってあげたい〜

ことりとりとん

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9.お願い

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翌朝。

「キース、おはよう」

燦々と降りそそぐ朝日を一身に浴びて微笑む先生は、やっぱり聖女様に相応しい美しさだ。

「おはようございます」

寝起きすぐに先生の美貌は、俺には威力が高すぎやしないか。

「あのね、キース。お願いがあるの」

「何でしょうか」

先生の望みは何だって聞く。
こんなにも真剣な眼差しで真っ直ぐに言われれば尚更。

「絶対、居なくならないで。どこかへ行ってもいいけれど、日が暮れるまでには戻ってきて。
どうしても日暮れまでに戻れなさそうな時には、出ていく前にそう言っておいて」

「はい、分かりました」

昨日の先生の様子を見て、それでも拒否なんて出来るはずがない。
言われなくてもそうするつもりだった事だから、はっきりと返事をした。

「それとね、もうひとつ。
あの、私のこと、名前で呼んで欲しいの」

さっきまでとは一転、目線を彷徨わせながらもこちらを伺うような先生は本当に可愛らしい。

「えっと、シャラスエンリア様?」

言われた通りに呼んでみるけれど、先生は満足していないみたいだ。

「私の今の名前は『シャラスエンリア』なのだけれど、昔、お父さんとお母さんが付けてくれた名前は、『リア』っていうの。
だから、キースにもその名前で呼んでほしいな、って。
もちろん外で呼んだらきっとキースが他の人に怒られるから、2人きりの時だけでいいわ。
外では今までどおりでいいの。
だから、この部屋でだけ、リアって呼んでくれないかしら」

「はい、えっと……リア様」

先生にとってそれがとても大切な名前であるのは間違いなく、それを気軽に呼ぶのは少し躊躇われる。

「ん~。なんか硬すぎるかなぁ」

「では、リアさん、と」

それでも先生は少し不満そうだけれど、これ以上砕けさせるのは俺の心が持たない。

「ん、まあいいでしょう!」

そう言ってほわほわと笑うリアさんは、とってもとっても可愛いな、と素直に思えた。



その日から、俺の暮らしは少しだけ変わった。
寝室は隣の従者控え室から癒しの間に変わり、夜になると影の中に収納してあるベッドを出して使うようにした。
従者控え室へはリアさんが行けないから、何かあれば探しに行ける所が良い、と言われて。

それに、時々だけれどリアさんの私室に呼ばれることもある。
なるべく他の人に気づかれないように気をつけているが、老人の次に大司教になった男は教会内の権力闘争にしか興味がないらしく、リアさんに何も言ってこないのが良いところだと思う。


それに、最近の俺は結構忙しい。

リアさんのお仕事の手伝いはもちろん外せないし、リアさんを守るための魔法の練習にも力を入れている。
最近ではリアさんが教えられるような基礎的な勉強はほぼ出来るようになったので、他で勉強出来る所を探しているんだ。

王都の魔法学校は特に分かりやすく良い授業をしているので、影の目と耳を使って良く授業を聞いている。

それに、あそこにはめちゃくちゃ大きな図書館があるので、授業で分からないことがあっても調べられる。

影を伝って自分が行くこともあるし、少し疲れるけれど影に実態を持たせて本を動かすこともある。
どうも影魔法はあまり人気の分野ではないようで、本の周りにほとんど人が居ないのも良いな。

たまにこっそりと本を借りているけれど、今のところ見つかっていなさそうだし、この国で一番大事なリアさんのためになることだから全然悪くないと思うんだ。

調べたことをリアさんに言うと、嬉しそうにほわほわ笑ってくれるのが俺にとって特別で、だからより一層熱を入れて勉強している。

「いいわねぇ、キースは。ここに居ても、他の色んな所が見られるのだから」

「先生も影に入って貰えたら連れて行けるんですけど、俺以外の生き物は無理なんです」

それだけは本当に申し訳ないと思っている。
出来るなら、リアさんに直接見せてあげたいものがいっぱいあるのに。

「それが私のお役目ですもの、仕方がないわ。
でもね、キースがそうやって色々と見てきてくれるから、私は今までよりもずっと外のことを知れるのよ。
一人では絶対に出来なかった事だもの。いつもありがとう」

「いえっ!先生のためなので!」

「キースが私のために色々と頑張ってくれていることはよく分かっているわ。だけど、私はあなたのためにできているかしら?」

「もちろんです」

これ以上ないくらい力強く頷く。

だって、リアさんが呪いを解いてくれたおかげで、俺は自分を取り戻せた。
勉強を教えて貰えて、影の魔法がこんなに上手くなった。

全部全部、リアさんのおかげだ。

「それならいいのだけれど。我儘かもしれないけれど、私はここから出られませんからね。
外のことを教えてくれるのはとても嬉しいのよ。
キース、これからもお願いね」

「はいっ!もちろんです!」

リアさんが俺に向けてくれるほわほわの笑顔のためなら、どこまでだって行きますよ!!!

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