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11.煙
しおりを挟むそれからしばらく山向こうの他国へ行く機会を増やし、村の人々とも少しは話をするようになった。
王都で買った物を向こうへ持っていくと喜ばれたし、影を使って魔物退治を手伝った時にはこれ以上ないほど歓迎され、少し居心地悪いと思うほど。
それだけ厳しい土地なのだろうとは思うが、村が一体となって助け合って生きていくのは、悪くない思う。
「へぇ、そんなことがあったのね。さすがキースだわ。私はこの国の民だけしか救えないけれど、キースは他の国の人まで助けられるのね!」
「いえ、助けたと言ってもその村だけですから」
色々な場所を見てまわってリアさんに報告するのは純粋に楽しいし、リアさんが褒めてくれるのはもっと嬉しい。
「でも、その村の人は本当に嬉しかったと思うわよ。成人したら私の護衛騎士になると思っていたけれど、キースはそんな小さな役目で収まらないのかしら」
「いえ、リアさんの護衛をするのは絶対なので!」
それだけは絶対に譲るつもりはない。
あと数ヶ月で成人なのに、その時をどれだけ待ち遠しく思っているか!
その時。
「あら、何かあったのかしら」
昼間は太陽神の光をめいっぱい浴びられるよう、リアさんの私室にも王都側に大きなガラス窓がある。
そこから見える王宮から、煙が上がっているように見えるのだ。
夜の闇に紛れて見づらいが、異変が起こっているのは間違いないだろう。
「いつもの炊事の煙とは全く違いますね。火事でしょうか」
「もう夜も遅いから、誰も気づいていないのかもしれないわ」
リアさんは心配そうだけれど、俺としては大事なリアさんとの時間を奪われているようで少し嫌な気持ちになる。
「ここからでは良く見えませんね」
「そうね。キース、もし出来るなら、誰かに知らせてあげられないかしら」
心優しいリアさんならそう言うと思っていた。
「ええ、行けますよ。少し行ってきて良いですか」
「ありがとう、キース。でも、絶対に無理はしちゃダメよ。何かある前に、戻ってきてね」
「はいっ!」
リアさんが心配するから、とっとと適当な人を起こしてすぐに帰ろう。
ーーそう思っていたのだが。
王宮内部の影に潜んだ俺の目の前を、抜き身の剣を下げた一団が鎧を鳴らして走り抜ける。
「王はどこへ行った! 逃げやがったか!」
何が起こっているのか見ようと追いかけると、一際ギラギラした豪華すぎる鎧を纏った人物が、王様の寝室に扉を蹴破って突入し、ろくに防御も出来ない王を一息に殺してしまった。
「はーっはっはっは!!
これで邪魔な王は死んだ! この国は、正統な後継者である俺のもとに、ようやく戻ってきたのだ!!」
ギラギラ鎧野郎はキマった瞳で周りを睨みつけ、勝利宣言をしている。
「「「英雄陛下、万歳ーー!!!!」」」
周りの連中もこの男の仲間らしく、勝利に酔って派手な大声をあげていた。
「これは、マズイかもな」
今までの王は良くも悪くも地味で臆病だったので、リアさんや教会に口出ししてくることも無かった。
俺は大司教だけ気にしていればよかったのだが、この次の王はそうはいかないかもしれない。
「……ということがありました。夜の闇に紛れて暗殺したのに、アレが英雄と呼ばれることが理解出来ませんが」
すぐさまリアさんの私室へ帰り、見たことをそのまま報告する。
多少俺の意見も入ったが、どうしても言いたかったんだから仕方がない。
「そうねぇ、英雄って、別に何か決まったお仕事じゃないものね。
言ったもの勝ちな所もあるでしょうし。
でもそれならまあ、大したことはないと思うわ。
民が巻き込まれる大火になったら大変だけれど、王の座の奪い合いなんて、よくあることだもの」
俺は一大事だと思ったが、リアさん的にはよくある事らしい。
「さすが、長く生きていると違いますね」
「そんなことないわよ。ただ生きているだけだもの。でも、今回の子はどうかしらねぇ。
今は大司教もかなり若い子だし、こちらが荒れると困るのだけれど」
揺れるリアさんの空色の瞳は少し不安そうだ。
「大丈夫です、何があっても俺が守りますから」
「そうよね、私には誰よりも心強い護衛が居るもの。本当に、頼りにしているわ。
これからしばらく大変かもしれないけれど、お願いね、キース」
「はい、もちろんです!」
リアさんを守るのは俺の役目だから、何があろうと絶対に彼女を守り抜いてみせる。
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