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15.夫婦
しおりを挟むリアさんと一緒に少し寝て、昼前に村長の所へ挨拶に行く。穏やかで物分りの良い人だから、俺たちの移住も歓迎してくれるだろう。
これからずっと世話になる相手に隠し事は少ない方が良いと考えて、リアさんが聖女だったことも含めて全てを説明した。
「ほうほう。なるほど。では、お嬢さんはお若く見えてわしよりもずっと年上ということですな。
それは頼りがいのあることで!
な~に、この山は険しい上に魔物の巣窟ですからな、滅多な事では山越えしてくる奴など居ません。
祖国に追われる心配などせずに、ゆっくり暮らしてくださいな」
村長が暖かく迎えてくれたことで、リアさんもようやく安心出来たらしい。
「受け入れてくださって、とても嬉しいですわ。私、今でもほんの少しなら癒しの力が使えますの。
これは太陽神様から与えられたものでなく、自分が持って生まれたものなので。
ですから、病気や怪我があればお役に立ちたいです」
「それはそれはありがたい!
こんな辺鄙な所へは、医術師は滅多に来てくれませんからな。ぜひ村の皆に、その力を使ってください。
それで、キース。君はどうするんだ?
魔物から村を守るのは大切な役目だ。もしその影魔法を使って衛士になってくれたら、と思うのだが」
「俺もそうさせて貰いたいと思っています。ぜひ、お願いします」
以前魔物を討伐した時の事をきちんと覚えていてくれたようだ。
こうしてリアさんとの暮らしに役立つのなら、あの時頑張って良かったな。
「そうかそうか。君の実力はわしも良く知っている。いつかこの村に住んでくれたら、と思っていたのだよ。
では、キース、リア夫妻。この村への移住を歓迎するよ」
そう言ってくれる村長の言葉は嬉しいのだが。
「あの、村長。夫妻ではありません……」
いつか、いつかは、と夢見たことを言われて、顔が耳まで熱くなるのを自分でも感じる。
「おや、なんと! それは良くないぞ、キース。
お前も男だろう。きちんとけじめは付けるべきだ」
「……はぃ」
なんだか無性に恥ずかしくてろくな返事が出来ていないと思う。
「いやいや、焦ることはない。とにかく君らの事情は分かったから、今日は帰りなさい、な?」
な?と言いながらお茶目に片目を瞑ってみせる村長は、きっと俺の反応を楽しんでいるだろ!
「では、失礼しますっ!」
真っ赤だろう顔を隠すことも出来ず、半ば投げやりに辞してしまったが許してほしい。
そして、歩き出してしばらく、無言の時間が続いてしまうのも居心地が悪い。
「あの、リアさん」
何と言っていいか分からず、言葉につまる。
「えっと、村長はああ言っていましたけれど、俺が嫌なら、他の相手でも、良いかもしれませんけれど……」
俺は自分に自信がない。
元は暗殺者で、操られてリアさんの命を狙った人間なのに、リアさんの隣に居られるのか、って。
リアさんを守る、それには自信がある。
けれど人として、男として見てもらえているのか。
「あのね、キース。
私が300年生きてきて一番辛かった時、隣に居てくれたのはあなただけだったわ。
それに、私は言ったわよね。
太陽神様よりもあなたが好き、って」
「えぇ、はい」
ここまで言ってもらわないといけない俺みたいな男に、これだけ綺麗で素敵なリアさんの隣に居る資格があるんだろうか、なんて思ってしまうけれど。
きっとリアさんが求めているのはそんな言葉じゃない。
「リアさん。一生あなたを守りますから、」
リアさんを王国から連れ出す時よりもよほど勇気が要った。
従者でも護衛騎士でもなく、ただ唯一の座を求めることに。
でも、これは一生に一度のことで、チャンスはきっと今しかない。
リアさんと同じ色の空の下で、その瞳をしっかりと見つめる。
「結婚、してもらえませんか」
そして、その時のリアさんの輝く笑顔を、きっと俺は一生涯忘れないと思う。
「ええ、キース。これから一生、一緒にいてくださいね!」
とっびきり良い顔で笑うリアさんは、もう聖女じゃない。だからこそ、俺はこのひとを守り続けたいと強く思った。
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