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29.役に立つこと
しおりを挟む『ちょっと待ってて』と言ったまま、部屋に閉じこもってしまったツィリム。
せっかくツィリムが帰ってきたと思ってたのに、やっぱり一人かぁ……
でも、考えてても仕方ないし、掃除の続きをしよっかな!
そうやってひとしきり掃除を終えたらリビングでツィリムの好きな紅茶の準備をして本を読む。
もう既に一回読んだ魔術書だけど、こういう難しい本は何回も読んでようやく分かることとか、新しい発見とかも結構ある。
本当は学校とかで専門的に学んでみたいくらい面白いんだけど、今の環境じゃちょっと無理よね。
大学の頃は「学校行きたくない」とか言ってたけど、自分の専門分野の勉強はそんなに嫌いじゃなかった。
それと同じで、自分の興味のあることとか、好きなことを勉強するのは案外楽しい。
しばらくすると、ツィリムが部屋から出てきた。
「お仕事はおわったの?」
自分も本を閉じてツィリムに紅茶を淹れてあげる。
「仕事じゃない。イズミがいいのなら、溢れてる魔素を家の中で使おうかと思って」
「家の中で?」
「灯りや空調なんかを維持してるのは魔素だから。普通は龍脈から汲み上げるんだけど、それが大変だからお金がかかってる。
でも、イズミは直接龍脈に繋がってるようなものだから、タダで使える」
つまり、光熱費タダ。
「いいじゃない! その機械を作ってくれてたんだ」
「普通は魔素を使うと身体の負担になるんだけど、イズミは大丈夫みたいだから。
別に全部の魔素がイズミのでなくても、ちょっと補助してくれるだけでもな、と思って」
「どれくらいしんどいのかがわからないけど、なるべく頑張るよ!」
「頑張らなくてもいい。負担でない程度で」
うん、いつも通りの過保護さ。
そんなに弱くはないんだけどな。
「こっちきて」
ツィリムの部屋に連れて行かれるかと思ったら、行き先は地下だった。
地下室あったんだ、この家。
「天井低いから、頭気をつけて」
本来整備の時にしか人が入らない場所だから、床下よりちょっとマシ、程度の部屋。
空調の効いた室内では感じないけど、ここは寒い。しかも狭いし暗い。
その部屋いっぱいにボイラーみたいな機械が設置されていた。
「これは、汲み上げた所から送られてきた魔素を貯めておいて家中に流すためのもの。
ここに、イズミの魔素を貯めれたらいいんだけど」
「どうしたらいい?」
私は知識を溜め込んではいるけど、実際にやってみたことなんてない。
ここに魔素を貯めてと言われたってどうしたらいいか全然わからない。
「イズミは、何もしなくていい。身体が何か変ならすぐに言って」
「わかった」
何をするのかはよく分からないけど、ツィリムがすることだから、そんなに変な事にはならないだろうし。
そう思っていた、後ろから抱きつかれた。
唐突すぎて、ちょっとびっくりしたよ!?
別に嫌ではないからいいんだけどさ……
「身体、大丈夫? 力が抜ける感じとか、気分悪かったりしない?」
「全然、何ともないよ? むしろ何かしてるの?って感じ」
「やっぱり、イズミの魔素は龍脈に繋がってるんだね。機械の方も、全く問題無さそうだし」
「変わった体質ってこと?」
「変わった、って言うか、多分世界でイズミだけ」
「でも光熱費タダになるならラッキーだね」
私は軽ーい気持ちでそんなことを言ってたけど、そんな簡単な話でもなかったみたい。
「それだけじゃない。無限の魔素は、兵器にだってなる」
「へいき?」
「イズミが、戦争に使われるかも知れないってこと。
良くない事でも教えて欲しいって言うから伝えておくけど、イズミが『救国の乙女』なのはこの魔素があるからだと思う。神さまは、この魔素を使って、武力で国を救えって言ってるのかも、ってこと」
話が壮大になりすぎてて頭が付いて行かない。
「でも、絶対そんなことにはさせないから、大丈夫。そうならない為に、皆で協力してイズミを守る」
「ありがとう。でも、そんなに心配しなくっても大丈夫だよ? 私は、自分がやりたくない事はしないもの」
「でも、イズミの意志を曲げられるかもしれない。魔術を実際に使うのはイズミじゃないから、最悪の場合、イズミの意識が無くても『使える』から」
なるほど。
私は、自分のことをまるで分かって無かったのかもしれない。
そんなに重要視されるものだって知らなかったし、『最悪の事態』の想定が甘かった。
多分、私が考え込んで暗い顔をしたからだろう、ツィリムが心配そうに覗き込んでくる。
「そんなに怖がらないで。……やっぱり、言わない方が良かった」
「そんなことはない。知らないより、知ってる方が良いに決まってるよ。
知らなかったら出来ないことはいっぱいあるからね」
「そんなに深刻には考えないで。もしもの話だから。
そんなこと言ってる間に終わった。しんどくない? 大丈夫?」
「全然。本当に何ともないから」
「それなら、良かった。上へあがろう。これで上手く行くようならここへ降りて来なくても作業出来るようにしておく」
「ありがとう。……離れても、いい?」
そう、この話をしている間ずーっとツィリムは私の背中に張り付いたままだった。
「……ん」
渋々ながらも離れたツィリム。
「引っ付きたいなら部屋で幾らでもしてくれていいから。ここは寒いし、上がろ?」
「ごめん、寒かった。次からは、どうにかする」
上へ戻ると、イフレートがもう来ていた。
「イズミ様、地下へ居てたのですね。姿が見えないのでどうされたのかと思いました」
「地下にボイラーみたいなのがあって、それをツィリムと使ってた」
私がイフレートと話始めたのをぶった切るようにツィリムが
「ご飯にしよう?」
……今日は独り占めしたい日なのかな?
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