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29.猪と何か
しおりを挟むとはいえ、目の前のイノシシはどうにかしないといけない。
出来れば傷少なめで確保して、今夜のお肉にしたい所だが、上手く行くだろうか。
「はぁいっ!」
なるべくピンポイントかつ強い魔法を放つが、器用にも避けられた。
「次ぃっ!」
真っ直ぐ行っても意味が無いのなら、他の手段だ。
10個の炎の弾を出して周りを旋回させ、混乱させた所を狙い撃つ。
「グギャアアァッ!!」
一度ティーファの炎に囚われてしまえばあとはもう抵抗することも出来ずに肉になるだけ。
「そういえば、あなたは解体とかできるの?」
「……ん。」
ティーファは食べる専門なので出来ないが、ダンは出来るらしい。良かった。
最悪、このまま担いで帰る羽目になる所だった。
「これなら、台車を持ってきた方が良かったわね」
台車と呼んではいるが、車輪ではなく魔力で動くので自動追尾させておけば便利だったはず。
次からは持ってこよう。
「……んっ?」
ダンは何かに気づいたらしい。
ざっと革を剥いで良さげな肉を背嚢に確保すると、辺りを警戒する。
ビシィッッ!
魔力の揺らぎを感じてすぐに避けたが、危うくティーファの頭に直撃する所だった。
背後の木には穴が空いているし、ひ弱なティーファなど殺されてしまうだろう。
「水属性ね。嫌いだわ」
先ほどの攻撃は強い水圧砲だった。
炎を得意とするティーファは水属性相手はあまり好きでは無い。苦手と言うほどでもないが。
それに、うかうかしているうちに囲まれてしまった様子。
ティーファ達がいるのは森の中でもほんの少し開けた所だが、周りの薮の中を巡る気配を感じる。
「んー、どうしましょうか」
ティーファは、自分の戦闘力に割と自信を持っていたが、ここでは全く勝手が違う。
本当に生命の危機が迫れば、後先考えずに炎をぶちまけるからそこまで心配はしていないが、それをした後に魔力に当てられた魔獣達の集団暴走が起こる可能性を考えると最終手段にしたい。
そもそも出る魔獣の属性も知らずに魔境へ潜ること自体が自殺行為だが、ティーファはそんなことも知らないのだ。
もちろん、周りを囲んでいる敵がどんなものか、見当もつかない。
「ていっ」
盲撃ちで炎を飛ばすが、当たってはいなさそうだし。
もう面倒だし、ナイフを構えて突撃しようかな、なんて妙なことを考えていた所へ。
「ガギャアァッ」
魔獣の悲鳴が響いた。
「無事かっ!?」
知らない男の声と共に。
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