30 / 36
30.氷結狼
しおりを挟む「あら、ありがとう」
「そんな呑気なこと言ってる場合かっ!?
水狼の群れに囲まれてるんだぞ!? 近くにはボスの氷結狼も居る!」
「じゃあどうするの? 逃げる?」
そう言われても脅威度を知らないティーファにしたら『狼だったのね』程度の話だ。
最初に声を掛けてきた男とその仲間の様子を見るに、まあまあ切羽詰まっているのかな、とは思うけれど。
「奴らは逃げたら村まで追ってくる。連れて行ってしまう訳には行かないっ」
なんだか悲壮感溢れているけど大丈夫だろうか。
「巻き込んで悪いとは思うが、恐らく俺たちが氷結狼の気を引いてしまったのも原因だろう。
ここまで囲まれたら、一匹でも敵を減らして、逃げれる奴だけでも逃がさないとっ!」
「あら、そうなの。じゃあいくつか仕留めてくるわね」
相性の悪い水使いならば、近接物理で応戦するだけだ。
ティーファは何気ない様子で薮の方へ近づき、
「ていっ!」
気の抜けた掛け声と共に突っ込んで行った。
ただ、その動きは合流した男たちが驚く程素早い。
そもそも、ティーファたちがここまで戦闘態勢の水狼に囲まれたのも、氷結狼に男達のパーティーがちょっかいを出したものの対応しきれず逃げて来たせい。
声を掛けたのも、自分達のせいで死にそうになっているから、というのももちろんあったが、少しは支援してくれないかという思いもあった。
その相手が最近話題の天使ちゃんだと気づいて動揺もしたが、あまりに呑気なのでイラついていた。
そんな天使ちゃんはただの農家だと聞いていたのに、本職の冒険者である自分達を軽々と超えるような動きを見せつけられてとても驚いていたのだ。
「よいしょっと」
適当な相手を見つけてナイフを振る。ティーファにしたらそれだけのことだが、狼からしたら恐ろしいこと。
全く感知出来ないほどの動きで迫って来られるのだから。
「ギャオゥンッ!」
「よしっ、次!」
それでも牙を剥く狼を、炎を纏わせた刃で切り裂いてさっさと次へ向かい、仲間の悲鳴を聞いて身構える狼達を、次々と仕留めていく。
もちろん、冒険者の男達もそれをただ眺めていた訳ではない。
水狼だけなら相手に出来るのだから、慣れた動きと良いコンビネーションを最大限活かして仕留めていく。
「てえぃっ!」
ティーファの方も狼の動きに慣れてきて、後で肉を食べることも考慮出来るようになってきた。
獣は人間と違って首を跳ねづらいけれど、次の急所であるお腹を狙うと色んなものが飛び散って臭い。
一度お腹を破って中身を浴びてしまってからは、やっぱり首を狙うことにした。
「これだけあれば、ダンもお腹いっぱい食べれそうね!」
「……ん。」
ちなみに彼はティーファの隣で水を打ち消す係をしていた。
だから、他の敵からの援護射撃を気にせずに目の前の相手だけを切り裂くことができる。
何気なくやっていることだが、水狼からすれば詰みにも等しい状況だ。
彼らは一人の獲物を囲んで食うスタイルの狩りが得意なので、囲みを破られた時点でかなり動揺していた。
その上援護も無効化されて、確実に数を減らしている。
そんな折に、ようやく姿を現したのが氷結狼だ。
「やべぇ、終わった……」
この魔境で長く活動してきた一流冒険者パーティーが絶望するような相手、それが氷結狼。
《ヌシ》と呼ばれ、この魔境で数匹確認されている超脅威のひとつだった。
だが。
「あら、大きいわね。お肉沢山食べれるじゃないの」
自分の倍ほどもある狼に威嚇されても、ティーファはあくまでも気楽そうだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放された荷物持ち、【分解】と【再構築】で万物創造師になる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーから「足手まとい」と捨てられた荷物持ちのベルク。しかし、彼が持つ外れスキル【分解】と【再構築】は、万物を意のままに創り変える「神の御業」だった!
覚醒した彼は、虐げられていた聖女ルナを救い、辺境で悠々自適なスローライフを開始する。壊れた伝説の剣を直し、ゴミから最強装備を量産し、やがて彼は世界を救う英雄へ。
一方、彼を捨てた勇者たちは没落の一途を辿り……。
最強の職人が送る、痛快な大逆転&ざまぁファンタジー!
【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました
東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。
王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。
だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。
行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。
冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。
無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――!
王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。
これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます
黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。
だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ!
捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……?
無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる