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第2章
【24話】降る雨に
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敦志の家はそこからは少し遠く、急いで走って帰ったものの帰る頃には下着までびしょ濡れになっていた。
玄関のドアを開けて中に入るとせめて濡れないようにと胸に抱えてきたリュックを玄関框に置き、その横に腰掛け濡れてグチョグチョになった靴を脱ぎ、張り付いた靴下を脱いでいるとリビングのドアが開いて弟の敦弘が顔を出した
「おかえりーって、ずぶ濡れじゃん傘持ってかなかったの?」
「うん…」
抗議の声をあげながら唇を尖らせる敦弘。敦志はまるで悪戯が見つかったかのようにばつの悪い顔をし
「ごめん、今着替えるから」
そう言いながら自室のある2階への階段に一歩足を乗せたところで敦弘に手をつかまれた。
「それより先に風呂入ったら?」
「でも…着替えとか持ってこなきゃいけないだろ?」
「……わかったよ、風呂沸かしとくからすぐ来いよ、すぐ!」
「わぁかったって」
敦弘が手を離したので敦志はちょっと頬を膨らませながらそう言い背を向け、二階への階段を上がっていった。
濡れた服を全部脱いで洗濯物の籠に入れ下着にジャージを履いて長袖のTシャツに首を通し、腕を片方通したところでバイブにしていたスマホが振動する音が静かな部屋に響く。
電話かと思い、変な格好のままスマホを手に取ると、さっき登録したばかりの直哉の名前が…
敦志はぱっと顔を明るくしもう片方の腕も通しちゃんとTシャツを着ると髪から滴る雫などお構いなしに通知をタップする
『家着いた?濡れなかった?』
短い、それだけのLINEだったのだが先輩が心配してくれるなんて、そういう優しさをここしばらく忘れていたから尚更嬉しくて返事を考えながら敦志はベッドに寝転び白いスマホ画面を見つめていた。
思いついた文を打ち込もうと冷たくなった指をようやく動かし始めると階段を上る足音が聞こえてきた。そして間髪を入れずにドアを開け放つ音も
敦志がまるで逃れるように今、していたことを隠すようにスマホを抱えてドアに背を向けると
「兄貴!」
明らかに怒っている弟の声に敦志はビクリと身体を震わせるがわかったって、と生返事をして背を向けたまま動こうとしない
「わかってないだろぉ」
敦弘はそう言いガシッと肩を掴むと加減を知らない力で敦志の身体を自分の方へ向けた。
抵抗せずにゴロンと転がって仰向けになった敦志を見下ろしながら敦弘は
「風邪引くだろっ…ほら」
と敦志の手を掴み起こしてやろうとするが当の敦志はあまり危機感を感じてない顔で
「LINEしたら入るから」
「え、LINE?…さっきは着替えたら入るって言った」
敦志の言葉に一瞬戸惑ったが、敦志のスマホを握る手を掴んでちょっと頬を膨らませながら敦弘はグイッと敦志の上半身を起き上がらせた。さらに立ち上がらせようとするものの
「ちょっと送ったら、すぐ行くからさ?」
いつになくお願いするような目で見上げてくる兄に敦弘は更に戸惑った 。迷うように瞳が左右に揺れるが、直ぐにきゅっと唇を一文字に結び
「まぁたそーゆーこと言って…ダメだからな!早く風呂入れって…LINEは俺がしといてやるよ」
「なっ?!…返せよっ」
敦弘は意地の悪い笑顔を浮かべながら兄からスマホを奪い取った。突然手から掠め取られたスマホを物欲しげにみつめながら立ち上がった敦志に敦弘はにっこりして
「返して欲しかったら風呂入るんだなーっ」
と言いながら部屋を飛び出して階段を大きな音をたてながら降りて行った。
もぉ、と呆れたような声を出しながら一旦目を閉じて気持ちをリセットすると敦志は弟の言うとおり真面目に風呂に入ることにした。
タオルで濡れた髪を拭きながら湯上りで血行のよくなった顔でリビングに行くと、敦弘はフローリングの床に胡坐をかいて座り、大きなテレビの前でコントローラーを握っていた。ゲームをしているのだろう指先を激しく動かしながら時々なにやら喚いている。
「返せよ敦弘」
「え!?なに?」
「スマホ」
「あー、そこある」
「って、床に置くなよ」
と敦弘は自分の足元にあるスマホを指差し、それきりゲームに夢中で敦志を見もしない。
小さく溜め息を吐きながら敦志は敦弘の隣に行きスマホを拾い上げた。直哉の名前と通知が届いていた。何気なくスワイプして開いてみると敦志はバッとスマホを伏せ、床に置いた。
「敦弘、LINEした?!」
「したよー?俺がしといてやるって言ったじゃん」
「なにしてんだよっ」
恥かしさのせいか、頬が熱くなり敦志は頭が真っ白になった。自分の足元をぼんやり見ながらどうしようと考えるがすぐに思い出したかのようにスマホをまた拾い上げて見る
『そっか、十分温まれよ!風邪引かないようにな』
歯を出してニッコリ笑ったスタンプ付きのメッセージに直哉が怒ってはいないだろうと思い、敦志はホッと胸をなでおろした。
だが、敦弘はどんなメッセージを送ったのだろうと上の方にあるメッセージを指で下げてみると
『濡れた~でも今から風呂はいるよ♡』
語尾のハートマークのせいかもしれないが何故だか死ぬほど恥かしくて、うわーっと心の中で言いながら悶えて近くにあったローテーブルにうつ伏せる敦志
「なにしてんの?」
「お前のせいだよ、もーっ」
「なにが?」
「…敦弘が変なメッセージ送るからっ」
「えー?変だった?」
「だってハートマークだよ?」
「変?ハートマークって」
「変だよだって…直哉さん男だしっ」
「男だって別にい~じゃん何ムキなってんの?」
「ムキなんかじゃ……っ…」
真っ白になった頭で何も考えずに捲くし立てていたのだが弟に指摘されると更に意識してしまって敦志は真っ赤になってしまった。
気づくと敦弘はまたテレビ画面に夢中で敦志のことなど忘れてしまったかのような横顔だった。そっと立ち上がると敦志は足早にリビングを後にした。
冷え切った自室に戻るとベッドに潜り込み
『さっきはすいませんっなんか…弟が送っちゃったみたいで』
と直哉に謝りを入れた。すぐ既読になって返事が返ってきた。
直哉は気づいていなかったらしく、驚いたことと謝る必要はないと返事をしてきた 。
『でもハートマークとか変なの送っちゃって…ほんとすいません!』
ハートマークというのは人によっては結構やっかいな捉え方をされてしまうので男の敦志にそんなもの送られて直哉が気分を害していないか、ただそれだけが敦志は不安だった。
『だからいいってちょっと吃驚したけど…気にしてないから中西も気にするな?』
『分かりました…気にしません直哉さん…またLINEしていいですか?』
『いいよ気にしないでじゃんじゃんしていい』
『ありがとうございます!今日はありがとうございました…おやすみなさい』
メッセージを送り終わり満足げに息を吐きながら少し頭を上げ窓の方を見ると未だ雨は降り続いているようだった。
静かな部屋に雨が落ちる音だけをBGMに敦志はなんだか嬉しい気分のままスマホを握り締めた。
―――このまま雨が、この時間が続けばいいのに
玄関のドアを開けて中に入るとせめて濡れないようにと胸に抱えてきたリュックを玄関框に置き、その横に腰掛け濡れてグチョグチョになった靴を脱ぎ、張り付いた靴下を脱いでいるとリビングのドアが開いて弟の敦弘が顔を出した
「おかえりーって、ずぶ濡れじゃん傘持ってかなかったの?」
「うん…」
抗議の声をあげながら唇を尖らせる敦弘。敦志はまるで悪戯が見つかったかのようにばつの悪い顔をし
「ごめん、今着替えるから」
そう言いながら自室のある2階への階段に一歩足を乗せたところで敦弘に手をつかまれた。
「それより先に風呂入ったら?」
「でも…着替えとか持ってこなきゃいけないだろ?」
「……わかったよ、風呂沸かしとくからすぐ来いよ、すぐ!」
「わぁかったって」
敦弘が手を離したので敦志はちょっと頬を膨らませながらそう言い背を向け、二階への階段を上がっていった。
濡れた服を全部脱いで洗濯物の籠に入れ下着にジャージを履いて長袖のTシャツに首を通し、腕を片方通したところでバイブにしていたスマホが振動する音が静かな部屋に響く。
電話かと思い、変な格好のままスマホを手に取ると、さっき登録したばかりの直哉の名前が…
敦志はぱっと顔を明るくしもう片方の腕も通しちゃんとTシャツを着ると髪から滴る雫などお構いなしに通知をタップする
『家着いた?濡れなかった?』
短い、それだけのLINEだったのだが先輩が心配してくれるなんて、そういう優しさをここしばらく忘れていたから尚更嬉しくて返事を考えながら敦志はベッドに寝転び白いスマホ画面を見つめていた。
思いついた文を打ち込もうと冷たくなった指をようやく動かし始めると階段を上る足音が聞こえてきた。そして間髪を入れずにドアを開け放つ音も
敦志がまるで逃れるように今、していたことを隠すようにスマホを抱えてドアに背を向けると
「兄貴!」
明らかに怒っている弟の声に敦志はビクリと身体を震わせるがわかったって、と生返事をして背を向けたまま動こうとしない
「わかってないだろぉ」
敦弘はそう言いガシッと肩を掴むと加減を知らない力で敦志の身体を自分の方へ向けた。
抵抗せずにゴロンと転がって仰向けになった敦志を見下ろしながら敦弘は
「風邪引くだろっ…ほら」
と敦志の手を掴み起こしてやろうとするが当の敦志はあまり危機感を感じてない顔で
「LINEしたら入るから」
「え、LINE?…さっきは着替えたら入るって言った」
敦志の言葉に一瞬戸惑ったが、敦志のスマホを握る手を掴んでちょっと頬を膨らませながら敦弘はグイッと敦志の上半身を起き上がらせた。さらに立ち上がらせようとするものの
「ちょっと送ったら、すぐ行くからさ?」
いつになくお願いするような目で見上げてくる兄に敦弘は更に戸惑った 。迷うように瞳が左右に揺れるが、直ぐにきゅっと唇を一文字に結び
「まぁたそーゆーこと言って…ダメだからな!早く風呂入れって…LINEは俺がしといてやるよ」
「なっ?!…返せよっ」
敦弘は意地の悪い笑顔を浮かべながら兄からスマホを奪い取った。突然手から掠め取られたスマホを物欲しげにみつめながら立ち上がった敦志に敦弘はにっこりして
「返して欲しかったら風呂入るんだなーっ」
と言いながら部屋を飛び出して階段を大きな音をたてながら降りて行った。
もぉ、と呆れたような声を出しながら一旦目を閉じて気持ちをリセットすると敦志は弟の言うとおり真面目に風呂に入ることにした。
タオルで濡れた髪を拭きながら湯上りで血行のよくなった顔でリビングに行くと、敦弘はフローリングの床に胡坐をかいて座り、大きなテレビの前でコントローラーを握っていた。ゲームをしているのだろう指先を激しく動かしながら時々なにやら喚いている。
「返せよ敦弘」
「え!?なに?」
「スマホ」
「あー、そこある」
「って、床に置くなよ」
と敦弘は自分の足元にあるスマホを指差し、それきりゲームに夢中で敦志を見もしない。
小さく溜め息を吐きながら敦志は敦弘の隣に行きスマホを拾い上げた。直哉の名前と通知が届いていた。何気なくスワイプして開いてみると敦志はバッとスマホを伏せ、床に置いた。
「敦弘、LINEした?!」
「したよー?俺がしといてやるって言ったじゃん」
「なにしてんだよっ」
恥かしさのせいか、頬が熱くなり敦志は頭が真っ白になった。自分の足元をぼんやり見ながらどうしようと考えるがすぐに思い出したかのようにスマホをまた拾い上げて見る
『そっか、十分温まれよ!風邪引かないようにな』
歯を出してニッコリ笑ったスタンプ付きのメッセージに直哉が怒ってはいないだろうと思い、敦志はホッと胸をなでおろした。
だが、敦弘はどんなメッセージを送ったのだろうと上の方にあるメッセージを指で下げてみると
『濡れた~でも今から風呂はいるよ♡』
語尾のハートマークのせいかもしれないが何故だか死ぬほど恥かしくて、うわーっと心の中で言いながら悶えて近くにあったローテーブルにうつ伏せる敦志
「なにしてんの?」
「お前のせいだよ、もーっ」
「なにが?」
「…敦弘が変なメッセージ送るからっ」
「えー?変だった?」
「だってハートマークだよ?」
「変?ハートマークって」
「変だよだって…直哉さん男だしっ」
「男だって別にい~じゃん何ムキなってんの?」
「ムキなんかじゃ……っ…」
真っ白になった頭で何も考えずに捲くし立てていたのだが弟に指摘されると更に意識してしまって敦志は真っ赤になってしまった。
気づくと敦弘はまたテレビ画面に夢中で敦志のことなど忘れてしまったかのような横顔だった。そっと立ち上がると敦志は足早にリビングを後にした。
冷え切った自室に戻るとベッドに潜り込み
『さっきはすいませんっなんか…弟が送っちゃったみたいで』
と直哉に謝りを入れた。すぐ既読になって返事が返ってきた。
直哉は気づいていなかったらしく、驚いたことと謝る必要はないと返事をしてきた 。
『でもハートマークとか変なの送っちゃって…ほんとすいません!』
ハートマークというのは人によっては結構やっかいな捉え方をされてしまうので男の敦志にそんなもの送られて直哉が気分を害していないか、ただそれだけが敦志は不安だった。
『だからいいってちょっと吃驚したけど…気にしてないから中西も気にするな?』
『分かりました…気にしません直哉さん…またLINEしていいですか?』
『いいよ気にしないでじゃんじゃんしていい』
『ありがとうございます!今日はありがとうございました…おやすみなさい』
メッセージを送り終わり満足げに息を吐きながら少し頭を上げ窓の方を見ると未だ雨は降り続いているようだった。
静かな部屋に雨が落ちる音だけをBGMに敦志はなんだか嬉しい気分のままスマホを握り締めた。
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