LIFE-5万年の残光 それでも生きるということ

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11.スラム街のメカニック:ジャンク屋ダッド

目の培養にまつわる納期とデートと戦闘準備アラート

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ー生体パーツ入りの目は生体部の培養にちょいと時間がかかるからな。すまんがそれまでこれで代用しておいてくれ

男の名はダッド。このザンガイシティのスラムでジャンク屋を営む。目利きも勘も手先も凄腕、ではあるのだが、ちょいといろいろ世間には疎く、弟子のアリシアにはよく「腐っても客商売ならもうちょっとそのひび割れたレティクル外して世の中眺めな!」なんて言われる始末。
今日は運悪く、アリシアが出張メンテで防衛部隊の詰め所に向かっているのでダッド一人で若い女性サイボーグを相手にしている。いや、本当に運が悪いのはそのお客さんなんだが…

ーあのな、でもな、これただの目じゃないんだぞ

熱のこもった口調でダッドが言う。

ーオレの左目と同じタイプでな、古のインテリの技術の塊で、視覚機能は大幅に拡張されるはずだ。特別お試しサービスだぞ

そういってダッドはカウンターの上に置いた、古びたグレーメタリック色の、金属とも陶器とも言える風合いの、表面に細かい回路のような模様がびっしりついた”眼”を取り上げた。サファイヤ色の眼球部が奥深い光を放っている。

ーちょっとじっとしてろよ。いま仮付してやるからな。皮膚組織との融合は後でトリガー入れるから、とりあえずまず見えるようにしてやるから。あ、でも皮膚との融合はあえてやらなくてもいいんだぜ。そのほうがメンテナンス性がいいし、いかにも旧世界品って感じでいい雰囲気なんだよ。俺の左目がそうさ

そういってダッドは”どうだ?”と言わんばかりに自分のメカメカしい基盤がむき出しの左目をぎょろりと剥く。女性客はちょっと怯んで目をそらす…そんなことにはかまわずダッドはまくし立てる。

ーよし、お嬢さん、あんたの左目の回路と同調させた。どうだ?左目でいろいろこう、見え方を意識してみると、世界が変わってみえるだろ?
そいつの特長はまず波長だよ波長。LUV、EUVからミリ波まで、意識すればどこにでも合わせることができるだろ?
そしてその切替速度の速さ!まあこいつは旧世界品の民生品の中でも中の下ってところだがそれでも波長とオートフォーカス切り替えの俊敏なこと!
これがガチ軍用グレードだったらもっとすごくて、生体波長の神経にそのまま可視外波長をオーバーレイしながら火器連動で照準合わせることができるっていうんだぜ!それをコントロールする機械脳もかなりの性能が必要だけどな
いまそう、この店のアリシアがまさにそれを防衛部隊のおっさんの……ん?

女性客は呆れたように店の奥の棚に目を泳がせている。カウンターの上におかれた手の人差し指がタンタンと神経質にカウンターのトップを叩く。沈黙。数瞬。

(しまった、またやっちまった…アリシア…お前が必要だ……)
ダッドはなんとか取り付くためにさらに続ける。無意識にさらに早口。

ーいや、すごいだろ…?え?そうでもない?? まあ、ほら、あれだ、オレみたいな細かい手作業と調整が必要な職業の人間にとっちゃこのぐらい見えねえと商売にならんのよね

ーもし、気に入ったのなら買ってくれてもいいんだぜ?
なーに、培養中の目も売り物にはならないこともないから割引もきく
まあ今どき他人の半生体の培養眼球なんて二束三文なんだけどさ、この俺にの手にかかればきっといい買い手の一人や…

「そんなのいりません。皮膚融合は絶対やってその変な模様が外から絶対に見えないようにしてください。それからわたしの目を勝手に売らないでください。早く培養してください。次はいつくればいいですか?」

女性客はダッドの早口を遮るようにそれだけを鋭く言って、仮付された高性能眼球でダッドを見つめる。
指がテーブルを叩く音とダッドの心臓の鼓動が重なる。
ダッドのさらにハイスペックな左目が彼女の体温上昇と、唇の微細な振動を数値として捉える。
さらに彼の耳(やはり一級品が入っている)が、彼女の全身のアクチュエータがアドレナリンを受けて緊張度を上げた微かなハム音を検知。
ダッドの戦闘管制システム(出入りの防衛部隊からの払い下げ品を趣味で取り付け)が、「危険な兆候検知。戦闘準備モードへの切替を推奨します」なんてメッセージを脳内に送ってきた。

ーあああ、いやいや、勝手に売ったりしないしない…ええっと納期?納期?
ま、まあ、まっていま調べるから。うん最速で最速で!

脳内にはまだ「戦闘準備モード」への推奨アラートが鳴り響く。

ーそうむくれるなよ。いやあ、お嬢さんにはわっからないかなあ、そのテクノロジーの素晴らしさが!

そういった瞬間、ダッドはまた後悔するはめになった。
彼女に仮付けした眼球がダッドの眼を捉え、その瞳の大きさがキュンと音を立てて絞られる。虹彩の色が素早く青から紅へと変化した。
彼女の指がテーブルと叩く音のリズムがゆっくりになった。それはもはやタンタンではなく、ダン、ダンと力強くなっている。秒読みのようだ…。

ダッドは彼女の左目から逃げるようにカウンターの上に置いたカレンダーに眼を落とし、震える指で2週間後の日付を指す。

ーああ、あ、うん、この日の午後にはできてるとおもうよ

「そんなにかかるんですか?わたし、その三日前の土曜日に大事なデートがあるんです。こんな眼で行けません。
あ、でも、この眼、ちょっと便利ですね。あなたの体温、上がってるのがわかります。でもこんなのできるだけ早く取り外したいので、10日でお願いできません?」

ーええっと、、そうだな、タンクの空きがその、あ、いま防衛部隊長の腕の生体インターフェースの予備品作っているあのタンクをいったん止めて、促進剤を混ぜ込めば…何とか…
いやしかしそんなに急げば末端神経回路生成のランダム性から品質不良が11.5%の確率で発生するリスクが…

ダン、ダン…

ーそうだ、野戦用の特別配合促進安定剤でリスクを下げつつ…

ダン。

ーへ、並行してもう一つの予備タンクでも走らせれば2つ同時に不良となる確率は1.325%になって相当低くなり、10日でなんとか!

タン。

「で、料金は?」(ニッコリ)

(ああ、アリシア、早く戻ってきてくれ!)
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