LIFE-5万年の残光 それでも生きるということ

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11.スラム街のメカニック:ジャンク屋ダッド

沈黙する番人と師弟と三匹のネコ、そして夕焼け

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ダッドの機械脳に防衛隊の詰め所に出張メンテに行っていたアリシアから連絡があった。

”新しい仕事取ってきたから褒めて。歩行機械のコンバート。それに乗って夕方には帰るからガレージ開けておいて"

(新しい仕事だと?やるじゃねえか。いっちょ前になったな)

と、ちょっと褒める気持ちもでてくるものの、果たしていくらで受注したのか、そもそも納期的、技術的に可能な仕事なのか、そのへんの説明が一切なく、しかも、
(”褒めろ”ときたもんだ)

「ッたく…相変わらずだ。どういうつもりだ」

と、義眼用の生体インターフェースを培養しているタンクのダイヤルを調節しながら悪態をつく。
直径10cmそこそこのガラスの円筒形タンクの中ではまだ小さな組織の”タネ”が浮かんでいる。
とは言え、やっぱり、その言葉とは裏腹に、声色、顔はちょっと緩んでいる。
ダッドは嬉しいのだ。
弟子のアリシアがこうやって自分で仕事を取ってくるようになったことが。

ダイヤルを微妙に調整し、タンク付属の端末でさらに微調整を重ねる。
「よし、これで10日でできるだろう…全くあのお嬢さんにはまいったよ…」

客の「押し」に負けて超短納期での仕事を受けてしまった事を後悔。

「オレは人が良すぎるんだな、うん」

その点については、弟子のアリシアはきっと違う意見を持っているだろう。
「師匠は人を見る目がないの!だから商売が下手なの!」と。
そう、そういう点についてはアリシアはしっかりしている。
確実にできる仕事をできる値段で、かつ、客の表情も読みながら交渉してどっちもうれしい、いい感じの仕事にまとめる。
その才能は認める。「ただし、いつもいつもやらかしてからの事後報告な所はまだまだだがな」と、師匠ぶってみる。

培養タンクが順調に稼働し始めたのを見届けると、ダッドはカウンターの上に散らばっている客から預かった修理中のものや納品前の完成品を見渡す。
今日一日、アリシアがいない間にも3つの仕事を完了させた。
戦闘サイボーグ用の肘関節アクチュエータのオーバーホール、ソフトの不整合で動かなくなった子供用使役ロボの機械脳のデバッグ、EMPで焼かれた記憶素子からの残存データの修復と複製。そのデータの中身は相当ヤバそうだったがダッドの口は固いので有名だ。

そんな裏事情もあり、どれも一般の修理屋では難しい仕事だが、彼にかかれば難しいことはない。
この辺りのスラムでは一番のスキルの持ち主だ。
メカだけではなく、制御系、しかも古今東西いろんなタイプのOSやプラットフォーム、アーキテクチャーに彼ほど精通しているものはいない。
顧客も隣の居酒屋の店主の娘から、よくわからない秘密のエージェントの元締めまで様々だが、皆にその腕と、格安の値段を買われて頼られている。
だからこそ、弟子兼従業員として最近雇ったアリシアに「商売が下手!」と言われてしまうのだが。

今日のその3つの仕事について、顧客に明日以降に取りに来るよう連絡をいれた。
明日朝にもみんな来るだろう。
当然、ここに来るような連中の仕事はいつもASAPだ。

さて、もう夕方。

今日の仕事は終わりだ。
彼はいつものルーチン、カフェインレスコーヒーを入れ、小さな合成チョコレートのカプセルを奥歯で噛み砕きながら、熱いコーヒーの入ったカップを持って、カウンターの奥の「工作室」に向かう。
防犯はもちろん、対放射線、対EMP、対バイオハザードなどあらゆる脅威から守る数十センチもの分厚いトビラの向こう側、およそ5メートル四方の小さな部屋が彼の主な仕事場だ。
扉を開けると店の空気とは明らかに違うオゾンと油の混じった匂いと、分析機器、3Dプリンター、培養タンクの静かなハム音が響き、あちこちで緑や赤のインジケーターが点滅する。
それらの様々な機器、顕微鏡、サーバー、端末などが壁の3方に陣取り、精密溶接機、ソフトウェアや3Dデータを表示させる情報端末のディスプレイなどが大きな真ん中の手術台のようなテーブルの周りに鎮座している。
フルボディクラスのサイボーグの精密オーバーホールやアップデートが行える機器が揃っている。
ここには弟子のアリシア以外は誰も入れることはない。アリシアも助手として必要なときにだけ入室させる。
そのぶん、彼女には彼女の一人前の仕事場を店内のカウンターからもよく見えるガレージの一区画に与えてある。
これは彼女のアイデアで、「こんな怪しい店でもちゃんと仕事をしている!しかもちょっと可愛い女の子が!っていうのが顧客に与えるポジティブな印象が店の売上アップにつながるの!」なんて彼女が主張したのだ。

(かわいい?まあ、たしかに最近仕事が増えたな…)

そんなダッドの「奥の院」の一方の壁の棚には、彼がこの仕事を続けている理由が収められている。
熱いコーヒーを啜りながら、それを眺めるダッド。

そこにあるのは彼の「旧世界コレクション」。
厳重にカバーされているが、この商売を通して情報を集め、買い集め、時にはその手で発掘した、大戦前の、人類とその宿敵である知能的機械生命体群「インテリジェンス」(インテリ)たちのテクノロジーがこの星で最高の水準だったときの遺品たち。
機構(メカニズム)は見た目から推測できても、とにかくそれを動かすソフトウェアがわからない。
なぜなら当時の記憶素子に情報を読み書きするテクノロジーが丸ごと失われているのだ。
人類側もインテリ側も、互いに解読されないよう材料レベルから強固なプロテクトが施されていて今の技術だと手も足も出ない。
なので、ピクリとも動かないモーター、素性のわからない材料でできていて書くことはおろか読む出すこともできない記憶素子、通信機器らしいもの、よくわからないが何かの機能を有しているらしいもの、おそらく武器のようなもの…そんな物が棚には多く収納されている。
そして極めつけはそれらが高度に集積されてできているサイボーグ機械たち。一見して猫やイヌの小動物や鳥、昆虫の姿を模しているが、その多くは兵器だ。
人類側のものもあるし、インテリ側のものもある。
そんなのがずらりと並んだこのコレクションはそのスジの者が見れば値段のつけようがないくらい貴重なものだが、一般人にとってはなんの価値もない。せいぜいペーパーウェイトだ。

テクノロジー考古学者いわく、技術については大戦初期には相当不利だった人類も、大戦末期にはなんとか敵から学んで追いつき、ほぼ同等の技術で戦っていたらしい。
そんな戦いは大きな何度もの大戦も交えて一進一退の攻防が続き、時には数百年の静寂を挟みつつ繰り返され、これまで5万年も続いたそうだ。人類は何度も何度も絶滅の淵に立たされたがそのたびにテクノロジーの力で復活を遂げてきた。
ただそのたびに文明と文化はリセットされてきた。そして今は、最後の大戦、人類が宿敵を殲滅こそはできなかったが、北極の極地に押し込んでから1000年。
つかの間の間氷期とでも言うべき時代だ。あの時ほぼ壊滅した人類の文明はまだ再生と復興の途上なのだ。
その復興を加速させるためにも、またいつか必ず来るはずの次の戦いに備えるためにも、この棚に埋まるロストテクノロジーは再生させなければならない。

そんな自身の決意を思い起こしつつ、コーヒーを啜る。
そして、次の当然の疑問。「どうやって?」「こんな場末のジャンク屋に何ができる?」

そう独り言をいいながら、ダッドはそのコレクションの中でも、彼自身が旧世界の戦場となった廃都市から見つけ出したまさに至宝の一体、保存状態が極めて良いフルボディサイボーグの義体をじっと眺める。



もう100万回はこうして眺めてきたか?
それは棚の脇の頑丈な金属の椅子に座らせている。足をそろえ両手は下に垂らしている。少しうつむき加減で、自分の足元を見つめているようだ。華奢なボディだが、そこには絶頂期の旧世界テクノロジーの粋が詰まっているはずだ。

彼はその発見場所にかつて存在した古い国の言葉にちなんで「ターニャ」と名付けていた。
白い磁器のようでもあるが、その組成はわかっていないセラ・メタリックが亡霊のような鈍い光を放っている。
当然、ピクリとも動かない。サファイアグリーンの眼球にも光はない。それは虚空を見つめるのみ。
人類側の戦闘用女性型サイボーグ、とだけはその姿と、後頭部にある古代文字の刻印で判別はできるが、その性能、機能、材料の組成はまるでわからない。
今の人類には、少なくともダッドには、これを動かすテクノロジーは不明だ。


ダッドはターニャを目つけた日のことを思い出す。人類とインテリの最終決戦の地となったであろう北のツンドラ地帯。まだ店を持たずに旧世界の”遺品”を求めて放浪していたダッド。その極寒の地にある廃都市を訪れた時、彼はある廃墟となっていた宗教施設の地下に、人類の避難シェルターらしき場所を見つけた。
その重厚な扉はやはり特殊な旧世界の暗号がまだ生きていて開くことはできなかった。だが、「ターニャ」はその扉の前で、くずおれてホコリにまみれていた。手には武器も何もない。ただ、その場に立ち尽くしていたのが、エネルギーが切れたためにくずおれた、そんな格好で。それを見たダッドはその時の畏敬、畏怖、戦慄を今でもありありと思い出せる。「こいつは、ターニャは、最期の最期のその瞬間まで、あのシェルターを守っていたんだ…」
彼はターニャをなんとか隠しながら運び出し、そしてこの店を開き、旧世界の遺品の象徴としてターニャをその遺品たちの番人とした。いつか、いつか、こいつを目覚めさせ、一緒にあの場所をもう一度訪れ、シェルターの中に残されているであろう、最期まで戦ったであろう、人類の英雄たちの骸を供養してやりたい。それもまた、彼がこの職業を通じて達成したい思いの一つだ。

(いつか、こいつを動かせる時が来るのだろうか…)
コーヒーを啜る。だいぶ冷めてきた。

そのとき、誰かが激しくこの「奥の院」の扉を力いっぱい叩く音…

”どん!どん!どどんどん!”

「師匠!し・しょ・う!そこにいるんでしょ!愛弟子が帰ってきたよ!ねえねえ、早くこれ見てスゴイよ!」

分厚い扉の向こうから、くぐもったアリシアの声が聞こえる。

(やれやれ…)

ダッドは1000年、5万年の追想から強制的に引き戻された。アリシアが帰ってきたようだ。
この部屋の電波防衛は完璧だ。完璧すぎてどんな無線も届かない。
だからアリシアが外からダッドを呼ぶときはこの”どんどんどどんどん”のリズムに「出てこい」という意味を持たせてある。
これは二人だけの合図だ。

”どん!どん!どどんどん!”
「はーやーくーっ!」

(ったく、そんな激しく叩かなくっても分かるっての。誰がかわいい女の子だって?)

ダッドは「ターニャ」のカバーを戻し、すっかり冷めたコーヒーを一気にぐびっと飲み干す。

「いまいく!!」と叫ぶ。

右手にカップを手にしたまま、分厚い扉のレバーを手にした。

最後にもう一度だけ、カバーに覆われた「ターニャ」を見つめる。

「いつかきっとだ」

そう言うと彼は最後のチョコレートの粒を口に放り込み奥歯で噛み締めた。ほろ苦い風味が鼻に抜ける。

「アリシア、一体何だってんだ!」

勢いよく扉を開ける。気圧差で部屋から店に向かってシュッと空気が流れる。
アリシアがちょっとむくれた顔でお待ちかねだ。その鼻先には黒い油がついている。作業用の手袋をしたまま鼻の頭をポリポリ掻くクセが有るのだ。

「やっとでてきた!師匠が昼寝している間に私はちゃんと仕事取ってきたんだからね!これはうんと褒めるべき案件よ!」

「なにいってんだ、それは仕事を見てからだ。ちゃんと納期はキープしてあるんだろうな?」

「納期?えへへ…そこは何とも、あはは。まあとにかく見てよ!」

そこに1匹と2匹の黒ネコの親子がどこからともなくアリシアの足元に走リ寄り、2匹の子ネコがまとわりつく。

「ほら、ハル、ナツ、アキもみたいよね~」
子ネコの片方を抱きかかえながらアリシアが言う。

「どれ、じゃあ査定と行きますか。とんでもねえ仕事だったら減給な!」

二人と、3匹はザンガイシティーの夕日に染まるガレージの外へと一緒に踏み出した。

すでにダッドにはそこに佇む大きな旧式の歩行機械と思しき影を認めた。

(忙しくなりそうだなあ…。)

そうは言ってもまんざらでもなさそうだ。
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