嫌われていた竜は、人間として生きていきたい

黒胡鴨

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第一章

第七話 魔女

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 こちらに振り向いたレインの目には、涙が浮かび、こぼれそうになっていた。
 レインの顔を見るが、心の奥には、喜びの感情は一切浮かんで来なかった。それどころか、不安と怒りの感情が混ざりあい、拒絶するような視線を送っていた。

「リオ! やっと来てくれた。怖かったよ!」
「……ッ」

 リオは、その声を聞いた瞬間、拳を握りしめ、歯を強く噛み締める。心の奥からは不快感が込み上げてくる。リオは目の前にいるのは、レインの声と姿をしているが、ことを確信していた。

「いい加減に、レインのまねごとはやめて……」
「何言っているの、リオ? 早く逃げないと、魔物に襲われちゃうよ」

 レインは、ゆっくり歩み寄ってくる。

「ねぇ、どうしたの? そんな怖い顔して」

 一歩、また一歩と、近づいてくる。

「ほら、一緒に逃げよ」

 その言葉を聞くと、ついに我慢していた怒りが溢れる。リオは魔法を呟く。すると、レインの目の前に背丈を越える炎が現れ、行く手を遮るように炎は広がりだす。

「なにするの、リオ!?」
「魔法を使ったことには、驚かないんだ……」
「え……」

  レインの表情が揺らぐ。 

「レインは、村に来ていた魔法使いに何度も頼み込むほど魔法に憧れていたよね。『いつか私も使えるようになるんだ』って」

 リオは、炎の壁越しに鋭い目で睨みつける。

「それに、レインはベイジや他の人を置いて逃げよう。なんて言わない」

 空気が静まり返る。
 レインは指を鳴らす。すると、炎の壁が霧散するように消えていく。
 レインの顔を見ると、いつもの明るい笑顔ではなく、全く別の歪んだ笑みを浮かべていた。

「アハハ、なぁんだ、バレてたんだ」

 雰囲気が変わる。その雰囲気に、リオは無意識に後ずさりしていた。
 周りの空気が重くのしかかる。呼吸が苦しくなる。

「魔物も使って、うまく行ってると思ったんだけどな…… まさか、このタイミングで記憶を取り戻すなんてね、想定外だったよ」

 嘲笑うような表情のまま、こちらに視線を向ける。

「はじめまして? 赤竜様」
「おまえは……誰だ」

 リオの声は、普段の落ち着いた感じはなく、怒りで震えていた。

「そうだな……、私はし……。とりあえずとでも名乗っておこうかな」
「魔女……」
 【魔女】、規格外の力を持った魔法使いの別称を表しており、たった一人でも、国を滅ぼすほどの力を持っており、世界全体を見ても数十人ほどしか存在していなかった。しかし、ある日から、力を恐れた人々によって、魔女狩りが始まる。魔女達は徐々に姿を消していった。それも、数百年程前のことで、【魔女】と呼ばれるものはいなくなり、今では古い歴史書に載っている程度の存在。

「魔女は、かなり昔に魔女狩りで滅んだはず」
「魔女狩りで滅んだ……? あはっ、なぁんだ、そうなってんだ。アハハハッ」

 魔女は片手で顔を覆いながら、天を仰ぐように笑い出す。その声は狂気じみていた。笑い声がこの場所に響き渡る。
 そして、笑い声が突然、ピタリと止まる。魔女は覆っていた手を下ろし、一息吐くと、再びリオに視線を向ける。魔女の瞳は狂気で染まっており、その瞳を見たリオは背筋に寒気が走る。

「違うよ~。魔女がただの人間に殺されるわけないじゃん。みんな……」

 ニタリとしながら、呟く。

「――私が殺したんだよ」

 その瞬間、空気が凍りつく。
 リオの頬に一滴の汗がゆっくりと伝う。

「いやぁ、みんな大したこと無かったよ。使だけで、弱くなっちゃって」
「……どういう意味」
「意味も何も、私がみんなの

 魔女にとって魔力は、存在そのもの。魔法を行使するためには必要不可欠。膨大な魔力と魔法で長く生きてきた魔女は、魔法が使えなければただの人間。いや、それ以下の脆い存在まで落ちる。

「どうして、そんなことを……」

 魔女から笑みが消えると、顔をしかめる。

「元々、私は魔女の中でも下の方だった。ただ魔力が多いだけの魔女。固有の魔法もなく、大した魔法も使えなかった。だから、私を知っている魔女は出会う度に馬鹿にされていたの。だから、馬鹿にされないように努力したの。せめて様々な魔法が使えるようになるために。何年、何十年と。でも変わらなかった。」

 悲しそうな表情に変わり、地面に視線を移す。

「で、気付いたの。他の魔女がいるから、馬鹿にされるんだ。って。だから——」

 魔女は顔を上げる。徐々に口角が上がっていき、表情が不敵な笑みに変わっていく。

「力を奪って、殺してやったの。それから、私は馬鹿にするやつはいなくなった」
「それだけのために……。殺したの……」
「そうだよ。でもね、それだけじゃ足りなかった。魔女たちの力だけじゃ、物足りない。だから次に魔女に匹敵する力を持つ魔物。ーー竜をね」

 魔女は唇を舌で舐める。

「だから、私を……」
「そうだよ。君も殺して、力を奪う予定だったんだ。まぁ、訳あって失敗したけどね」

 唇に指を添え、何かを思い出したかのように。

「そういえば、途中で、面白い女に会ったなぁ。竜を連れてて、まるで相棒のように接して。あの時は驚いたよ。魔力を奪ったのに、おかしな技を使って来て、攻撃が止まらないんだもん」

 
 首を傾ける。

「なんだったかな……。なんちゃら法だっけ。竜の力を借りるような戦い方でさ。久しぶりに、一撃もらっちゃったよ。しかも、戦い方がウザくてさぁ、息ぴったりに竜と一緒に攻撃して来て、あまりにも不快だったからさぁ」

 ふふ、と笑うと。

「竜に、私の魔力を無理やり流し込んで、意識を奪い、女を食い殺してあげたよ! いやぁ、あの時の、光景は良かったよ、相棒だったヤツに突然襲われて、困惑と絶望が混ざったような顔をしながら食べられていくのは」

 嬉々として、語り続ける。

「あ! たしかキミも、友達に殺されたんだっけ」
「貴様ぁぁッ!」

 リオの怒声が響く。荒々しい口調で魔法を唱えると、今まで何倍もの巨大な火球が、頭上に現れる。
 リオは火球を、魔女に向かって投げつける。火球は地を焼きながら一直線に走る。通過した地面は真っ黒に焦げ、何も残らない。
 ついに――。魔女にぶつかった。
 ……と思えた、その瞬間。

「――っと。」

 まるで気まぐれに手を払っただけのような軽さで、炎の塊は霧散した。残ったのは、静寂と、楽しげに笑う魔女だけだった。

「危ないなぁ――」

 と、魔女が、呟いた瞬間、リオの体は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。何も見えなかった。ただ、リオの腹部には、焼け付くような痛みが残っていた。
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