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第21章「異世界筋トレ生活」
第95話「筋肉と日常〜モーニングルーティーン編〜」
## 第95話「筋肉と日常~モーニングルーティーン編~」
### 【あらすじ】
王都大動乱事件をきっかけに、仲間の使命と居場所を守るために強くなることを誓ったユージ。
異世界に来てからやっと一息つける時間を獲得した彼は、今一度自分が守りたいものへと目を向ける。
### 【本文】
ここは旧迎賓館。我々の拠点だ。
王都全体を巻き込んだあの大事件を経て、ようやく“日常”を感じることができるようになった場所。
私の部屋は二階にある。王都の植生が一望できる眺望あり。素敵な部屋。
私の筋肉にとって理想的な七時間睡眠(個人差があるので自分にとって最適な睡眠時間をみつけよう!)を終え目覚めると、ベランダに出て簡単なストレッチをする。
体を動かすのが目的だ。あまり急に伸ばしすぎるのは良くないのでゆっくりとした動作を心がける。
そのあとは表の井戸へ。ノエラの馬が今日も元気そうなのを確認。冷たい水で顔を洗い調理場へ向かう。
朝食は炭水化物、タンパク質、野菜を取り入れた理想的な食事を作る。
先日リネアからの情報で知った“白蒸穀”という――まあ平たく言えば白米だな。を炊く。まさか異世界で白米を食える時が来るとは思わなかったが、あるものはありがたくいただこう。
ただ炊飯器があるわけでもないのでじっくり火加減を見て炊いてやる必要がある。火の様子を調節できる魔導器具があるのはさすがの設備だ。
食材保管庫に入れておいた鶏肉を使って蒸し焼きを作る。本来ならプロテインを飲んでも良いのだが、流石にプロテインパウダーみたいなものはなかったのでしっかり食材からタンパク質確保をする必要がある。
まず、鶏の胸肉は厚みが均一になるよう観音開きにして、岩塩と砕いた香草――ローズマリーに近い香りの葉をすり込む。これを必要分用意。
それから少量の岩蜜油をまぶして、浅鍋へ。
客人をもてなすための設備が整っているので調理器具も申し分ないほど揃っている。
蓋つきの鉄鍋の底には、熱を均一に巡らせるための薄い魔導石板が仕込まれていて、火属性魔導器具と合わせると火力がかなり細かく調整できる。
要するに、異世界版フライパン兼スチームオーブンである。この建物の中枢機関にある魔水晶を入れ替えたので、魔力のない私でも使えるのはありがたいな。
「まず表面を軽く焼いて……」
じゅう、と皮目が香ばしく鳴く。
タンパク質源はパサつかせるともったいない。胸肉は火入れが重要だ。
焼き色がついたら少量の水と香草、刻んだ根菜を加え、蓋をして弱火。
蒸し焼きに移行する。
この待ち時間も無駄にしない。
その間に青菜を刻み、塩揉みした保存野菜と合わせて簡単な副菜を作る。
それから鍋の蒸気が落ち着くまでの間、厨房の隅で軽くスクワット。
朝は血流を上げると調子がいい。ここでは筋肥大は意識せず、“筋肉の起動”を意識した動きで行う。スクワットはものすごい数の小筋群を動員する動きなのでこういった目的にも合う。
「……よし」
蓋を開けると、白い蒸気と共に鶏肉の旨味が立ち上る。
木串を刺すと透明な肉汁。
完璧だぁ。
火を止め、余熱で少し休ませる。
これは大事。切ってすぐ肉汁を逃がすのは損失である。
休ませた胸肉を厚めに削ぎ切りにして皿へ盛る。
上から鍋に残った旨味の汁を少しかける。
白蒸穀、鳥の蒸し焼き、青菜と保存野菜。
異世界に来てまで、減量末期みたいな食事をしている気もするが、栄養バランスとしては悪くない。
ちょうど盛りつけ終えたところで、調理場の入口からぱたぱたと軽い足音がした。
大抵、このぐらいのタイミングで匂いを嗅ぎつけて――
「ご主人様、おはよう」
寝ぼけ眼のルノアが起きてくる。さいきんはめっきり夜寝て朝起きる。本人曰く無理はしていないそうだが、これって人間で言う昼夜逆転なのでは……?
「おう、おはよう」
たんまり手に入れた報奨金で買い揃えた衣服、ルノアのパジャマはいわゆるダル着的な無地の布の服。彼女らしくて大変可愛い。今日の寝癖もなかなか芸術的だな。
彼女は鶏肉多め、ご飯少なめだ。皿に盛る。
「じゃ、リネア呼んできてくれ。そろそろ完成だ」
「ん、わかった」
ルノアは調理場を後にする。
毎朝お決まり、リネアは朝の鍛錬に庭に出ているので朝食の完成をルノアが知らせるのだ。
彼女はご飯も鶏肉も普通盛り。一般的な量だ。
そして木製のお弁当箱を二つ。鶏肉ご飯セットを詰める。これは――
「おはよう。いい朝だな」「おはようございます」
「ああ。今日も早いな」
大動乱からしばらく経ったにもかかわらず、後処理に追われる騎士団のトップであるリディアとそのお付きのメイド、マルティナのお弁当だ。
「私も朝食に同席したいんだがな。なるべく他のものより早く着いていなくては示しがつかん」
「一番最初に行く必要まではないと思いますが……」
いつも通りの二人。この様子ならいずれ仕事も落ち着くだろう。そんなことを考えながらお弁当を渡す。
「いつもすまないな。では、行ってくる」「行ってまいります」
そう言って二人は騎士団本部へと向かった。
「さて、じゃ、最後にノエラを起こしにいくか」
この暮らしが始まって一番意外だったのはノエラが朝に弱いことだった。
と言うより、予定がない時は起きられないらしい。乗合馬車を引いている時はちゃんと起きられてたもんな……。
階段を上がり、ノエラの部屋をノックする。
大抵返事はない。そのまま部屋に入る。
カーテンを開けると朝の光が部屋に差し込む。ノエラの部屋はシンプルにまとめられた魔術師の部屋って感じだ。
本棚には魔術の本が並んでいる。「基本防御魔術」「攻撃魔術の基礎」。
「重力魔術考察」「転移の魔術」なんてのもある。
「おい、起きろ~朝メシできたぞ」
「……ふぁい」
気のない返事。この声が聞ければあとはのっそり起きてくるので大丈夫だ。
そしてノエラの部屋の窓から見える庭の片隅に設けられた小さな祈祷廟に目をやると、決まってこの時間に祈りを捧げているクラリスの姿が目に入る。
やはり教会にいた時とは違い冒険者僧侶装備。それでもまだやや露出度が高いのが気になるが……。
彼女は教会のシスターではなくなった。血のつながった親である教皇とは絶縁状態。実質的な実働部隊であったザハリエルとその後釜として考えていたクラリスを失った教皇は今、何を考えているのだろうか。
彼女は彼女で毎朝何に祈っているのか聞いたことがあるが、恥ずかしそうにするだけでその内容は知れずじまいである。
まあ、“女神”に対しての祈りではないことは確かだろうが。
◇◇◇◇◇◇
調理場に戻り最後の盛り付けをする。
ノエラは全体的にやや少なめ、クラリスはご飯大盛り。
残りは全て私の分だ。
――こうして誰かの分も自然と用意するようになったのは、いつからだっただろう。
昔の私は、もっと自分のことしか考えていなかった気がする。
「……相変わらずいい匂いね」
食卓に出来上がった料理を並べているとリネアが帰って来る。
「高タンパク低脂質。朝食はこれに限るよな」
「これ、王都の有名料亭で似たようなの食べたわよ」
「あ、例の“白蒸穀”が食べられる店ってやつか?俺も行きたかったな~」
私は王の気まぐれの呼び出しによってリネアとその店に行く機会を逃している。
「また今度……そうね。今度は“みんなで”行きましょ」
「そうだな」
そんなこんなでぞくぞくと食卓に集まって来る面々。
やっと目が開いてきたルノア、まだ寝起きのノエラ。祈りを済ませてきたクラリスも席に着くと、我が家の朝食の時間が始まる。
これが今の私のモーニングルーティーン。
ノエラが二度寝したパターンやリネアの鍛錬休養日、リディアとマルティナが非番の日バージョンもあるが、それはまた別の話だ。
――こんな日がいつまでも続くといい。
だが、それを願っているだけではダメだ。
記憶に新しいドラゴン事件。王都のモンスター襲撃事件。
異世界ではこういった事件が起こる。それに、私の能力が知れている今、その事件の渦中にまた巻き込まれる可能性は高い。その時のために強くなると決めたのだ。
今日もまた、強くなるための筋トレは欠かさない。
それに、何か裏で動いているかも知れない事件に対応できるように、情報収集も日課だ。
今日もまた、異世界での一日が始まる。
### 【あらすじ】
王都大動乱事件をきっかけに、仲間の使命と居場所を守るために強くなることを誓ったユージ。
異世界に来てからやっと一息つける時間を獲得した彼は、今一度自分が守りたいものへと目を向ける。
### 【本文】
ここは旧迎賓館。我々の拠点だ。
王都全体を巻き込んだあの大事件を経て、ようやく“日常”を感じることができるようになった場所。
私の部屋は二階にある。王都の植生が一望できる眺望あり。素敵な部屋。
私の筋肉にとって理想的な七時間睡眠(個人差があるので自分にとって最適な睡眠時間をみつけよう!)を終え目覚めると、ベランダに出て簡単なストレッチをする。
体を動かすのが目的だ。あまり急に伸ばしすぎるのは良くないのでゆっくりとした動作を心がける。
そのあとは表の井戸へ。ノエラの馬が今日も元気そうなのを確認。冷たい水で顔を洗い調理場へ向かう。
朝食は炭水化物、タンパク質、野菜を取り入れた理想的な食事を作る。
先日リネアからの情報で知った“白蒸穀”という――まあ平たく言えば白米だな。を炊く。まさか異世界で白米を食える時が来るとは思わなかったが、あるものはありがたくいただこう。
ただ炊飯器があるわけでもないのでじっくり火加減を見て炊いてやる必要がある。火の様子を調節できる魔導器具があるのはさすがの設備だ。
食材保管庫に入れておいた鶏肉を使って蒸し焼きを作る。本来ならプロテインを飲んでも良いのだが、流石にプロテインパウダーみたいなものはなかったのでしっかり食材からタンパク質確保をする必要がある。
まず、鶏の胸肉は厚みが均一になるよう観音開きにして、岩塩と砕いた香草――ローズマリーに近い香りの葉をすり込む。これを必要分用意。
それから少量の岩蜜油をまぶして、浅鍋へ。
客人をもてなすための設備が整っているので調理器具も申し分ないほど揃っている。
蓋つきの鉄鍋の底には、熱を均一に巡らせるための薄い魔導石板が仕込まれていて、火属性魔導器具と合わせると火力がかなり細かく調整できる。
要するに、異世界版フライパン兼スチームオーブンである。この建物の中枢機関にある魔水晶を入れ替えたので、魔力のない私でも使えるのはありがたいな。
「まず表面を軽く焼いて……」
じゅう、と皮目が香ばしく鳴く。
タンパク質源はパサつかせるともったいない。胸肉は火入れが重要だ。
焼き色がついたら少量の水と香草、刻んだ根菜を加え、蓋をして弱火。
蒸し焼きに移行する。
この待ち時間も無駄にしない。
その間に青菜を刻み、塩揉みした保存野菜と合わせて簡単な副菜を作る。
それから鍋の蒸気が落ち着くまでの間、厨房の隅で軽くスクワット。
朝は血流を上げると調子がいい。ここでは筋肥大は意識せず、“筋肉の起動”を意識した動きで行う。スクワットはものすごい数の小筋群を動員する動きなのでこういった目的にも合う。
「……よし」
蓋を開けると、白い蒸気と共に鶏肉の旨味が立ち上る。
木串を刺すと透明な肉汁。
完璧だぁ。
火を止め、余熱で少し休ませる。
これは大事。切ってすぐ肉汁を逃がすのは損失である。
休ませた胸肉を厚めに削ぎ切りにして皿へ盛る。
上から鍋に残った旨味の汁を少しかける。
白蒸穀、鳥の蒸し焼き、青菜と保存野菜。
異世界に来てまで、減量末期みたいな食事をしている気もするが、栄養バランスとしては悪くない。
ちょうど盛りつけ終えたところで、調理場の入口からぱたぱたと軽い足音がした。
大抵、このぐらいのタイミングで匂いを嗅ぎつけて――
「ご主人様、おはよう」
寝ぼけ眼のルノアが起きてくる。さいきんはめっきり夜寝て朝起きる。本人曰く無理はしていないそうだが、これって人間で言う昼夜逆転なのでは……?
「おう、おはよう」
たんまり手に入れた報奨金で買い揃えた衣服、ルノアのパジャマはいわゆるダル着的な無地の布の服。彼女らしくて大変可愛い。今日の寝癖もなかなか芸術的だな。
彼女は鶏肉多め、ご飯少なめだ。皿に盛る。
「じゃ、リネア呼んできてくれ。そろそろ完成だ」
「ん、わかった」
ルノアは調理場を後にする。
毎朝お決まり、リネアは朝の鍛錬に庭に出ているので朝食の完成をルノアが知らせるのだ。
彼女はご飯も鶏肉も普通盛り。一般的な量だ。
そして木製のお弁当箱を二つ。鶏肉ご飯セットを詰める。これは――
「おはよう。いい朝だな」「おはようございます」
「ああ。今日も早いな」
大動乱からしばらく経ったにもかかわらず、後処理に追われる騎士団のトップであるリディアとそのお付きのメイド、マルティナのお弁当だ。
「私も朝食に同席したいんだがな。なるべく他のものより早く着いていなくては示しがつかん」
「一番最初に行く必要まではないと思いますが……」
いつも通りの二人。この様子ならいずれ仕事も落ち着くだろう。そんなことを考えながらお弁当を渡す。
「いつもすまないな。では、行ってくる」「行ってまいります」
そう言って二人は騎士団本部へと向かった。
「さて、じゃ、最後にノエラを起こしにいくか」
この暮らしが始まって一番意外だったのはノエラが朝に弱いことだった。
と言うより、予定がない時は起きられないらしい。乗合馬車を引いている時はちゃんと起きられてたもんな……。
階段を上がり、ノエラの部屋をノックする。
大抵返事はない。そのまま部屋に入る。
カーテンを開けると朝の光が部屋に差し込む。ノエラの部屋はシンプルにまとめられた魔術師の部屋って感じだ。
本棚には魔術の本が並んでいる。「基本防御魔術」「攻撃魔術の基礎」。
「重力魔術考察」「転移の魔術」なんてのもある。
「おい、起きろ~朝メシできたぞ」
「……ふぁい」
気のない返事。この声が聞ければあとはのっそり起きてくるので大丈夫だ。
そしてノエラの部屋の窓から見える庭の片隅に設けられた小さな祈祷廟に目をやると、決まってこの時間に祈りを捧げているクラリスの姿が目に入る。
やはり教会にいた時とは違い冒険者僧侶装備。それでもまだやや露出度が高いのが気になるが……。
彼女は教会のシスターではなくなった。血のつながった親である教皇とは絶縁状態。実質的な実働部隊であったザハリエルとその後釜として考えていたクラリスを失った教皇は今、何を考えているのだろうか。
彼女は彼女で毎朝何に祈っているのか聞いたことがあるが、恥ずかしそうにするだけでその内容は知れずじまいである。
まあ、“女神”に対しての祈りではないことは確かだろうが。
◇◇◇◇◇◇
調理場に戻り最後の盛り付けをする。
ノエラは全体的にやや少なめ、クラリスはご飯大盛り。
残りは全て私の分だ。
――こうして誰かの分も自然と用意するようになったのは、いつからだっただろう。
昔の私は、もっと自分のことしか考えていなかった気がする。
「……相変わらずいい匂いね」
食卓に出来上がった料理を並べているとリネアが帰って来る。
「高タンパク低脂質。朝食はこれに限るよな」
「これ、王都の有名料亭で似たようなの食べたわよ」
「あ、例の“白蒸穀”が食べられる店ってやつか?俺も行きたかったな~」
私は王の気まぐれの呼び出しによってリネアとその店に行く機会を逃している。
「また今度……そうね。今度は“みんなで”行きましょ」
「そうだな」
そんなこんなでぞくぞくと食卓に集まって来る面々。
やっと目が開いてきたルノア、まだ寝起きのノエラ。祈りを済ませてきたクラリスも席に着くと、我が家の朝食の時間が始まる。
これが今の私のモーニングルーティーン。
ノエラが二度寝したパターンやリネアの鍛錬休養日、リディアとマルティナが非番の日バージョンもあるが、それはまた別の話だ。
――こんな日がいつまでも続くといい。
だが、それを願っているだけではダメだ。
記憶に新しいドラゴン事件。王都のモンスター襲撃事件。
異世界ではこういった事件が起こる。それに、私の能力が知れている今、その事件の渦中にまた巻き込まれる可能性は高い。その時のために強くなると決めたのだ。
今日もまた、強くなるための筋トレは欠かさない。
それに、何か裏で動いているかも知れない事件に対応できるように、情報収集も日課だ。
今日もまた、異世界での一日が始まる。
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