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12.天使の慟哭~ヘルトside5
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「どうして!
僕だけが助けられたかもしれないのに!
方法を知ってるのに!
この世界じゃなければ!
昔みたいな魔力があれば!
今の僕には助けられない!
探してもアレがどこにあるかわからない!
前も今も初めて僕にお母さんをしてくれた人なのに!
どうして!」
アリーは泣き叫びながら、神殿の最奥の何もない石造りの部屋で地面を殴り付けている。
手は血まみれになっていた。
娘の涙も、こんなに激しく怒鳴る声も初めてだ。
背後の私に気づく事もなく、なおも慟哭は続く。
「助けたいのに!
何で開かない!
もう地下神殿しか残ってないんだ!
時間がないのに!
何で!」
····この子は誰だ。
アリーは4才になってからはいつもニコニコと笑顔しか見せたことがない。
それまでは無表情な事が多かった。
赤子の時から泣いたのを見た事がない。
そうだ、まだ小さな子供なのに不自然なほどに笑顔しか見た事がない。
「お願いだから、開けてよ。
あの精霊石しか····もう、もう····」
地面に突っ伏した声に嗚咽が混じる。
そんなアリーを見て、彼女がずっとミレーネを助けようと人知れず動いていたとわかる。
少し前にこの子に怒りを感じた自分をぶん殴ってやりたくなる。
そして妻は、ミレーネはもう助からないのだろう。
「アリー」
ビクリとアリーが飛び上がり、振り向く。
埃と涙でぐちゃぐちゃだ。
「アリー、お前がこんなに思い詰めてたのに気づかなくてすまなかった。
もういいんだ、アリー。
ミレーネの所に戻ろう。
私達の娘として、側にいて欲しいんだ。
おいで、アリー」
「うっ、····ぁ、ぼく、は、僕は何もで、きな····ごめ、なさい」
絞り出すような掠れた声だった。
ぽろぽろと涙をこぼしながら頭を振る。
「お前が謝ることじゃない。
私とミレーネの可愛い娘。
愛してるよ、アリアチェリーナ。
一緒にミレーネの所に帰ろう」
近づき膝をついて愛しい娘を抱き締める。
「母様が、死んじゃう!
そんなの嫌なんだ!」
「····ああ、私も嫌だ」
「····っく、嫌、だ、父様、もう、置いてきぼりは嫌だ。
····嫌だぁぁぁぁぁぁ!!」
アリーは私にすがり付くように抱きついて大声で泣き始めた。
これまで塞き止めていた感情が決壊したかのように、子供らしくわんわん泣く。
私はアリーの背中を泣き止むまでさすった。
やがてしがみついていた腕の力が抜けた。
「····ふっ、っく····」
嗚咽はまだ小さく続いているが、泣き疲れて眠ったようだ。
7才の子供がほぼ2日も寝ずに動きまわり、大泣きしたのだ。
それに元々体は小さく脆い。
無理もない。
そっと傷だらけの手と腫れぼったくなった瞼に上級治癒魔法をかけて、ハンカチで涙を拭う。
地下神殿や精霊石という言葉が引っかかるが、この神殿も含めて調査したのは他ならぬ私だ。
念の為広範囲に探知魔法をかけてみるが、何も感知しない。
「帰ろう、アリー」
優しく呟き、額に口づけて小さな体を横抱きにする。
これから妻を失う恐怖と喪失感は胸に痛みをもたらしている。
けれど愛娘に父親として受け入れられたような幸福感も同時に味わっている。
転移魔法を展開し、アリーと共に屋敷へ戻る。
侍従に置いてきたポニーちゃんを連れ帰る指示を出しておく。
人払いされていたミレーネの部屋に眠ったアリーと入れば、ベッドに横たわるミレーネの両脇で床に膝立ちになり、その手をそれぞれ両手で包み込むように握って額に当て、何かを詠唱している息子達が目に入る。
似た感じの言葉をどこかで耳にした気がする。
彼女の下には見たことのない魔方陣が書かれた布が敷かれていた。
目を凝らせば、魔力のベールが彼女を包み込んでいる。
初めて目にした魔術に目を見張る。
これをアリーが教えたのか。
ふと息子達が詠唱を止め、汗ばみ疲労の色が濃くなった顔を上げた。
かなり魔力を消費している。
2人はそっと母の手を両脇に下ろす。
「父上、お帰りなさい。
アリーは大丈夫?
眠ってるだけ?」
レイヤードが気遣わしげに歩み寄る。
「ああ、平気だ。
この2日寝てなくて動きっぱなしだったみたいだ」
「そうですか。
母上は少し前から脈が止まりかけたので、俺達で仮死の魔法をかけました。
少なくとも明日の朝までは解けません。
今のうちに父上も休んで下さい」
「2人ともありがとう。
触れてもかまわないか?」
頷いたバルトスにアリーを任せると、2人はアリーと共に退出した。
「ミレーネ、ただいま」
愛しい妻の額に口づける。
ベッド脇の椅子に腰掛け、静かに眠る美しい妻の手を取る。
「私達の子供は皆親思いの良い子に育ってくれた。
全て君のおかげだよ、ミレーネ。
君と出会ってから、もう随分たった。
喧嘩したこともあったけど、君と過ごしてきた時間は本当に幸せだった。
だけど、死なないでくれ、ミレーネ」
涙が溢れる。
仕事で色々な人間の死を何度も見てきたのに、こんなにも君を失なうのが辛いだなんて思いもしていなかった。
けれど、だからこそ子供達に感謝する。
愛しい妻と最期の時間を取れたことに。
明日、この術が解ければすぐに彼女の心臓は止まるだろう。
自身の魔力が高いからか、生命エネルギーがほとんど枯渇しているのが見える。
恐らく息子達も見えている。
「時間が許す限り、私の話に付き合ってくれ。
愛してる、ミレーネ」
そうして、思い出話を1人始めた。
残された彼女の時間いっぱいに。
翌早朝に目覚めたアリーが兄達に連れられて入ってきた。
昼には術が解け、夕方にミレーネはその心臓を止めた。
その間、私達はミレーネの部屋で食事やお茶をしながら彼女に語りかけ、静かに家族の時間を過ごした。
ーーーー
眠るアリーの手をそっと布団の中に戻す。
ミレーネを見送った翌日、無理をしたせいだろうがアリーは高熱を出して数週間寝込んだ。
熱が下がった頃、アリーは自分の事、そしてミレーネの体がこんなに長くもちこたえられたその理由を話してくれた。
よく生きて私達とあの日出会ったものだと運命に、そして他ならぬ最愛の娘に感謝した。
「アリー、何があってもお前は私とミレーネの娘だ。
愛してるよ」
小さく呟いて形の良い額に口づけを落として部屋を出た。
僕だけが助けられたかもしれないのに!
方法を知ってるのに!
この世界じゃなければ!
昔みたいな魔力があれば!
今の僕には助けられない!
探してもアレがどこにあるかわからない!
前も今も初めて僕にお母さんをしてくれた人なのに!
どうして!」
アリーは泣き叫びながら、神殿の最奥の何もない石造りの部屋で地面を殴り付けている。
手は血まみれになっていた。
娘の涙も、こんなに激しく怒鳴る声も初めてだ。
背後の私に気づく事もなく、なおも慟哭は続く。
「助けたいのに!
何で開かない!
もう地下神殿しか残ってないんだ!
時間がないのに!
何で!」
····この子は誰だ。
アリーは4才になってからはいつもニコニコと笑顔しか見せたことがない。
それまでは無表情な事が多かった。
赤子の時から泣いたのを見た事がない。
そうだ、まだ小さな子供なのに不自然なほどに笑顔しか見た事がない。
「お願いだから、開けてよ。
あの精霊石しか····もう、もう····」
地面に突っ伏した声に嗚咽が混じる。
そんなアリーを見て、彼女がずっとミレーネを助けようと人知れず動いていたとわかる。
少し前にこの子に怒りを感じた自分をぶん殴ってやりたくなる。
そして妻は、ミレーネはもう助からないのだろう。
「アリー」
ビクリとアリーが飛び上がり、振り向く。
埃と涙でぐちゃぐちゃだ。
「アリー、お前がこんなに思い詰めてたのに気づかなくてすまなかった。
もういいんだ、アリー。
ミレーネの所に戻ろう。
私達の娘として、側にいて欲しいんだ。
おいで、アリー」
「うっ、····ぁ、ぼく、は、僕は何もで、きな····ごめ、なさい」
絞り出すような掠れた声だった。
ぽろぽろと涙をこぼしながら頭を振る。
「お前が謝ることじゃない。
私とミレーネの可愛い娘。
愛してるよ、アリアチェリーナ。
一緒にミレーネの所に帰ろう」
近づき膝をついて愛しい娘を抱き締める。
「母様が、死んじゃう!
そんなの嫌なんだ!」
「····ああ、私も嫌だ」
「····っく、嫌、だ、父様、もう、置いてきぼりは嫌だ。
····嫌だぁぁぁぁぁぁ!!」
アリーは私にすがり付くように抱きついて大声で泣き始めた。
これまで塞き止めていた感情が決壊したかのように、子供らしくわんわん泣く。
私はアリーの背中を泣き止むまでさすった。
やがてしがみついていた腕の力が抜けた。
「····ふっ、っく····」
嗚咽はまだ小さく続いているが、泣き疲れて眠ったようだ。
7才の子供がほぼ2日も寝ずに動きまわり、大泣きしたのだ。
それに元々体は小さく脆い。
無理もない。
そっと傷だらけの手と腫れぼったくなった瞼に上級治癒魔法をかけて、ハンカチで涙を拭う。
地下神殿や精霊石という言葉が引っかかるが、この神殿も含めて調査したのは他ならぬ私だ。
念の為広範囲に探知魔法をかけてみるが、何も感知しない。
「帰ろう、アリー」
優しく呟き、額に口づけて小さな体を横抱きにする。
これから妻を失う恐怖と喪失感は胸に痛みをもたらしている。
けれど愛娘に父親として受け入れられたような幸福感も同時に味わっている。
転移魔法を展開し、アリーと共に屋敷へ戻る。
侍従に置いてきたポニーちゃんを連れ帰る指示を出しておく。
人払いされていたミレーネの部屋に眠ったアリーと入れば、ベッドに横たわるミレーネの両脇で床に膝立ちになり、その手をそれぞれ両手で包み込むように握って額に当て、何かを詠唱している息子達が目に入る。
似た感じの言葉をどこかで耳にした気がする。
彼女の下には見たことのない魔方陣が書かれた布が敷かれていた。
目を凝らせば、魔力のベールが彼女を包み込んでいる。
初めて目にした魔術に目を見張る。
これをアリーが教えたのか。
ふと息子達が詠唱を止め、汗ばみ疲労の色が濃くなった顔を上げた。
かなり魔力を消費している。
2人はそっと母の手を両脇に下ろす。
「父上、お帰りなさい。
アリーは大丈夫?
眠ってるだけ?」
レイヤードが気遣わしげに歩み寄る。
「ああ、平気だ。
この2日寝てなくて動きっぱなしだったみたいだ」
「そうですか。
母上は少し前から脈が止まりかけたので、俺達で仮死の魔法をかけました。
少なくとも明日の朝までは解けません。
今のうちに父上も休んで下さい」
「2人ともありがとう。
触れてもかまわないか?」
頷いたバルトスにアリーを任せると、2人はアリーと共に退出した。
「ミレーネ、ただいま」
愛しい妻の額に口づける。
ベッド脇の椅子に腰掛け、静かに眠る美しい妻の手を取る。
「私達の子供は皆親思いの良い子に育ってくれた。
全て君のおかげだよ、ミレーネ。
君と出会ってから、もう随分たった。
喧嘩したこともあったけど、君と過ごしてきた時間は本当に幸せだった。
だけど、死なないでくれ、ミレーネ」
涙が溢れる。
仕事で色々な人間の死を何度も見てきたのに、こんなにも君を失なうのが辛いだなんて思いもしていなかった。
けれど、だからこそ子供達に感謝する。
愛しい妻と最期の時間を取れたことに。
明日、この術が解ければすぐに彼女の心臓は止まるだろう。
自身の魔力が高いからか、生命エネルギーがほとんど枯渇しているのが見える。
恐らく息子達も見えている。
「時間が許す限り、私の話に付き合ってくれ。
愛してる、ミレーネ」
そうして、思い出話を1人始めた。
残された彼女の時間いっぱいに。
翌早朝に目覚めたアリーが兄達に連れられて入ってきた。
昼には術が解け、夕方にミレーネはその心臓を止めた。
その間、私達はミレーネの部屋で食事やお茶をしながら彼女に語りかけ、静かに家族の時間を過ごした。
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眠るアリーの手をそっと布団の中に戻す。
ミレーネを見送った翌日、無理をしたせいだろうがアリーは高熱を出して数週間寝込んだ。
熱が下がった頃、アリーは自分の事、そしてミレーネの体がこんなに長くもちこたえられたその理由を話してくれた。
よく生きて私達とあの日出会ったものだと運命に、そして他ならぬ最愛の娘に感謝した。
「アリー、何があってもお前は私とミレーネの娘だ。
愛してるよ」
小さく呟いて形の良い額に口づけを落として部屋を出た。
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