45 / 491
3
44.競技場から今まで~sideゼストゥウェル6
しおりを挟む
「····精霊、殿?」
指輪のくすんだ黒曜石を見ながら呆然と呟く。
何故、こんなことに····?
「精霊殿?!」
我に返ってとにかく魔力を注ぐ。
しばらくしてやっとくすみが少しやわらいだ気がした。
“ゼ、スト”
囁くような少年の声が頭に響く。
「精霊殿!
どうしたんだ?!
どうすればいい?!」
“あの····子····に····”
「あの子?!
あの少女か?!」
“ごめ····ん····”
「精霊殿!」
それきり声は聞こえなくなった。
私はとにかく魔力を込め続け、魔力の使いすぎで気絶してしまった。
翌朝、目が覚めてすぐに隣室のリューイの部屋をノックした。
黒曜石は再びくすみ、呼びかけても返事がない。
「リューイ!
開けてくれ!」
「どうしました?
ひとまず中へ」
驚いた顔をしながらリューイがドアを開ける。
すでに護衛用の服を着ていた。
部屋に入るとすぐに盗聴防止の結界を張ってくれる。
「魔力を随分消費していますね」
差し出された魔力の回復用ポーションを一気に飲む。
甘い口当たりと魔力の回復がいくらか心を落ち着かせる。
「精霊殿が、消えるかもしれない!
指輪の黒曜石のくすみがどれほど魔力を注いでもなくならないんだ!」
「落ち着きなさい」
リューイが私の手にあった指輪をそっと受け取る。
1度魔力を注いで様子を眺め、もう1度注いでから指輪に小さな結界を張る。
“だ····れ····”
「精霊殿!」
「あなたは少し黙っていなさい。
私ですよ、護衛のリューイです。
魔力を注いだ上で指輪に結界を張りました。
魔力が何者かに抜き取られていたようですが、心当たりは?」
“ぼくが····わる、い。
いえな····ことわ、り····”
「なるほど、精霊の禁忌をおかしたのですか?
しかしそれならすぐに消滅するのでは?」
理とは何だ?!
禁忌とは、何をしたのだ?!
詰め寄りたくても、今は静観するしかないのがもどかしい。
“····ご····め····”
「言えませんか。
それがあなた方の理なら仕方ありませんね。
大会の時の少女には会いたいですか?
随分驚いていたようですが」
そうだった。
リューイは競技場の後方に控えて全て見ていたんだった。
しかし、何故こんなに精霊の事を知っている?
“····う、ん····”
「この状態で魔力を注ぎ続けたとして、どれくらいもちそうですか?」
“いつ····か····”
「わかりました。
もう一度注ぎますから、そのまま休んで下さい」
そう言って魔力を注いでから、指輪を返された。
「聞きましたね。
猶予は5日あります。
今日は回復薬を飲みつつ、魔力を注いで下さい。
明日からは学園にいる間は私が代わりに注いでおきます」
「そなたは何故精霊の理や禁忌を知っている?!
どうして昨日教えなかった!」
思わず胸ぐらを掴んで大声をあげる。
「落ち着きなさい。
昨日の時点で話もしていないのにわかるはずないでしょう。
精霊が禁忌を犯した時、その瞬間に消えるというのを聞いたことがあるだけです。
逆に何年も一緒にいたのに何故知らないんです?
精霊は側にいるのも力を貸すのも当然とでも思っていましたか?
この精霊の事をちゃんと知ろうとしましたか?
理や禁忌の内容までは知りませんし、私が知るのは急に消えるという事だけでしたから、今の状況がどういうものなのかまではわかりかねます。
ただ、状況的にあの少女がそれに関わっている可能性はあるでしょうね」
リューイの言葉が刺さる。
私は····自分にとって必要な事以外では精霊殿の事を知ろうとした事はなかった。
名前すら教えてくれず、あだ名を付ける事すらも許されていない。
「あの子なら、助けられるだろうか····間に合うだろうか····」
「どうでしょう?
彼女が何かしたのではなく、あなたと精霊殿が何かをした方でしょうからね。
期待をして会うのなら、会わない方が良いかもしれませんよ。
それよりあなたがザルハード国の王族として、王子として、精霊と共に在る者としての在り方をもう1度見直されるべきでは?」
「····手厳しいが、その通りだ」
「明日は登校日ですから、明日の朝王太子に非礼を詫びて離宮から登校しましょう。
それ以降は運を天に任せて過ごすしかありません」
私は促されるまま、隣の部屋に戻った。
翌日ギディアス殿には非礼を詫びつつも、やはり早急にとお願いしてから登校した。
憂鬱な気持ちで寮に戻り、魔力を注いでいるとドアがノックされてルドルフ殿から2日後に念願の面会が叶ったと聞かされた。
1人になってから精霊殿に報告したが、反応はなかった。
指輪のくすんだ黒曜石を見ながら呆然と呟く。
何故、こんなことに····?
「精霊殿?!」
我に返ってとにかく魔力を注ぐ。
しばらくしてやっとくすみが少しやわらいだ気がした。
“ゼ、スト”
囁くような少年の声が頭に響く。
「精霊殿!
どうしたんだ?!
どうすればいい?!」
“あの····子····に····”
「あの子?!
あの少女か?!」
“ごめ····ん····”
「精霊殿!」
それきり声は聞こえなくなった。
私はとにかく魔力を込め続け、魔力の使いすぎで気絶してしまった。
翌朝、目が覚めてすぐに隣室のリューイの部屋をノックした。
黒曜石は再びくすみ、呼びかけても返事がない。
「リューイ!
開けてくれ!」
「どうしました?
ひとまず中へ」
驚いた顔をしながらリューイがドアを開ける。
すでに護衛用の服を着ていた。
部屋に入るとすぐに盗聴防止の結界を張ってくれる。
「魔力を随分消費していますね」
差し出された魔力の回復用ポーションを一気に飲む。
甘い口当たりと魔力の回復がいくらか心を落ち着かせる。
「精霊殿が、消えるかもしれない!
指輪の黒曜石のくすみがどれほど魔力を注いでもなくならないんだ!」
「落ち着きなさい」
リューイが私の手にあった指輪をそっと受け取る。
1度魔力を注いで様子を眺め、もう1度注いでから指輪に小さな結界を張る。
“だ····れ····”
「精霊殿!」
「あなたは少し黙っていなさい。
私ですよ、護衛のリューイです。
魔力を注いだ上で指輪に結界を張りました。
魔力が何者かに抜き取られていたようですが、心当たりは?」
“ぼくが····わる、い。
いえな····ことわ、り····”
「なるほど、精霊の禁忌をおかしたのですか?
しかしそれならすぐに消滅するのでは?」
理とは何だ?!
禁忌とは、何をしたのだ?!
詰め寄りたくても、今は静観するしかないのがもどかしい。
“····ご····め····”
「言えませんか。
それがあなた方の理なら仕方ありませんね。
大会の時の少女には会いたいですか?
随分驚いていたようですが」
そうだった。
リューイは競技場の後方に控えて全て見ていたんだった。
しかし、何故こんなに精霊の事を知っている?
“····う、ん····”
「この状態で魔力を注ぎ続けたとして、どれくらいもちそうですか?」
“いつ····か····”
「わかりました。
もう一度注ぎますから、そのまま休んで下さい」
そう言って魔力を注いでから、指輪を返された。
「聞きましたね。
猶予は5日あります。
今日は回復薬を飲みつつ、魔力を注いで下さい。
明日からは学園にいる間は私が代わりに注いでおきます」
「そなたは何故精霊の理や禁忌を知っている?!
どうして昨日教えなかった!」
思わず胸ぐらを掴んで大声をあげる。
「落ち着きなさい。
昨日の時点で話もしていないのにわかるはずないでしょう。
精霊が禁忌を犯した時、その瞬間に消えるというのを聞いたことがあるだけです。
逆に何年も一緒にいたのに何故知らないんです?
精霊は側にいるのも力を貸すのも当然とでも思っていましたか?
この精霊の事をちゃんと知ろうとしましたか?
理や禁忌の内容までは知りませんし、私が知るのは急に消えるという事だけでしたから、今の状況がどういうものなのかまではわかりかねます。
ただ、状況的にあの少女がそれに関わっている可能性はあるでしょうね」
リューイの言葉が刺さる。
私は····自分にとって必要な事以外では精霊殿の事を知ろうとした事はなかった。
名前すら教えてくれず、あだ名を付ける事すらも許されていない。
「あの子なら、助けられるだろうか····間に合うだろうか····」
「どうでしょう?
彼女が何かしたのではなく、あなたと精霊殿が何かをした方でしょうからね。
期待をして会うのなら、会わない方が良いかもしれませんよ。
それよりあなたがザルハード国の王族として、王子として、精霊と共に在る者としての在り方をもう1度見直されるべきでは?」
「····手厳しいが、その通りだ」
「明日は登校日ですから、明日の朝王太子に非礼を詫びて離宮から登校しましょう。
それ以降は運を天に任せて過ごすしかありません」
私は促されるまま、隣の部屋に戻った。
翌日ギディアス殿には非礼を詫びつつも、やはり早急にとお願いしてから登校した。
憂鬱な気持ちで寮に戻り、魔力を注いでいるとドアがノックされてルドルフ殿から2日後に念願の面会が叶ったと聞かされた。
1人になってから精霊殿に報告したが、反応はなかった。
1
あなたにおすすめの小説
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
強制力が無茶するせいで乙女ゲームから退場できない。こうなったら好きに生きて国外追放エンドを狙おう!処刑エンドだけは、ホント勘弁して下さい
リコピン
ファンタジー
某乙女ゲームの悪役令嬢に転生したナディア。子どもの頃に思い出した前世知識を生かして悪役令嬢回避を狙うが、強制力が無茶するせいで上手くいかない。ナディアの専属執事であるジェイクは、そんなナディアの奇行に振り回されることになる。
※短編(10万字はいかない)予定です
転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します
三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。
身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。
そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと!
これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。
※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私は、セイラ・アズナブル。聖女候補として全寮制の聖女学園に通っています。1番成績が優秀なので、第1王子の婚約者です。けれど、突然婚約を破棄され学園を追い出され国外追放になりました。やった〜っ!!これで好きな事が出来るわ〜っ!!
隣国で夢だったオムライス屋はじめますっ!!そしたら何故か騎士達が常連になって!?精霊も現れ!?
何故かとっても幸せな日々になっちゃいます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる