64 / 491
4
63.試食会
しおりを挟む
「こんにちは、お兄さん達、アリーちゃん」
「本日はお招きいただいてありがとうございます、バルトス様、レイヤード様、アリー嬢。
アボット商会会長のウィンス=アボットです。
ウィンスとお呼び下さい」
「いらっしゃい、カイヤさん、ウィンスさん」
「久しぶりだな、カイヤ殿。
ウィンス殿は初めまして」
「こんにちは、皆さん。
僕と兄上は今回は付き添いで、主はアリーだから、会話には入らないけど気にしないで」
あれからペルジアさんが仲介してウィンスさんとカイヤさんとで交流を持ったようだ。
2人での訪問を打診されたので、喜んで受け入れた。
ウィンスさんは他の商会の見学とパイプ繋ぎ。
義兄様達は僕の付き添い。
僕の体調を心配してくれてるみたい。
そろそろフェルの加護も切れてきたのか、あれから少し体調は崩したけど1週間ほどで持ち直した。
といっても、寒くなる季節の変わり目は注意が必要なのだけど。
「早速だけど、話を聞かせてくれるかい」
「はい、まずはこちらを試食、試飲してもらえますか」
カイヤさんの言葉に僕はニーアに目配せして3種類の茶葉とミルク、蜂蜜、ジャム、お湯、卓上コンロを持ってきてもらい皆の目の前でミィを淹れる。
まずはカイヤさんのブースでも飲んだミィ。
「うーん、やっぱり苦いね」
「獣人さんには特に苦味を強く感じるみたいですね」
少し薄めに淹れたけど、ウィンスさんは難色を示す。
「お口直しに、この緑のパウンドケーキをどうぞ」
僕の並べた緑と茶色のパウンドケーキのうち、緑を勧める。
お好みでコリンていう果物とうちの特産品で1番質の落ちる蜂蜜で作ったジャムを勧める。
コリンはうちの領内でよくなってる大人の握りこぶしくらいの大きさの赤い木の実。
あっちの世界の林檎によく似たフルーティーで豊潤な香りでシャリシャリした食感なんだけど、こちらの物はとにかくすぐに傷がつくから果物そのもの形での出荷は滅多にしてない。
1番質の落ちる蜂蜜を使ったのはコリンの風味を際立たせる為だよ。
ていっても養蜂を極めてるうちの領内の蜂蜜基準でのお話だから、他領と比べればそこそこの質なんだ。
「これ、ミィが入ってるね!
こうすると苦味がなくなってミィの風味が香る焼き菓子になるのか!」
「本当だ。
ミィの風味が甘さをまろやかにしてくれて、甘いのが苦手な人も食べられそう。
このジャムとも合う」
ミィのパウンドケーキはお口に合ったようだ。
甘いの苦手な義兄様達もミィのパウンドケーキは食べてるね。
「ではお口直しにミィを一口どうぞ」
「食後のミィならまだ苦味が抑えられるけど、やっぱり苦いかな」
やっぱりそのままの緑茶は味覚が敏感な獣人さんには苦かったみたい。
「ふふ、ではこちらのお茶をどうぞ」
「これ、美味しいね。
でも紅茶とも違う」
「ずいぶん茶色いね。
でも香ばしい風味で甘味がある。
何の茶葉を使ってるんだい?」
やっぱりこっちがお気に召したか。
バルトス義兄様はそのままのミィが好きだけど、レイヤード義兄様はこっちのが好きなんだよね。
「ミィを低温でゆっくり炒ったんです。
茶色のパウンドケーキをどうぞ」
つまり、ほうじ茶だ。
僕は卓上コンロを使ってほうじ茶ラテの準備に入る。
卓上コンロは火の魔法を付与した魔石を使っているから点火だけニーアにお願いすれば後は僕でも扱える。
「このケーキには炒ったミィを使ったんだね。
炒るだけでこんなに風味が変わるなんて」
カイヤさんの目がギラギラしている。
「そのままのミィのケーキは上品な味わい、炒ったミィは庶民的な味わいか」
ウィンスさんの目は純粋にキラキラしてるね。
「これはミルクと炒ったミィを使ったミルクミィです。
お好みで蜂蜜をどうぞ」
「「美味しい!」」
どうでもいいけど、牛乳はこっちでもミルクって言うんだ。
他にも時々言葉が同じな物があって、世界の不思議を感じる。
様子を見ながら今度は先日ウィンスさんのブースで買った香辛料と紅茶でチャイを作り始めた。
「あれ、この匂いは····」
「はい、先日ウィンスさんに揃えてもらった調味料と紅茶を使いました」
わわ、途端にウィンスさんの目がギラギラする。
ウィンスさんの前に出すとすぐに一口。
「これ、いいね!
ナモ、カダ、クブ?」
「はい。
ブランドゥールの調味料になれた方ならお好みでジジャを入れても美味しいかもしれません。
一般的な紅茶のパウンドケーキもどうぞ」
シナモン、カルダモン、クローブに、お好みで生姜をどうぞである。
「こんなミルク紅茶は初めてだけど、紅茶のパウンドケーキに合うね!」
「ブランドゥールではこういったお茶はないんでしょうか?」
「残念だけど、紅茶の流通自体があまりなかったからね」
ウィンスさんの言葉になるほど、と頷く。
ブランドゥールが交易に力をいれ始めたのは何年か前からだと記憶している。
商業として他国の茶葉や嗜好品が流通するのはこれからといったところか。
一同が思い思いに試食、試飲を始めた頃、ドアがノックされ、ニーアが待ちに待った料理を持ってきてくれた。
「お嬢様、出来立てをとの指示通り先程揚がったばかりです」
「ふふふー、きたぁぁぁぁ!」
あ、つい素が出ちゃった。
義兄様達のやけに優しげな眼差しを向けられながら、僕はにこにこと被せてあった布巾を取る。
ニーアは全員に紙を乗せた小皿を渡していく。
「揚げ立てのリーパン!
こんな風に紙で挟んで食べてみて下さい」
まずは僕がトングで取って紙に挟んだら手に持ってパクり。
昔からカレーパンが好きなのだ。
他の皆も続く。
「え、何これ、リー?!
美味しい!」
「アリーちゃん、これ出店で売れるわ!」
「さすが天使!」
「アリー、美味しいんだけど!」
ウィンスさん、カイヤさん、バルトス義兄様、レイヤード義兄様の順に褒めてくれる。
「喜んでもらえて良かった。
うちの料理長と試行錯誤した甲斐があります!」
と言いつつパクパク食べる。
ひとしきり食べた後、カイヤさんが本題に入った。
「それで、アリーちゃんは何がしたいんだい?
試食や試飲会がしたかったわけじゃないよね」
「もちろんです。
カイヤさんにはジャガンダでミィを私の言う方法で栽培して欲しいんです」
「·····ほほう」
ニヤリと笑うカイヤさんの顔が、悪徳代官ぽかった。
「本日はお招きいただいてありがとうございます、バルトス様、レイヤード様、アリー嬢。
アボット商会会長のウィンス=アボットです。
ウィンスとお呼び下さい」
「いらっしゃい、カイヤさん、ウィンスさん」
「久しぶりだな、カイヤ殿。
ウィンス殿は初めまして」
「こんにちは、皆さん。
僕と兄上は今回は付き添いで、主はアリーだから、会話には入らないけど気にしないで」
あれからペルジアさんが仲介してウィンスさんとカイヤさんとで交流を持ったようだ。
2人での訪問を打診されたので、喜んで受け入れた。
ウィンスさんは他の商会の見学とパイプ繋ぎ。
義兄様達は僕の付き添い。
僕の体調を心配してくれてるみたい。
そろそろフェルの加護も切れてきたのか、あれから少し体調は崩したけど1週間ほどで持ち直した。
といっても、寒くなる季節の変わり目は注意が必要なのだけど。
「早速だけど、話を聞かせてくれるかい」
「はい、まずはこちらを試食、試飲してもらえますか」
カイヤさんの言葉に僕はニーアに目配せして3種類の茶葉とミルク、蜂蜜、ジャム、お湯、卓上コンロを持ってきてもらい皆の目の前でミィを淹れる。
まずはカイヤさんのブースでも飲んだミィ。
「うーん、やっぱり苦いね」
「獣人さんには特に苦味を強く感じるみたいですね」
少し薄めに淹れたけど、ウィンスさんは難色を示す。
「お口直しに、この緑のパウンドケーキをどうぞ」
僕の並べた緑と茶色のパウンドケーキのうち、緑を勧める。
お好みでコリンていう果物とうちの特産品で1番質の落ちる蜂蜜で作ったジャムを勧める。
コリンはうちの領内でよくなってる大人の握りこぶしくらいの大きさの赤い木の実。
あっちの世界の林檎によく似たフルーティーで豊潤な香りでシャリシャリした食感なんだけど、こちらの物はとにかくすぐに傷がつくから果物そのもの形での出荷は滅多にしてない。
1番質の落ちる蜂蜜を使ったのはコリンの風味を際立たせる為だよ。
ていっても養蜂を極めてるうちの領内の蜂蜜基準でのお話だから、他領と比べればそこそこの質なんだ。
「これ、ミィが入ってるね!
こうすると苦味がなくなってミィの風味が香る焼き菓子になるのか!」
「本当だ。
ミィの風味が甘さをまろやかにしてくれて、甘いのが苦手な人も食べられそう。
このジャムとも合う」
ミィのパウンドケーキはお口に合ったようだ。
甘いの苦手な義兄様達もミィのパウンドケーキは食べてるね。
「ではお口直しにミィを一口どうぞ」
「食後のミィならまだ苦味が抑えられるけど、やっぱり苦いかな」
やっぱりそのままの緑茶は味覚が敏感な獣人さんには苦かったみたい。
「ふふ、ではこちらのお茶をどうぞ」
「これ、美味しいね。
でも紅茶とも違う」
「ずいぶん茶色いね。
でも香ばしい風味で甘味がある。
何の茶葉を使ってるんだい?」
やっぱりこっちがお気に召したか。
バルトス義兄様はそのままのミィが好きだけど、レイヤード義兄様はこっちのが好きなんだよね。
「ミィを低温でゆっくり炒ったんです。
茶色のパウンドケーキをどうぞ」
つまり、ほうじ茶だ。
僕は卓上コンロを使ってほうじ茶ラテの準備に入る。
卓上コンロは火の魔法を付与した魔石を使っているから点火だけニーアにお願いすれば後は僕でも扱える。
「このケーキには炒ったミィを使ったんだね。
炒るだけでこんなに風味が変わるなんて」
カイヤさんの目がギラギラしている。
「そのままのミィのケーキは上品な味わい、炒ったミィは庶民的な味わいか」
ウィンスさんの目は純粋にキラキラしてるね。
「これはミルクと炒ったミィを使ったミルクミィです。
お好みで蜂蜜をどうぞ」
「「美味しい!」」
どうでもいいけど、牛乳はこっちでもミルクって言うんだ。
他にも時々言葉が同じな物があって、世界の不思議を感じる。
様子を見ながら今度は先日ウィンスさんのブースで買った香辛料と紅茶でチャイを作り始めた。
「あれ、この匂いは····」
「はい、先日ウィンスさんに揃えてもらった調味料と紅茶を使いました」
わわ、途端にウィンスさんの目がギラギラする。
ウィンスさんの前に出すとすぐに一口。
「これ、いいね!
ナモ、カダ、クブ?」
「はい。
ブランドゥールの調味料になれた方ならお好みでジジャを入れても美味しいかもしれません。
一般的な紅茶のパウンドケーキもどうぞ」
シナモン、カルダモン、クローブに、お好みで生姜をどうぞである。
「こんなミルク紅茶は初めてだけど、紅茶のパウンドケーキに合うね!」
「ブランドゥールではこういったお茶はないんでしょうか?」
「残念だけど、紅茶の流通自体があまりなかったからね」
ウィンスさんの言葉になるほど、と頷く。
ブランドゥールが交易に力をいれ始めたのは何年か前からだと記憶している。
商業として他国の茶葉や嗜好品が流通するのはこれからといったところか。
一同が思い思いに試食、試飲を始めた頃、ドアがノックされ、ニーアが待ちに待った料理を持ってきてくれた。
「お嬢様、出来立てをとの指示通り先程揚がったばかりです」
「ふふふー、きたぁぁぁぁ!」
あ、つい素が出ちゃった。
義兄様達のやけに優しげな眼差しを向けられながら、僕はにこにこと被せてあった布巾を取る。
ニーアは全員に紙を乗せた小皿を渡していく。
「揚げ立てのリーパン!
こんな風に紙で挟んで食べてみて下さい」
まずは僕がトングで取って紙に挟んだら手に持ってパクり。
昔からカレーパンが好きなのだ。
他の皆も続く。
「え、何これ、リー?!
美味しい!」
「アリーちゃん、これ出店で売れるわ!」
「さすが天使!」
「アリー、美味しいんだけど!」
ウィンスさん、カイヤさん、バルトス義兄様、レイヤード義兄様の順に褒めてくれる。
「喜んでもらえて良かった。
うちの料理長と試行錯誤した甲斐があります!」
と言いつつパクパク食べる。
ひとしきり食べた後、カイヤさんが本題に入った。
「それで、アリーちゃんは何がしたいんだい?
試食や試飲会がしたかったわけじゃないよね」
「もちろんです。
カイヤさんにはジャガンダでミィを私の言う方法で栽培して欲しいんです」
「·····ほほう」
ニヤリと笑うカイヤさんの顔が、悪徳代官ぽかった。
16
あなたにおすすめの小説
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
スローライフ 転生したら竜騎士に?
梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる