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77.修羅場1

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「お兄様、私は公爵令嬢として社交界デビューもしていますし、交友関係を広く持ち、将来嫁いだ家に繁栄をもたらす為にこの者と同じ年にはお茶会にも出席して今では私自身の力でお茶会を開く事だってできますの。
友人も多いですし、お茶会を開いて試食として出せば王都の貴婦人が好むようなケーキに仕上げられて貴婦人たちの風評を使って今より更に売上も見込めるはずですわ。
貴族令嬢たるもの社交の場に身を置くのは当然ですし、体の弱さを理由に引きこもっている者よりもよほどお兄様に益をもたらせられますわ」

 わお、従妹様ってばできる女アピールと僕への蹴落としに余念がないね。
ちゃっかり嫁いだ時の有益アピールもプレゼンしちゃうなんて、やるなあ。

 お陰で義父様の機嫌が急転直下だよ。

 腰掛けた従姉様の隣にいる従兄様なんてお顔が青いの通り越して白くなってて····うん、これはこれで義母様には無かった趣があって、いいかもしれない。
まあ実際義母様がこんな顔色になったら流石にこんな事しでかした人間を放っておいたりはしないんだけど、従兄様だしね。
僕は微笑ましくてついついニコニコしながら従兄様に見入っちゃう。

 そんな僕に怯えた視線を投げかける従兄様と、今まさに笑顔を向ける僕をひと睨みしてすぐさま何かを期待する眼差しを義父様に向ける従姉様。

 にしても義父様発するこの威圧感を通り越して殺気すら放つ凍結空間をものともしないなんて、さすが公爵令嬢を自負するだけの事はあるな。
公爵令息の従兄様なんて、既に真っ白な灰にと化しそうな雰囲気になってるんだから根性がたりないのかな。

「····クラウディア、お前はとにかく今すぐ口を閉じるんだ。
アリー、うちの愚妹が本当にごめん。
叔父上も不快にさせて····」
「あら、お兄様ったら、この程度の事は貴族令嬢として当然なのですから叔父様だってわかっていらっしゃいますわ。
なのに笑顔を浮かべてケーキまで食べ始めるなんて。
明日のお茶会が思いやられますわね」
「ふふふ、美味しいですよ、従姉様。
お1ついかがで····」
「お姉様と呼ぶのを偽物には許しておりませんわよ!
私を姉と呼んで良いのは本物の従妹であるルナチェリアだけですわ!」
「クラウディア!」

 おっと、従兄様の制止の叫びも無視して僕に直接怒鳴りつけてきちゃったか。
にしても····。

「ねえ、君、今誰に何を言ったのかな」
「えっ、あっ、これは····」

 興奮しててレイヤード義兄様が入って来たのに気づかなかったみたいだけど、今更慌ててももう遅いよ?

 つかつかと大股で僕の隣に来る義兄様ってば無表情なのに地獄の門番みたいな形相に感じるのは僕の気のせいじゃないと思うんだけど、器用で素敵だよね。

「レ、レイヤード、様?」
「ねぇ、僕は君に名前を呼ぶ事を許していないよ。
ああ、全てが中途半端で現実問題何の役にもたたない、プライドだけが無駄に高いだけの無能な人間でも公爵家の令嬢で家格が上だから勝手に呼んだ?
確か家同士の取り決めで今後は節度ある言動を僕に対して取るんじゃなかった?
でも学園の先輩で生徒会の補佐をしてる僕の名前を僕の許可なく呼ぶのは今後先輩として許さないよ。
で、今誰に何を言ったのか教えてくれない?
ルナチェリアが何?
仮に生きてたとして君みたいな無意味な人間を姉と慕うとでも思っているとか?」

 戸惑う従姉様(いや、今後はクラウディア様かフォンデアス公爵令嬢様って呼ぶべきかな)に容赦ない言葉の刃で突き刺していく。

 ····にしても、家同士の取り決め、ねぇ。

 僕の目が細くなったのに気づいた従兄様が思わず腰を浮かせるけど、僕は無視して今のところ無言を貫く義父様にチラリと視線を投げかける。
しばらく赤い目と語り合い、やがて義父様は小さなため息を吐いて少しふてくされた顔をして横を向く。
ふふふ、何だか僕の遠い昔の幼馴染みたいでこんな状況なのに胸が温かくなる。

 ま、それはそうと僕の勝ちだね。
後で詳しく教えてよね。

 僕は小さく微笑んで公爵令嬢様へと視線を戻す。

 公爵令嬢様はそんな僕の様子には全く気づかず、青くなった顔色で立ち上がる事も出来ないようで呆然と義兄様を見上げていた。
小刻みに震えて今にも涙が流れそうだね。

「兄様、座って」

 僕の言葉に無表情なままだけど義兄様が両手、両足を組んでボスンと座る。
それを見届けてからケーキを置いて姿勢を正し、義母様直伝の静かなグレインビル侯爵令嬢としての威厳を示しつつ微笑む。

 目の前の2人はハッとしたような顔をしたから成功かな。

「フォンデアス公爵令嬢様。
血縁関係がないとはいえ私達の関係は従姉妹同士です。
明日のお茶会の場で伯母様も含めて私達が共にいる理由は不慣れな私が粗相しないようフォンデアス公爵夫人とその令嬢が見守る為、と既に周知されております。
お茶会の場でグレインビル侯爵令嬢である私と不仲であると噂が立つことは伯母様も望まれないと思いますが、いかがでしょう」

 お茶会とはいえ王妃様主催だから席次の関係で予め公爵家から通達されてるんだ。

「ああ、その通りだ」
「それでは明日のお茶会の場ではクラウディア様、とお呼びする事を了承下さいませ。
兄様も、今後の互いの領としての付き合いも考えてご令嬢の名前呼びをお許し下さい。
先程アリリアの実の使い道が決まりましたの。
ね、フォンデアス公爵令息様」

 従兄様の返事を待って令息呼びで名前の許可を従兄様に求める。
ふふふ、ばつの悪そうなお顔もやっぱりいいね。

「俺は従兄様呼びに戻してくれると嬉しい。
それから重ね重ねグレインビル家に愚妹が迷惑をかけて申し訳ない。
その通りだ。
今回の件のお詫びもある。
今期の取引額を提示された金額の2割増しにさせて欲しい。
もちろんだからと言って愚妹の件を水に流せだなんて事はフォンデアス公爵家の名にかけて言わない。
そしてクラウディア」

 1度話を切って妹へ感情のこもらない冷たいお顔を向ける。
そのお顔は伯母様に似ているね。
 
「そもそもが叔母上の葬儀の時にお前は俺の目の前で従姉様呼びを許している。
最初に従姉様呼びをアリーに持ちかけたのは一緒に席にいた母上だ。
その上でお前にもアリーは侯爵令嬢としての礼を守って許可を求めているが、あの時お前はレイヤードに気を取られて生返事をしていたから覚えていないだけだ」
「そんな····」

 本人的には衝撃の事実かな。
うん、まあいきなりほぼほぼ初対面の表面上は家格が上の令嬢をお姉様呼びするのはハードル高いって、縦社会が色濃い貴族社会にいたら普通は気づいて当たり障りなく確認するもんだけどね。

※※※※※※※※※
お知らせ
※※※※※※※※※
全2話の短編小説を投稿しています。
<【花護哀淡恋】ある初代皇帝の手記>

ハロウィン→墓→ホラー→ミステリー?あれ?みたいな感じでハロウィンからかけ離れた内容の小説が出来上がりました。
よろしければご覧下さい。
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