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120.不自然な大量発生~sideギディアス
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「グレインビル侯爵····」
「父上、行きます」
何かを言いにくそうに話しかけてきた王妃の言葉を遮って悪魔が転移した。
「さて、何故このようになったかお伺いしても?」
魔王が元凶間違いないなしのご婦人達に声をかければ、全員が青い顔でぎくりと体を震わせる。
特に王妃とフォンデアス公爵夫人、その令嬢はもはや真っ白な顔だ。
他の夫や子息達は蛇に睨まれた蛙のように動けない中、魔王の悪友だけは自らの妻の手をそっと引いて背に庇う。
ただ非難するわけでもなく、むしろ所在なさげな顔をして一言、すまないと呟くだけだった。
娘は捨て置かれているけど、確か色々と彼らの天使にやらかしていたと聞いたから何かあったんだろうね。
「グレインビル侯爵、殺気を抑えられよ。
不敬と取られかねんぞ」
「まだ幼い愛娘が何らかの策謀と誰かしらの偶発的行動により行方不明と聞かされて殺気立たない父親でありたくはないのでね、リュドガミド公爵。
それで、経緯をお聞きしたいのだが?
王妃殿下が何やら私に話があったようだが、私の気のせいだろうか?」
水色髪に桃色の目の女公爵の常識ある制止すらも魔王は却下するようだが、公爵は気に障る様子もなく呆れたようにため息を1つ吐いただけだ。
確かに不敬と捉えられかねないが今の所は誰にともなく殺気立っている上にやらかしたのは王妃と高位貴族の面々だから、娘の行方を危惧する父親という立場では咎められないのも事実か。
魔王もそこを踏まえて堂々と口撃しているしね。
「侯爵、その····」
「グレインビル侯爵よ、ひとまず皆で城へ戻り、それから話そう」
狐属の団長と話が終わったのか、陛下が慰めるように王妃の肩に後ろから手を置いた。
王妃の肩の力がいくらか抜けたようだ。
「いや、戻るのはこの件の当事者だけが良いだろう。
アビニシア侯爵、1つ聞くが、間引きはしていたんだろうか?」
「当然だ。
この土地で定期的に行わないはずがない」
辺境の地では魔獣を適度に討伐しないと人里に魔獣の被害が及ぶだけでなく、下手をすればスタンピードが起こる。
興奮状態の下位の魔獣が数百以上になると高位の魔獣がそれを補食するのに集まり始め、それに興奮した下位の魔獣が更に仲間を呼び寄せ暴走状態になって暴れ逃げ惑って周囲に甚大な被害をもたらす。
歴史上では何百年も前に万を超す魔獣によるスタンピードで滅んだ国もあるとされるほど暴走状態の魔獣の群れは恐ろしい。
どんな攻撃を受けても死ぬ瞬間まで力の限り暴れるからだ。
「ならば残りの魔獣達はスタンピードが起こる前にそちらで対処しろ」
「どういう事だ」
訝しげな顔のアビニシア侯爵に悪魔がため息を吐く。
「まだわからないか?
私達は上でAAランク1匹、Aランク11匹、B·Cランク73匹を狩っているが、何かに呼び寄せられて興奮しつつある魔獣が麓に千ほどは残っているぞ。
高ランクの魔獣の大半はこちらで呼び寄せ、討伐したから残りはC以下が大半だろうが、また高ランクが呼び寄せられれば暴走を始めるだろうな」
「は····何故そんな数が突然····」
魔王は数を数えていたのか。
狩猟祭で天使に良い所見せたかったのかな。
それにしても妙だ。
突然なんの兆候もなく千にもなる魔獣が集まるなんて、自然に起きた現象としてはあり得ない。
「ちなみに火蜘蛛は別で40ほど狩ってあるから、群れて倒すのが面倒な魔昆虫は少ないはずだ」
「····何でそんなに····」
「可愛い娘のおねだりに応えない父親でありたくないからだが?」
え、魔王の天使は火蜘蛛をそんなにご所望だったの?!
何故?!
何で魔王はどや顔?!
「上で魔物寄せの香を焚いておびき寄せたから付近の高ランクの魔獣は狩り終えたと思っていい。
ついでに持っていた香を時間差で燃えるよう仕掛けてあるからまだ何処かに隠れていても人里に向かう魔獣は少ないだろう。
言っておくが、私が香を焚く前から麓に集まっていたから私のせいにはしてくれるなよ」
いや、そもそも狩猟祭で高位貴族や王族がいるのに魔獣寄せの香を焚く事自体があり得ないんだけどね。
まあグレインビル家だし、とか普通に受け入れてた私の思考回路が既に毒されていたと自覚して人知れず愕然としてしまったよ。
でもって今しれっとこの危機の為に焚いたかのように話をもってったよね?!
魔王怖いなあ····。
「ふむ。
色々と怪しき点はあるが、まずは魔獣の対応よな。
アビニシア侯爵、三大筆頭公爵家をはじめ上位の貴族と騎士達が集まっている。
できるな?」
「はっ」
勿論これから狩猟祭改め、間引き駆除任務の遂行についてだ。
「王太子は残って指揮を取れ。
ついてくる護衛はネビルを入れて4人でよい。
各団の団長と他の者はここに残り、4人は私と王妃、リュドガミド公爵、そしてグレインビル侯爵と共に城へ戻る。
残りの護衛達で戦い慣れておらぬ者、夫人と令嬢を守りながら終わるまでここで待機せよ」
陛下がネビルに向き直る。
「ネビル団長、今はあの魔具は使えぬ。
城の広間に転移できるか?」
「はっ」
「私は先に行く。
疑わしき者と取るならさっさと追いかけて来られよ」
「では私も先に参りましょう。
貴方達は討伐に混ざりなさい」
確かに今回の一件の当事者となる魔王一家、そして当然王族も嫌疑の対象にはなる。
リュドガミド公爵は元々狩りに参加していた同じ色味の3人の子供達に指示を出すと魔王とほぼ同時に消えた。
当然のようにあの一家や公爵は転移していったけど、あれは高度な術式を魔力で組んで発動させるから転移する人が多くなるほど、距離が遠くなるほど不安定になり難しくなる。
恐らくネビルの負担を考えたんだと思う。
魔王だけど····多分····そう思いたい。
各団の副団長が数秒で集まって陛下夫妻と一団が消えた。
晩餐会は中止だろうなあ。
にしても行方不明事件に続き不自然な魔獣の大量発生か。
普通にあのやたら精度の高い魔獣寄せの香のせいだと思ってたけど、麓に臨戦態勢の魔獣がそんなにいるのは確かに異常だ。
でもそれよりもアビニシアの広大なこの山の麓まで索敵範囲とか、魔王の索敵能力凄すぎて怖い。
「父上、行きます」
何かを言いにくそうに話しかけてきた王妃の言葉を遮って悪魔が転移した。
「さて、何故このようになったかお伺いしても?」
魔王が元凶間違いないなしのご婦人達に声をかければ、全員が青い顔でぎくりと体を震わせる。
特に王妃とフォンデアス公爵夫人、その令嬢はもはや真っ白な顔だ。
他の夫や子息達は蛇に睨まれた蛙のように動けない中、魔王の悪友だけは自らの妻の手をそっと引いて背に庇う。
ただ非難するわけでもなく、むしろ所在なさげな顔をして一言、すまないと呟くだけだった。
娘は捨て置かれているけど、確か色々と彼らの天使にやらかしていたと聞いたから何かあったんだろうね。
「グレインビル侯爵、殺気を抑えられよ。
不敬と取られかねんぞ」
「まだ幼い愛娘が何らかの策謀と誰かしらの偶発的行動により行方不明と聞かされて殺気立たない父親でありたくはないのでね、リュドガミド公爵。
それで、経緯をお聞きしたいのだが?
王妃殿下が何やら私に話があったようだが、私の気のせいだろうか?」
水色髪に桃色の目の女公爵の常識ある制止すらも魔王は却下するようだが、公爵は気に障る様子もなく呆れたようにため息を1つ吐いただけだ。
確かに不敬と捉えられかねないが今の所は誰にともなく殺気立っている上にやらかしたのは王妃と高位貴族の面々だから、娘の行方を危惧する父親という立場では咎められないのも事実か。
魔王もそこを踏まえて堂々と口撃しているしね。
「侯爵、その····」
「グレインビル侯爵よ、ひとまず皆で城へ戻り、それから話そう」
狐属の団長と話が終わったのか、陛下が慰めるように王妃の肩に後ろから手を置いた。
王妃の肩の力がいくらか抜けたようだ。
「いや、戻るのはこの件の当事者だけが良いだろう。
アビニシア侯爵、1つ聞くが、間引きはしていたんだろうか?」
「当然だ。
この土地で定期的に行わないはずがない」
辺境の地では魔獣を適度に討伐しないと人里に魔獣の被害が及ぶだけでなく、下手をすればスタンピードが起こる。
興奮状態の下位の魔獣が数百以上になると高位の魔獣がそれを補食するのに集まり始め、それに興奮した下位の魔獣が更に仲間を呼び寄せ暴走状態になって暴れ逃げ惑って周囲に甚大な被害をもたらす。
歴史上では何百年も前に万を超す魔獣によるスタンピードで滅んだ国もあるとされるほど暴走状態の魔獣の群れは恐ろしい。
どんな攻撃を受けても死ぬ瞬間まで力の限り暴れるからだ。
「ならば残りの魔獣達はスタンピードが起こる前にそちらで対処しろ」
「どういう事だ」
訝しげな顔のアビニシア侯爵に悪魔がため息を吐く。
「まだわからないか?
私達は上でAAランク1匹、Aランク11匹、B·Cランク73匹を狩っているが、何かに呼び寄せられて興奮しつつある魔獣が麓に千ほどは残っているぞ。
高ランクの魔獣の大半はこちらで呼び寄せ、討伐したから残りはC以下が大半だろうが、また高ランクが呼び寄せられれば暴走を始めるだろうな」
「は····何故そんな数が突然····」
魔王は数を数えていたのか。
狩猟祭で天使に良い所見せたかったのかな。
それにしても妙だ。
突然なんの兆候もなく千にもなる魔獣が集まるなんて、自然に起きた現象としてはあり得ない。
「ちなみに火蜘蛛は別で40ほど狩ってあるから、群れて倒すのが面倒な魔昆虫は少ないはずだ」
「····何でそんなに····」
「可愛い娘のおねだりに応えない父親でありたくないからだが?」
え、魔王の天使は火蜘蛛をそんなにご所望だったの?!
何故?!
何で魔王はどや顔?!
「上で魔物寄せの香を焚いておびき寄せたから付近の高ランクの魔獣は狩り終えたと思っていい。
ついでに持っていた香を時間差で燃えるよう仕掛けてあるからまだ何処かに隠れていても人里に向かう魔獣は少ないだろう。
言っておくが、私が香を焚く前から麓に集まっていたから私のせいにはしてくれるなよ」
いや、そもそも狩猟祭で高位貴族や王族がいるのに魔獣寄せの香を焚く事自体があり得ないんだけどね。
まあグレインビル家だし、とか普通に受け入れてた私の思考回路が既に毒されていたと自覚して人知れず愕然としてしまったよ。
でもって今しれっとこの危機の為に焚いたかのように話をもってったよね?!
魔王怖いなあ····。
「ふむ。
色々と怪しき点はあるが、まずは魔獣の対応よな。
アビニシア侯爵、三大筆頭公爵家をはじめ上位の貴族と騎士達が集まっている。
できるな?」
「はっ」
勿論これから狩猟祭改め、間引き駆除任務の遂行についてだ。
「王太子は残って指揮を取れ。
ついてくる護衛はネビルを入れて4人でよい。
各団の団長と他の者はここに残り、4人は私と王妃、リュドガミド公爵、そしてグレインビル侯爵と共に城へ戻る。
残りの護衛達で戦い慣れておらぬ者、夫人と令嬢を守りながら終わるまでここで待機せよ」
陛下がネビルに向き直る。
「ネビル団長、今はあの魔具は使えぬ。
城の広間に転移できるか?」
「はっ」
「私は先に行く。
疑わしき者と取るならさっさと追いかけて来られよ」
「では私も先に参りましょう。
貴方達は討伐に混ざりなさい」
確かに今回の一件の当事者となる魔王一家、そして当然王族も嫌疑の対象にはなる。
リュドガミド公爵は元々狩りに参加していた同じ色味の3人の子供達に指示を出すと魔王とほぼ同時に消えた。
当然のようにあの一家や公爵は転移していったけど、あれは高度な術式を魔力で組んで発動させるから転移する人が多くなるほど、距離が遠くなるほど不安定になり難しくなる。
恐らくネビルの負担を考えたんだと思う。
魔王だけど····多分····そう思いたい。
各団の副団長が数秒で集まって陛下夫妻と一団が消えた。
晩餐会は中止だろうなあ。
にしても行方不明事件に続き不自然な魔獣の大量発生か。
普通にあのやたら精度の高い魔獣寄せの香のせいだと思ってたけど、麓に臨戦態勢の魔獣がそんなにいるのは確かに異常だ。
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