秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

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122.昏倒

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「起きな!
あのクソ王子はどこに行った?!」

 ガン!

 鉄格子を殴る音と怒鳴り声で目を覚ます。
まだ暗いけど、相変わらずうるさいなあ。
夜は静かにしないとご近所迷惑だよ。

 体調が絶不調だからさすがに苛つく。
頭痛いし、体も重くて息苦しい。
でも僕1人じゃないから返事した方がいいかな?

 なんて思ってたら、骨張った手が置いてた僕の肩を指でトントンする。
えっと、動くなって事?

 あれ、そういえば僕腕枕されてる?
確かシル様の隣で横になってて····レイヤード義兄様だと思ってたけど、状況的にまだ牢にいるよね?
抱き込まれてるから石畳でも思ってたよりは体が痛くないけど····え、これ誰?!

 思わず顔を上げようとしたけど、抱き込まれてて上がらない。
そしてがっちりホールドされてて動けない。
やっぱり動くなのトントンだったみたいだけど····。

 何で?!

 えーっと、ルド様は予定通りに行動してるみたいだし····あ、これシル様だ。
念の為にそっとお尻付近に手をやれば、神の手触りであられるふさふさ尻尾様がいらっしゃる。
ちょっぴりパサついてるのかな?
刺されていっぱい出血しちゃったものね。

 良かった。
知らない人のお胸に寝惚けてすり寄ってなかった。
下手したら僕、痴女だったよ。
いや、これはこれで問題?

 ガン!!

「起きろっつってんだよ!!」

 さっきより激しい音と怒声が響く。
さすがに素手だと痛いのか、さっきのは多分蹴った音だね。

 ま、いいや。
どうせだったら、この神のふさふさ堪能しなきゃ。

 尻尾の付け根は嫌がる獣人さんが多いから、真ん中あたりをにぎにぎしてみる。
あっちからは見えない位置だし、いいよね。

 んふふ、先っぽが僕の手首をくすぐってくるんだけど。
シル様も無視してる。

「チッ」

 ガチャガチャと鍵を開ける音がする。
あの鍵、魔法かかっててピッキングできなかったんだよね。
この世界の鍵ってあっちの世界のと違って造りそのものは単純なのが多いから僕はその気になればピンとかで開けられるんだけど、専用の鍵じゃないと開かないような魔法錠っていうのもよくあるんだ。
ちなみにその手の錠前はノーピック、ノー物理の力になってて、開けるのも壊すのもできないよ。
今回のやつもそれ。

 あーあ、足音も騒がしい。
せっかく尻尾様にこの苛々を治めて貰ってたのに。

「起きろ、このクソガキ!」

 毛布が乱暴に取り払われてシル様の背中僕の腕をつかもうと屈んだその瞬間、シル様が僕の腕枕を素早く解いてジルコの首に肘鉄を食らわす。
どうでもいいけど、手枷ついてるのにスルッと解くとか器用だね。

「ガッ」
「ぐっ」

 ジルコは石畳に倒れたけど、シル様も小さく呻いて片膝をつく。
そりゃそうだよ。
お腹の中を切って縫ったんだから。
僕も起きて立ち上がるけど、途端に眩暈が襲ってきてしゃがみこむしかない。

「アリー嬢、熱が高いから無理は····」

 お腹押さえて悶絶しそうになってる狼さんが何言ってるんだか。
脂汗出てるし。

 チラリと開いて揺れる鉄格子を見て、それからジルコを見る。
うまくクリーンヒットしたみたいで目を回してる。

 ふうっと息を吐いてゆっくり立ち上がってジルコに近づいて腰の剣と服の下に隠してある武器を回収する。
もちろんポッケに収納だ。

 やばい、熱がかなり上がってるのかくらくらする。
でも怒りで暴走モード入ってるっぽいジルコは黙らせておかないと、まだ安静にしなきゃいけないシル様に暴力働きそうなんだよね。

 僕はポケットからあの小瓶を取り出す。
シル様の手術でハンカチの上からお顔に垂らしたあれだよ。
ハンカチはもうないから、ドレスの裾を顔に引っかけて垂らそうと小瓶を傾ける。

「何しやがる、このクソガキ!」
「アリー嬢!」

 ジルコが目を覚ましちゃったみたいだけど、お顔をドレスで隠してたからわからなかった。
さっきのジルコと逆だね。
ていうか、僕のパンツ見えたから怒ったのかな?!

「あ····」

 でも見えてないのは向こうも同じで、僕の手をはたくだけになったのと、咄嗟にシル様が僕の腰に手を回して引くのと同じタイミングになった。
その結果····。

 バシャッ、カシャーン。

 ジルコのお顔に直に小瓶の中身がぶちまかれ、小瓶は石畳に落ちて割れちゃった。
その間約1秒。

「ぶっ····なん····だ····」

 ジルコ即寝。

 うん、だってこれ強力な眠り薬だもん。
普通は気化させて使うようにしてあるんだ。
理由はある程度の時間で起きるようにするのと、効きすぎるとそのままずーっと眠っちゃってお亡くなりになっちゃうから。

「え、まだ何の獣人さんか聞いてないのに····」
「アリー嬢、それ大事なのか」

 僕を背中越しに抱き寄せる格好になってる少年シル様が呆れたように耳元で呟いた。

「それ以外に彼女に何の魅力も感じません····」
「····ピューマ属だ」

 おお!
ピューマか。
それでこのお耳なんだね。
でも性格は僕の知ってるピューマっぽくないなぁ。

 僕はシル様の腕をそっと退けてジルコの横にしゃがむとお耳をもみもみと触る。
毛は猫科っぽい手触りだね。
ついにこにこしちゃう。

 ふと視線を感じて見上げると、呆れを通り越して残念な何かに向けるような眼差しの狼少年。
全身から疲労困憊なオーラが漂ってる。

 これは····ピューマへの嫉妬?!

「もちろんシル様のお耳と尻尾の方が好ましいですよ」
「····それは····ありがとう」

 何か言いたげだけど、僕のシル様への尻尾様へのパッションが伝わったのかお礼を言われた。
今はけっこう体がつらいからできないけど、治ったらちゃんとシル様専用ブラシで毛繕いをしてあげるね!
こないだアン様とラルク様、それとアボット3兄弟のも作ってみたんだけど、気に入ってくれるかな。

 さてさて、もういつ目覚めるかわからない眠りについちゃったんなら追い剥ぎついでに外套も貰おう。
ケープは氷熊さんの毛皮で作ってあるから着込むととっても温かいんだけど、貸し出し中だから今はかなり冷えるもの。

「おい、これはどういう事だ?」

 抑揚を抑えた低い声が鉄格子の向こうから投げかけられた。
もちろん熊属のベルヌだ。
暗闇の中、怒りを抑えた目が爛々と僕達を捕らえた。
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