139 / 491
5
138.タコパと逃亡
しおりを挟む
「ふふふ、楽しいねえ····タコパ····ねえ」
あれ?
何だかふわふわしてるよ?
僕は体を起こしていられなくなって義兄様の首にしなだれかかる。
思い出したように呼吸がしにくくて苦しくなってきて、むせてしまう。
肺に何か詰まって気管の奥の方がゴロゴロ言ってる。
「アリー、冷やそうな」
バルトス義兄様の手が冷たくて気持ちいい。
思わず両手で捕まえて顔をすりすりしてしまう。
あ、忘れるところだった。
「レイヤード、兄様、マジックバッグ、タコ、入れ、ゴホッゴホッ」
「いいよ。
喋らなくていいから、楽にするんだよ。
後で僕の手にもすりすりしてね」
頭をよしよしして背中もトントンしてくれるから、頭の手も両手で捕まえてすりすりしておく。
でもこっちの手はあんまり冷たくないから思わずペイッと投げて首筋に移動してた冷たい方の手を取ってすりすりし直す。
「····兄上に負けるなんて」
レイヤード義兄様の悔しそうな声が聞こえた気がしたけど、反応する前に気配が遠ざかっていく。
どうしたんだろ?
「邪魔するなら殺すから」
「いや、何のとばっちりだよ。
殺気駄々漏れだろ。
邪魔はしねえけど、本当にそれ持って帰んのかよ」
「僕の可愛い妹がこんなに欲しがってるからね。
あげないよ」
「いや、いらねえよ。
つうかそれ入るとか、どんな容量してんだ、そのマジックバッグはよ」
「後1匹くらいなら入る。
普通でしょ」
「嬢ちゃんといい、グレインビルの基準がおかしいだろ」
レイヤード義兄様のドスの利いたお声も素敵だね。
タコも片づいたみたいだし、少し呼吸も落ち着いたからもういいか。
「ニーア、そろそろ。
バルトス義兄様、あっちの軍馬をベルヌに貸してあげて?」
「何をするんだ?」
「んふふ。
これからわかるよ」
「····その顔は何か企んだ後じゃない?
しかももう後戻りさせる気がない時の顔だよね」
一仕事終えたレイヤード義兄様が諦めたような顔で再び僕の頭をよしよししてくれる。
ごめんね。
僕は僕の家族の安全を脅かした人は許さないと決めてるんだ。
ニーアがディープ君から降りてベルヌに小瓶を差し出す。
「何だ?」
「気付け薬です。
とてつもなく不本意ですが、牢で眠るあの猫耳女に使って下さい」
「はあ?
何で····」
「彼女にかかった眠り薬は劇薬です。
あのまま放置すれば起きる前に衰弱死しますよ」
「おい、どう····」
「お嬢様に気に入られて良かったですね。
本来なら見捨てています。
全く腹立たしいですが。
それから急がれた方がよろしいですよ?
これからここはあなた方が不用意に集めた下位の魔獣達でスタンピードが起こります。
あなた方が望んだ通りに」
「おい、待て····」
「ただし向かう先があなた方の望む方向に行くかはわかりませんが?」
「お前····」
「お嬢様の好意で差し出される手は今この時のみ。
私としては手などとらずに自滅していただきたいものですが、それでよろしいのですか?
疑問を投げかける暇すら今のあなた方にはないと思うのですが?
あなた方が手を出したのは、グレインビル家のご令嬢なのですよ?」
ベルヌの言葉をとことん遮って淡々と話したニーアから小瓶を引ったくるようにして受け取る。
「····嬢ちゃん、この借りは必ず返すぞ?」
そう言って海岸の軍馬へと駆け寄り、飛び乗った。
顔にかかった薬が王子のじゃなくて僕のだったって、ちゃんと気づいたかな。
「君達が僕の大事なバルトス義兄様を巻き込んだかもしれない事は何をおいても許さない」
ピクリと僕を抱える腕が動いたのを体で感じる。
僕はベルヌの方を向いたまま、掴んでいた義兄様の手をぎゅっとする。
もう少しだけ黙って見ててね。
「それにスタンピードを起こして狩猟祭に参加してた貴族を狙ってたよね。
あそこには父様とレイヤード兄様がいたんだ」
月明かりとは言っても満月だ。
レイヤード義兄様のお顔が憮然としたのは見えた。
でもちゃんと静観してくれるみたい。
「たまたまそこに居ただけだろうと、未遂に終わろうとグレインビル家の人間に手を出した者を黙って見過ごすほど僕は甘くない。
君達の後ろにいるのが本当は誰なのか、僕が思ってる者なのかはまだはっきりしないけど、いずれはそいつごと潰すよ?
仮に君達が後ろの誰かに騙されて行動しただけの愚か者だったとしても、君達がそちら側にいる間は僕に例外はない」
「どういう····」
「それでも僕は君が気に入った」
ニーアと同じようにベルヌの言葉を遮る。
義兄様達はこういう時、必ず静観してくれている。
何かしら言いたげな顔はするけど。
「君と君の恩人は本質が少し似ていたし、あの馬鹿女は正直大嫌いだけど、彼の孫なのは確かみたいだからね。
毛布も有り難かったし、僕のお気に入りをそうと知って殺さないでくれた。
だから君達が助かる分岐点であるこの一時の間だけは手を差し出してあげる。
だけどその手を掴まないならまとめて死んでも僕の良心は痛まない」
「腐ってもグレインビルって事かよ」
「僕の本質はグレインビルよりずっと残虐だ。
だけどグレインビルの家族がいるからこちら側で踏みとどまっているだけ。
今回は君達がそれを脅かした。
だから許さない。
それでも君達の理由の1つとなった彼等に報いる少なからずの縁もある。
全て含めた結果、この瞬間に手を差し出す事にした。
君が知りたい真実のヒントと共にね」
「見透かされてるってわけか。
嬢ちゃんは一体何者なんだろうな」
ベルヌは尋ねるでもなくそう言うと軍馬の手綱を引いて僕達がさっきまでいた洞窟の方を向かせる。
「礼は言わねえぞ」
「タコパに招待した時でいいよ」
「それはまじで勘弁してくれ」
本当に嫌そうに言わなくても良いじゃないか。
タコパ楽しいよ?
僕は手を振って見送ってから、バルトス義兄様の胸に突っ伏した。
呼吸が大きく乱れて眩暈も耳鳴りも酷い。
さすがにもう体力も気力も残ってない。
だけど僕は既に事を終えてる。
ゆっくりと瞼が下がっていって、そこからの記憶はなかった。
あれ?
何だかふわふわしてるよ?
僕は体を起こしていられなくなって義兄様の首にしなだれかかる。
思い出したように呼吸がしにくくて苦しくなってきて、むせてしまう。
肺に何か詰まって気管の奥の方がゴロゴロ言ってる。
「アリー、冷やそうな」
バルトス義兄様の手が冷たくて気持ちいい。
思わず両手で捕まえて顔をすりすりしてしまう。
あ、忘れるところだった。
「レイヤード、兄様、マジックバッグ、タコ、入れ、ゴホッゴホッ」
「いいよ。
喋らなくていいから、楽にするんだよ。
後で僕の手にもすりすりしてね」
頭をよしよしして背中もトントンしてくれるから、頭の手も両手で捕まえてすりすりしておく。
でもこっちの手はあんまり冷たくないから思わずペイッと投げて首筋に移動してた冷たい方の手を取ってすりすりし直す。
「····兄上に負けるなんて」
レイヤード義兄様の悔しそうな声が聞こえた気がしたけど、反応する前に気配が遠ざかっていく。
どうしたんだろ?
「邪魔するなら殺すから」
「いや、何のとばっちりだよ。
殺気駄々漏れだろ。
邪魔はしねえけど、本当にそれ持って帰んのかよ」
「僕の可愛い妹がこんなに欲しがってるからね。
あげないよ」
「いや、いらねえよ。
つうかそれ入るとか、どんな容量してんだ、そのマジックバッグはよ」
「後1匹くらいなら入る。
普通でしょ」
「嬢ちゃんといい、グレインビルの基準がおかしいだろ」
レイヤード義兄様のドスの利いたお声も素敵だね。
タコも片づいたみたいだし、少し呼吸も落ち着いたからもういいか。
「ニーア、そろそろ。
バルトス義兄様、あっちの軍馬をベルヌに貸してあげて?」
「何をするんだ?」
「んふふ。
これからわかるよ」
「····その顔は何か企んだ後じゃない?
しかももう後戻りさせる気がない時の顔だよね」
一仕事終えたレイヤード義兄様が諦めたような顔で再び僕の頭をよしよししてくれる。
ごめんね。
僕は僕の家族の安全を脅かした人は許さないと決めてるんだ。
ニーアがディープ君から降りてベルヌに小瓶を差し出す。
「何だ?」
「気付け薬です。
とてつもなく不本意ですが、牢で眠るあの猫耳女に使って下さい」
「はあ?
何で····」
「彼女にかかった眠り薬は劇薬です。
あのまま放置すれば起きる前に衰弱死しますよ」
「おい、どう····」
「お嬢様に気に入られて良かったですね。
本来なら見捨てています。
全く腹立たしいですが。
それから急がれた方がよろしいですよ?
これからここはあなた方が不用意に集めた下位の魔獣達でスタンピードが起こります。
あなた方が望んだ通りに」
「おい、待て····」
「ただし向かう先があなた方の望む方向に行くかはわかりませんが?」
「お前····」
「お嬢様の好意で差し出される手は今この時のみ。
私としては手などとらずに自滅していただきたいものですが、それでよろしいのですか?
疑問を投げかける暇すら今のあなた方にはないと思うのですが?
あなた方が手を出したのは、グレインビル家のご令嬢なのですよ?」
ベルヌの言葉をとことん遮って淡々と話したニーアから小瓶を引ったくるようにして受け取る。
「····嬢ちゃん、この借りは必ず返すぞ?」
そう言って海岸の軍馬へと駆け寄り、飛び乗った。
顔にかかった薬が王子のじゃなくて僕のだったって、ちゃんと気づいたかな。
「君達が僕の大事なバルトス義兄様を巻き込んだかもしれない事は何をおいても許さない」
ピクリと僕を抱える腕が動いたのを体で感じる。
僕はベルヌの方を向いたまま、掴んでいた義兄様の手をぎゅっとする。
もう少しだけ黙って見ててね。
「それにスタンピードを起こして狩猟祭に参加してた貴族を狙ってたよね。
あそこには父様とレイヤード兄様がいたんだ」
月明かりとは言っても満月だ。
レイヤード義兄様のお顔が憮然としたのは見えた。
でもちゃんと静観してくれるみたい。
「たまたまそこに居ただけだろうと、未遂に終わろうとグレインビル家の人間に手を出した者を黙って見過ごすほど僕は甘くない。
君達の後ろにいるのが本当は誰なのか、僕が思ってる者なのかはまだはっきりしないけど、いずれはそいつごと潰すよ?
仮に君達が後ろの誰かに騙されて行動しただけの愚か者だったとしても、君達がそちら側にいる間は僕に例外はない」
「どういう····」
「それでも僕は君が気に入った」
ニーアと同じようにベルヌの言葉を遮る。
義兄様達はこういう時、必ず静観してくれている。
何かしら言いたげな顔はするけど。
「君と君の恩人は本質が少し似ていたし、あの馬鹿女は正直大嫌いだけど、彼の孫なのは確かみたいだからね。
毛布も有り難かったし、僕のお気に入りをそうと知って殺さないでくれた。
だから君達が助かる分岐点であるこの一時の間だけは手を差し出してあげる。
だけどその手を掴まないならまとめて死んでも僕の良心は痛まない」
「腐ってもグレインビルって事かよ」
「僕の本質はグレインビルよりずっと残虐だ。
だけどグレインビルの家族がいるからこちら側で踏みとどまっているだけ。
今回は君達がそれを脅かした。
だから許さない。
それでも君達の理由の1つとなった彼等に報いる少なからずの縁もある。
全て含めた結果、この瞬間に手を差し出す事にした。
君が知りたい真実のヒントと共にね」
「見透かされてるってわけか。
嬢ちゃんは一体何者なんだろうな」
ベルヌは尋ねるでもなくそう言うと軍馬の手綱を引いて僕達がさっきまでいた洞窟の方を向かせる。
「礼は言わねえぞ」
「タコパに招待した時でいいよ」
「それはまじで勘弁してくれ」
本当に嫌そうに言わなくても良いじゃないか。
タコパ楽しいよ?
僕は手を振って見送ってから、バルトス義兄様の胸に突っ伏した。
呼吸が大きく乱れて眩暈も耳鳴りも酷い。
さすがにもう体力も気力も残ってない。
だけど僕は既に事を終えてる。
ゆっくりと瞼が下がっていって、そこからの記憶はなかった。
18
あなたにおすすめの小説
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
スローライフ 転生したら竜騎士に?
梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる