秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

文字の大きさ
171 / 491

170.3バカ~sideバルトス

しおりを挟む
「何だよ、これ。
こんな小さい子供に····」

 黄虎が震える羊少年を慰めるようにギュッと抱きしめている。
白虎は顔をしかめてマセガキに視線を向けた。

『そもそも獣人の孤児なんかがザルハード国王子とその婚約者である私の前に堂々と出てくる事自体があり得ないのよ?
なのにこのブースの責任者を呼びにも行かずに大事なお客様を迎えに行って留守?
いつ戻るかわからない?
責任者の弟が代わりに相手をする?
しかもそいつも野暮ったい獣人····』

 確実に羊少年を叩く動きを見せたマセガキがレイヤードの言葉と共に座り込む。
大方レイヤードの殺気に当てられて腰を抜かしたんだろうが、映像ではそんな事はわからない。

 というか子供達まで当てられてるぞ。
まあ映像ではそこのマセガキに泣かされてるようにしか見えないからいいか。

 その後マセガキがどかされたのはわかったが、都合が良い事に首根っこ掴んで脇にやっただろう映像は映っていない。
多少うめき声が聞こえたが、まあ問題ない。

『よく頑張ったね。
後ろの小さい子達をよく守った。
えらいね』

 俺の天使の要望だったからか、間違いなく天使の言うところの王子様スマイルで治癒魔法使ったな。
子供達がぎゃんぎゃん泣いてたが、大人しくなった。

『あの、私、立てないんですのよ?
ザルハード国の貴族令嬢ですの。
留学を終えたら教会からも聖女認定されますの!
ねえ、手を貸して下さらない?』
『いたいけな幼児を虐げる醜悪な者が聖女、ねえ』
『····え?!』

 そこで映像は途切れていた。

 よしよし、レイヤードは目に見えた危害は何も加えていないな。
最後の媚びる言い方とか、レイヤードの言うところの<性格・女>ってやつで下手したら雷撃してる。

「リリ····これ····」
「あ····あ····違いますの。
こんな映像魔法····嘘に決まってます!
嵌められたの!
信じてコッヘ、エリュウ様!」

 橙頭が信じられない物を見たように目を見開いてマセガキを見れば、マセガキはまるで自分が被害者であるかのように目を潤ませて俺様の胸にしがみついて上目遣いだ。

「····そうだな、リリ。
安心しろ。
こそこそと気配を殺して潜むような怪しい輩の魔法だ。
信じるはずもない」

 マセガキをギュッと抱きしめた俺様がこっちを睨み付ける。

「思い出したぞ。
王宮魔術師団副団長。
この国の辺境の地にいる田舎貴族だろう。
爵位は確か侯爵でお前は嫡子だったな。
だがお前もまたここにいるコッヘル=ネルシスと同じくただの貴族子息だろう!
しかも魔術師家系でありながらお前の義妹は魔力0の捨て子だそうだな!」

 俺様の言葉にピクリとこめかみがひくつく。
橙頭とマセガキが愉悦の顔をこちらに向けた。

「しかも誘拐などされてこの国の王家とも距離を置かれた傷物令嬢だ!
無能な捨て子を養うのに相応しい田舎貴族が王族である俺様の側近や婚約者に随分な口をきいてただで····すむ、と····」
「ひっ」
「え、え」

 いつも抑えている魔力を静かに垂れ流す。
3人の足元が凍り始めるがバカだからか殺気をぶつけるまで誰も途中まで全く気づいていない。

 マセガキは小さく悲鳴を上げ、話の途中で口をつぐんで震え始めた俺様の足元にへたりこむ。
橙頭は言葉にならない何かを呟きながら俺様の後ろで尻餅をついた。

「この国の騎士と魔術師の中でも団長や副団長職にある者は伯爵位以上相当の爵位を持たされている。
お前達のように立場を盾に愚かな暴挙に出る者がいるからな。
そしてグレインビル侯爵家の家格がどこに位置するかも、誘拐事件解決での妹の功績をこの国の王家がどう評価したのかも友好国たる隣国のザルハード国王族であるエリュシウェル=ザルハード第3王子とその側近候補や婚約者が知らないとはな」

 マセガキと橙頭の下半身と床についた手が氷で覆われていく。

「きゃあ!
助けて!」
「や、やめてくれ!」

 大事なはずの婚約者と側近が悲鳴をあげるすぐ側で、俺様の足元だけは靴の底を凍りつかせたところで止めておく。

「なるほど、留学という言葉を隠れ蓑にした間者や王族の名を語る偽物の可能性もあるな」
「何だと?!」

 俺様がパニック気味に吠える。

「わが国の他国との交易に支障をきたした行為に、この国の公にされている騎士や魔術師の爵位制度も、まだ1年程しか経っていない、この国の前代未聞な誘拐事件の全貌も、ここまで把握できていないのだろう?
これは····怪しいとしか言えんな」

 更に殺気を上乗せしてやれば、3バカは一言も声を発する事なく震える。

「ほら、吐け。
何の狙いがあっての行動だ?」

 冷たく目を見れば、3バカは首を横にぎこちなく振る。

「ああ、わかっている。
もちろん素直には吐かないだろう。
そうだな。
ゆっくりと凍らせていく間に吐いた方がいいぞ?」

 さっきまでの威勢はどこにいった?
3バカは目と口を大きく見開き、凍える空間になっているはずなのに汗をかいている。
マセガキは追加で涙をながしているが、少し前の物とは違って真に迫っているじゃないか。

「しかしあくまでもお前達は何も知らない子供だと、言うのならば····平身低頭謝れ」

 その言葉にすがるようにマセガキと橙頭が叫ぶ。

「ごめんなさい!
私が悪かったわ!」
「す、すまなかった!
爵位持ちだと思わなかったんだ!」
「····す、すまな····」

 それにつられるように謝ろうとする俺様の言葉は途中で遮る。

「何を言っている?
謝る相手が違うだろう?」
「「「は?」」」

 やはりバカだな。
想像力が欠落しすぎてないか。

「確かにわが国にも獣人や孤児への偏見はある。
だがそれをわが国の王族も、国の守護を司る職につく俺達も良しとしていない。
大事な民であり、民は宝だ。
そこに貴賓は関係なく、全てがこの国の存続に必要な人財なんだよ。
平民や獣人差別を他国でやる分には口を出さないが、このアドライド国で認める訳にはいかない。
わかるか?
それを国の魔術師としての爵位を持ち、王宮魔術師団副団長という立場の俺が彼らの前で諌めないのは、それを認める事と同意となるんだ。
俺自身が思ってもいない事に同意したなどと取られたい筈もない」

 恐怖と屈辱からか3バカの顔つきが歪む。

「だからな、お前達が彼らにきちんと謝罪した上でお前達の私財から弁償しろとしか俺は言わないし、お前達の俺個人への薄っぺらい謝罪なんぞ、はなからいらないんだよ」

 下半身の凍りついた2バカは絶句する。
靴底だけが凍りついた俺様の次の行動に期待して待つ。

「ふ、ふざけるな!
ザルハード国の王子たる俺様が獣人や孤児共に謝るか!
寮に帰る!
ひとまずお前達の無礼は不問にしてやる!
お前達もへたりこんでないで、さっさと氷を溶かして帰ってこい!」
「「そんな····」」

 俺様の言葉に表情が抜け落ちて呆然と呟く2バカを残して去ろうとして、つんのめる。

 ちっ、転ばなかったか。

「くそ!」

 脱げた床に貼りついた靴にもう1度足を入れて力任せに引き剥がし、どけ!、と威嚇しながら出て行った。

 この後2バカの胸元までじわじわ凍らせながら俺の天使がいかに素晴らしいかをこんこんと説教してやった。
鬱陶しいこの国の王族兄弟が来る前に騎士が殴れば砕ける程度に氷を薄くして、西のブース近くに転移して中に入った。

 結局バカは死ななきゃ治らないんだろうと結論付けられるほどに、自国のバカ王子に見捨てられた2バカはあの黒髪兄弟が到着するまで叫んで悪態をつきまくったと知ったのはもう少し後だ。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~

季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」 建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。 しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった! (激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!) 理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造! 隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。 辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。 さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。 「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」 冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!? 現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる! 爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...