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212.晩餐が終わって1〜ルドルフside

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「お茶を淹れますね。
先ほど晩餐の場でグレインビル嬢に教えていただいたコリンの紅茶です」
「ああ、頼む」

 滞在中に用意されている離宮の客室に戻った俺はジャスと話す事にした。

 自国から渡航する直前のやり取りを思い出す。

ーーーー
「····何故」
「アドライド国王家からの指名以来だよ、ルドルフ王子殿下。
ここからは僕も案内人を兼ねて護衛の1人に入るから、よろしくね。
これ、王家の印章入り依頼書」

 ヒュイルグ国行きの船に用意された船室に入ってすぐの事だ。
突然出現した白金髪に赤目の男に、特に驚くでもなく疑問を口にする。

「いや、そこはルドで良いが、アリー嬢が1人になってしまうのではないか?」
「そこはちゃんと手を打ってあるからルドが気にする必要はないよ。
もちろんさっさと終わらせて、僕の可愛いアリーと一緒にコリン入りの紅茶が飲みたいのは間違いないね」

 コリンとはグレインビル領でよくなっている握りこぶし大の赤い実だ。
シャクシャクした食感で甘酸っぱく旨いが傷みやすく、どちらかと言うと昔は処分する事も多かったと聞く。

 ここ数年でリーやグリッゲンの隠し味で取り引きが増え、そうした事も解消されたらしい。

 それも俺の心の妹であるアリアチェリーナ=グレインビルのお陰だ。

 パチ、という音と共に静電気が目の前で走って忽然と現れたのが、その義理の兄であるレイヤード=グレインビル。
彼は冒険者として俺が勝手に師匠と崇め、彼がわが国の学園に在学中から互いをルド、レイと呼び合う仲だ。
俺は友だと思っているが誘拐事件に彼の妹共々巻き込まれた後の、父上国王陛下達の対応のまずさから未だに距離を置かれている。

 眉目秀麗なこの男はA級冒険者であり、実力は本物。
相変わらず基本的には俺を王族として扱うつもりは無く、それが心地良い。

 隣国のザルハード国元子爵令息であったジャスパー=コードは突然転移してきたレイに驚き、思わず俺達の間に割って入った。

 彼はこの旅では経験と人脈を築く意味合いで俺の側近兼付き人として同行させることにした。
将来的に隣国ザルハード国第1王子の側近になるにしても、今はわが国の伯爵令息だ。
他国の王子が同行する事は互いの立場上あり得ないが、彼が同行する事は問題ない。

 普段ジャスと呼ぶ彼は恐らく暴漢や刺客を警戒したんだろう。
レイと会うのは初めてだったか?
確か妹はアリー嬢と親しい東の商会に引き取られていた。

 戦闘力としての彼は俺よりずっと弱いし、体格も身長も俺の方が良いから彼の背には隠れてきれていない。

 護衛のシルはあらかじめレイの事は聞いていたようで、驚く気配もなく、そのまま背後から俺を警護している。

 それもそうか。
あの静電気はレイからすれば出現予告のつもりだっただろう。
いつもは本当に忽然と現れるからな。
依頼を受けたから多少は気を使ったとみえる。

「ねえ、君。
咄嗟に前に出て庇うまでは当然として、さっさとこれ受け取って安全確認してからルドに見せなよ」

 懐から出した依頼書を片手でピラピラと振ってジャスに確認を促す。
確かに咄嗟に庇うのは臣下として同行する以上当然と言えるが、俺自身がそれを当然だとは思ってないぞ。

 ジャスパーは俺とシルをちらりと見てアイコンタクトをしてからさっと前に出て依頼書を受け取る。
内容を確認して俺にそのまま手渡した。

 あー、これは····。

 パシン。

「くっ」

 やっぱり紙に細工してた静電気が流れたな。
わかっていてもつい声が出て依頼書はヒラリと床に落ちる。

「おい!」

 ジャスが食ってかかろうとすれば、レイはいつの間にか彼の背後に回り、短刀を首にあてがっていた。

 シルは腰の剣に手を置いていたが、静観している。
予測済みか。

「な、ん····」
「ジャスパー=コード。
君は正式な依頼書を見た事がないだろう?
なのに自分が軽く見ただけで偽物かもしれない物をそのまま王族に渡してはならないんだ」

 シルが説明する。

「そうだね。
ここで何かがあった場合、護衛は王族を守るけど君はその間合いにいないんだ。
彼は君を切り捨てる判断をしたという事だよ?」
「····あ····」

 ジャスも気づいたか。

「さあ、正しい行動は?」

 短刀を懐に仕舞いながらレイが促すと、ジャスは床の書類を拾い、鑑定魔法をかけ、書類が見えるようにして俺の前に広げる。

「ルドルフ=アドライドが確認した」

 何も起こらないとわかってはいたが、わざと声に出す。

「ジャス、偽物だ。
レイ、本物は?」
「こっち」

 更に懐からもう1枚取り出すと俺の前に掲げる。

「ルドルフ=アドライドが確認した」

 もう1度同じ言葉を紡げば、今度は印章が淡く発光した。

「危険に晒し、申し訳ございませんでした」

 ジャスが深く頭を垂れた。
どこぞの側近候補と違い、決して言い訳はしなかった。

「かまわない。
だがこれから向かうのは同盟国となって久しいとはいえ、10年前までは互いの辺境地で小さな紛争を仕掛けていた国だ。
あちらの国王が即位してからは無くなったとはいえ、気を引き締めておいて欲しい。
そういう事だな、シル、レイ」
「少しは成長したね、ルド
人選もどこぞのバカな七光りのバカな側近候補よりはずっとマシみたいだ」
「マシ····」

 その言葉にジャスが呆然と呟くと、レイはクスリと冷たく笑う。

「不服なら、ただの伯爵家の養子で終わればいいんじゃない?
それならルドを庇って前に出た時点で合格だよ。
君の選んだ環境がそれを許すならね」
「····研鑽致します。
心より感謝を」

 胸に片手を当て、不遜なはずの彼に向かって礼を取った。

 ジャスは気づいているんだろう。
自分達兄妹を真の意味で救った者が誰で、彼はその者の義兄だと。
もちろん他言無用ではあるはずだが。

「それじゃあ、依頼主からお願いされた今のあの国の動向について話しておく。
それと僕は向こうに着いたら気配も姿も隠しておくから、そのように行動してね。
僕の護衛は君達がヒュイルグ国王城に着くまで。
着いたら僕の最優先は可愛いアリーだし、君達王族と僕の可愛いアリーの接近禁止は継続してるから忘れないでね。
国外だし、お互いに立場があるから完全にとは言わないけど、最低限に留めるように」
「う····ど、努力は、する。
それまでの間に何かあるのか?」
「あるかもしれないし、ないかもしれない。
ただ、城内ではちょっとしたいざこざが起こるかもしれない。
どっちにしても今回の僕の報酬は、お金以外では君を城に無事送り届けたらアリーに手を出す連中を容赦なく排除して良いっていうお墨付きだからね。
君の無事は何があっても確約してあげるよ」

 上機嫌さが恐ろしい。
絶対、ヒュイルグ国の城で何かが心の妹を害しているんじゃないのか?!
些細な事だからとか言って、恐らく可愛い妹が止めてるのが気に食わないんじゃないのか?!

 悪魔召喚だけは全力で阻止せねば!
はっ····まさか兄上はそれを見越してレイに指名依頼をしたんじゃ····。

 こうして長旅の安全だけは間違いなく確保されたのだ。

 下船してから特に何事もなく、護衛や共を付けているのにも関わらず誰にからまれる事も襲われる事もなく、やけに快適な馬車の移動で無事に城を訪れた。

 吹雪に見舞われた事を除けば最短日数だっただろう。
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