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245.夢と焼きムササビとお馬
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『アリー様』
どこか懐かしい声がする。
『アリー様』
目を開けると、狐のお耳がぴょこんと目に入る。
辺りは真っ暗なのに、僕達だけがぼんやり浮かび上がる。
ココ?
『アリー様』
可愛らしい笑顔で僕の名前を何度も嬉しそうに呼ぶ。
体を起こそうとしても動かない。
声をかけようとしても声が出ない。
『アリー様、じきにお熱も下がります。
今日からお母様達は王都の成人式でいらっしゃいませんが、皆様が戻られるまでの10日間はこのココがアリー様とずっと一緒です!
お側におりますから、安心してお眠り下さいね!』
あの日の最期の会話?
違う。
僕は喉を痛めて一言も話せなくて、ただ頷いただけ。
会話にはなっていなかった。
夢のはずなのにあの時のように、肺がゴロゴロ鳴ってて胸のあたりが鈍く痛む。
喉からはヒューヒューと音が漏れる。
ココは元気に一方的に話したら、そんな僕の胸を少しでも楽になりますようにって言いながら撫でてくれてる。
温かくて、優しい手だ。
あの日は義父様と義母様とバルトス義兄様は早朝からいなかった。
確かお城で数日開かれるバルトス義兄様の成人の儀に向かったんだ。
レイヤード義兄様はまだ僕を受け入れられない時期だったから、義母様達がいない時にはあまり長く接触しようとしなかった。
それでも邸に残ったのは僕の為だったんだから、まだ子供だったのに責任感の強い素敵な義兄様だよね。
3人は王都に滞在するのに荷物があって、転移魔法じゃなく馬車移動。
だから帰ってくるのは天候にもよるだろうけど早くて10日後の予定だった。
瞼が重くなる。
駄目だ。
眠ってしまったら拐われちゃう。
ココが死んじゃう!
なのにきっと僕は眠ってしまったのかな?
遠くの方の意識ではこれは夢なんだとわかっているのに····。
目を開けたら、目の前の真っ白な雪に血が、何かの塊が落ちている。
あれが何かなんてわかっている。
僕は1度見た映像はなかなか忘れない。
なのにまた、いつもと同じように、この映像を観て自分がもどかしくなって、腹が立って仕方なくなる。
胸の中でぐるぐると怒りが渦巻いて、不愉快になる。
この国に来てから以前より頻繁に観る映像だ。
わかってる。
これは夢だ。
怒っても今さら起こった過去は変えられない。
不健全で、不毛な感情だ。
早く目を覚まさないと····。
ふっ、と意識が浮上した。
目を開ける。
一面は真っ白な雪の世界。
体を起こせば、こめかみと右腕に痛みが走る。
体の節々が固まってて痛い。
「ッ、ゴホッゴホッ」
突然咽る。
夢の中の不快症状はそのまま現実に引き継がれているかのよう。
肺がゴロゴロ鳴ってて胸のあたりが鈍く痛むし、喉からはヒューヒューと音が漏れる。
不意に激しく燃え上がる音がして後ろを振り返ると、邸が炎を上げ、火の粉を撒き散らしながら崩れ落ちるところだった。
自分の手に視線を落とせば、周りの白に同化するような白い毛で覆われていて、小さな獣の手をしていた。
そうだ、今はムササビだった。
ふと頬から顎に何かが伝う感覚がして、パタパタと雪に小さく赤い染みが落ちる。
腕からも同じように落ちては作る赤い染み。
血が止まっていないみたいだから、気を失ってから時間はあまり経っていないみたい。
全身の感覚が戻ってきたのか、痛みが大きくなってくる。
突然ブルリと悪寒が全身を駆けた。
まずい、いくら獣でもこの寒さは凍死する。
「ゴホッ」
咳をすると胸に響いて痛い。
何だか色々と夢見も体的にも不快だし、邸が燃えて火の粉がこっちにまで来てるしで気持ちに余裕が無くなりそう。
幸いなのは天気が良い事と、火の粉はともかく邸が燃えてて巨大キャンプファイヤー状態な事。
こんな小さな体で雪の中に倒れていたにも関わらず、凍死を免れたのはこのお陰じゃないかな。
にしても、熱っ!
体は凍えてるけど、燃え盛る邸に近いのか、火の粉がこちらまで飛んでくる。
あれ、何だかあっちの木が燃え始めてない?!
····うわ、森林火災が起きる。
改めて見回せば、寂れた郊外みたいで木々を開拓した場所に別荘みたいな邸がポツポツ建ってる。
ここは多分貴族の集団別荘地だけど、主に夏に使われてるやつだ。
人がいないのは不幸中の幸いというべきか、消火活動できずに不幸にも燃え広がって森林火災へと繋がる未来予想図が見え見えというべきか····。
あれ、僕このままここにいたら焼きムササビになるんじゃ····。
お腹に抱えたままの巾着リュックのずれた紐を掛け直し、よろよろと4足歩行で移動する。
血がダラダラ流れるけど、今は気にしていられない。
だけどすぐにゴホゴホと咳き込んで、目眩に襲われて雪の上に再び座りこむ。
気を抜けば倒れこみそう。
····ヒー····ン。
風の音があの3兄妹の嘶きみたいに聞こえて、こんな時なのに笑みが浮かぶ。
あの3兄妹がいてくれれば一瞬で離れられるのに····。
でもそれだときっとニーアまでここに来ちゃうから駄目だ。
····ヒヒー····ヒーン····。
「····!····だ!」
何だろう?
風と····人の声?
カクンと膝の力が抜けて顔から雪に突っ込む。
冷たい空気を吸い込んで咳き込みそうになって、でも咳が上手く出ない。
ブヒヒヒヒィーン!!!!
あれ?!
「ゲホッゲホッ」
びっくりしたら息を吐き出せた。
遠くに見えるあのフォルム····お馬の長兄?!
「どこだ!
化け物!
返事をしやがれ!」
えぇ····何でエヴィン?
ワイルドなお顔が一周して鬼になってない?
しかも····ちょっと焦げてる?
どこか懐かしい声がする。
『アリー様』
目を開けると、狐のお耳がぴょこんと目に入る。
辺りは真っ暗なのに、僕達だけがぼんやり浮かび上がる。
ココ?
『アリー様』
可愛らしい笑顔で僕の名前を何度も嬉しそうに呼ぶ。
体を起こそうとしても動かない。
声をかけようとしても声が出ない。
『アリー様、じきにお熱も下がります。
今日からお母様達は王都の成人式でいらっしゃいませんが、皆様が戻られるまでの10日間はこのココがアリー様とずっと一緒です!
お側におりますから、安心してお眠り下さいね!』
あの日の最期の会話?
違う。
僕は喉を痛めて一言も話せなくて、ただ頷いただけ。
会話にはなっていなかった。
夢のはずなのにあの時のように、肺がゴロゴロ鳴ってて胸のあたりが鈍く痛む。
喉からはヒューヒューと音が漏れる。
ココは元気に一方的に話したら、そんな僕の胸を少しでも楽になりますようにって言いながら撫でてくれてる。
温かくて、優しい手だ。
あの日は義父様と義母様とバルトス義兄様は早朝からいなかった。
確かお城で数日開かれるバルトス義兄様の成人の儀に向かったんだ。
レイヤード義兄様はまだ僕を受け入れられない時期だったから、義母様達がいない時にはあまり長く接触しようとしなかった。
それでも邸に残ったのは僕の為だったんだから、まだ子供だったのに責任感の強い素敵な義兄様だよね。
3人は王都に滞在するのに荷物があって、転移魔法じゃなく馬車移動。
だから帰ってくるのは天候にもよるだろうけど早くて10日後の予定だった。
瞼が重くなる。
駄目だ。
眠ってしまったら拐われちゃう。
ココが死んじゃう!
なのにきっと僕は眠ってしまったのかな?
遠くの方の意識ではこれは夢なんだとわかっているのに····。
目を開けたら、目の前の真っ白な雪に血が、何かの塊が落ちている。
あれが何かなんてわかっている。
僕は1度見た映像はなかなか忘れない。
なのにまた、いつもと同じように、この映像を観て自分がもどかしくなって、腹が立って仕方なくなる。
胸の中でぐるぐると怒りが渦巻いて、不愉快になる。
この国に来てから以前より頻繁に観る映像だ。
わかってる。
これは夢だ。
怒っても今さら起こった過去は変えられない。
不健全で、不毛な感情だ。
早く目を覚まさないと····。
ふっ、と意識が浮上した。
目を開ける。
一面は真っ白な雪の世界。
体を起こせば、こめかみと右腕に痛みが走る。
体の節々が固まってて痛い。
「ッ、ゴホッゴホッ」
突然咽る。
夢の中の不快症状はそのまま現実に引き継がれているかのよう。
肺がゴロゴロ鳴ってて胸のあたりが鈍く痛むし、喉からはヒューヒューと音が漏れる。
不意に激しく燃え上がる音がして後ろを振り返ると、邸が炎を上げ、火の粉を撒き散らしながら崩れ落ちるところだった。
自分の手に視線を落とせば、周りの白に同化するような白い毛で覆われていて、小さな獣の手をしていた。
そうだ、今はムササビだった。
ふと頬から顎に何かが伝う感覚がして、パタパタと雪に小さく赤い染みが落ちる。
腕からも同じように落ちては作る赤い染み。
血が止まっていないみたいだから、気を失ってから時間はあまり経っていないみたい。
全身の感覚が戻ってきたのか、痛みが大きくなってくる。
突然ブルリと悪寒が全身を駆けた。
まずい、いくら獣でもこの寒さは凍死する。
「ゴホッ」
咳をすると胸に響いて痛い。
何だか色々と夢見も体的にも不快だし、邸が燃えて火の粉がこっちにまで来てるしで気持ちに余裕が無くなりそう。
幸いなのは天気が良い事と、火の粉はともかく邸が燃えてて巨大キャンプファイヤー状態な事。
こんな小さな体で雪の中に倒れていたにも関わらず、凍死を免れたのはこのお陰じゃないかな。
にしても、熱っ!
体は凍えてるけど、燃え盛る邸に近いのか、火の粉がこちらまで飛んでくる。
あれ、何だかあっちの木が燃え始めてない?!
····うわ、森林火災が起きる。
改めて見回せば、寂れた郊外みたいで木々を開拓した場所に別荘みたいな邸がポツポツ建ってる。
ここは多分貴族の集団別荘地だけど、主に夏に使われてるやつだ。
人がいないのは不幸中の幸いというべきか、消火活動できずに不幸にも燃え広がって森林火災へと繋がる未来予想図が見え見えというべきか····。
あれ、僕このままここにいたら焼きムササビになるんじゃ····。
お腹に抱えたままの巾着リュックのずれた紐を掛け直し、よろよろと4足歩行で移動する。
血がダラダラ流れるけど、今は気にしていられない。
だけどすぐにゴホゴホと咳き込んで、目眩に襲われて雪の上に再び座りこむ。
気を抜けば倒れこみそう。
····ヒー····ン。
風の音があの3兄妹の嘶きみたいに聞こえて、こんな時なのに笑みが浮かぶ。
あの3兄妹がいてくれれば一瞬で離れられるのに····。
でもそれだときっとニーアまでここに来ちゃうから駄目だ。
····ヒヒー····ヒーン····。
「····!····だ!」
何だろう?
風と····人の声?
カクンと膝の力が抜けて顔から雪に突っ込む。
冷たい空気を吸い込んで咳き込みそうになって、でも咳が上手く出ない。
ブヒヒヒヒィーン!!!!
あれ?!
「ゲホッゲホッ」
びっくりしたら息を吐き出せた。
遠くに見えるあのフォルム····お馬の長兄?!
「どこだ!
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しかも····ちょっと焦げてる?
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