秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

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246.ムササビの怒り爆発

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 ヒヒィン、クヒィン。

 心配そうな小さな嘶きと共にザザッと駆け寄るのはお馬3兄妹の長男。
見た目は魔馬で中身は竜馬なディープ君。

 雪の上にうつ伏せに倒れる僕の小さな体にお馬の長男のお鼻がスリスリされる。

「ケホッケホッ」

 名前を呼ぼうとしたけど、咽てしまう。

「おい、まさかお前か?!」

 その様子にエヴィンがオーガなお顔を引っ込め、飛び降りて膝をつき、僕のムササビボディを抱き上げた。

「何で認識阻害が?!
て、これか?!
っ、くそっ、怪我してんじゃねえか!」

 むー、何か色々騒がしい。

 僕の機嫌は絶不調も影響して急転直下だ。

 エヴィンは僕が下げてるリュック仕様の巾着に手触りで気づいたのか、取り去って外套のポケットに雑につっこむ。
そういえばこの巾着の認識阻害の恩恵にあやかってたんだった。
後でちゃんと返してよね。

 あれ?
じゃあ何であの時ベルヌは気づいたのかな?
野生の勘?
熊属はそういうの鋭いの?

「治癒魔法は不得意なんだ。
出血を止めるくらいしかできねえ」

 すぐに治癒魔法をかけてくれるけど、確かにエヴィンの治癒魔法は雑だ。
ポタポタ落ちてた血が止まっただけ良しとするしかないか。

「体も冷え切ってんじやねえか。
しばらく我慢してくれ」

 そう言うが早いか、外套と中の胸元をさっと緩めて僕を服の中に突っ込んだ。

 え、嫌なんだけど!!!!

 反射的に暴れる。
せっかく止まった血がまたじわじわ滲み出てくるけど、嫌なものは嫌だ!

 そもそも僕は今裸なのに!

「こら、暴れるな。
お前の体が冷えすぎてて、魔法で温めるだけじゃ間に合わねえだろうが!」

 ヘロヘロな僕のムササビパワーなんて全く意に介する事もなく、エヴィンは片手で服の上から押さえて魔法でも僕を温める。
そうして僕を服に閉じこめて再びディープ君に跨った。

 むー!
筋肉量が多いからか、エヴィンの少し高めの体温が冷え切った体には心地良い。

 けど、気持ち的には不愉快だ!

「離してよ!
ゲホッゲホッ。
焦げ臭い!
エヴィンなんか嫌いだ!」

 何とか力を振り絞って襟ぐりから脱出しようと試みる。
そう、見た目も焦げてる気がしてたけど、何故か彼の服が焦げ臭い。

「焦げ臭いのは焦がされたんだよ!
嫌いなのはかまわねえけど、このままじゃ死ぬぞ!」

 とうとう血が流れる感覚が再びするけど、怒りが沸々と湧いてきてどうでもよくなる。
とにかく怒りに任せて暴れる。

「いい加減にしろ!
アリアチェリーナ!」

 名前を呼ばれてカッとなった。

「僕の名前をお前が呼ぶな!」

 ふうふうと息が切れ、叫んだせいで咳が止まらなくなる。

 エヴィンはそんな僕の体を服の上から今度こそガッチリとホールドした。

 それにまた怒りが爆発して、咳が少し治まった頃合いで服の中からエヴィンの鎖骨付近を噛みつく。

 齧歯類のムササビを舐めないでよね!

「ぐっ」

 エヴィンが一瞬呻くけど、ホールドされてる力は全然弱まらない。
力自体は苦しくないけど、不愉快極まりない!

「そのまま噛みついてろ、化け物」

 言葉とは裏腹に、もう片手の手で僕の頭らへんを優しくポンポンとして、手綱に戻す。

 ブルルル。

「不服なのはわかるが、お前の方は今は暴れてくれるな。
さっさとここを離れねえと火に巻かれちまう。
それにご主人様を振り落としたくねえだろ」

 走ってここに来るまでの、エヴィン1人の間は間違いなくディープ君に振り落とされそうになったんだろうなと、何となく彼の言葉から察する。

 落ちれば良かったのに!

 なんて、間違いなく心配して国王のくせに駆けつけてくれたエヴィンに対してそんな風に考える僕は性格が悪いんだろうね。
でも嫌なものは嫌だ。
どうしても反発心が治まらない。

 エヴィンはディープ君の抗議の嘶きにそう言ってから彼のお腹を蹴ると素直にディープ君も走り出す。

 そういえば森林火災の未来予想図が迫ってたんだった。

 エヴィンの体温と魔法で体が少しずつ温まれば咳も落ち着いて、すぐにうとうとしてしまう。
けれどハッとしてまた噛みつき直す。

 けれどすぐにまたうとうとに見舞われている時、よく知る声が聞こえた。

「アリー嬢は見つかったか?!」

 声の主はシル様かな。
とっても心配してくれてるみたいで、声には緊迫感が漂ってる。

 ザザッとお馬の近づく音がする。

 ブヒィン。

 この声はお馬の長女?

 腹立たしい事に僕はまだ焦げ臭い服の中にいるから、シル様の中では僕はまだ見つかってない事になってるよね。
どうせならシル様の服の中がいい。

 でも王子の護衛はどうしたのかな?
この国にいる間はそれが任務なのに、離れてていいの?

「お嬢様!」

 クヒヒィン。

 だけどこの声でシル様の事は頭から吹っ飛んだ。

 長女とは僕を挟んで反対側から、お馬の次女らしき嘶きと共にザッとお馬が近くに寄る音がした。

 次女に乗ってるのはきっと····ニーア。
どうして?!

 思わず噛みつくのは止めてエヴィンの首元から顔を出す。
今度は邪魔されなかった。

「お怪我を?!」

 いつもはおすまし顔のできる専属侍女が慌てる。

 きっと僕の真っ白な毛を赤く染める血で驚かせたんだろうね。

「どうしてここに?
ニーアはグレインビルの邸にいてって言ってあったよね?」

 思ってたよりもずっと冷たい声が出ちゃう。
だけど今は驚かせて申し訳ない気持ちより、ニーアにも腹が立ってしまってる。

 ココの映像もチラついて、感情のセーブがもう完全にできない。

「私はお嬢様の専属侍女です」
「だから?
お願いじゃなく、命令したよ」
「お嬢様····とにかく今は手当てを」
「いらない」
「あ、おい!」
「え、ムササビ?!
ちょっ、待っ」

 ニーアの申し出を冷たく棄却し、エヴィンの静止を完全に無視してこちらのやり取りをのぞきこんで必死に僕の姿を探してたシル様の肩に痛む体を鞭売って飛び移る。

 シル様が慌てるのも無理はない。
僕は今ムササビだもの。
多分そっちからじゃエヴィンに隠れて僕は見えなかっただろうし。
だけどそのまま襟首から中に侵入した。

 暗くて分厚い防寒着と鍛えられて割れた腹筋の間を丸くなって陣取る。

 程良い包まれた感と温かさに、トゲトゲの爆発しまくってる感情がほんの少しだけ緩んだ。
不覚にもムササビのつぶらな目がうるっとしてしまったのは内緒だ。
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