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247.帰城〜シルヴァイトside
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「お嬢様····せめて治癒魔法はかけさせて下さい」
「俺の下手くそな治癒魔法じゃ血が止まりきってねえだろ?
頼むから受けてくれ。
な?」
どうやら俺の腹のあたりに収まった白いムササビはアリー嬢だったらしい。
いつぞやの卒業式の日にレイヤード殿が連れていた白いイタチ。
あれがアリー嬢だったのはギディアス王太子から聞かされていた。
わかってしまえば今さら驚きはしない。
いや、まあ少しは驚いているが。
そもそも魔力もないのに魔具の力で外見を変えるなんて前代未聞の事態だとは思う。
だがそれよりも俺の服の中に入る時にちらりと見えた、白い毛に着いた血は全く乾いていなかった。
かなりの深手を負っているんじゃないだろうか。
それに腹に小さく感じるのは、冷たい体の震えと不自然な振動だ。
恐らく咳を漏らさないように体に力を入れているものの、堪えきれずに音を殺して咽ているんだろう。
すぐに温かな風を服の中に発生させるが、治癒魔法はほぼ使えない。
アリー嬢の専属侍女であるニーア殿とエヴィン国王が声をかけるが、当の本人は完全にだんまりをきめているし、どうしたものか。
ニーア殿へかけた声からもわかるが、彼女は今、かなり怒っている。
正直アリー嬢も怒りを表に出す事があったのかと驚いている。
我々がこの国に来る時、レイヤード殿がこの侍女と兵器レベルの3頭の兄妹馬を乗せていた。
もちろんグレインビル侯爵も我が国もこの国も了承の上だ。
この最北の国で体の弱いアリー嬢が冬越えするのならば、専属侍女が必要になるとの配慮だった。
馬は気分転換になるからとの理由らしいが、そこらの護衛よりよほど強い護衛になるからじゃないかとつっこみたいのを我慢した。
ただアリー嬢には専属侍女が来ている事はぎりぎりまで秘密にする予定だった。
間違ってもこんな場面でばらす予定ではなかったのだ。
というのも、アリー嬢はこの国に来る時に専属侍女であるニーア殿の同行を断固として拒否していたらしい。
何故かと思っていたが、ルドルフ王子の護衛中に彼女の先代の専属侍女の一件を聞いて合点がいった。
まさか今そこで心配そうに俺の腹を見ているこのエヴィン国王が、かつてアリー嬢を誘拐しようとしたせいだったとは。
恐らくこの国で自分の専属侍女がいるとまた喪うかもしれないという恐れがあるんだろう。
我々がここに来た時からアリー嬢はエヴィン国王も含めた側近達に、こちらがわかる程度には冷たい態度を取り続けていた。
加えていつものような朗らかさや余裕が時折無く、どこか感情が不安定で心配もしていた。
しかしそれらは彼女の心の根底に恐れがあって不安だったからだと今ならわかる。
初めて出会った頃からこれまでずっと年より落ち着いた、聡明で冷静な令嬢という印象だった。
逆に獣人の耳や尻尾の前では本当に可愛らしい年相応の少女で微笑ましく見ていた。
そんな彼女が慣れない他国の、それも自分の専属侍女に死をもたらした者達に囲まれて長期間過ごした挙げ句に誘拐され、体調不良や怪我で今は余裕が無い様子に胸が痛む。
だからこそ、恐らくトラウマになっていただろう先代の専属侍女の想いが噴出し、感情的になったのだと理解もできる。
だがグレインビル侯爵はこの国に娘が行く事も、頼まれたとはいえ長く滞在する事も許した理由が全くわからない。
過保護にも思える程に義理の娘を実の娘のように溺愛しているというのに、腑に落ちないのだ。
ケホッ。
堪えきれない咳が小さく聞こえて深彫りする事を手放す。
震えが大きくなった?
このままでは状態が更に悪化してしまう。
「アリー嬢。
早く怪我を治さないか?
後ろから火の手が迫っている。
馬を走らせるのに心配していては、いざという時に全力で駆けられないんだ」
本当は心配だからと言いたいが、それだと拒絶されそうだから心にもない事を言ってみる。
今の小さなムササビの体躯なら、本当は片手で支えていれば全力で駆けられるから、じりじりと迫っていた火の手は本来なら全く問題ない。
それにこの魔馬は主人が来た時から微動だにしなくなった。
先程までの振り落としそうな無駄な動きが一切無い。
あの魔馬の兄のように、エヴィン国王を乗せる前から威嚇したり噛みつこうとしたりは、俺に関してはされていない。
ニーア殿がいう事を聞かせるという名目で放った炎を纏わせて攻撃したりもされなかったが、この馬も不服だったのは間違いない。
ここに来るまでなかなかの荒々しい走りを披露してくれた。
お陰で王都から郊外までの雪道や山道を物ともせず、たった半日で来られたのには驚きだ。
エヴィン国王の服が少しばかり焦げているのはそのせいだ。
ニーア殿もしたり顔だったから、間違いなく炎を兄に向かって放ったのは狙っての事だろうとは絶対口にしないでおこう。
王子の護衛のはずの俺が同行したのは、王子から直々に捜索を依頼されたからだ。
護衛についてはレイヤード殿が快く請け負ってくれた事で了承したが、恐らくレイヤード殿はこの2人だけの場合の妹の逃げ道を用意したかったんじゃないだろうか。
それともニーア殿を秘密裏に連れてきた自分への怒りの矛先を逸らす為か。
どちらにしても今の彼女の様子では、下手をすると体調など無視してどちらかの目を盗んで1人で帰ろうとしかねない。
いざとなれば耳と尻尾で釣れるかもしれない俺が来て正解だろう。
「わかりました」
しばらくの無言の後、無事に許可を得られた。
ニーア殿がほっとした様子ですぐさま服の上から治癒魔法をかける。
アリー嬢の体は魔法が効きにくいと以前聞いた。
上級の魔法でも全ての傷が完全に塞がるとは思えない。
しかも既にエヴィン国王が1度治癒魔法を使った後のようだ。
治癒魔法は自己治癒力を引き上げて治す類いの魔法だから、下手に何度もかければ逆に傷口を膿ませたり、治癒に時間をかけて痛みを長引かせる。
1日置いてからでないともう治癒魔法はかけるべきではない。
ニーア殿の治癒魔法の腕はあの誘拐事件の際に自身の腹で経験済みだ。
腕は確かだ。
小さく咽る音が聞こえているものの、やがてすうすうと寝息がこの狼の耳に届く。
痛みが和らいでやっと気が抜けたようだ。
依然として体の冷たさは感じるが、ひとまずは安心だろう。
「眠り始めたようです。
今のうちに帰城しましょう。
この火はどうしますか」
「とりあえず今は人手もねえ。
ここは夏に貴族が利用する別荘地だし、ある意味幸いっちゃ幸いだ。
さっさと戻るしかねえな。
そのうち追いかけて来てる騎士隊と出くわすから、その時指示を出す。
この軍馬達が速すぎて置いて来ちまったからな」
その言葉を聞いて俺達はこの地を後にし、1日かけて戻った。
冷たかった体は徐々に熱を持ち、咳も止まらなくなっていった為に休憩を挟まず強行軍で戻る。
ムササビの体のままなら移動そのものの彼女の負担も少ない。
その上、夜は吹雪もなく夜晴れだったお陰だ。
行きよりも時間がかかったのは、馬達が自主的に速度を落としたからだ。
帰りは振り落とすような動きもなく、むしろ馬にしては振動も少なく快適だったから、主であるアリー嬢を慮っての事だろう。
行きとのあまりの違いに、内心あ然としていたのは黙っておく。
「俺の下手くそな治癒魔法じゃ血が止まりきってねえだろ?
頼むから受けてくれ。
な?」
どうやら俺の腹のあたりに収まった白いムササビはアリー嬢だったらしい。
いつぞやの卒業式の日にレイヤード殿が連れていた白いイタチ。
あれがアリー嬢だったのはギディアス王太子から聞かされていた。
わかってしまえば今さら驚きはしない。
いや、まあ少しは驚いているが。
そもそも魔力もないのに魔具の力で外見を変えるなんて前代未聞の事態だとは思う。
だがそれよりも俺の服の中に入る時にちらりと見えた、白い毛に着いた血は全く乾いていなかった。
かなりの深手を負っているんじゃないだろうか。
それに腹に小さく感じるのは、冷たい体の震えと不自然な振動だ。
恐らく咳を漏らさないように体に力を入れているものの、堪えきれずに音を殺して咽ているんだろう。
すぐに温かな風を服の中に発生させるが、治癒魔法はほぼ使えない。
アリー嬢の専属侍女であるニーア殿とエヴィン国王が声をかけるが、当の本人は完全にだんまりをきめているし、どうしたものか。
ニーア殿へかけた声からもわかるが、彼女は今、かなり怒っている。
正直アリー嬢も怒りを表に出す事があったのかと驚いている。
我々がこの国に来る時、レイヤード殿がこの侍女と兵器レベルの3頭の兄妹馬を乗せていた。
もちろんグレインビル侯爵も我が国もこの国も了承の上だ。
この最北の国で体の弱いアリー嬢が冬越えするのならば、専属侍女が必要になるとの配慮だった。
馬は気分転換になるからとの理由らしいが、そこらの護衛よりよほど強い護衛になるからじゃないかとつっこみたいのを我慢した。
ただアリー嬢には専属侍女が来ている事はぎりぎりまで秘密にする予定だった。
間違ってもこんな場面でばらす予定ではなかったのだ。
というのも、アリー嬢はこの国に来る時に専属侍女であるニーア殿の同行を断固として拒否していたらしい。
何故かと思っていたが、ルドルフ王子の護衛中に彼女の先代の専属侍女の一件を聞いて合点がいった。
まさか今そこで心配そうに俺の腹を見ているこのエヴィン国王が、かつてアリー嬢を誘拐しようとしたせいだったとは。
恐らくこの国で自分の専属侍女がいるとまた喪うかもしれないという恐れがあるんだろう。
我々がここに来た時からアリー嬢はエヴィン国王も含めた側近達に、こちらがわかる程度には冷たい態度を取り続けていた。
加えていつものような朗らかさや余裕が時折無く、どこか感情が不安定で心配もしていた。
しかしそれらは彼女の心の根底に恐れがあって不安だったからだと今ならわかる。
初めて出会った頃からこれまでずっと年より落ち着いた、聡明で冷静な令嬢という印象だった。
逆に獣人の耳や尻尾の前では本当に可愛らしい年相応の少女で微笑ましく見ていた。
そんな彼女が慣れない他国の、それも自分の専属侍女に死をもたらした者達に囲まれて長期間過ごした挙げ句に誘拐され、体調不良や怪我で今は余裕が無い様子に胸が痛む。
だからこそ、恐らくトラウマになっていただろう先代の専属侍女の想いが噴出し、感情的になったのだと理解もできる。
だがグレインビル侯爵はこの国に娘が行く事も、頼まれたとはいえ長く滞在する事も許した理由が全くわからない。
過保護にも思える程に義理の娘を実の娘のように溺愛しているというのに、腑に落ちないのだ。
ケホッ。
堪えきれない咳が小さく聞こえて深彫りする事を手放す。
震えが大きくなった?
このままでは状態が更に悪化してしまう。
「アリー嬢。
早く怪我を治さないか?
後ろから火の手が迫っている。
馬を走らせるのに心配していては、いざという時に全力で駆けられないんだ」
本当は心配だからと言いたいが、それだと拒絶されそうだから心にもない事を言ってみる。
今の小さなムササビの体躯なら、本当は片手で支えていれば全力で駆けられるから、じりじりと迫っていた火の手は本来なら全く問題ない。
それにこの魔馬は主人が来た時から微動だにしなくなった。
先程までの振り落としそうな無駄な動きが一切無い。
あの魔馬の兄のように、エヴィン国王を乗せる前から威嚇したり噛みつこうとしたりは、俺に関してはされていない。
ニーア殿がいう事を聞かせるという名目で放った炎を纏わせて攻撃したりもされなかったが、この馬も不服だったのは間違いない。
ここに来るまでなかなかの荒々しい走りを披露してくれた。
お陰で王都から郊外までの雪道や山道を物ともせず、たった半日で来られたのには驚きだ。
エヴィン国王の服が少しばかり焦げているのはそのせいだ。
ニーア殿もしたり顔だったから、間違いなく炎を兄に向かって放ったのは狙っての事だろうとは絶対口にしないでおこう。
王子の護衛のはずの俺が同行したのは、王子から直々に捜索を依頼されたからだ。
護衛についてはレイヤード殿が快く請け負ってくれた事で了承したが、恐らくレイヤード殿はこの2人だけの場合の妹の逃げ道を用意したかったんじゃないだろうか。
それともニーア殿を秘密裏に連れてきた自分への怒りの矛先を逸らす為か。
どちらにしても今の彼女の様子では、下手をすると体調など無視してどちらかの目を盗んで1人で帰ろうとしかねない。
いざとなれば耳と尻尾で釣れるかもしれない俺が来て正解だろう。
「わかりました」
しばらくの無言の後、無事に許可を得られた。
ニーア殿がほっとした様子ですぐさま服の上から治癒魔法をかける。
アリー嬢の体は魔法が効きにくいと以前聞いた。
上級の魔法でも全ての傷が完全に塞がるとは思えない。
しかも既にエヴィン国王が1度治癒魔法を使った後のようだ。
治癒魔法は自己治癒力を引き上げて治す類いの魔法だから、下手に何度もかければ逆に傷口を膿ませたり、治癒に時間をかけて痛みを長引かせる。
1日置いてからでないともう治癒魔法はかけるべきではない。
ニーア殿の治癒魔法の腕はあの誘拐事件の際に自身の腹で経験済みだ。
腕は確かだ。
小さく咽る音が聞こえているものの、やがてすうすうと寝息がこの狼の耳に届く。
痛みが和らいでやっと気が抜けたようだ。
依然として体の冷たさは感じるが、ひとまずは安心だろう。
「眠り始めたようです。
今のうちに帰城しましょう。
この火はどうしますか」
「とりあえず今は人手もねえ。
ここは夏に貴族が利用する別荘地だし、ある意味幸いっちゃ幸いだ。
さっさと戻るしかねえな。
そのうち追いかけて来てる騎士隊と出くわすから、その時指示を出す。
この軍馬達が速すぎて置いて来ちまったからな」
その言葉を聞いて俺達はこの地を後にし、1日かけて戻った。
冷たかった体は徐々に熱を持ち、咳も止まらなくなっていった為に休憩を挟まず強行軍で戻る。
ムササビの体のままなら移動そのものの彼女の負担も少ない。
その上、夜は吹雪もなく夜晴れだったお陰だ。
行きよりも時間がかかったのは、馬達が自主的に速度を落としたからだ。
帰りは振り落とすような動きもなく、むしろ馬にしては振動も少なく快適だったから、主であるアリー嬢を慮っての事だろう。
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