258 / 491
7―2
257.エセ爽やか野郎と憤怒の悪魔〜ギディアスside
しおりを挟む
「へー、いい反応してんじゃん」
振り返ると既に背後を取られていた。
障壁を挟んですぐ目の前に男の顔があった。
まずい。
一瞬身構えたものの、特に攻撃の類は仕掛けてこない。
長年の王太子教育の賜物か動揺を表に出さなかった自分を褒めたい。
男は私の緊張感とは対象的に、軽い口調で面白そうにこちらを見ているだけだ。
私も改めて男を観察する。
私達と同じくらいの体格と年齢のように見える男は、燃えるような赤い髪が長く、目元は涼やかな青い目をしていた。
光の加減で目の青さが揺らぐように変わって見える。
刺客の可能性は低いかな。
外は雪も積もる真冬だというのに、外套も羽織らず随分と軽装だ。
顔立ちはバルトスと同じように貴族女性達が喜びそうな程に整っている。
氷と称されるバルトスとは対照的に快活そうな、生気に溢れた爽やかな青年といった雰囲気を纏う。
こんな目立つ外見なら1度でも会えば忘れる事はないから、侵入者なのは間違いない。
見た目は人属だし、上機嫌に笑ってはいるけれど目は笑っていない。
なにより隙がなく、もし私が何か攻撃すれば簡単に反撃されそうな圧を感じる。
····この男は強い。
思わずゴクリと喉を鳴らす。
それにしてもどうやってここに入ったんだろうか?
この部屋は許可を与えた者以外は入れないようにしてある。
限られた者でも主である私に悪意を向ければ部屋には入れず、転移で入ろうとしても弾かれる。
「何の用だ。
今はお前の遊びに付き合うつもりはないぞ」
対してバルトスは全く動じず、先程とは打って変わって不機嫌な様子を態度を在々と出している。
知り合い、なのか?
口調は随分と気安い。
「うっわ。
超不機嫌だね、バルトス。
あーあ、残念。
もう少し驚いてくれてもいいのにな」
そんな友を全く意に介さず、突然現れたこの男は相変わらず爽やかに残念がる。
「ふん、エセ爽やか野郎め。
お前達の守護魔法の類いを透過する癖は城ではやめとけと言っておいただろう」
「えー、だってオイラの可愛い愛し子が泣いたんだよ?
オイラにだって泣いて恋しがってくれた事ないのにさあ。
それにお前達グレインビルみたいにオイラ達を弾くような類の魔法や魔具を使ってない奴が悪いんだろ」
口を尖らせて自由に喜怒哀楽を見せる。
····愛し子が泣いて恋しがる?
この男達を弾く類?
まさか····。
この男の正体が何なのかわかった気がする。
「ふん、俺の可愛い天使だからな」
「うっわ、そのドヤ顔ムカつくー!」
「それよりも、どうしても手を貸すというなら借りてやらなくはないが?」
「えー、何その上からの物言い」
私も同感だが、あのバルトスが他人の力を借りるという判断を下した事に驚いてしまう。
それだけこの男の実力を認めているんだろうか?
男の正体が私の思う通りなら、それはそれで納得するけれど····何だか嫉妬してしまうな。
けれど口を挟まずに2人の成り行きを見守る事にした方が多く情報を得られそうだね。
「何だ。
貸さないなら出てくるな」
「何年かぶりだけどやっぱりグレインビルはまとめて気に入らない。
でも貸してやるよ?」
でもこの男も大概上からの物言いだ。
何年か前に離宮でこの友と舌戦を繰り広げていた稀有な存在のはずの彼女とどこか雰囲気が似ている。
彼もかなり高位の存在なんだろうか?
「それはお互い様だ。
だが借りてやる。
俺の可愛い天使の為だ」
「オイラだって愛し子の為だし」
そう言って男は私の方を改めて見る。
「ふーん、王太子ってだけの事はあるみたいだね。
じゃ、先にヒュイルグの船着き場に行っておくから。
さっさと来なよ」
言い終わるが早いか、今までいたのが幻だったかのようにパッと消えた。
「そうそう、オイラ達は今回の件を良くは思ってないからね。
だけど、オイラの愛し子があの狐のお嬢ちゃんが死んでからずーっと溜めてた負の感情から解放されたのは良しと思ってるよ。
ま、オイラ達は人族の世界には契約者でない限り理由もないのに干渉したりしないけど、愛し子を不用意に傷つけたり一方的に利用しようとされたりすれば、その分人族に手を貸すのは嫌になる。
オイラ達が手を貸さなくなれば自然界が猛威を奮う事になりかねないから、そろそろお前達の国も気をつけた方がいいんじゃない?
オイラの愛し子を大好きな同胞は多いからね」
「?!」
男の声と共に、部屋全体に一瞬だけ殺意が満ちる。
バルトスが寮の自室で放っていたような物とは違う、私に向けた明確な殺意。
まるで殺そうと思えばいつでも殺せたと言うように。
「バルトス、今のは····」
「エセ爽やか野郎だ。
ん?
通信····なんだ、レイヤードか」
殺意の余韻を早く抜ける為に口を開けば、タイミング良く今度は彼の弟からの連絡らしい。
一応風で集音する。
『兄上、まだそっちにいるでしょ。
来なくていいから。
じゃあね』
ブツン。
切れた。
言うだけ言って、また切った。
何してくれてんの?!
レイヤード?!
そろりと兄であるはずのバルトスの顔を窺えば、そこには憤怒の形相の悪魔がいた。
叫ばなかった自分を褒めてあげたい。
「さ、行くぞ」
言うが早いか肩に手を置かれた瞬間景色が白く変わり、私の全身は風と雪に晒された。
振り返ると既に背後を取られていた。
障壁を挟んですぐ目の前に男の顔があった。
まずい。
一瞬身構えたものの、特に攻撃の類は仕掛けてこない。
長年の王太子教育の賜物か動揺を表に出さなかった自分を褒めたい。
男は私の緊張感とは対象的に、軽い口調で面白そうにこちらを見ているだけだ。
私も改めて男を観察する。
私達と同じくらいの体格と年齢のように見える男は、燃えるような赤い髪が長く、目元は涼やかな青い目をしていた。
光の加減で目の青さが揺らぐように変わって見える。
刺客の可能性は低いかな。
外は雪も積もる真冬だというのに、外套も羽織らず随分と軽装だ。
顔立ちはバルトスと同じように貴族女性達が喜びそうな程に整っている。
氷と称されるバルトスとは対照的に快活そうな、生気に溢れた爽やかな青年といった雰囲気を纏う。
こんな目立つ外見なら1度でも会えば忘れる事はないから、侵入者なのは間違いない。
見た目は人属だし、上機嫌に笑ってはいるけれど目は笑っていない。
なにより隙がなく、もし私が何か攻撃すれば簡単に反撃されそうな圧を感じる。
····この男は強い。
思わずゴクリと喉を鳴らす。
それにしてもどうやってここに入ったんだろうか?
この部屋は許可を与えた者以外は入れないようにしてある。
限られた者でも主である私に悪意を向ければ部屋には入れず、転移で入ろうとしても弾かれる。
「何の用だ。
今はお前の遊びに付き合うつもりはないぞ」
対してバルトスは全く動じず、先程とは打って変わって不機嫌な様子を態度を在々と出している。
知り合い、なのか?
口調は随分と気安い。
「うっわ。
超不機嫌だね、バルトス。
あーあ、残念。
もう少し驚いてくれてもいいのにな」
そんな友を全く意に介さず、突然現れたこの男は相変わらず爽やかに残念がる。
「ふん、エセ爽やか野郎め。
お前達の守護魔法の類いを透過する癖は城ではやめとけと言っておいただろう」
「えー、だってオイラの可愛い愛し子が泣いたんだよ?
オイラにだって泣いて恋しがってくれた事ないのにさあ。
それにお前達グレインビルみたいにオイラ達を弾くような類の魔法や魔具を使ってない奴が悪いんだろ」
口を尖らせて自由に喜怒哀楽を見せる。
····愛し子が泣いて恋しがる?
この男達を弾く類?
まさか····。
この男の正体が何なのかわかった気がする。
「ふん、俺の可愛い天使だからな」
「うっわ、そのドヤ顔ムカつくー!」
「それよりも、どうしても手を貸すというなら借りてやらなくはないが?」
「えー、何その上からの物言い」
私も同感だが、あのバルトスが他人の力を借りるという判断を下した事に驚いてしまう。
それだけこの男の実力を認めているんだろうか?
男の正体が私の思う通りなら、それはそれで納得するけれど····何だか嫉妬してしまうな。
けれど口を挟まずに2人の成り行きを見守る事にした方が多く情報を得られそうだね。
「何だ。
貸さないなら出てくるな」
「何年かぶりだけどやっぱりグレインビルはまとめて気に入らない。
でも貸してやるよ?」
でもこの男も大概上からの物言いだ。
何年か前に離宮でこの友と舌戦を繰り広げていた稀有な存在のはずの彼女とどこか雰囲気が似ている。
彼もかなり高位の存在なんだろうか?
「それはお互い様だ。
だが借りてやる。
俺の可愛い天使の為だ」
「オイラだって愛し子の為だし」
そう言って男は私の方を改めて見る。
「ふーん、王太子ってだけの事はあるみたいだね。
じゃ、先にヒュイルグの船着き場に行っておくから。
さっさと来なよ」
言い終わるが早いか、今までいたのが幻だったかのようにパッと消えた。
「そうそう、オイラ達は今回の件を良くは思ってないからね。
だけど、オイラの愛し子があの狐のお嬢ちゃんが死んでからずーっと溜めてた負の感情から解放されたのは良しと思ってるよ。
ま、オイラ達は人族の世界には契約者でない限り理由もないのに干渉したりしないけど、愛し子を不用意に傷つけたり一方的に利用しようとされたりすれば、その分人族に手を貸すのは嫌になる。
オイラ達が手を貸さなくなれば自然界が猛威を奮う事になりかねないから、そろそろお前達の国も気をつけた方がいいんじゃない?
オイラの愛し子を大好きな同胞は多いからね」
「?!」
男の声と共に、部屋全体に一瞬だけ殺意が満ちる。
バルトスが寮の自室で放っていたような物とは違う、私に向けた明確な殺意。
まるで殺そうと思えばいつでも殺せたと言うように。
「バルトス、今のは····」
「エセ爽やか野郎だ。
ん?
通信····なんだ、レイヤードか」
殺意の余韻を早く抜ける為に口を開けば、タイミング良く今度は彼の弟からの連絡らしい。
一応風で集音する。
『兄上、まだそっちにいるでしょ。
来なくていいから。
じゃあね』
ブツン。
切れた。
言うだけ言って、また切った。
何してくれてんの?!
レイヤード?!
そろりと兄であるはずのバルトスの顔を窺えば、そこには憤怒の形相の悪魔がいた。
叫ばなかった自分を褒めてあげたい。
「さ、行くぞ」
言うが早いか肩に手を置かれた瞬間景色が白く変わり、私の全身は風と雪に晒された。
0
あなたにおすすめの小説
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました
葉月キツネ
ファンタジー
目が覚めると昔やり込んだ乙女ゲーム「白銀の騎士物語」の悪役令嬢フランソワになっていた!
本来ならメインヒロインの引き立て役になるはずの私…だけどせっかくこんな乙女ゲームのキャラになれたのなら思うがままにしないと勿体ないわ!
推しを含めたイケメン近衛騎士で私を囲ってもらって第二の人生楽しみます
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる