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271.落ち着かない静寂〜ギディアスside
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「やあ、アリー。
体調はどうだい?
明日はヒュイルグ国王から君と君に縁のある旅人さんが助けてくれると聞いているよ。
残念ながら、その間私は部屋で休んでいるようにって言われてあるんだけれどね。
でもこんな風にここにいるって事は、やはり助けるのを迷っているのかい?」
「いいえ。
既にどう行動するかは決まっています。
迷う気持ちはありません。
助けるのは私ではなく旅人さんですから。
ただ私は····私の気持ちの中にはやはり助けたくない気持ちも大きく在るというだけです」
温室を見に行くと、白銀の少女は明かり採りの硝子ブロックから入る月光に照らされて静かに椅子に腰掛けていた。
暖炉には火が入っていて、大きめのカップからは湯気が出ている。
少女は背後に立った私の方を全く見る事もなく、ただ時折両手に持っているカップに口をつける。
明日、件の旅人さんとやらが大公を助けに来てくれるとだけは聞いていた。
バルトスが手伝う以上、私に完璧に秘密にできないと踏んだんだろうね。
どうやって来るのか、どう助けるのかは教えてもらえなかったし、ここは他国だ。
部屋で大人しくしているよう通達されている。
これは突撃訪問するしかないのかな?
「助けられないと言い続けようとは思わなかったのかい?
どのみち君では助けられないのだろう?」
「はい。
今の私では間違いなく助けられません。
この手はまだまだ小さくて、巧緻性に欠けますから」
「どういう意味?
だから旅人さんを呼ぶんだろうけど、どうやって呼ぶのかな?
それに助ける方法も知りたいな。
ほら、一応私は君の国の王太子でしょ?」
「教えてあげません。
呼ぶのは赤髪の彼です。
彼の実力は知ってらっしゃるでしょ?」
予想通り、間違いなくこの子は具体的にどう助けるかを知っているみたいだね。
そして元々は助けない方を選択していたのかな。
にしても単刀直入に立場を持ち出して聞いてみたけれど、きっぱりお断りされてしまった。
けれど呼ぶのが赤髪のあの精霊だと言うのなら、可能だろうと納得してしまう。
私も彼のせい、コホン、お陰でこの国に転移してしま、コホン、転移できた。
明日の準備の為か、この子の兄達は2人共どこかに行っている。
温室の入り口には戸を開けてくれたお馴染みの専属侍女が気配を殺して控えていた。
そこに居るのに、居る気配がしないって、どれだけの手練れなんだろうか。
私が急きょここに来たのには理由がある。
専属侍女の彼女は仕方ないとしても、この子と2人で話す機会は今しかないと思ったんだ。
バルトスから出かけると聞いた私は侍女と2人でこないだ知った温室の方向へと向かっていたアリーを見かけて1人で転移した。
バルトスは一応休暇扱いだけど、場合により私の護衛をするよう命じられているからね。
こんな時は王太子で良かったとつくづく思ったよ。
でも私にとっても目論見通りだったけれど、この子はこの子でお見通しだったんじゃないのかな。
私が温室のドアを叩いても驚く素振りすらなく、今も私を見る事もなく、この白銀の虚弱な少女はただ静かに内なる自分と対話するかのように静かだ。
そっと少女の座る椅子の背に手をかけて耳元でお願いしてみる。
「ねえ、アリー。
明日、君達が大公を助ける所を見せてもらう事はできない?」
「嫌ですし、助けるのは旅人さんですけど、根本的にどのみち無理ですね」
ある意味色仕掛けみたいな状態の私の言葉に全く動じる筈もなく、はっきりと断られる。
しかし少しばかり引っかかりを覚えた。
「嫌はともかく、何故無理なのかな?」
「大公の生存率を低下させない為の必要な衛生上の措置、ですよ。
エヴィン国王も見る事は許していません。
仮に治療の際に亡くなった時、そのせいになる場合もありますから。
外交問題にしたくなければ今回は余りある好奇心は封印して下さい」
「なるほど」
何となく言いたい事は察する。
治療の為の何かしらの措置なら仕方ないね。
何より大公はこの国でも立場のある存在だ。
「なら別の質問をするよ。
君は助けたくなくても君以外の誰かが助けたいと望んでいた。
もちろん誰かは大公の家族じゃない。
その誰かは君が無視できないほど君にとって重要な誰か。
それは誰なのかな?」
これまで助ける選択を選ばなかったのは、かつての専属侍女を殺された恨みからだけじゃないと思うんだよね。
誰かの為なんじゃないだろうか。
そして助けると決めたのも貴族としての立場や個人的な感情からだけじゃない。
もっと別の、この子の大事な誰かの為。
「····何故そう思うんです?」
「君は助けたくないなら、間違いなく助けないし、それをおくびにも出さないよね?
そして本来なら助けなくても君的には問題なしと判断している。
もちろんアドライド国として利はあるのだけれどね。
助けた事を秘密にしたとしても、どこぞの旅人が助けたにしても、グレインビル侯爵令嬢の君が関わったんだから恩は売れる。
だけど元々この件は見過ごしても何ら問題が無かったものだよ。
君が助ける必要性があると判断したのならとっくに助けているし、助けられない状況なら早々に手を引いていたと思うんだ。
長く留まっても良い事は特にないだろう?」
アリーは私の言葉を月光を浴びながらただ静かに聞いている。
どうしてだかその静寂は落ち着かないと感じていた。
体調はどうだい?
明日はヒュイルグ国王から君と君に縁のある旅人さんが助けてくれると聞いているよ。
残念ながら、その間私は部屋で休んでいるようにって言われてあるんだけれどね。
でもこんな風にここにいるって事は、やはり助けるのを迷っているのかい?」
「いいえ。
既にどう行動するかは決まっています。
迷う気持ちはありません。
助けるのは私ではなく旅人さんですから。
ただ私は····私の気持ちの中にはやはり助けたくない気持ちも大きく在るというだけです」
温室を見に行くと、白銀の少女は明かり採りの硝子ブロックから入る月光に照らされて静かに椅子に腰掛けていた。
暖炉には火が入っていて、大きめのカップからは湯気が出ている。
少女は背後に立った私の方を全く見る事もなく、ただ時折両手に持っているカップに口をつける。
明日、件の旅人さんとやらが大公を助けに来てくれるとだけは聞いていた。
バルトスが手伝う以上、私に完璧に秘密にできないと踏んだんだろうね。
どうやって来るのか、どう助けるのかは教えてもらえなかったし、ここは他国だ。
部屋で大人しくしているよう通達されている。
これは突撃訪問するしかないのかな?
「助けられないと言い続けようとは思わなかったのかい?
どのみち君では助けられないのだろう?」
「はい。
今の私では間違いなく助けられません。
この手はまだまだ小さくて、巧緻性に欠けますから」
「どういう意味?
だから旅人さんを呼ぶんだろうけど、どうやって呼ぶのかな?
それに助ける方法も知りたいな。
ほら、一応私は君の国の王太子でしょ?」
「教えてあげません。
呼ぶのは赤髪の彼です。
彼の実力は知ってらっしゃるでしょ?」
予想通り、間違いなくこの子は具体的にどう助けるかを知っているみたいだね。
そして元々は助けない方を選択していたのかな。
にしても単刀直入に立場を持ち出して聞いてみたけれど、きっぱりお断りされてしまった。
けれど呼ぶのが赤髪のあの精霊だと言うのなら、可能だろうと納得してしまう。
私も彼のせい、コホン、お陰でこの国に転移してしま、コホン、転移できた。
明日の準備の為か、この子の兄達は2人共どこかに行っている。
温室の入り口には戸を開けてくれたお馴染みの専属侍女が気配を殺して控えていた。
そこに居るのに、居る気配がしないって、どれだけの手練れなんだろうか。
私が急きょここに来たのには理由がある。
専属侍女の彼女は仕方ないとしても、この子と2人で話す機会は今しかないと思ったんだ。
バルトスから出かけると聞いた私は侍女と2人でこないだ知った温室の方向へと向かっていたアリーを見かけて1人で転移した。
バルトスは一応休暇扱いだけど、場合により私の護衛をするよう命じられているからね。
こんな時は王太子で良かったとつくづく思ったよ。
でも私にとっても目論見通りだったけれど、この子はこの子でお見通しだったんじゃないのかな。
私が温室のドアを叩いても驚く素振りすらなく、今も私を見る事もなく、この白銀の虚弱な少女はただ静かに内なる自分と対話するかのように静かだ。
そっと少女の座る椅子の背に手をかけて耳元でお願いしてみる。
「ねえ、アリー。
明日、君達が大公を助ける所を見せてもらう事はできない?」
「嫌ですし、助けるのは旅人さんですけど、根本的にどのみち無理ですね」
ある意味色仕掛けみたいな状態の私の言葉に全く動じる筈もなく、はっきりと断られる。
しかし少しばかり引っかかりを覚えた。
「嫌はともかく、何故無理なのかな?」
「大公の生存率を低下させない為の必要な衛生上の措置、ですよ。
エヴィン国王も見る事は許していません。
仮に治療の際に亡くなった時、そのせいになる場合もありますから。
外交問題にしたくなければ今回は余りある好奇心は封印して下さい」
「なるほど」
何となく言いたい事は察する。
治療の為の何かしらの措置なら仕方ないね。
何より大公はこの国でも立場のある存在だ。
「なら別の質問をするよ。
君は助けたくなくても君以外の誰かが助けたいと望んでいた。
もちろん誰かは大公の家族じゃない。
その誰かは君が無視できないほど君にとって重要な誰か。
それは誰なのかな?」
これまで助ける選択を選ばなかったのは、かつての専属侍女を殺された恨みからだけじゃないと思うんだよね。
誰かの為なんじゃないだろうか。
そして助けると決めたのも貴族としての立場や個人的な感情からだけじゃない。
もっと別の、この子の大事な誰かの為。
「····何故そう思うんです?」
「君は助けたくないなら、間違いなく助けないし、それをおくびにも出さないよね?
そして本来なら助けなくても君的には問題なしと判断している。
もちろんアドライド国として利はあるのだけれどね。
助けた事を秘密にしたとしても、どこぞの旅人が助けたにしても、グレインビル侯爵令嬢の君が関わったんだから恩は売れる。
だけど元々この件は見過ごしても何ら問題が無かったものだよ。
君が助ける必要性があると判断したのならとっくに助けているし、助けられない状況なら早々に手を引いていたと思うんだ。
長く留まっても良い事は特にないだろう?」
アリーは私の言葉を月光を浴びながらただ静かに聞いている。
どうしてだかその静寂は落ち着かないと感じていた。
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