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289.娘の前世〜ヘルトside
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「前世は男で、様々な緊急手術を集中的に行って経験を積んでから心臓病を専門に治していたんだったな」
『40代で死ぬ何年か前、やりたい事ができて医療の世界からは離れたと聞いた。
離れた頃の30代後半まで魂の時を戻すそうだ』
前世や何故私達の世界に転生したのか。
初めて聞いた時にはもちろん信じられなかった。
が、ココが死んだ直後のヒュイルグ国で起きた世代交代と流行病の鎮静化、兄達と作っていた医療器具の試作品のいくつかを見れば信じるしかない。
共に過ごす内に明らかになっていく異世界の知識。
時折垣間見せる深い医療の造詣。
ただ、今のアリアチェリーナ=グレインビルは医者ではない。
まだ全てを話してくれたわけではないだろうが、貴族令嬢で私の可愛い愛娘だ。
命のやり取りに関わらせるつもりはなかった。
なのにあの誘拐でよりによって娘が崇拝する耳と尻尾を持つルーベンスに手術を施した。
とりあえずあの耳と尻尾をちょん切って娘の崇拝対象を消したいものだと何度も思う。
それでもまだ数年前のあの時までは、娘も自分の心根に素直に従えていたんだろう。
その直後だ。
あの魔具を拾ったのは。
そして気づいてしまったらしい。
あの魔具は体の時間ではなく、記憶する魂の時間を戻す魔具だと。
本人が覚えてさえいれば、前世の時間にまで魂と連動させて体を巻き戻す事ができる。
だから大抵の者は目一杯巻き戻しても今世の記憶分までが限界となり、最終的に消失してしまう。
『胎芽か下手したら受精卵あたりまで戻るとさすがに消えたように見えちゃうんじゃないかな』
タイガやジュセイランって何だ?
アリー語は時々わからないが、とりあえず消失したと思えばいいらしい。
前世の記憶を持つ者はそういない。
というか、うちの子以外で聞いた事がない。
偶発的にそう作られてしまったし、体の時間が戻る事には違いないから、作製したゲドグル=ダンラナが気づかなくとも仕方ない。
今なら、今更ながらにというべきかもしれないが、母と同じ病を治せる。
下手に前世が腕の良い医者だったからこそ、余計にこの子の中で何かしらの怒りと罪悪感が膨れ上がったに違いない。
更には魔具の中の精霊石とも何かしらの因縁があるとなれば····。
発作で心臓を止めかけた大公を当初は見捨ててしまおうとしていたのも、心の中で整理がついていなかったせいだろう。
そういう意味では、あの小さな害獣と妹が泣きついてくれて良かったとは思う。
大公が死ぬのはどうでもいいが、見捨てた後の娘の心はまだ何の消化もしていないココへの感情と相まって、もしかしたら修正不可能なほどに歪んで軋み続けたかもしれない。
ふぅっ、とため息が出る。
「大公がよりによってミレーネと同じ病だったとはな」
『何だ、父上。
珍しく弱気だな?』
感性で生きるバルトスは根本的には楽天的だ。
どうやら兄弟それぞれが外見通りに私とミレーネの性質を継いだようだ。
そう思うととっくに成人したこの長男の事も、やはり愛おしく感じて顔が弛む。
「弱気になったわけではないが、やはり心配にはなるさ」
『そうか?
まあ俺の天使は傷つきやすくて頑固者だから仕方がないさ』
息子の言葉に在りし日の妻の言葉が重なり、懐かしさがこみ上げる。
ミレーネ、君は子供達の中で確かに生きているんだな。
結局紆余曲折はあったものの、うちの愛娘の心の重荷が少しでも軽くなったのなら僥倖だと、その言葉で心からそう思えた。
『それでも俺達がいる以上、天使は必ず俺達の側で踏み留まるからな。
母上の夫や息子で良かったな、父上。
お陰で可愛い天使はずっと近くにいてくれたし、今では俺達が大好きだから家族として側にいようとしてくれてる』
その言葉で目から鱗が落ちた。
始まりは、ミレーネだ。
私達の縁を結んだのも、結び続けてきたのも。
だが、そうか····私達の事をもう、ミレーネを間に挟まなくても家族と····。
「さすがだよ、バルトス。
ミレーネに本当によく似たな」
思わず言葉が口を突く。
『ん?
父上にも似ていると思うぞ』
やばいな、いくつになってもうちの子が可愛い。
『それから反逆者達の刑が今日正式に通達された』
「そうか。
聞いた上で私の可愛いアリーに頼まれた件をどうするか考えよう」
実はうちの可愛い娘に1つお願いをされている。
だがこの国がどう判断するかで状況が変わってしまう為、保留にしていた。
『直接謀反を起こした反逆者達は全員極刑。
中には他国の貴族もいたが、全ての国でヒュイルグ国の法に法った裁きを受ける事で正式に同意した。
他国の反逆者の家族に関してはそれぞれの国の法で裁くらしいが、例外なく配偶者と1等身までの家族は極刑、それ以外の血族に関して貴族は身分を剥奪されて平民に、平民は終身刑とするらしい』
「妥当だな」
『ああ。
他国の、それも北の諸国の流行病を止めていくつかの国の発展にも貢献してきたヒュイルグ国王を表立って弑逆しようとした以上、それぞれの国王も庇い立てはしないみたいだ』
「1番の理由は発展に邪魔な過去の栄光に縋る後進的な古狸達の排除だな」
『ナビイマリ国はグレインビル侯爵令嬢の誘拐と怪我の方に激怒していたらしいけどな』
「····うちの子は好々爺に好かれるらしい」
4歳の誕生日から、毎年匿名ででっかい黒兎とちっちゃい鷲のぬいぐるみがそれぞれ贈られてきているのをミレーネの死後に知った。
うちの子は黒兎と鷲のお爺ちゃんが約束を守ってくれていると言っていたが、絶対あそこの国の爺だろう。
鷲はどいつなのか未だによくわからない。
『40代で死ぬ何年か前、やりたい事ができて医療の世界からは離れたと聞いた。
離れた頃の30代後半まで魂の時を戻すそうだ』
前世や何故私達の世界に転生したのか。
初めて聞いた時にはもちろん信じられなかった。
が、ココが死んだ直後のヒュイルグ国で起きた世代交代と流行病の鎮静化、兄達と作っていた医療器具の試作品のいくつかを見れば信じるしかない。
共に過ごす内に明らかになっていく異世界の知識。
時折垣間見せる深い医療の造詣。
ただ、今のアリアチェリーナ=グレインビルは医者ではない。
まだ全てを話してくれたわけではないだろうが、貴族令嬢で私の可愛い愛娘だ。
命のやり取りに関わらせるつもりはなかった。
なのにあの誘拐でよりによって娘が崇拝する耳と尻尾を持つルーベンスに手術を施した。
とりあえずあの耳と尻尾をちょん切って娘の崇拝対象を消したいものだと何度も思う。
それでもまだ数年前のあの時までは、娘も自分の心根に素直に従えていたんだろう。
その直後だ。
あの魔具を拾ったのは。
そして気づいてしまったらしい。
あの魔具は体の時間ではなく、記憶する魂の時間を戻す魔具だと。
本人が覚えてさえいれば、前世の時間にまで魂と連動させて体を巻き戻す事ができる。
だから大抵の者は目一杯巻き戻しても今世の記憶分までが限界となり、最終的に消失してしまう。
『胎芽か下手したら受精卵あたりまで戻るとさすがに消えたように見えちゃうんじゃないかな』
タイガやジュセイランって何だ?
アリー語は時々わからないが、とりあえず消失したと思えばいいらしい。
前世の記憶を持つ者はそういない。
というか、うちの子以外で聞いた事がない。
偶発的にそう作られてしまったし、体の時間が戻る事には違いないから、作製したゲドグル=ダンラナが気づかなくとも仕方ない。
今なら、今更ながらにというべきかもしれないが、母と同じ病を治せる。
下手に前世が腕の良い医者だったからこそ、余計にこの子の中で何かしらの怒りと罪悪感が膨れ上がったに違いない。
更には魔具の中の精霊石とも何かしらの因縁があるとなれば····。
発作で心臓を止めかけた大公を当初は見捨ててしまおうとしていたのも、心の中で整理がついていなかったせいだろう。
そういう意味では、あの小さな害獣と妹が泣きついてくれて良かったとは思う。
大公が死ぬのはどうでもいいが、見捨てた後の娘の心はまだ何の消化もしていないココへの感情と相まって、もしかしたら修正不可能なほどに歪んで軋み続けたかもしれない。
ふぅっ、とため息が出る。
「大公がよりによってミレーネと同じ病だったとはな」
『何だ、父上。
珍しく弱気だな?』
感性で生きるバルトスは根本的には楽天的だ。
どうやら兄弟それぞれが外見通りに私とミレーネの性質を継いだようだ。
そう思うととっくに成人したこの長男の事も、やはり愛おしく感じて顔が弛む。
「弱気になったわけではないが、やはり心配にはなるさ」
『そうか?
まあ俺の天使は傷つきやすくて頑固者だから仕方がないさ』
息子の言葉に在りし日の妻の言葉が重なり、懐かしさがこみ上げる。
ミレーネ、君は子供達の中で確かに生きているんだな。
結局紆余曲折はあったものの、うちの愛娘の心の重荷が少しでも軽くなったのなら僥倖だと、その言葉で心からそう思えた。
『それでも俺達がいる以上、天使は必ず俺達の側で踏み留まるからな。
母上の夫や息子で良かったな、父上。
お陰で可愛い天使はずっと近くにいてくれたし、今では俺達が大好きだから家族として側にいようとしてくれてる』
その言葉で目から鱗が落ちた。
始まりは、ミレーネだ。
私達の縁を結んだのも、結び続けてきたのも。
だが、そうか····私達の事をもう、ミレーネを間に挟まなくても家族と····。
「さすがだよ、バルトス。
ミレーネに本当によく似たな」
思わず言葉が口を突く。
『ん?
父上にも似ていると思うぞ』
やばいな、いくつになってもうちの子が可愛い。
『それから反逆者達の刑が今日正式に通達された』
「そうか。
聞いた上で私の可愛いアリーに頼まれた件をどうするか考えよう」
実はうちの可愛い娘に1つお願いをされている。
だがこの国がどう判断するかで状況が変わってしまう為、保留にしていた。
『直接謀反を起こした反逆者達は全員極刑。
中には他国の貴族もいたが、全ての国でヒュイルグ国の法に法った裁きを受ける事で正式に同意した。
他国の反逆者の家族に関してはそれぞれの国の法で裁くらしいが、例外なく配偶者と1等身までの家族は極刑、それ以外の血族に関して貴族は身分を剥奪されて平民に、平民は終身刑とするらしい』
「妥当だな」
『ああ。
他国の、それも北の諸国の流行病を止めていくつかの国の発展にも貢献してきたヒュイルグ国王を表立って弑逆しようとした以上、それぞれの国王も庇い立てはしないみたいだ』
「1番の理由は発展に邪魔な過去の栄光に縋る後進的な古狸達の排除だな」
『ナビイマリ国はグレインビル侯爵令嬢の誘拐と怪我の方に激怒していたらしいけどな』
「····うちの子は好々爺に好かれるらしい」
4歳の誕生日から、毎年匿名ででっかい黒兎とちっちゃい鷲のぬいぐるみがそれぞれ贈られてきているのをミレーネの死後に知った。
うちの子は黒兎と鷲のお爺ちゃんが約束を守ってくれていると言っていたが、絶対あそこの国の爺だろう。
鷲はどいつなのか未だによくわからない。
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