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317.温泉には浪漫が詰まっている
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「叔父上、実は西の辺境領で温泉が湧き出たらしいのです」
····ん?
温泉····?
ぽんぽんと背中にリズムを刻むのは、義父様の温かくて大きな手。
まだまだ眠りを誘うその手が浮上しかけた僕の意識を刈り取ろうとする。
「温泉?」
「ええ。
火山帯が近くにあって、以前から地熱で温まった湯が出ていたらしいんですが、それを活用して領を発展させたいらしいんです。
それにバリーフェも火山で取れるらしく、アリーの心配していた西の諸国からの輸入の運送費が安く抑えられるんじゃないでしょうか」
「なるほど。
しかし何故温泉の話を?」
「カイヤ会長が、領主にジャガンダ国の湯治効果の話をしてくれて、乗り気になったと聞いています」
「トウジ?」
····ん?
湯治····?
「はい。
温泉に浸かって体を癒す事で体の不調を治す効果を期待する行為らしいです」
「そういえば、随分昔に私の可愛いアリーが火山帯の近くに温泉がないか聞いてきた事があったような。
その時にトウジがどうとか言ってミレーネとキャッキャしていたけど、それかな?
2人共楽しそうだったから覚えている」
そうそう、あの時はまだ義母様も元気だったし、温泉療法なるものも心臓の負担をかけない程度で試してみたかったんだ。
義母様もお肌がトゥルトゥルになるわ~、ってにこにこしてたんだよね。
「恐らく。
もしかしてバリーフェを知ったのもその時かもしれませんね」
「ああ、確かそうだった」
「それで、その、アリーを連れて行きたいんですが····」
「それは許可でき····」
ダメ!
お話が終わっちゃう!!
「はうっ!
温泉!」
ガバッと義父様の膝から飛び降りる。
まだ頭がふわふわ、くらくらするけど、そこは気力で踏ん張る。
「アリー、起きたのかい。
急に起きると危ないよ」
「おはよ、父様。
んー、ちょっとくらくらするけどいいの!
それより温泉って聞こえた!
湯治も!」
「····はあ、ふらふらしながらそんなに目を輝かせて····私に何を期待するんだか····」
それとなく僕を支えつつ、反転させてバックハグしながら再びお膝に乗せる義父様は、やっぱり渋っている。
わかってはいるんだよ?
今の僕はまだまだ虚弱だもの。
でも諦められない!
温泉!
それは日本人の心!
今は日本人じゃないけども!
「お願い、父様。
母様も昔行きたがってたでしょ?
温泉は凄いんだよ!
心も体もぽかぽかするんだよ!
温泉のお湯には浪漫が詰まってるんだよ!」
「····すっかり行くつもりだね?
まだ寒いだろう?
温泉のお湯に浪漫は詰まっていないよ」
「そんな事ないよ!
どこの領もグレインビル領より温かくて過ごしやすいはずだよ?
ね、従兄様!」
「えっ、ふぐっ····あ、ヒッ、いや、魔王、じゃない、お、叔父上····」
どうしたの?
従兄様が何だかガタガタしてるよ?
魔王なんてここにはいないよ?
いない、よね?
そっと従兄様の視線の先を追って振り向くけど、前方には義父様のお胸、斜め上には凛々しいお顔。
大人の色気が漂う赤い目とこんにちはしたから、にこっと微笑めば、義父様も優しく見つめ返してくれる。
やっぱり魔王はここにはいないね。
「従兄様?」
「ガウディード?」
「ヒッ、ま、お、叔父上」
従兄様の方へ向き直って声をかければ、義父様も甥っ子の挙動不審が心配になったんだろうね。
一緒に声をかける。
僕の義父様は魔王と違って気遣いのできる優しい人なんだよ。
なのに従兄様の目線が微妙に僕の後ろに向けられ続けて、唇がわなわなしてる。
魔王じゃなくて叔父上って言おうとして噛んだとかかな?
でも今はおかしな様子の従兄様でも説得仲間に引き込まねば!
「従兄様、私に何か頼みたい事があるんだよね?
ね?」
通過する従兄様の視線を僕に向けさせるように、ね?を連呼してみれば、やっと視線が僕と交錯した。
「あ、その、えっと、そう、実は西の辺境侯爵から領地の温泉街計画を持ちかけられていてね。
俺はカフェを出店するんだけど、そこで出す料理をアリーと考えられたらなって。
それに西の辺境領はザルハード国に近いだろう?
そこの領主がアビニシア侯爵から色々聞いたみたいで、隣国ザルハード国第1王子とも面識のあるアリーとも話してみたいらしいんだ。
あの辺一帯はザルハード国と接している関係で流民が侵入しやすいのに、火山帯なのもあって雇用先の提供が追いつかなくて、治安も悪くなりがちなんだよ」
確かに昔のグレインビル領みたいに頻繁な小競り合いがなくても、辺境領はその火種になりそうな流民が侵入しやすいんだよね。
ザルハード国は今、貧富の差が激しくなっている。
それに加えて王家と教会の軋轢が年々ひどくなっていて、どのぞの第3王子みたいに獣人や貧民への差別も年々酷くなっている。
ヒュイルグ国とグレインビル領みたいに、大河を挟んでもいない陸続きな西の辺境領は特に侵入しやすいのは言うまでもない。
かといって税を納めない流民が増えるのは領内の治安悪化を招くし、それこそせっかく友好国として交流していても、あまりに頻繁な他国の国民の侵入ともなれば侵略行為として戦争の火種にもなってしまうんだ。
※※※※※※※※※
お知らせ
※※※※※※※※※
いつもご覧いただきありがとうございます。
同時進行中の下の作品ですが、本日はバタバタする為、更新できないか、できてもいつもより遅くなるかと思います。
どちらの作品もご覧いただいている方がいらっしゃるようなので、こちらからもお知らせしておきます。
【稀代の悪女と呼ばれた天才魔法師は天才と魔法を淑女の微笑みでひた隠す~だって無才無能の方が何かとお得でしょ?】
····ん?
温泉····?
ぽんぽんと背中にリズムを刻むのは、義父様の温かくて大きな手。
まだまだ眠りを誘うその手が浮上しかけた僕の意識を刈り取ろうとする。
「温泉?」
「ええ。
火山帯が近くにあって、以前から地熱で温まった湯が出ていたらしいんですが、それを活用して領を発展させたいらしいんです。
それにバリーフェも火山で取れるらしく、アリーの心配していた西の諸国からの輸入の運送費が安く抑えられるんじゃないでしょうか」
「なるほど。
しかし何故温泉の話を?」
「カイヤ会長が、領主にジャガンダ国の湯治効果の話をしてくれて、乗り気になったと聞いています」
「トウジ?」
····ん?
湯治····?
「はい。
温泉に浸かって体を癒す事で体の不調を治す効果を期待する行為らしいです」
「そういえば、随分昔に私の可愛いアリーが火山帯の近くに温泉がないか聞いてきた事があったような。
その時にトウジがどうとか言ってミレーネとキャッキャしていたけど、それかな?
2人共楽しそうだったから覚えている」
そうそう、あの時はまだ義母様も元気だったし、温泉療法なるものも心臓の負担をかけない程度で試してみたかったんだ。
義母様もお肌がトゥルトゥルになるわ~、ってにこにこしてたんだよね。
「恐らく。
もしかしてバリーフェを知ったのもその時かもしれませんね」
「ああ、確かそうだった」
「それで、その、アリーを連れて行きたいんですが····」
「それは許可でき····」
ダメ!
お話が終わっちゃう!!
「はうっ!
温泉!」
ガバッと義父様の膝から飛び降りる。
まだ頭がふわふわ、くらくらするけど、そこは気力で踏ん張る。
「アリー、起きたのかい。
急に起きると危ないよ」
「おはよ、父様。
んー、ちょっとくらくらするけどいいの!
それより温泉って聞こえた!
湯治も!」
「····はあ、ふらふらしながらそんなに目を輝かせて····私に何を期待するんだか····」
それとなく僕を支えつつ、反転させてバックハグしながら再びお膝に乗せる義父様は、やっぱり渋っている。
わかってはいるんだよ?
今の僕はまだまだ虚弱だもの。
でも諦められない!
温泉!
それは日本人の心!
今は日本人じゃないけども!
「お願い、父様。
母様も昔行きたがってたでしょ?
温泉は凄いんだよ!
心も体もぽかぽかするんだよ!
温泉のお湯には浪漫が詰まってるんだよ!」
「····すっかり行くつもりだね?
まだ寒いだろう?
温泉のお湯に浪漫は詰まっていないよ」
「そんな事ないよ!
どこの領もグレインビル領より温かくて過ごしやすいはずだよ?
ね、従兄様!」
「えっ、ふぐっ····あ、ヒッ、いや、魔王、じゃない、お、叔父上····」
どうしたの?
従兄様が何だかガタガタしてるよ?
魔王なんてここにはいないよ?
いない、よね?
そっと従兄様の視線の先を追って振り向くけど、前方には義父様のお胸、斜め上には凛々しいお顔。
大人の色気が漂う赤い目とこんにちはしたから、にこっと微笑めば、義父様も優しく見つめ返してくれる。
やっぱり魔王はここにはいないね。
「従兄様?」
「ガウディード?」
「ヒッ、ま、お、叔父上」
従兄様の方へ向き直って声をかければ、義父様も甥っ子の挙動不審が心配になったんだろうね。
一緒に声をかける。
僕の義父様は魔王と違って気遣いのできる優しい人なんだよ。
なのに従兄様の目線が微妙に僕の後ろに向けられ続けて、唇がわなわなしてる。
魔王じゃなくて叔父上って言おうとして噛んだとかかな?
でも今はおかしな様子の従兄様でも説得仲間に引き込まねば!
「従兄様、私に何か頼みたい事があるんだよね?
ね?」
通過する従兄様の視線を僕に向けさせるように、ね?を連呼してみれば、やっと視線が僕と交錯した。
「あ、その、えっと、そう、実は西の辺境侯爵から領地の温泉街計画を持ちかけられていてね。
俺はカフェを出店するんだけど、そこで出す料理をアリーと考えられたらなって。
それに西の辺境領はザルハード国に近いだろう?
そこの領主がアビニシア侯爵から色々聞いたみたいで、隣国ザルハード国第1王子とも面識のあるアリーとも話してみたいらしいんだ。
あの辺一帯はザルハード国と接している関係で流民が侵入しやすいのに、火山帯なのもあって雇用先の提供が追いつかなくて、治安も悪くなりがちなんだよ」
確かに昔のグレインビル領みたいに頻繁な小競り合いがなくても、辺境領はその火種になりそうな流民が侵入しやすいんだよね。
ザルハード国は今、貧富の差が激しくなっている。
それに加えて王家と教会の軋轢が年々ひどくなっていて、どのぞの第3王子みたいに獣人や貧民への差別も年々酷くなっている。
ヒュイルグ国とグレインビル領みたいに、大河を挟んでもいない陸続きな西の辺境領は特に侵入しやすいのは言うまでもない。
かといって税を納めない流民が増えるのは領内の治安悪化を招くし、それこそせっかく友好国として交流していても、あまりに頻繁な他国の国民の侵入ともなれば侵略行為として戦争の火種にもなってしまうんだ。
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