秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

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339.見覚えのある小チンピラと世知辛い世の中

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「おい!
お前、俺様が誰か知らないのか!」

 ····ん?
何だかこの言葉に聞き覚えがあるような?

 もちろん僕は反応せずに、だらんとぶら下がったまま動かない。

 往来のど真ん中でそんな事を叫ぶ声の主は庶民服の中では比較的上質な方の素材で作られた服を着ている。
よく手入れされているのがわかる山吹色の髪に薄い小麦色のお肌をした、小チンピラ風の見覚えがなくもない少年だ。

 それにしても、まだ俺様って言ってるの?!
あちらの世界のラノベでも、僕が人生を終える頃には自分を俺様なんて言う登場人物はほとんどいなかったよ?!

「エリュウ、どうか今はやめて下さい!」

 少し後ろでは橙色の髪の子分ぽい少年が、こちらはどこにでもいそうな庶民服を着てはらはらした様子で止める。

 だけど子分も髪や肌が手入れされたそれなのは隠していないね。

 ふふふ、変装を極めつつある僕の足元にも及ばない少年達を眺めてぶら下がった格好のまま悦に浸る。

「おい、何とか言え!
女のくせに生意気だぞ!」

 残念ながら子分の声かけだけでは小チンピラには効果がないみたい。
だって彼は今、のりのりでカツアゲ中だもの。

 僕のできる専属侍女、ニーアに。

「あなたの事など知った事ではありませんが?
それにここでつまらない差別発言はなさらない方が身の為ですよ?」
「何だと?!
不敬だぞ!
金なら払ってやるから、その白い襟巻きをさっさとよこせ!」

 うん、襟巻きじゃないし。

 彼の往来での女性蔑視的な発言に睨みを利かせる通行人達がいたからか、ニーアにしては珍しく忠告してあげたんだけど、やっぱり彼には無駄だったみたい。

 ため息をついてからニーアは完全に無視して、ど真ん前で通せんぼしてた小チンピラの脇をすり抜けてすたすたと歩き始めちゃった。

「は、おい、待てと言っているだろう!」
「エリュウ、待って下さい!」
「それをよこせ、愚民!」

 何だかやっぱりいつぞや聞いたような二番煎じな言葉を吐く小チンピラは、駆け寄って多分後ろからニーアの首元に手を伸ばしたんだろうね。

 同い年くらいの子分もとうとう駆け寄って小チンピラを直接的に止めに入ったのは視界に映る。

 けど、一足遅かったね。

「んぐっぅ」

 くぐもった声は小チンピラだよ。

 ニーアは振り向きざまに首元に伸ばしたらしい小チンピラの手を片手で払い、もう片方の手で首をガッと前から鷲掴みだ。

 護衛も兼ねる僕の専属侍女はA級冒険者でもあるんだ。

 相手の首を掴んで失神させちゃうのなんか楽々やっちゃうよ。

「エリュウ!」
「さ、参りましょう」

 ドサッと地面に倒れた少年の事なんておかまいなし。
護衛もできちゃう僕の強い専属侍女はそう言うと首にタオルをかけたような格好をして手足をぷらんぷらんしてる僕の白いイタチボディを着ぐるみ仕様の服の上からひと撫でして、再び歩き始める。

 後ろで子分が何か叫んでるけど、もう無視でいいよね。

「どうしてがここにいるんだろう?」
「調べますか?」
「ううん。
関わったらろくでもない何かに巻きこまれそう。
それよりどうして僕が欲しかったんだろうね?
時期的に昼間はもう寒くないのに」
「お嬢様が愛くるしいからではありませんか」
「そんなに確信を持って答えられると照れちゃうよ」

 ニーアの細い首にイタチの胴体を引っかけて脱力していると、ニーアが歩く度に手足がリズム良くぷらんぷらんしてちょっと楽しい。
きっと本来の姿に戻る頃には、スーパーモデルなジェン様もびっくりの、重力に従って手足がスラッと伸びた新生アリーになっているに違いない。

「仕方ありません。
本来のお嬢様も可憐で可愛らしく、最近ではほんのり大人の色気が感じられないことも無いような気がしないでもなくはありませんが、イタチやモモンガなお嬢様は本来のお嬢様とは似て非なる愛くるしさがありますから」
「そ、そう····」

 それは大人の色気はほとんどないって事じゃないよね?!
言葉選びがだいぶ遠回りしてるけど、違うよね?!
僕のお胸は寄せれば寄るくらいには成長してるんだよ?!

 はっ、まさかイタチやモモンガの方が大人の魅力があるのかな?!
え、動物バージョンに僕の大人要素が負けてるの?!

「お嬢様、着きました」
「うわあ、とうとう!!」

 物思いにふけっている間もニーアは歩みを進めていたから、目的地に辿り着いたみたい。

 目の前には本物と比べればミニサイズだけど、お城風の門構えがデデンとそびえてる。

 初めてあの1番風呂を堪能してから、更に半月。
湯治効果なのか少しずつ体調が安定してきて、少し体重も増えた。
ここ数週間は微熱くらいで倒れたりしてないから、アドバイザーとしても機能してるはずだよ。

 そして僕が提案していた大衆温泉施設の一部が完成したんだ。

 僕がイタチ姿なのは、グレインビル侯爵令嬢がうろうろするのはトラブルの元だからってセバスチャンにもニーアにも、ついでに従兄様おにいさまにも大反対されたから。

 まだ施設が完成しきってないし、工事の人達もたくさんいるから大衆温泉施設では僕が人型のまま入るの許してもらえなかったんだ。

 水着まで作って入る気満々だった僕には、青天の霹靂だよ。
世の中ってどこの世界も世知辛いものなんだね。
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