秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

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354.不愉快な声音

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「エリュウ、何をしているの?」

 再び投げかけられる涼やかな、鈴のような····そう、耳ざわりだけは優しげな声音。

 声の主の姿は僕からは見えない。
もちろん向こうからも。
僕が従兄様の背中にぴったりくっついているから。

 声だけなら間違いなく可愛らしいと称されるだろう、少女の声だ。

 けれどを耳にした瞬間、僕の心臓がドクリと嫌な音を立てる。
笑いなんて一瞬で霧散した。
全身が粟立つ。

「アリー?」

 手が急に冷たくなっていくのに気づいたのか、僕を背に庇う従兄様が小声で僕を呼ぶけど、答える余裕はない。
 
 ····色々な感情が胸に一気に渦巻いて············気持ち悪い。

 それでもに意識を向ける。
の声を、もしかしたら悲鳴を、微かにでも聴く為に。

「王じ、コホン、シェリ」
「エリュウ、とっくに約束の時間よ?
私を待たせるの?」

 何かを言い直した彼に、少しだけ拗ねたような声音。

 ············気持ち悪い。

「いや、そんな事はしない。
ただ無礼なを懲らしめていただけだ」
「まあ。
でもエリュウ、こんな所で?
私達はお忍びで来たのに。
見て?
とっても目立ってる」

 僕の正体に気づいたのに平民というのは、彼がアレに誰かを恐れているのを隠したいからかな。

 そんな彼を軽く諌めるような声音。

 ············気持ち悪い。

 周りは確かにざわついてる。
注目を集めてしまったみたいだ。

「あ、ああ。
だがコッヘが····」
「あら、大丈夫よ」

 子分を気にする彼に、軽い感じで無事を告げる声音。

 ············気持ち悪い。

「シェリ、あまり揺らしては····」
「····ん····はっ、王子は?!
え、王女?」
「もう、コッヘ?
今はただのシェリよ。
痛い所はない?」

 王女····じゃあやっぱりアレは····。

 気がついた子分を労るような声音。

 ············気持ち悪い。

「あ、はい。
もしかして治癒魔法を?」
「怪我はしていなかったし、特に問題無さそうだったから魔法は使ってないわ。
揺すっただけ。
あなたは気絶していただけよ。
もう行きましょう」
「待て、シェリ。
この者を····」
「エリュウ、気絶していただけでしょう?
もし、よ。
もし彼らが何かしたとして、何も証拠はないのにどうやって糾弾するの?
ここはあなたの国じゃないから主張するだけでは難しいわ。
むしろあなたが逆に責められちゃう。
そんなのは嫌よ。
それに、ここに来た目的は何?
目立って良いの?」

 どうにかして僕に一泡吹かせたいらしい彼に、諭すような声音。

 ············気持ち悪い。

「····ああ····いや、そうか、シェリの言う通りだ。
シェリ····可愛く賢い····俺の姫」

 熱に浮かされたような、ぼうっとした彼の声音が、胸中を荒れ狂わせる僕の頭の片隅に、ふと引っかかる。

「ほら、行きましょう。
あなた達も、早く行きなさい」
「ああ····シェリは····優しいですね」
「ふっ····そうだな」

 熱に浮かされたような2人の声も今は不快で仕方ない。

 けれどそれよりもこちらに投げかけた声はそんなものじゃないくらい不愉快極まりない。
冷や汗が流れる。

 ············気持ち悪い。

「アリー?
どうしたんだい?
手がとっても冷たいよ。
気分が悪いんじゃないのかい?
ほら、俺に顔を見せて?」

 彼らがこの場からいなくなったからだろう。
今度こそはっきりと僕の名を呼ぶ従兄様の言葉。
でも僕は拒絶するように腕に力をこめて顔を押しつける。

 今は駄目だ。
叫び出したい程に感情が荒れている。
それをどうにか抑えつけるので精一杯。
動けない。

 こんな所で········アレに会うなんて。

 今すぐ追いかけて胸ぐら掴んでと叫びたい。

 けれどまだ駄目だ。
どれだけ感覚を研ぎ澄ましても、あの子の声は聴こえなかった。

 どうしようもなく腹が立つ。
気持ち悪いくらいに、怒りがぐるぐると体を駆け巡っている。

 気持ち悪い、腹が立つ、気持ち悪い、腹が立つ····。

 そんな感情と言葉が頭の中を侵食する。

 ズクリ。

 不意に右目の魔眼が鈍く痛む。
意識が目に逸れた。

 ツキン。

 今度は僅かに。

 まるでしっかりしろと訴えているかのようだ。

 ゆっくりと息を吸い、吐き出す。

 わかっている。
せっかく見つけた盗人だ。
けれど優先しなきゃいけないのは盗人じゃない。

 右目はもう痛まない。
でもちょっと憮然としちゃう。
八つ当たりだけど。

「従兄様」
「ん?」
「アレは誰?」

 わかっていても、確認する。

「ザルハード国第3王子はわかっているね。
彼女はミシェリーヌ=イグドゥラシャ。
留学に来ているイグドゥラシャ国の末王女だよ。
それよりも、ちゃんと教えてくれるかな。
体調が悪いわけじゃないんだね?」

 頷いて腕を放すと、僕の顔を窺うでもなく、上掛けを頭から被せてそっと撫でてくれた。

「だいぶ目立ってしまったね。
馬車も近くに来てるから、邸に戻ろうか」

 話す気力が湧かず、コクリと頷くだけにとどめれば、体に浮遊感。

 いつぶりか忘れるほど珍しく従兄様は僕を抱っこして腕に乗せ、その場を後にした。



※※※※※※※※※
後書き
※※※※※※※※※
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