秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

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362.盤上遊戯と姫様

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「本当に初めてなのかしら?」

 パチ。

「昔同じような遊戯を母様と嗜んでいた事がございますの」

 パチ。

 お互いに手を動かしながら、朗らかに談笑する。

「まあ、それで。
サバキとシノギの腕は私が知る中でも群を抜いて大胆かつ流麗。
グレインビル嬢は素晴らしい策士なのね」

 パチ。

「お褒めにあずかり光栄ですわ。
ですが姫様が未だ手の内をお見せにならず、煙に巻くかのようにそう誘導してらっしゃるからかと。
お強いからこそなせる技。
なかなか気が抜けませんわ」

 僕が姫と呼んだ黒目黒髪の少女のような外見の女性が白の石を置けば、僕もパチ、と黒の石を置く。

 それにしてもこのお部屋にいる人達の、顔面偏差値の高さがハンパない。

 部屋に入った時に、どこの百合の花園かと思っちゃった。

 向かい合う僕達と、僕の隣に座って勝負を静かに見守る艶女のレイチェル様以外に3人いるお姉さん達は皆隙がない。
全員目と髪が黒系統のアジアンビューティーだよ。

 個人的にはその内の1人、熊属のお姉さんのお耳様とお尻尾様に視線がいってしまいそうになる。

 この部屋に通されて初めましてのご挨拶をしてすぐ、あちらの世界の囲碁なるものをしないかと誘われたんだ。

 艶女のレイチェル様はまだルールを覚えきれていないからと辞退。
結局僕と姫様が打ってる。

 少女風って言ってるのは、あちらの世界の日本人と同じで見た目が若く見えるから。

 確か彼女は22才だったはずだけど、十代で通用するんじゃないかな。
アジアンな可愛らしい顔立ちだ。

「まあ、ご謙遜を。
自国を出るのも他国で過ごすのも初めての事だし、ジャガンダ国の貴族は広く嗜むこの遊戯もこの国では見かけず、退屈だったの。
グレインビル嬢が博識な上にお強くて嬉しいわ。
今後もこうして暇があればお付き合いいただけると嬉しいのだけれど?」

 おやおや、さらっと自分のペースに持ちこんで誘いに乗らせようとする所にどこぞの王太子の片鱗を垣間見るぞ?

「何よりこれからの事を思えばこの国で関わる者の事は己の目で見て、感じて、なるべくなら信をおける者を側に置きたいと思っているわ」
「左様ですのね。
ですがまだ私は成人したばかりな上に、体質的な理由であまり自領からは出られず家族に心配ばかりかけている未熟者ですの」

 パチ、パチ、と一定の間隔で音が鳴る。

「ふふふ、グレインビル嬢は本当にご謙遜が上手いのね。
カイヤやあなたとの縁故があるあの2人、それにそちらのレイチェル嬢から色々と聞いていた通りの、その年の令嬢方の中でも早熟で数年後を期待させる方なのね」

 その言葉に隣を軽く見やれば、艶女がにこりと微笑む。
やっぱりこの姫様との面識は既にあったみたいだ。

「あなたの知識はもちろん、能力のある人材を発掘し、適材適所を見分けてその者を然るべき場に配するその手腕。
できればあなたのその力を私の側で発揮してもらいたいと考えているのは当然ではないかしら?
もちろんあなたの家がただの貴族ではない事も、あなた自身が王宮で共に過ごせる程の健康的な体ではない事も存じているわ」

 パチ、パチ、としながら盤上では彼女の誘いにあえてのる。

「けれどこれから長い付き合いになる殿方とその家族が皆グレインビル侯爵家の方々をお気にされてらっしゃるともなれば、私も同性のあなたと1度は話してみたいと思ってしまっても仕方ない事でしょう?
それもちょうど私の女官として召しかかえた者との時間が欲しいとカイヤを通して打診してきたのなら、なおさらに」

 姫様ははにかみながらも話を続けていく。
僕はそれをパチパチしながら大人しく聞いている。

「けれど今後はこうした時間も取れないのでしょうね。
もちろん全ては私の希望だし、あなたを好きに扱おうなんて考えていないわ。
あなたがどのような考えを持つのか、あなたのその人となりをまずは知りたいだけ。
けれど短い時間しか取れなかったの。
それならこの盤上遊戯を使うのが最適よ」

 パチ、と彼女の手元から音がしたところで、僕はふと手を止めて、出されていたお茶を味わう。

 どうしようかな?

「アリー?」

 僕の隣で僕達の手元を興味深そうにのぞきこんでいた艶女のレイチェル様が初めて僕に声をかけた。

「ふふふ、迷っちゃう」

 負けて終わらせても良いし、勝って終わらせても良いのだけれど····。

 そしてそんな状況をわざと目の前のこの姫様は作り出して出方を窺っている。

 わざと誘いに乗ってここまで打ってみたものの、どうするのが正解か····。

「やはりそこで考えるのね」
「策士は姫様の方ではなくて?」
「わざと誘いに乗ってきたのはそちらなのに?」

 くすくすと笑う様は可愛らしいね。

 それよりもやはりお互いに手の内は読め合えてるみたいだ。
だとすれば····。

「ジャガンダ国ではこうした遊戯で互いの真意を確認する事も多いわ。
カイヤの言っていたように、グレインビル嬢はどこか我が国の感性と似通ったものをお持ちなのね」

 あちらの世界の元日本人だからね。

 ふうむ····それなりの時間は過ごせたから、そろそろ終わらせて従兄様達の所に戻ろうかな。

 パチ、と最後の一手を仕掛けた。
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