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388.酒は20歳になってから〜ヘルトside
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「ぼ、く····僕····会いたくて····ミクに····ミオに····それから········」
そこで1度沈黙し、暫くしてから口を開く。
「それから、親友に。
もう会えないってわかってるのに····寂しくなってしまうんだ」
親友の名を口にしようとして、結局やめたようだ。
少し泣いて落ち着いたのか、弱々しく言葉を続ける。
もしかしたら、これは娘の独白なのかもしれない。
「僕が死ぬ時に、決してそれまでの僕を忘れないようにしてって····頼んだからからかな?
そのせいで自我も強く残ってるから····そう感じるのは止められないのかな?
父様に兄様達もいて、ニーアもセバスチャンも、他にも僕の事を気にかけてくれる人達がいるのに····ごめんなさい」
「謝ることじゃないだろう?
お前が寂しさを感じるのは、悪い事じゃない。
罪悪感は感じなくていいんだ」
父様がちょっと寂しくなるだけだ、とは言わないさ。
背中をそっとさすれば、話す事で気持ちを整理しているのか震えは無くなっている。
ギュッとしがみついて独白を続ける娘は、転生する前に誰にそう頼んだのか。
この子の言う前世の自我というものが強いのだろうという事には気づいていた。
基本的に家族の前では自らをを僕と呼ぶのもそのせいだと。
時と場合を選んでいるし、最初からそうだったから前世というのを教えられる前からこの子の個性だと気にもとめていなかった。
そういう理由からなのか。
「納得はしてる。
僕が1度目に死んだ時に、自分で選んだ事だから後悔はしてない。
今世の僕は産まれても搾取されるだけされて····苦しむだけ苦しんで、そのまま死ぬのがほぼ確実だったのも、最初から知ってた」
この子から初めてこことは全く違う世界で生きた前世なるものがあると聞かされた時、だからかとある意味納得したのは今でも記憶に新しい。
この子の知識は私からすれば未知の物だったからだ。
あの壊れた魔具で前世である黒目黒髪の青年へと時を戻した時も、別段驚きはしなかった。
私もこの子の兄達のように、息子になった娘に会えなかった事が心残りなくらいだ。
しかしどんな人生を歩み、何故死んだのか、詳しくは聞いていない。
腕の良い医者として生きて、医者をやめて数年後に事故で死んだとだけ教えられたものの、現在の娘にしか興味が無かった為に、言いたくなったら話してくれるだろうと悠長に構えていたのが些か悔やまれる。
ある程度詳しく聞いていたのは赤子だったこの子が、何故あの霧の神殿に閉じこめられていたのか、何故魔力を宿していないのか、何をさせられていたのか、この子が当時どんな立場にあったのか、だけだ。
「知ってて、ミオの····あの2人の子供の身代わりになった。
どうせ前の人生も2人がいなかったら無意味だったから····それで死んでも良いと思ってたんだ。
だけどそれは····僕に限っての事で。
····あんなに····あんなにたくさん····あんな、死に方····。
なのに皆僕に生きろって····今の僕だって無意味にしか思えないのに····。
精霊王達もそうだ。
あの子····僕のパートナー精霊も····皆自分を犠牲にして········僕を····生かした····。
ど、して?
僕は生きたいわけじゃない。
死にたいわけでもなかったけど、死にたくないとも思ってなかったのに····どうして····」
再びすすり泣き、嗚咽し始めた。
恐らくこれがずっと言えなかった本音だろう。
命をかけて自分を生かした者達がいたからこそ、口が裂けてもを言えなかった、偽らざる本音。
恐らくこの子はいつでも死ぬ覚悟はしていたんだ。
もしかしたら男だった前世の頃からずっと。
だが誰かを犠牲にしてまで生きる覚悟はできていなかった。
それがこの子の生きる根底に虚を作り出している。
死にたかったわけではないのだろう。
しかし生きたかったわけでもない。
なんとも空虚であまりにも脆いこの存在こそが、今は亡き最愛の妻が命を救い、アリアチェリーナと名づけた、あの霧の神殿のどこかに何百年も閉じ込められた赤子の正体····。
小さな肩を嗚咽に震わせる我が子を抱きしめ、骨の浮く背をそっと撫で続けるしかできない己の無力さに、密かな苛立ちを感じた。
どれくらいそうしていたのか。
「探していたあの子を····あの時、僕のパートナー精霊を奪って逃げた盗人を見つけたんだ。
それで····感情が上手くコントロールできなくなってしまって····」
ふいに娘の体が強張り、息が荒くなり始める。
「僕、は····必ず対峙しなきゃいけないのに····どうしても、盗人····アレ、を····んっ、ケホッ、んっぅ、かんがえっ、と····んっ、痛っく····ゴホッ····」
「いい、もういい。
アリアチェリーナ、今は喋るな」
まずい、過呼吸だ。
バサリと娘の頭から上着を被せ、かつての妻がしていたように抱きしめて背中をゆっくりしたリズムで優しく叩く。
「イタイノイタイノトンデケー」
確かこんなまじないをかけていたはずだ。
やがて意識を手放した娘は4日後の早朝、問答無用で領に連れ帰ったのは言うまでもない。
本当は翌日には連れ帰ろうと思っていたが····。
「嫌ー!
家族風呂ー!
レイヤード兄様と約束したのにー!」
幼児返りしてギャン泣きした娘の為、翌日レイヤードとイタチ姿になった娘とで家族風呂を堪能し、するとそこでアクシデントが起きて更に1日延びてしまった。
娘が東の商会からこっそり取り寄せていたという清酒が入った私とレイヤード用の器と、雰囲気を出すのに同じ器に水を入れてた娘用の器を取り違え、娘が人生初の酒を飲んで倒れてしまったのだ。
15歳になれば酒は解禁となるのだが、娘が酒は20歳になってからと頑なに飲もうとしなかった理由が何となくわかった気がした。
そこで1度沈黙し、暫くしてから口を開く。
「それから、親友に。
もう会えないってわかってるのに····寂しくなってしまうんだ」
親友の名を口にしようとして、結局やめたようだ。
少し泣いて落ち着いたのか、弱々しく言葉を続ける。
もしかしたら、これは娘の独白なのかもしれない。
「僕が死ぬ時に、決してそれまでの僕を忘れないようにしてって····頼んだからからかな?
そのせいで自我も強く残ってるから····そう感じるのは止められないのかな?
父様に兄様達もいて、ニーアもセバスチャンも、他にも僕の事を気にかけてくれる人達がいるのに····ごめんなさい」
「謝ることじゃないだろう?
お前が寂しさを感じるのは、悪い事じゃない。
罪悪感は感じなくていいんだ」
父様がちょっと寂しくなるだけだ、とは言わないさ。
背中をそっとさすれば、話す事で気持ちを整理しているのか震えは無くなっている。
ギュッとしがみついて独白を続ける娘は、転生する前に誰にそう頼んだのか。
この子の言う前世の自我というものが強いのだろうという事には気づいていた。
基本的に家族の前では自らをを僕と呼ぶのもそのせいだと。
時と場合を選んでいるし、最初からそうだったから前世というのを教えられる前からこの子の個性だと気にもとめていなかった。
そういう理由からなのか。
「納得はしてる。
僕が1度目に死んだ時に、自分で選んだ事だから後悔はしてない。
今世の僕は産まれても搾取されるだけされて····苦しむだけ苦しんで、そのまま死ぬのがほぼ確実だったのも、最初から知ってた」
この子から初めてこことは全く違う世界で生きた前世なるものがあると聞かされた時、だからかとある意味納得したのは今でも記憶に新しい。
この子の知識は私からすれば未知の物だったからだ。
あの壊れた魔具で前世である黒目黒髪の青年へと時を戻した時も、別段驚きはしなかった。
私もこの子の兄達のように、息子になった娘に会えなかった事が心残りなくらいだ。
しかしどんな人生を歩み、何故死んだのか、詳しくは聞いていない。
腕の良い医者として生きて、医者をやめて数年後に事故で死んだとだけ教えられたものの、現在の娘にしか興味が無かった為に、言いたくなったら話してくれるだろうと悠長に構えていたのが些か悔やまれる。
ある程度詳しく聞いていたのは赤子だったこの子が、何故あの霧の神殿に閉じこめられていたのか、何故魔力を宿していないのか、何をさせられていたのか、この子が当時どんな立場にあったのか、だけだ。
「知ってて、ミオの····あの2人の子供の身代わりになった。
どうせ前の人生も2人がいなかったら無意味だったから····それで死んでも良いと思ってたんだ。
だけどそれは····僕に限っての事で。
····あんなに····あんなにたくさん····あんな、死に方····。
なのに皆僕に生きろって····今の僕だって無意味にしか思えないのに····。
精霊王達もそうだ。
あの子····僕のパートナー精霊も····皆自分を犠牲にして········僕を····生かした····。
ど、して?
僕は生きたいわけじゃない。
死にたいわけでもなかったけど、死にたくないとも思ってなかったのに····どうして····」
再びすすり泣き、嗚咽し始めた。
恐らくこれがずっと言えなかった本音だろう。
命をかけて自分を生かした者達がいたからこそ、口が裂けてもを言えなかった、偽らざる本音。
恐らくこの子はいつでも死ぬ覚悟はしていたんだ。
もしかしたら男だった前世の頃からずっと。
だが誰かを犠牲にしてまで生きる覚悟はできていなかった。
それがこの子の生きる根底に虚を作り出している。
死にたかったわけではないのだろう。
しかし生きたかったわけでもない。
なんとも空虚であまりにも脆いこの存在こそが、今は亡き最愛の妻が命を救い、アリアチェリーナと名づけた、あの霧の神殿のどこかに何百年も閉じ込められた赤子の正体····。
小さな肩を嗚咽に震わせる我が子を抱きしめ、骨の浮く背をそっと撫で続けるしかできない己の無力さに、密かな苛立ちを感じた。
どれくらいそうしていたのか。
「探していたあの子を····あの時、僕のパートナー精霊を奪って逃げた盗人を見つけたんだ。
それで····感情が上手くコントロールできなくなってしまって····」
ふいに娘の体が強張り、息が荒くなり始める。
「僕、は····必ず対峙しなきゃいけないのに····どうしても、盗人····アレ、を····んっ、ケホッ、んっぅ、かんがえっ、と····んっ、痛っく····ゴホッ····」
「いい、もういい。
アリアチェリーナ、今は喋るな」
まずい、過呼吸だ。
バサリと娘の頭から上着を被せ、かつての妻がしていたように抱きしめて背中をゆっくりしたリズムで優しく叩く。
「イタイノイタイノトンデケー」
確かこんなまじないをかけていたはずだ。
やがて意識を手放した娘は4日後の早朝、問答無用で領に連れ帰ったのは言うまでもない。
本当は翌日には連れ帰ろうと思っていたが····。
「嫌ー!
家族風呂ー!
レイヤード兄様と約束したのにー!」
幼児返りしてギャン泣きした娘の為、翌日レイヤードとイタチ姿になった娘とで家族風呂を堪能し、するとそこでアクシデントが起きて更に1日延びてしまった。
娘が東の商会からこっそり取り寄せていたという清酒が入った私とレイヤード用の器と、雰囲気を出すのに同じ器に水を入れてた娘用の器を取り違え、娘が人生初の酒を飲んで倒れてしまったのだ。
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