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404.背徳の味
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「んふふ~、皆さんどうぞ、召し上がれ~」
上機嫌で僕が出したのはドライカレーだよ。
「はぁ、食欲をそそるこの香り……」
修道女がよく被っていそうな頭のベールをバッと取れば、焦げ茶な髪と狸のお耳。
厚手のスカートに隠れるお尻尾様は、爛々と輝く桃色のキュートな目と同じく、きっと目の前に並べた料理への興味津々な心を表すかのように、膨れているはずだ。
「くっ……禁欲を義務とする聖者なのに……」
彼はここの教会の神官。
整ったお顔の栗毛な人属。
隣の狸属の女の子と共に、ここに滞在中は僕のお世話をしてくれている。
「これが噂の試食会……別名、アリー会」
何かな、その別名。
どこで噂になっていたの?!
意味不明な事を呟いたのは、ザルハード国の第3王子、エリュシウェル=ザルハード。
薄い小麦色の肌、山吹色の髪で猫目は同じ暗緑色。
顔立ちは可愛い寄りの整ったお顔だ。
「いただきま~す」
1列に座る彼らの対面で腰かける、僕のかけ声を皮切りに、僕以外の3人は両手を顔の前で組んで、願い事スタイルで食前のお祈りを捧げてからスプーンを持つ。
「「「美味しい……」」」
一口食べて、ほうっ、と息を吐いたかと思うと、上品さから脱しない程度のスピードで三者三様に吸引していく。
「手が……モグモグ……止まらない……モグモグ……」
「パクパク……禁欲が……パクパク……禁欲が……パクパクパクパク」
「城の料理人は……ムグムグ……何をしていたのだ……ムグムグムグムグムグムグ……」
うんうん、凄く小さな呟きも三者三様だけれど、美味しく食べてくれているね。
王子は知らないけど、本来は食事のマナーをかなり厳しく躾けられている彼らだ。
それでも、ついそうなるくらい美味しくて、体に足りなかった栄養を体が欲しているんだろうな。
ここの教会の神官達は皆ガリガリの細身体型ばかりだし、顔色が悪いもの。
このドライカレーには、彼らの宗教が禁止しているお肉は一切使っていない。
なかなかの勢いで無くなる彼らの手元のドライカレーを眺めつつ、僕はマイペースに食べ進める。
それにしても、どうしてこうなっちゃったかな?
義兄様達はここにはいない。
何故ならここは……。
「また美味そうな匂いさせた何かを作ってんじゃねえか」
「んふふ、一緒に食べればいいのに」
「俺は嬢ちゃんの護衛だからな。
だが後で食わせてくれると嬉しい。
賄いってやつだ」
そんなやり取りをしているのは、焦げ茶の髪と目をした熊属の大柄な男性がそう言うと、僕にニッ、と笑いかける。
「ふん、誘拐犯が図々しい」
いつも通りの無表情なお顔で、とっても不機嫌そうな声を出したのは、僕のできる専属侍女。
薄茶髪、薄灰色の目をしたニーア。
「もちろんベルヌもニーアも賄いで後から絶対食べて!
体にも良いんだから!」
そう、元誘拐犯で現護衛な彼は、ベルヌ=アルディージャ。
「お嬢様……」
このやり取りをすると、ニーアはいつも残念な何かを見るように僕を見つめるけれど、気にしない。
何ならここから帰ったら間違いなく僕は家族から叱られるのも分かっているけれど、あえて今は気にしない。
気にしたら負ける。
……絶対ヘコむ。
とにかく無事にここから帰還する事だけを今は考えよう。
そう、ここは現在進行形で半分くらい内戦状態に突入しているザルハード国。
そしてそうなる原因となったこの国の2大勢力の1つである、聖フェルメシア教会の支部に僕はお邪魔している。
「グレインビル嬢、その……おかわり……」
「聖女ティキー。
はしたないですよ……気持ちは良くわかりますが……ええ……できるなら……私だって……」
「くっ……私も……いや、我慢を……」
いつの間にか空になった器を見ながら、これまた三者三様の反応だ。
「私がここに来る条件の1つは、食材を好きに使って料理実験して良い、があったてしょう。
実験台の人達に遠慮や我慢をされる方が、きっと困っちゃうよ?」
そう言ってニーアに目配せすれば、できる専属侍女は追加をささっと空の器にサーブしていく。
「「「背徳の味……」」」
いつの間にかとっても仲良しになった3人は同時にそう呟いて再びスプーンを動かし始めた。
それを眺めつつ、内心では少しため息を吐いてしまう。
どうしてこうなったんだろうか……。
ふと、ここに来る前のゴタゴタを思い浮かべた。
※※後書き※※
お待たせしました、本日より新章開始です。
お待ち頂いた方も、たまたま目にした方も、お付き合いいただけると嬉しいです。
暫くは毎日お昼頃に更新できると思います。
また、これまで1話2,000文字を目処に作っていましたが、1,600文字以上から作るのが1番話を区切りやすく、短時間にサクッと読んで貰いやすそうなのでそちらに変えています。
こちらも本日より更新再開しております。
【稀代の悪女と呼ばれた天才魔法師は天才と魔法を淑女の微笑みでひた隠す~だって無才無能の方が何かとお得でしょ?】
こちらは毎日更新中です。
【太夫→傾国の娼妓からの、やり手爺→今世は悪妃の称号ご拝命~数打ち妃は悪女の巣窟(後宮)を謳歌する】
よろしければご覧下さいm(_ _)m
上機嫌で僕が出したのはドライカレーだよ。
「はぁ、食欲をそそるこの香り……」
修道女がよく被っていそうな頭のベールをバッと取れば、焦げ茶な髪と狸のお耳。
厚手のスカートに隠れるお尻尾様は、爛々と輝く桃色のキュートな目と同じく、きっと目の前に並べた料理への興味津々な心を表すかのように、膨れているはずだ。
「くっ……禁欲を義務とする聖者なのに……」
彼はここの教会の神官。
整ったお顔の栗毛な人属。
隣の狸属の女の子と共に、ここに滞在中は僕のお世話をしてくれている。
「これが噂の試食会……別名、アリー会」
何かな、その別名。
どこで噂になっていたの?!
意味不明な事を呟いたのは、ザルハード国の第3王子、エリュシウェル=ザルハード。
薄い小麦色の肌、山吹色の髪で猫目は同じ暗緑色。
顔立ちは可愛い寄りの整ったお顔だ。
「いただきま~す」
1列に座る彼らの対面で腰かける、僕のかけ声を皮切りに、僕以外の3人は両手を顔の前で組んで、願い事スタイルで食前のお祈りを捧げてからスプーンを持つ。
「「「美味しい……」」」
一口食べて、ほうっ、と息を吐いたかと思うと、上品さから脱しない程度のスピードで三者三様に吸引していく。
「手が……モグモグ……止まらない……モグモグ……」
「パクパク……禁欲が……パクパク……禁欲が……パクパクパクパク」
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うんうん、凄く小さな呟きも三者三様だけれど、美味しく食べてくれているね。
王子は知らないけど、本来は食事のマナーをかなり厳しく躾けられている彼らだ。
それでも、ついそうなるくらい美味しくて、体に足りなかった栄養を体が欲しているんだろうな。
ここの教会の神官達は皆ガリガリの細身体型ばかりだし、顔色が悪いもの。
このドライカレーには、彼らの宗教が禁止しているお肉は一切使っていない。
なかなかの勢いで無くなる彼らの手元のドライカレーを眺めつつ、僕はマイペースに食べ進める。
それにしても、どうしてこうなっちゃったかな?
義兄様達はここにはいない。
何故ならここは……。
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「んふふ、一緒に食べればいいのに」
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「ふん、誘拐犯が図々しい」
いつも通りの無表情なお顔で、とっても不機嫌そうな声を出したのは、僕のできる専属侍女。
薄茶髪、薄灰色の目をしたニーア。
「もちろんベルヌもニーアも賄いで後から絶対食べて!
体にも良いんだから!」
そう、元誘拐犯で現護衛な彼は、ベルヌ=アルディージャ。
「お嬢様……」
このやり取りをすると、ニーアはいつも残念な何かを見るように僕を見つめるけれど、気にしない。
何ならここから帰ったら間違いなく僕は家族から叱られるのも分かっているけれど、あえて今は気にしない。
気にしたら負ける。
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そう、ここは現在進行形で半分くらい内戦状態に突入しているザルハード国。
そしてそうなる原因となったこの国の2大勢力の1つである、聖フェルメシア教会の支部に僕はお邪魔している。
「グレインビル嬢、その……おかわり……」
「聖女ティキー。
はしたないですよ……気持ちは良くわかりますが……ええ……できるなら……私だって……」
「くっ……私も……いや、我慢を……」
いつの間にか空になった器を見ながら、これまた三者三様の反応だ。
「私がここに来る条件の1つは、食材を好きに使って料理実験して良い、があったてしょう。
実験台の人達に遠慮や我慢をされる方が、きっと困っちゃうよ?」
そう言ってニーアに目配せすれば、できる専属侍女は追加をささっと空の器にサーブしていく。
「「「背徳の味……」」」
いつの間にかとっても仲良しになった3人は同時にそう呟いて再びスプーンを動かし始めた。
それを眺めつつ、内心では少しため息を吐いてしまう。
どうしてこうなったんだろうか……。
ふと、ここに来る前のゴタゴタを思い浮かべた。
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