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429.立太子の任命書〜ゼストゥウェルside
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「教会へ……母上の元へ参ります」
「ならぬ。
これが最良なのだ。
王妃の誇りを、母として息子の仇を打つ事を諦めさせる権利はそなたにない。
行けばそなたを廃嫡する」
「ならばそれで構いません」
アドライド国へ留学しなければできなかったであろう、陛下の顔を正面から見据える。
こうして改めて拝顔すると、随分老けたなと感じた。
手の届かない存在だった父親が、思っていたより近くにいるように感じるのは、きっとあの国でしごかれ……いや、鍛えられたからに違いない。
「誰も犠牲にならない治世はないのかもしれません。
しかし例え1人でも誰かを犠牲にするのを良しとする王に、民がついてくると私は思いません。
それに、私には隣国であるアドライド国の他にもブランドゥール国、オギラドン国、その他の諸国への伝手がある。
王族を止めても、我が国の民を豊かにする一助となれるでしょう」
だからこうして国王と駆け引きできるまでになったのかもしれない。
少なくとも王位継承権持ちの中で、私ほど他国との繋がりのある者はいない。
「随分と大きく出るようになったものだ」
武骨な顔が歪む。
どうやら私の顔立ちは母親似、色は父上から引き継いだのだなと、こんな時なのにぼんやりと思う。
「はい。
父上の息子ですから。
母上の事は生家の件も含めて調べてきました。
何故このようになったのかも、恐らく真実に近い推察はしております。
父上がこれまでに私達母子に関心を示さないように見えて、その実、守って下さっていた事も」
留学中、ギディアス王太子に政治について学んだ。
師匠やルドルフからは戦いと心構えを叩きこまれた。
あの学園に留学して1年目。
アリアチェリーナ=グレインビル嬢へ不用意に絡んだ私は、彼女を守る者達にこてんぱんに、してやられた。
闇の精霊殿を喪いかけ、まさかの光の精霊王まで出てきて、我が国の歪みを肌で感じた。
悪魔が関わっているだなどと、とんでもない爆弾を落とされるとはな。
だがあそこで決して諦めず、教えを請うのに頭を下げて、本当に良かったと思う。
だからこそ、両親に自分が如何に守られていたのか気づけた。
そして異母弟がどれほど気の毒な存在だったのかも……。
今の私は、王に拘っていない。
ただ民達を守りたい。
それだけだ。
もちろん民を守るなら、王になるのが1番良い。
しかしならないのなら、それでも良い。
そう思えるのは、手を貸してくれる仲間がいるからだ。
それがこんなにも心強いと思えるようになれた事に、心から感謝する。
「どうやら留学させて、良かったようだ。
視野も伝手も随分と広がって……頼もしくなった」
安堵したように、感慨深そうに、父上は息を吐いた。
途端にその顔に、疲労が色濃くなる。
随分と気をもまれていたんだろう。
「王妃には、3人の護衛がついていると聞いたな」
「はい、全員が女性だと聞き及んでおります」
「そうだ。
外見はどうあれ、皆キレ者が揃っている。
王妃が真に動くまでは、間違いなく安全であろう」
「それは……いえ、行って参ります」
何だろう、もの凄く含みを感じる言い方だな。
外見はどうあれって、普通にどんなのか気になる。
もちろん行けばわかるだろうし、女性の外見を詮索するのはどうかと思うから、一々聞かないが。
「うむ。
行って、儂の唯一の正妃を助けてやって欲しい。
ゼストゥウェル王太子よ」
懐から書状を出す。
王印の押された、立太子の任命書だ。
「……もちろんです」
「公示はこれより1週間後。
引き延ばせるのは、ここまでであろう」
敵地となる教会にいる以上、片をつける前に公示されれば、私達は危険に曝されると暗に告げている。
もちろん何かしらの場面では、この任命書が有利に働く事もある。
『ゼスト』
「闇の精霊殿?」
常に親指につけてある指輪から、少年が現れる。
ずっと静観していたが、どうされたのか。
「そうか、この方が。
本当に、我が国にお戻りになられていたとは……がっかりされましたか?」
そう言えば、父上が彼の姿を直接見るのは、初めてだったな。
戻るとは、がっかりするとは、どういう意味だろう?
※※後書き※※
ご覧いただきありがとうございます。
本日は同時進行中の別作品【稀代の悪女と呼ばれた~】にて、書籍化他お知らせ記念SSを投稿しております。
よろしけばそちらもご覧下さい。
「ならぬ。
これが最良なのだ。
王妃の誇りを、母として息子の仇を打つ事を諦めさせる権利はそなたにない。
行けばそなたを廃嫡する」
「ならばそれで構いません」
アドライド国へ留学しなければできなかったであろう、陛下の顔を正面から見据える。
こうして改めて拝顔すると、随分老けたなと感じた。
手の届かない存在だった父親が、思っていたより近くにいるように感じるのは、きっとあの国でしごかれ……いや、鍛えられたからに違いない。
「誰も犠牲にならない治世はないのかもしれません。
しかし例え1人でも誰かを犠牲にするのを良しとする王に、民がついてくると私は思いません。
それに、私には隣国であるアドライド国の他にもブランドゥール国、オギラドン国、その他の諸国への伝手がある。
王族を止めても、我が国の民を豊かにする一助となれるでしょう」
だからこうして国王と駆け引きできるまでになったのかもしれない。
少なくとも王位継承権持ちの中で、私ほど他国との繋がりのある者はいない。
「随分と大きく出るようになったものだ」
武骨な顔が歪む。
どうやら私の顔立ちは母親似、色は父上から引き継いだのだなと、こんな時なのにぼんやりと思う。
「はい。
父上の息子ですから。
母上の事は生家の件も含めて調べてきました。
何故このようになったのかも、恐らく真実に近い推察はしております。
父上がこれまでに私達母子に関心を示さないように見えて、その実、守って下さっていた事も」
留学中、ギディアス王太子に政治について学んだ。
師匠やルドルフからは戦いと心構えを叩きこまれた。
あの学園に留学して1年目。
アリアチェリーナ=グレインビル嬢へ不用意に絡んだ私は、彼女を守る者達にこてんぱんに、してやられた。
闇の精霊殿を喪いかけ、まさかの光の精霊王まで出てきて、我が国の歪みを肌で感じた。
悪魔が関わっているだなどと、とんでもない爆弾を落とされるとはな。
だがあそこで決して諦めず、教えを請うのに頭を下げて、本当に良かったと思う。
だからこそ、両親に自分が如何に守られていたのか気づけた。
そして異母弟がどれほど気の毒な存在だったのかも……。
今の私は、王に拘っていない。
ただ民達を守りたい。
それだけだ。
もちろん民を守るなら、王になるのが1番良い。
しかしならないのなら、それでも良い。
そう思えるのは、手を貸してくれる仲間がいるからだ。
それがこんなにも心強いと思えるようになれた事に、心から感謝する。
「どうやら留学させて、良かったようだ。
視野も伝手も随分と広がって……頼もしくなった」
安堵したように、感慨深そうに、父上は息を吐いた。
途端にその顔に、疲労が色濃くなる。
随分と気をもまれていたんだろう。
「王妃には、3人の護衛がついていると聞いたな」
「はい、全員が女性だと聞き及んでおります」
「そうだ。
外見はどうあれ、皆キレ者が揃っている。
王妃が真に動くまでは、間違いなく安全であろう」
「それは……いえ、行って参ります」
何だろう、もの凄く含みを感じる言い方だな。
外見はどうあれって、普通にどんなのか気になる。
もちろん行けばわかるだろうし、女性の外見を詮索するのはどうかと思うから、一々聞かないが。
「うむ。
行って、儂の唯一の正妃を助けてやって欲しい。
ゼストゥウェル王太子よ」
懐から書状を出す。
王印の押された、立太子の任命書だ。
「……もちろんです」
「公示はこれより1週間後。
引き延ばせるのは、ここまでであろう」
敵地となる教会にいる以上、片をつける前に公示されれば、私達は危険に曝されると暗に告げている。
もちろん何かしらの場面では、この任命書が有利に働く事もある。
『ゼスト』
「闇の精霊殿?」
常に親指につけてある指輪から、少年が現れる。
ずっと静観していたが、どうされたのか。
「そうか、この方が。
本当に、我が国にお戻りになられていたとは……がっかりされましたか?」
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