秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

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462.卑怯な臆病者〜ゲドグルside

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「もし原材料が無くても、貴女の心臓が悪くなる前に、また体の時間を巻き戻せば良いだけでは?」

 そう、この女は体の時間を巻き戻している。
あの魔具に異常がない限り、永遠にも等しい時間を手に入れたようなもの。

「いつまでそれができるか、わからないからよ。
特にこっちに来てから、どうしてか魔具の調子も良くないの」

 懐から古びた懐中時計を取り出し、瞳に剣呑な光を宿らせる。
苛立ちを隠すつもりはないようです。
どことなく余裕がないのでしょうか?

「いつまで元の持ち主を……」

 そうして思わずでしょうが、小さく呟きました。
獣人や魔属ならばぎりぎり聞こえる程度の、小さな声です。

 元の持ち主、ですか。
気になりますねえ。

「力が弱くなっているのはともかく、私を拒否しつつあるみたい。
これが続くようなら、廃棄するしかなくなるわ」

 恐らく呟きは聞こえていないと、そう思ったようです。
魔族とはいえ、弱体化しているのか身体能力は非力な人属とそう変わりません。
もちろん聴覚も。

 誤解を親切に解いて差し上げる必要は、私にありませんからねえ。
わざと変えられた話題に、乗っておきます。

「ほうほう?
魔具が拒否ですか。
それは興味深い。
やはりその中の石が、精霊石だからでしょうか?
まるで意志があるかのようです。
廃棄するなら是非、私に譲っていただきたいものです。
壊れしまえば研究で、私がどれだけ分解しても良いでしょう?」

 おやおや?
途中から顔を顰めましたか?

「ふん、喋り過ぎたわ。
大体、そんな事を貴方が知っても、何も変わらないし、譲る?
壊れたって、これを誰かに渡すつもりはないの。
どうせ私にしか使えないのだから、諦めて」

 そう言い捨てると、口を噤んでそっぽを向かれてしまいました。

 機嫌を損ねたようですが、何が気に障ったのか……ふむ……ああ、意志を持った、の下りですか?
なるほど、なるほど。
魔具には本来、意志は宿りません。
しかしその懐中時計は違うという事かもしれません。

 しかし潮時です。
この女の性格上、こちらが執着した物は決して手放しません。
引き際を見極めて接するなど、本当に面倒ではありますが……。

「それは残念です。
気が変われば、いつでも譲って下さいね。
レプリカも紛失してしまいましたし」
「さあ、どうかしら。
大体レプリカとはいえ、アレは良くできていたのに、紛失するなんて。
でも所詮はレプリカでしかなかったから、どちらでも良いけど。
そろそろ行くわ。
ベルヌ、わかっていると思うけど……」
「ああ、わかってる。
だが事が終われば、本当にジルコにかけたその魔法は解くんだな」
「もちろん」

 嘘でしょうね。
何くわぬ顔で即答する女には、ほとほと呆れてしまいます。
うっかりため息が漏れ出そうになりましたよ。

 どんな鑑定魔法でも、恐らくは視る事ができない、ジルコに絡むあの魔法陣と蔦。
私の中の魔族の血もあってか、薄っすらと見えるそれは、以前視た時には鮮やかな桃色でした。

 しかし今は全て赤黒く変色し、あの女からの魔力の供給も、既にない。
蔦は全身に絡まって、体の深部まで食いこんでいます。

 魅了魔法が魅縛魔法に移行されてしまった以上、彼女はもう……。
やはりそれについては、どうにも許す気にはなれません。
私にも人並みの感情があったのでしょう。

「だから、ちゃんと協力してちょうだい。
今はグレインビルの妖精を捕らえて、魅了するのが先決なの。
魔力がないのだから、魔法にだってすぐにかかるはず」
「おい、あの令嬢を傷つけるのは許さねえぞ」
「あら、随分と肩入れするのね?
情でも移った?
それとも、どこかの第2王子のように、惚れたとでも?」

 声に含まれる剣呑さが増していますね。
陥落できなかった女のプライドでも触発されてしまったのでしょうか?

 しかしベルヌもあまり徴発しないで欲しいものです。
今は何かしらの焦りから、余裕がなく行動に粗が出ていますが、基本的にこの女は、用意周到で勘も悪くない、卑怯な臆病者です。

 警戒心から粗が無くなると、後々裏をかくのが難しくなってしまいます。
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