太夫→傾国の娼妓からの、やり手爺→今世は悪妃の称号ご拝命〜数打ち妃は悪女の巣窟（後宮）を謳歌する

１.

５.最期は爺

「あうあうあうあー」

（ああ、瞼が重いですー）

「ふふふ、もうおねむちゃんだね。
爸爸パパの寝かしつけは師範並みさ」

　まったくもってこの父親、どんどんと手慣れてきて、今では揺り籠より余程心地良いリズムと揺れを体で体現するようになっております。

　これはさっさと前世の話を終えてしまわねば。

　クルチザンヌのパトロンは大体１人から３人程度が多かったようです。
仮に複数いらしても後援者同士が認め合わなければ私娼は長続きしませんし、初代の頃に伝え聞いた異国でも、２代目のかの国でも、大和の国とは価値が真逆。

　公娼よりも私娼の方が地位が高く、多くの教養、それもパトロンの地位が高い程に政治や経済に精通していなければ捨てられ、やがては公娼となってしまうのです。

　私わたくしは下調べと前世の太夫だった頃の知識、何より初志貫徹とばかりの覚悟を胸と頭に携えて、まずは花街の娼館へまいりました。
太夫時代でいうところの姐さんを見つける為ですが、そこで働く為ではございません。

　当時の私にとってなけなしの大金をはたき、客として公娼である娼妓達と交流を持ち、彼女達の上にあたる私娼への伝手つてを取りつける為です。

　娼館で働けば間違いなく公娼になってしまいますから、それでは家族を守れませんもの。

　もちろん目論見は成功しましたが、詳しくは割愛します。
ここだけでも話せば半日はかかりますもの。

　私娼と縁を持ち、彼女達の開く沙龙サロン……小さな茶会や学士達の交流の場まで幅広い会でしたけれど、そこで身分の高いパトロンとのご縁を繋げてまいります。

　それによって結果的には戦争の回避に一役買いましたから、人とのご縁は馬鹿にできませんね。

　他にも孤児院の運営、商会の設立等を行い、私娼としては十分に羽根と羽振りを伸ばして羽ばたいた生き方をしたものです。

　私、なかなか頑張りましたでしょう。

　しかし結局は前世の太夫の頃の延長線。

　ぶっちゃけ通算何十年もやっていれば飽きませんか？

　私が飽き始めた頃、よりによってパトロンだった自国や他国の国王陛下をはじめとして、多くの高位貴族の殿方達から公娼ではなく立場ある方にのみ認められる公妾・や妻を望まれるように。
私娼が公妾なんて、洒落にもなりません。

　挙げ句には高価な贈り物競争に、妻たる御婦人方を蔑ろにされる最低な殿方まで……。

　引き際は大事ですし、囚われるならば前世で慣れ親しんだ廓くるわのような場所が良いと、娼館の娼妓、つまりは公娼へと転身致します。

　しかし高位貴族だけでなく国王陛下までが娼館に列を成すという不祥事案件が……。

　とうとう国が傾きそうになり、傾国の娼妓とまで呼ばれるようになって、ようやく決意したのです。

　そうだ、私を殺してしまおう。

「飽きた」

　誰に愛を囁く事なくそう告げ、娼妓たる私を殺して次なる計画へと移りました。

　私の死によって熱が冷めた花街は閑散としましたが、むしろ好都合。

　買っておいた花街の中でも随一のボロ娼館に移り住み、名もなき爺に特殊な化粧で変身。

　そこからは、いえ、そこからも、私は今振り返れば実は残り少なかった２代目第２の人生を好きに謳歌致しました。

　太夫たゆう時代の知識もあり、運営は問題もなく、がっぽり儲け、やり手爺として名を馳せた頃、拾った孤児に娼館を押しつけて爺は老衰死した体ていに。

　海を渡り異国の地へ。

　で、最期は事故に巻きこまれて呆気なく40年程の人生に幕を下ろしたのです。

「ふみゅ……。
あうあああ、はわはわはわは、わうわわわ」

（ふむ……。
生ききった、前の人生、悔いはなし）

　ふふふ、転生したからこそ振り返る前世を俳句にしてみましたわ。
まだまだヤワヤワ脳ではここが限界ですね。

「んう～」

　あら、ひとまず話し終えて気が抜けたのか、妙な唸り声が出ました。

「ふふふ、可愛い滴雫ディーシャ。
パパがあらゆる害虫から守ってあげるから、安心してお眠り」

　左様ですね。
１度寝ないと瞼を開くのはもう難しそう……。

　今世も両親に愛されているというのは……何とも心地良いものです。

　でも……害虫って……何で、す？
お布団でしたら……天日、干しに…………スヤァ。



※※後書き※※
ご覧いただきありがとうございます。
いきなり短いプロローグ始まりで申し訳ない。
２日程は連続投稿していくのでご容赦をm(_ _)m
本日は５話投稿しています。
カクヨムにて先行投稿していたのが10万文字超え、向こうは新章開始したので、こちらでも投稿開始します。