太夫→傾国の娼妓からの、やり手爺→今世は悪妃の称号ご拝命〜数打ち妃は悪女の巣窟（後宮）を謳歌する

３.

51.四神相応の地と四神と泥んこ情念

「特に私は他の貴妃や嬪に喧嘩を売っていますからね。
誰かさんの純愛とやらの為に」
「ふぐっ」

　食らえ罪悪感、とばかりに言葉を続けます。

「少なくともその者のように盾になるなり、何かの異常に警告を発するなりできる護衛は今この時からでも必要なのです。
陛下もここに居続けたり、逆にここを出てすぐに私が襲われて怪我ばかりか話せぬ仏になれば困るのでは？
せっかく最愛の妻を引き留める光が差したのですよ？」
「ふぐっ……腹黒い小娘め。
どうあってもその者を手中に収めると言いたいのか」

　腹黒とは失礼な。
自分の価値を高めた上で欲しい物をおねだりするのは駆け引きというのですよ。

　丞相はにこやかに幼馴染の顔を眺めていますね。

「ええ。
中途半端な情と後ろめたさから陛下の数ある兵や駒を寄越そうとなさらぬようにしていただかないとなりませんし」
「ふぐっ」
「これでも不特定多数への餌ですからね。
完璧な護りではこの者のような素敵な駒を得る事も無かったでしょう」
「わざと隙を作って誘い出すと？」
「ええ。
しかし何より問題なのは今朝拝見したお付きの方々の内の半数が、信を置くに値しない私欲の光を目に宿らせていらっしゃった事です。
わ・ざ・と・寄越して頂くのは構いませんが、それは私の手の者がこちらに来てからにして下さい。
大方、四公の方々が推薦した者達が混ざってらしたのでしょう？」
「ふぐっ……政とはそのような家門同士の繋がりや謀りなくして進まんものだ」
「何をキリッとした顔でそれらしい事仰っているんです。
皇貴妃のお付きの者との摩擦を無駄に助長してらっしゃっているではありませんか。
故にそうした者も排除しようとお考えなのでしょうに」
「ふぐっ……何故あのひと時でそこまで……」
「人は怒れる時程本性が出るものですが、気に入らぬ者が苦境に立つのを近場で見れた時にも出るものですよ」
「ふぐっ……もう何も言えぬ……」

　ふぅ、項垂れた陛下に幾らか溜飲が下がりました。

「良い顔になりましたね。
それで、貴女の言う四神相応の地とは？」

　良い顔とは、どちらに向けた言葉なのでしょうね？

　そういえばまだそちらを説明していませんでした。

「まずは背に山を、左手に水流を、右手に通りを、目の前に澄んだ池を持ってくるのが基本です。
そしてそれぞれの四神の司る意味もなぞらえます。
玄武は始まりであり山、山から川が流れて龍が宿り、山の木を切り倒して道を拓き人が行き来する事で金が循環して白虎が凶を抑え、池に良質な気を宿らせて鳳凰を呼び、中央に富を還元する。
それにより中央には時に麒麟や黄竜が宿り、子々孫々反映をもたらす。
少しばかり噛み砕いておりますし、細かな意味は色々ございますが、ざっくりそんな感じです」

　殿方２人の感心した顔から、やはりこの話は伝わっていないと確信します。

「しかしこの後宮は既に始まりの玄武からして機能しておりません。
そして更にこの北の宮は皇城全体でいえばほぼ中央。
麒麟も黄竜も招けませんから、少なくとも城の内側は荒廃していくでしょう」

　難しい顔をするという事は、心当たりがあるようです。

「ですから宮を１つ廃宮するならば貴妃を配置転換して西の主を北に移し、それから西の宮を壊して更地にすべきだったのですよ。
更地にして通路にでもすれば嫌でも人はそこを通りますからね」
「貴女は何故金の延べ棒を使っていたのです？」

　破落戸達のどすこい共演の時のお話でしょうか？

「あの場所、実は少し前に子猫ちゃんの泥んこ情念汚れを洗い流した場所でした。
立ち入らないよう石で囲っておりましたが、あの破落戸達には見えていなかったようです。
面倒だし勘なので経緯は割愛しますが、子猫ちゃんは西の宮で生まれたと見受けました。
白虎は金気を持ちますし、西で生じた子猫ちゃんの泥んこ情念汚れなので、試しに金の延べ棒で叩いて正気を取り戻せば良いなと思っただけですよ」
「泥んこ情念……」

　何か言いたそうな顔で陛下は私を見ましたが、言ってやりたいのは私の方ですからね？

　子猫ちゃんを水でベショベショにしたのは五行相生を狙ってですよ。