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95.ホネホネ煎餅と魔力操作のコツ

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「ビックリして危うく剣を投げ捨ててしまいそうでしたよ。
剣に雷が落ちていたら死んでましたから。
でもまあ、雷も天が元気になる兆しであったようですし、その後は運良く天から慈雨が注ぎました。
清浄なる木の気を育み、咲き始めた梅がそれを後押しして、本来の東の木の気がほんのり戻ったのです」

 もちろん視えていた事象の全てを話す事は致しません。
同じように視えていない方に言っても、伝わらない事が多々あります。
むしろ嘘つき呼ばわりをされたり、信じて頂けてもその後やけっかが望む事にならず、責められた事もございます。
そう、初代の頃より。

 視えない方には、むしろ知らぬ方が良い事もあるようです。

「まだ始まりに当たる北の宮ここが清浄と呼ばれる状態ではありませんし、生じた気は、若葉のようなもの。
このまま時間と共に育つのを願いつつ、後は夫婦2人で数週に1度、あの場の2つの宮を、心穏やかに、万物に感謝を捧げながら散策でもすれば気は成長し、自ずと巡るのではないかと」
「何故すぐにこの宮に取りかからないのだ?
他の宮ならともかく、この宮ならすぐであろう?」

 陛下の疑問は当然かもしれませんね。

「以前にも申し上げた通り、ここは後宮の北宮であると同時に、皇城の中央。
水と土にあたる場所ですから、相剋の関係となるのですよ。
少しずつは進めておりますが、どう影響を及ぼすか見極めながら、どちらの気を取り入れるか、もしくは違う気を混ぜて中和するかを考えていかねば……」
「ガウニャ~ゴ」
「えっ?!」

 皇貴妃がビクッと体を竦めて思わず隣の陛下の手を握りしめました。

 陛下は既に何度か黒い靄に視えるらしい子猫ちゃんと接する私を見ていますから、慌てません。
むしろ役得的ドヤ顔です。
夫婦仲良き事は美しきかな、ですね。

「幸い、1番真っ先に良し悪しの影響を受けやすい子猫ちゃんがここには頻繁にまいります」
「……こ、子猫?
黒い靄の妖では……」
「可愛い子猫ちゃんですよ。
やっと元の大きさに戻りましたね」

 ゴロゴロと喉を鳴らしながら、私の膝にゴロンと寝転がりました。
可愛らしいですね。
お背中ナデナデしてあげます。

 凜汐リンシー元貴妃や梳巧玲シュー チャオリンとあの井戸で対峙する少し前から、養蚕場の時のように再び大きくなり、なかなか元の子猫ちゃんに戻りませんでした。
重さもあったので、あの頃は膝に頭を乗せて撫でていると、足が痺れてしまって困ったものです。
でも狼子猫ちゃんも、もふもふ度が増して良かったですが。

 あの一帯の宮が清浄な状態になったお陰か、今は膝から少しはみ出すくらいで乗れるようになって、足の為にはようございました。

「この子が人骨をあの井戸から拾って私に贈ってくれたから、井戸への遺棄に気づいたのです。
あ、もちろん私は骨、食べてませんよ」
「人骨を……贈る……」
「ちゃんと雛々チュチュが井戸に落とされたついでに、元の場所に返していますから、皇貴妃は安心して下さい。
子猫ちゃんは隠し通路も使って道案内を鬼達にしてくれて、お手柄でした。
ほら、骨をから炒りしたホネホネ煎餅ですよ」
「ガウニャ~ゴ」
「ホネホネ……」
「鳥の骨で、人骨ではありませんよ」
「え、ええ、そうね」
 
 皇貴妃は目を白黒させておいでですね。
こんなに愛らしい子猫ちゃんを黒い靄としてしか視られないとは……お可哀想に。

「何故そのように同情的な目で……」
「ふふふ、ついうっかり。
癒やし系子猫ちゃんなのにと思っただけですよ」
「そ、そう……癒やし系……」 

 ふと殿方達を見やれば……子猫ちゃんを見つめておりますね?
瞳に魔力を纏わせて視ようとなさっている?

「黒い虎柄の……尻尾?」
「靄に……黒い蝙蝠の翼……」

 陛下、丞相の順に呟きました。
中途半端には視れたのでしょうが……。

「まだまだですね。
早く愛らしい子猫ちゃんの姿が視えるようになって下さいね」
「ああ、そういう事か」
「そのようですね、陛下」

 殿方達は魔力操作のコツが掴めたようです。

 ですが私の真横に立って虚ろな表情に戻った先人の方には目を向けません。
私と陛下達とで何かが違うのか、それとも妖と先人とで違いがあるのか、その両方か。

 どうなのでしょうね?
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