【完結】女伯爵のカレイな脱臭領地改革〜転生先で得たのは愛とスパダリ(嬢)!?

嵐華子

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12.洗髪伝授

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「「「脱臭領地改革?」」」

 ウォッシュナッツで髪を洗うようになって数日。

 石鹸洗髪と違って、何もつけなくともサラサラ感を出した髪で登場した私。

 集まって貰ったお婆……んんっ。
三人のマダム――バルハマダム三人衆に、まずは領地改革の名前を公表した。

 ちなみにバルハマダム三人衆は、マルク=コニーが治めるここ、バルハ領内に点在する村の住人だ。

 バルハ領内には、最大20人規模の小さな村と、40人規模の大きな村が幾つかある。

 バン爺は長生きする内に、大きな村を三つ束ねる村長役を担うようになった。
三つの内、二つの村で村長役をしていた爺婆が亡くなってしまい、成り行きで三つ束ねている。

 大きな村が三つ集まって助け合いをしているからか、領内の村別小麦生産収穫量も、一番多かったりする。

 そんなバン爺にお願いして集まって貰ったのが、バン爺より少し下の世代になる、お婆……んんっ。
バルハマダム三人衆だ。

「てかマルク坊、融資してもらう話はどうなったのさ?」
「そ、それは……」

 キツイ顔立ちのエリー婆が私をジロリと睨む。

 言葉が詰まってしまいましたわ。

「失敗したんだね、マルク坊」
「ふぐっ」

 優しげな顔立ちのリリ婆。
顔は笑っているのに、目が笑っていない。

 怖いですわ。

「まーったく、マルク坊は頼りにならんねえ」
「め、面目ないですわ」

 明るく快活に毒を吐いたのは、ミカ婆。

 吐かれた毒に、心が締めつけられますわ。

「じ、実は領民の皆様に、力になって欲しくて」
「「「言ってみなさい」」」

 マダム達の声が揃う。

 バン爺もそうだったけれど、バルハマダム三人衆も昔からマルクを可愛がり、世話を焼いてくれている。

 マルクは幸せ者ですわね。

 感動を覚えながら、まずは計画を伝える。

 これから私がマルク=コニーとしてすべき仕事は、生産者として収益を出す方法の確立。

 女伯爵だった私が継いだ、出来上がった商品を扱い、流通させて儲ける商売ではない。

 だから領収を上げる為には、領民達の力が必要となってくる。

「本当にこんな実が、洗濯に使えんのかい?」

 ウォッシュナッツを手に取ったエリー婆が、手の平で転がしながらジロリと睨む。

「ええ!
それに石鹸と違ってお肌に優しいから、髪や洗顔にも使えますの!」
「……話し方を変えたみたいだけど、似合わないね……変た……いや、何でもないよ」

 ウォッシュナッツより私の口調が気になったのか、リリ婆が……ああ、ドン引きした目になってますわ。

「ふ、ふふふ。
都会の貴族は、こういう話し方をした方が受けが良くて。
これからバルハ領を改革していくのに、他領とも関わりますもの」
「だったら話し方より先に、見てくれと臭いをどうにかすんだね!」
「わ、わかってますわ」

 おかしいですわ!?
臭いの方は、だいぶマシになったと思ってましたのに!

 わかっていても、努力しても、なかなか倒せない強敵!
それが加齢臭という事ですわね!

 けれどミカ婆が明るく吐き捨てた毒も、嗅覚ではなく乙女心を殺りに来る強烈さがありますわ。

 もちろん反論などせず、大人しく毒に堪えましてよ!
バルハマダム達の機嫌を損ねるわけにはまいりません!

 ああ……油断すると……な、涙が……。

「ほらほら、ボヤッとしてんじゃないよ!
この木の実をどうすんのさ!」

 傷心な私を知ってか知らずか、エリー婆が説明の続きを求める。

「え、ええ。
それではこの麻袋にウォッシュナッツを入れて、私が昨日着ていたシャツを……」
「「「うっ、臭い!」」」

 試し洗い用にと持参したシャツを取り出せば、バルハマダム三人衆の声が揃う。

「ひ、酷い……でも……うっ、臭いですわね……」

 自分で取り出した服についた、自分の加齢臭に、私もウッとなる。

「洗浄力は大丈夫なんだろうね?」

 鼻を摘んだエリー婆に、また睨まれてしまう。

「もちろんでしてよ。
ほら」

 更にウォッシュナッツで洗っておいたシャツも取り出して、エリー婆に手渡せば、他の二人も揃って三人衆でくんくん臭いを嗅ぐ。

「……残念だけどマルク坊がその洗ってない服と一緒にしてたからか、ウォッシュナッツの洗浄力が弱いからのかわからないけど、臭いよ」
「ハッ、言われてみれば!?」

 リリ婆の指摘に、やっちまったなと項垂れる。

「あはは、ドジだねえ。
でも手触りは全然違う」
「良いんですの。
また洗って出直しますわ」

 ミカ婆が笑い飛ばしてくれたのが唯一の救いかと、仕方なくシャツを片づけようとする。

「「「その必要はないよ」」」

 けれどバルハマダム三人衆が、同時に引き止めた。

「石鹸よりよっぽど仕上がりが良いんだ」
「洗濯物なんて、ほぼ毎日溜まるからね」
「今日から私達も使ってみて、臭いがどうなるか試せば良いさ」

 エリー婆、リリ婆、ミカ婆と、順に私へ頷いてくれた。

「本当ですの!?
嬉しいですわ!
是非、お願いしますわ!
それから、ウォッシュナッツは髪も洗えますのよ!
石鹸で洗った時のように、髪がゴワゴワギシギシせず、しかもお肌に優しいんですの!」
「「「髪も?」」」
「ええ!
私もここ数日、ウォッシュナッツで洗髪してますわ!
変化がわかるよう、こちらへ伺う直前に洗髪しましたのよ!
ほら、何もつけなくても髪が……」

 言いながら髪を触れば、ネチャリ感……。

 つい指についたネチャリな何かを、反射的に嗅いでしまう。

「脂臭いですわ!?」
「「「マルク坊は自前の脂でいつもテカテカだからねえ……」」」
「ひぃ~!
緊張して、いつもより脂が分泌されてますわぁぁぁ!?」

 幾らこの体に記憶があるとは言え、中身的には初対面。
緊張してしまったのは、不可抗力ですわぁぁぁ!

「「「まったく、しょうがいないね」」」
「吹き出る脂が悪いんですわ!
騙されたと思って、是非一度試して下さいませぇぇぇ!」

 呆れるバルハマダム三人衆に、私はウォッシュナッツの洗髪方法を伝授した。

 半べそと、更なる脂を頭皮にかきながら。

 世知辛いですわ……。
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