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25.コニー男爵からの初贈り物〜ファビアside
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「それ、初めて見たな。
似合ってる。
それにこれから暑くなる夏らしい。
良いんじゃないか」
陽光の中。
邸の庭を気晴らしに散歩していれば、ヘリオスが目を細めて褒めてくる。
そろそろ初夏へと季節が移ろう頃。
麦藁素材の帽子を被って日を遮る。
外国では、カンカン帽と呼ぶ国もあるらしい帽子は、細かく編まれていて、模様が自然な風合いで馴染んでいる。
「ありがとう。
私も気に入っているんだ」
「どこで買ったんだ?」
「ふふふ、贈り物だよ」
少し自慢したい気持ちが出て、得意気に言う。
するとヘリオスが一瞬、顔を強張らせた?
自慢し過ぎたかな?
ややあってから、ヘリオスがぎこちない笑みを浮かべた。
「……へえ。
誰だ?」
「コニー男爵。
あ、ヘリオスにもあるよ」
「は?
俺?
何で?」
「邸の中に入ろうか。
私の邸の使用人である、ヘリー宛てだけれどね」
「ああ、そういう事か。
そう言えば、コニー男爵を送ってった時にヘリーって名乗ってたな」
合点がいったヘリオスと、私の執務室へと向かう。
「『遅くなったけれど、あの日は本当に助かった。ありがとう』
色々書いてあったけれど、要約するとそんな感じ。
私への手紙に、添えてあったんだ。
平民のヘリーが、文字を読めない可能性を考えたんだろうね」
そもそも貴族が平民に、手紙どころか贈り物をするなんて、滅多にない。
コニー男爵は律儀な上に、他人へ素直に感謝できる性格なんだろう。
そう思えば思うほど、私の中のコニー男爵への好感度は上がってしまう。
コニー男爵への興味心が、最後に別れて以来、随分と膨れている。
コニー男爵へ興味を持ったきっかけは、本当に些細な事だった。
私が入水自殺と勘違いし、真冬の川で行水するコニー男爵を陸に引きずり上げた時だ。
彼は『エンヤ嬢』と呟いた。
その名前は時折、私の夢に出てくる赤髪の女性が度々口にする名前だった。
女性は猫目で、気の強そうな顔立ち。
夢で見る女性はいつも気を張っていて、そのせいでツンケンしているように見える。
けれど、ふとした時に滲み出る素の表情。
きっと本来の女性は、愛嬌があるんじゃないかな。
その女性の名前は、今のところ出てこない。
ただ、女性がこちらを見て『エンヤ嬢』と呟く時があったのだ。
コニー男爵がその名を口にしたのは、もちろん偶然だろう。
夢の女性の話は、幼馴染のヘリオスにだってした事がない。
だからコニー男爵がメルディ領を訪れた理由が、私に融資を求める為だったとしても、もし私に取り入ろうとしたとしても、その名前を意図的に口にできるはずがない。
そう考えるとコニー男爵には……。
「不思議な縁を感じてしまうんだよね」
「ん?
何て?」
おっと。
思わず口に出してしまった。
耳の良いヘリオスが、首を捻って聞き返してくる。
「何でもないよ。
商売に繋げられたらなって思ってたら、独り言がついうっかりとね。
はい、これ」
夢の女性の事は、誰にも教えるつもりはない。
私だけの記憶に留めておきたいから。
誤魔化しつつ、机に置いてあった箱を二つ手に取り、ヘリオスの座るテーブルへ置いた。
「この箱を開けてみて」
まずは一つの箱をヘリオスの前に置く。
「そっか。
ファビアは商売の事を考えている時は、独り言が多くなるからな。
ん?
変わった素材……麦藁帽子?
に、なるのか?」
誤魔化されてくれた様子のヘリオスは、開けた箱から、麦藁で編まれたハンチング帽を取り出す。
これにも自然な風合いで、柄が編まれていた。
「そうだよ。
手紙には、コニー男爵が編んだって書いてた」
「は?
編んだ?
縫うでもなく?
コニー男爵が?」
ヘリオスが目を丸くするのも当然だ。
麦藁をここまで細い縄状の紐にしているのも、こんな風に編むのも、見た事がない。
そもそも普通の麦藁帽子は、平たく織った麦を、糸を使って縫いながら成形するのが主流だ。
それに編み物をする男性の話は、この国では滅多に聞かない。
せいぜい、職人くらいかな?
編み物自体、女性の嗜みとされているからだ。
しかもこれ、棒編みじゃない。
この国に馴染みのない、かぎ針編みだろうか。
どうしてコニー男爵がかぎ針編みを?
それもこんな風に、手のこんだ編み方で編めるんだろう?
どう見ても、熟練した者が編んだようにしか見えない。
コニー男爵の治めるバルハ領も、私が治めるメルディ領と同じく、編むなら棒編みが主流のはずなのに。
「そう。
彼の手作り。
今後、バルハ領の特産品の一つとして売り出すんだって。
あとね、ほら。
私の足下も見てみて」
ズボンの裾を持ち上げて、履いていた靴を見せる。
「涼しげだな。
それも?」
私の足下を覗いたヘリオスが、目を丸くする。
きっとヘリオスもこういう靴は見た事がない。
靴の素材は、もちろん麦藁。
これもコニー男爵からの贈り物だ。
「そう。
それからこれ。
これもヘリオスのだよ」
更にもう一つの箱を差し出す。
「これも?
二つも平民のはずの、ヘリーに贈ってくれたのか?」
ヘリオスが驚くのも、無理はない。
コニー男爵を送り届けた、あの日のヘリオス。
身分を偽っていたヘリオスは、あくまで主人の命令を実行したにすぎない使用人だと伝えてあったはず。
普通は、良くて主人への手紙に感謝を一言添える程度。
なのに贈り物を二つも贈るなんて、貴族からすれば考えられない事だ。
似合ってる。
それにこれから暑くなる夏らしい。
良いんじゃないか」
陽光の中。
邸の庭を気晴らしに散歩していれば、ヘリオスが目を細めて褒めてくる。
そろそろ初夏へと季節が移ろう頃。
麦藁素材の帽子を被って日を遮る。
外国では、カンカン帽と呼ぶ国もあるらしい帽子は、細かく編まれていて、模様が自然な風合いで馴染んでいる。
「ありがとう。
私も気に入っているんだ」
「どこで買ったんだ?」
「ふふふ、贈り物だよ」
少し自慢したい気持ちが出て、得意気に言う。
するとヘリオスが一瞬、顔を強張らせた?
自慢し過ぎたかな?
ややあってから、ヘリオスがぎこちない笑みを浮かべた。
「……へえ。
誰だ?」
「コニー男爵。
あ、ヘリオスにもあるよ」
「は?
俺?
何で?」
「邸の中に入ろうか。
私の邸の使用人である、ヘリー宛てだけれどね」
「ああ、そういう事か。
そう言えば、コニー男爵を送ってった時にヘリーって名乗ってたな」
合点がいったヘリオスと、私の執務室へと向かう。
「『遅くなったけれど、あの日は本当に助かった。ありがとう』
色々書いてあったけれど、要約するとそんな感じ。
私への手紙に、添えてあったんだ。
平民のヘリーが、文字を読めない可能性を考えたんだろうね」
そもそも貴族が平民に、手紙どころか贈り物をするなんて、滅多にない。
コニー男爵は律儀な上に、他人へ素直に感謝できる性格なんだろう。
そう思えば思うほど、私の中のコニー男爵への好感度は上がってしまう。
コニー男爵への興味心が、最後に別れて以来、随分と膨れている。
コニー男爵へ興味を持ったきっかけは、本当に些細な事だった。
私が入水自殺と勘違いし、真冬の川で行水するコニー男爵を陸に引きずり上げた時だ。
彼は『エンヤ嬢』と呟いた。
その名前は時折、私の夢に出てくる赤髪の女性が度々口にする名前だった。
女性は猫目で、気の強そうな顔立ち。
夢で見る女性はいつも気を張っていて、そのせいでツンケンしているように見える。
けれど、ふとした時に滲み出る素の表情。
きっと本来の女性は、愛嬌があるんじゃないかな。
その女性の名前は、今のところ出てこない。
ただ、女性がこちらを見て『エンヤ嬢』と呟く時があったのだ。
コニー男爵がその名を口にしたのは、もちろん偶然だろう。
夢の女性の話は、幼馴染のヘリオスにだってした事がない。
だからコニー男爵がメルディ領を訪れた理由が、私に融資を求める為だったとしても、もし私に取り入ろうとしたとしても、その名前を意図的に口にできるはずがない。
そう考えるとコニー男爵には……。
「不思議な縁を感じてしまうんだよね」
「ん?
何て?」
おっと。
思わず口に出してしまった。
耳の良いヘリオスが、首を捻って聞き返してくる。
「何でもないよ。
商売に繋げられたらなって思ってたら、独り言がついうっかりとね。
はい、これ」
夢の女性の事は、誰にも教えるつもりはない。
私だけの記憶に留めておきたいから。
誤魔化しつつ、机に置いてあった箱を二つ手に取り、ヘリオスの座るテーブルへ置いた。
「この箱を開けてみて」
まずは一つの箱をヘリオスの前に置く。
「そっか。
ファビアは商売の事を考えている時は、独り言が多くなるからな。
ん?
変わった素材……麦藁帽子?
に、なるのか?」
誤魔化されてくれた様子のヘリオスは、開けた箱から、麦藁で編まれたハンチング帽を取り出す。
これにも自然な風合いで、柄が編まれていた。
「そうだよ。
手紙には、コニー男爵が編んだって書いてた」
「は?
編んだ?
縫うでもなく?
コニー男爵が?」
ヘリオスが目を丸くするのも当然だ。
麦藁をここまで細い縄状の紐にしているのも、こんな風に編むのも、見た事がない。
そもそも普通の麦藁帽子は、平たく織った麦を、糸を使って縫いながら成形するのが主流だ。
それに編み物をする男性の話は、この国では滅多に聞かない。
せいぜい、職人くらいかな?
編み物自体、女性の嗜みとされているからだ。
しかもこれ、棒編みじゃない。
この国に馴染みのない、かぎ針編みだろうか。
どうしてコニー男爵がかぎ針編みを?
それもこんな風に、手のこんだ編み方で編めるんだろう?
どう見ても、熟練した者が編んだようにしか見えない。
コニー男爵の治めるバルハ領も、私が治めるメルディ領と同じく、編むなら棒編みが主流のはずなのに。
「そう。
彼の手作り。
今後、バルハ領の特産品の一つとして売り出すんだって。
あとね、ほら。
私の足下も見てみて」
ズボンの裾を持ち上げて、履いていた靴を見せる。
「涼しげだな。
それも?」
私の足下を覗いたヘリオスが、目を丸くする。
きっとヘリオスもこういう靴は見た事がない。
靴の素材は、もちろん麦藁。
これもコニー男爵からの贈り物だ。
「そう。
それからこれ。
これもヘリオスのだよ」
更にもう一つの箱を差し出す。
「これも?
二つも平民のはずの、ヘリーに贈ってくれたのか?」
ヘリオスが驚くのも、無理はない。
コニー男爵を送り届けた、あの日のヘリオス。
身分を偽っていたヘリオスは、あくまで主人の命令を実行したにすぎない使用人だと伝えてあったはず。
普通は、良くて主人への手紙に感謝を一言添える程度。
なのに贈り物を二つも贈るなんて、貴族からすれば考えられない事だ。
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