【完結】女伯爵のカレイな脱臭領地改革〜転生先で得たのは愛とスパダリ(嬢)!?

嵐華子

文字の大きさ
39 / 81

39.ピートモスと業務提携

しおりを挟む
「どうかしら、キーナ。
ダンは茶の木について、何か言ってまして?」
――バシャバシャバシャ。

 山で事故に遭い、ファビア様に救われてから一ヶ月が経った。

 あの時、登山のお供に連れていた、愛馬ならぬ愛ロバのロッティー。
その背中には遭難直前まで、とあるブツを発見しては積んでいたのだ。

 私が山道を転がり落ちたせいで下山途中にはぐれたロッティーは、そんな物を無事、邸へと運んでくれていた。

「うん、お父さんがもう心配いらねえって言ってた。
茶の木も元気になったよ!」
「そう、良かったですわ」
――バシャバシャバシャ。
「まさか山の中にできてた泥の炭?
えっと、何て言うんだっけ?」
「広くは泥炭でいたんと呼ばれてもいる、ピートモスですわ」
――バシャバシャバシャ。
「そうそう、ピートモス!
水草や苔が枯れたのが積もって泥の炭になるなんて、面白いね!
それが茶の木に適した土に変えてくれるんだから、お父さんもびっくりしてた!
お陰で茶の木だけじゃなく、お父さんも元気になったよ!
ありがとう、マルクさん!」

 茶の木が枯れそうになり、大慌てで私の邸に来たキーナの父親、ダン。

 茶の木に異変が起こる前、ダンから紫陽花の花色が例年と変わったと聞いて、ある事を思い出していて本当に良かったですわ。

 淑女時代に邸で雇っていた老齢の庭師、ジョーに今更ながら感謝しなければ。

 ジョーは紫陽花の色を変える場合、土の性質を変えるのだと教えてくれた。
青系統色にしたいならピートモス、赤系統色にしたいなら貝灰を土に混ぜると良いのだと。

 茶の木が枯れそうになるよりも前、ダンが偶然話していた、茶の木の側に植えた紫陽花の花色の話。
例年咲かせる花色は青紫色なのに、今年はピンク色だと言っていた。

 そしてその場にいたゴリーは、小麦畑の近くに咲く紫陽花の花色は、例年通りピンク色だったと言った。

 私は庭師のジョーから、茶の木については聞いた事がない。
淑女時代、緑茶に馴染みも無かったから当然だろう。

 しかし小麦の栽培に適した土は、紫陽花をピンク色にする事、そして植物にはそれぞれ適した土の性質がある事は教わっていた。
もちろんピートモスが、どんな場所で取れるのかも。

 更に去年の年末、私はゴリー達に、ダンが育てる茶の木の回りに藁を敷いて欲しいとお願いしている。

 もしかするとその時、小麦の土が茶の木の土に混入してしまった可能性は否めない。

 これらの話を複合的に考え、私はピートモスがありそうな、バルハ領内の山に入って事故に遭ってしまったのだ。

「とんでもないですわ」
――バシャバシャバシャ。
「ところでソレ、何してるの?
藁じゃなく、糸を染めてる?」

 キーナが指差すのは、私の手元。

 先程からバシャバシャバシャとやっているコレ。

「そうなんですのよ!
柿渋、緑茶、墨で糸を染めていたのを、洗ってますの!」

 キーナの言う通り、藁ではなく、木綿糸を染めてみたのだ。

「今度は何をするの?」
「ふふふ、メルディ領主のグロール伯爵と業務提携した話は聞いているかしら?」
「うん!
でも難しい事はわかんない!」
「キーナはまだ子供ですものね」

 無邪気に言い放つキーナは、子供らしくて可愛らしい。
まだ十二歳と幼いのだから、知らずとも問題ない。

「バルハ領では来年、グロール伯爵の商会にサンダルと帽子を商品として卸しますの」
「おろす?」
「売りますのよ。
それから藁糸も。
そして今からこの糸を使って試作する物も、できれば商品として卸し、んんっ、売れれば良いなと考えてますわ」
「どうして藁糸を?
それに何を作るの?」

 小首を傾げるキーナを見ていると、淑女というにも幼い、スモールレディだった頃を思い出してしまいますわ。

 あの頃の私は、好奇心の塊。
それこそ庭師のジョーにも「あれは何?」、「これはどうして?」と質問攻めにしていた。

「バルハ領の領民は、数が少ないんですの。
なのに商品を大量に作って売るには、人手が足りなくなってしまう。
だから商会には技術と、商品の元となる素材を売る事にしましたわ」
「技術って、売れるんだ?」
「ええ。
私が教える編み方は、幾つもパターンがありますの。
なので簡単なパターンから教えて、時間とお金を稼ぎますわ」

 ファビア様も私も、優先するのは各々の利益。
商談をまとめるのに一週間もかかってしまった。

「でも全部教えたら、最後は何もなくなっちゃうんじゃない?」
「まあ、キーナ。
賢いですわ。
そんな風に考えられるって、素晴らしいんですのよ」

 そう、調子に乗って、自分の手駒を全て曝すわけにはいかない。

 そして売り出せる物を出し惜しみするのも、出し切るのもいけない。

 何事もほどほどに出しつつ、次の手を考えていかなければ、商売はいつか暗礁に乗り上げてしまう。

 マルク=コニーに転生してからというもの、ファビア様には助けられっぱなしだ。

 だからと言って、ファビア様は他領の領主。
全面的に信用してはいけないし、こちらの利益を相手の言い値で決めてもいけない。

 もしそんな事をすれば、婚約者を盲目的に信じたフローネ=アンカスのように、愚かな末路が待っているに違いないのだから。



※※※※
【紫陽花の花色豆知識】
・青系統色→酸性土壌(茶の木が適性)
・赤系統色→アルカリ性土壌(小麦が適性)
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

追放された令嬢ですが、隣国公爵と白い結婚したら溺愛が止まりませんでした ~元婚約者? 今さら返り咲きは無理ですわ~

ふわふわ
恋愛
婚約破棄――そして追放。 完璧すぎると嘲られ、役立たず呼ばわりされた令嬢エテルナは、 家族にも見放され、王国を追われるように国境へと辿り着く。 そこで彼女を救ったのは、隣国の若き公爵アイオン。 「君を保護する名目が必要だ。干渉しない“白い結婚”をしよう」 契約だけの夫婦のはずだった。 お互いに心を乱さず、ただ穏やかに日々を過ごす――はずだったのに。 静かで優しさを隠した公爵。 無能と決めつけられていたエテルナに眠る、古代聖女の力。 二人の距離は、ゆっくり、けれど確実に近づき始める。 しかしその噂は王国へ戻り、 「エテルナを取り戻せ」という王太子の暴走が始まった。 「彼女はもうこちらの人間だ。二度と渡さない」 契約結婚は終わりを告げ、 守りたい想いはやがて恋に変わる──。 追放令嬢×隣国公爵×白い結婚から溺愛へ。 そして元婚約者ざまぁまで爽快に描く、 “追い出された令嬢が真の幸せを掴む物語”が、いま始まる。 ---

放蕩な血

イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。 だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。 冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。 その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。 「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」 過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。 光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。 ⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。 涙を流して見せた彼女だったが── 内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。 実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。 エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。 そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。 彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、 **「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。 「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」 利害一致の契約婚が始まった……はずが、 有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、 気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。 ――白い結婚、どこへ? 「君が笑ってくれるなら、それでいい」 不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。 一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。 婚約破棄ざまぁから始まる、 天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー! ---

答えられません、国家機密ですから

ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。

敗戦国の元王子へ 〜私を追放したせいで貴国は我が帝国に負けました。私はもう「敵国の皇后」ですので、頭が高いのではないでしょうか?〜

六角
恋愛
「可愛げがないから婚約破棄だ」 王国の公爵令嬢コーデリアは、その有能さゆえに「鉄の女」と疎まれ、無邪気な聖女を選んだ王太子によって国外追放された。 極寒の国境で凍える彼女を拾ったのは、敵対する帝国の「氷の皇帝」ジークハルト。 「私が求めていたのは、その頭脳だ」 皇帝は彼女の才能を高く評価し、なんと皇后として迎え入れた! コーデリアは得意の「物流管理」と「実務能力」で帝国を黄金時代へと導き、氷の皇帝から極上の溺愛を受けることに。 一方、彼女を失った王国はインフラが崩壊し、経済が破綻。焦った元婚約者は戦争を仕掛けてくるが、コーデリアの完璧な策の前に為す術なく敗北する。 和平交渉の席、泥まみれで土下座する元王子に対し、美しき皇后は冷ややかに言い放つ。 「頭が高いのではないでしょうか? 私はもう、貴国を支配する帝国の皇后ですので」 これは、捨てられた有能令嬢が、最強のパートナーと共に元祖国を「実務」で叩き潰し、世界一幸せになるまでの爽快な大逆転劇。

乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。 どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。 鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます! ※他サイトにも掲載しています

処理中です...