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70.ヘリーの前世
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「全く……相変わらず、つれないな。
ファビア。
お前はどこまで思い出した?」
ファビア様の仄暗い微笑みに、独り言ちたヘリーが、静かに尋ねた。
色々と急展開な状況に戸惑いつつも、ヘリーの言葉に僅かな違和感を覚えてしまう。
まるでヘリーも私達と同じく、前世を知っているかのような……。
思わず膝に置いた両手に力が入って、握り拳を作る。
はっ、まさか……まさかヘリーの前世が私の、フローネの婚約者だなんて言いませんわよね!?
もし婚約者だったら、首根っこ掴まえてガクンガクンさせた後、その頬っ面をはたいてやりましてよ!
「マルク?
突然、闘志に燃えてない?」
「あ、あら、うふふふ。
あり得ない可能性に、ちょっとばかりヒートアップしてましたわ」
「落ち着いて?
ヒッヒッフーだよ」
「「それは違うやつ(違いますわ)」」
ファビア様のアドバイスに、私とヘリーが異を唱えたところで、ファビア様が硬く握った私の片方の手に、華奢な手を添えてくれた。
「ヘリオス。
私は多分、全て思い出したよ。
ヘリオス……君は誰?」
ファビア様がヘリーに尋ね返す。
驚く程、ファビア様の声音は穏やかた。
もしかすると緊張する私の為に、わざとそんな声を出しているのかもしれない。
「俺も思い出した。
と言うより、最初から覚えていたと言うべきかもしれない」
「最初から?」
「ああ。
ファビア。
以前、俺に運命を信じるかって聞いた事を覚えているか?」
「うん。
私が初めてヘリオスにシャルルだった時の事を話した時だね。
ああ、マルク。
私はその時、ヘリオスにマルクと出会ったのが運命だとも話してあるんだよ」
「そ、そうですのね」
ファビア様がまた色気を私に振りまきますわ。
顔が熱くなると、頭から臭え脂が出そうだから、止めて下さいまし。
「俺はファビアと、いや、俺達三人がこうして出会ったのは、運命だと思っている」
「ふうん……ヘリオスもマルクに運命を?」
「あー、一々つっかかるなって。
ファビアにも感じている。
何故なら俺が物心ついた時には、既に自分がエストバン国の王太子として、国王として生きた記憶があったんだ。
いつからとかじゃなく、最初から覚えていた」
「え、ええ!?
王太子殿下ですの!?」
予想外の転生者に、声が大きくなってしまった。
ファビア様は、どこかで気づいていたのか、何のリアクションもなく、むしろ私を見つめ続けている。
「ああ。
だからシャルル=エンヤを妃にし、フローネ=アンカスに冤罪をかけた連中に、法に則り裁きを下してフローネ=アンカスの地位を復権させた事も覚えている」
そうか、ヘリーは王太子でしたのね。
元婚約者ではなく……気心知れたヘリーは……王太子……。
あらら?
どうしてかしら?
気が抜けてきましたわ?
あらら?
どうしてかしら?
目頭が熱くなってきましたわ?
私の手に自分の手を添えるファビア様が、反対の手で胸ポケットからハンカチを取り出す。
するとそっと私の涙を拭ってくれる。
「マルク。
いや、今はアンカス伯爵と呼ばせてくれ。
アンカス伯爵。
生きている間に、冤罪だった事を晴らしてやれなくてすまなかった。
王家の都合で、いきすぎた処刑をしたと……」
「う、う……うわぁぁぁん!」
感情も昂り始めると、ヘリーの話を遮るように、うっかり野太い泣き声を声を上げてしまう。
ファビア様が添えた手を、なるべく優しく退けて、頬に添えられたハンカチをバッと奪って広げる。
「うっ、うっ、よ、よがっだぁぁぁ……うえぇぇぇん!」
言いながら、ハンカチを顔全体に当てて、感情を吐き出す。
こんな時ですけれど、臭え息が口から漏れるのは、乙女な心が許しませんわ!
「あー、っと……今のマルクは淑女だ、今のマルクはフローネ=アンカス、今はオッサンじゃねえ……女、女……」
「ヘリオス。
私の可愛いマルクは、女でも男でも泣き声は可愛いよ」
どんなやり取りですの?
いえ、オッサンの、本気と書いてマジ泣きは見苦しいですわ。
「ゔぉ゙ぉ゙ぉ゙ぃ゙、ゔぉ゙ぉ゙ぉ゙ぃ゙」
けれど止められませんわ!
だって……だってぇぇぇ!
「亡くなった後に地位を回復したとしても、許されるとは思っていない。
だが良かったと思って貰えたなら……」
「何を言っているの、ヘリオス。
フローネに冤罪をかけた人間達は、殺しても殺したりない。
けれど私はあの日、冤罪だとわかっていてフローネを殺した王家も、フローネを見殺しにする事に追従した私の生家も、決して許していないよ」
殺気立ったファビア様が、ヘリーに言い放つ。
「わかっている。
身にしみて……わかっている」
するとヘリーは、自嘲したような、苦しげな声を出した。
身にしみて?
どういう意味かしら?
ヘリーの言葉に、また違和感を感じてしまいますわね?
けれど、二人して勘違いしてますわ。
だって、だって私が泣いてしまったのは……。
「ヘリーが、あのボンクラカス婚約者で、なくっ、うっうっ、なぐでよがっだでずわ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!」
まずは誤解を解こうとしたものの、最後はオッサンの、物凄く見苦しい嗚咽まみれの声となってしまう。
「「そっちか……」」
するとファビア様とヘリーの幼馴染コンビが、声を揃えてそう呟いた。
ファビア。
お前はどこまで思い出した?」
ファビア様の仄暗い微笑みに、独り言ちたヘリーが、静かに尋ねた。
色々と急展開な状況に戸惑いつつも、ヘリーの言葉に僅かな違和感を覚えてしまう。
まるでヘリーも私達と同じく、前世を知っているかのような……。
思わず膝に置いた両手に力が入って、握り拳を作る。
はっ、まさか……まさかヘリーの前世が私の、フローネの婚約者だなんて言いませんわよね!?
もし婚約者だったら、首根っこ掴まえてガクンガクンさせた後、その頬っ面をはたいてやりましてよ!
「マルク?
突然、闘志に燃えてない?」
「あ、あら、うふふふ。
あり得ない可能性に、ちょっとばかりヒートアップしてましたわ」
「落ち着いて?
ヒッヒッフーだよ」
「「それは違うやつ(違いますわ)」」
ファビア様のアドバイスに、私とヘリーが異を唱えたところで、ファビア様が硬く握った私の片方の手に、華奢な手を添えてくれた。
「ヘリオス。
私は多分、全て思い出したよ。
ヘリオス……君は誰?」
ファビア様がヘリーに尋ね返す。
驚く程、ファビア様の声音は穏やかた。
もしかすると緊張する私の為に、わざとそんな声を出しているのかもしれない。
「俺も思い出した。
と言うより、最初から覚えていたと言うべきかもしれない」
「最初から?」
「ああ。
ファビア。
以前、俺に運命を信じるかって聞いた事を覚えているか?」
「うん。
私が初めてヘリオスにシャルルだった時の事を話した時だね。
ああ、マルク。
私はその時、ヘリオスにマルクと出会ったのが運命だとも話してあるんだよ」
「そ、そうですのね」
ファビア様がまた色気を私に振りまきますわ。
顔が熱くなると、頭から臭え脂が出そうだから、止めて下さいまし。
「俺はファビアと、いや、俺達三人がこうして出会ったのは、運命だと思っている」
「ふうん……ヘリオスもマルクに運命を?」
「あー、一々つっかかるなって。
ファビアにも感じている。
何故なら俺が物心ついた時には、既に自分がエストバン国の王太子として、国王として生きた記憶があったんだ。
いつからとかじゃなく、最初から覚えていた」
「え、ええ!?
王太子殿下ですの!?」
予想外の転生者に、声が大きくなってしまった。
ファビア様は、どこかで気づいていたのか、何のリアクションもなく、むしろ私を見つめ続けている。
「ああ。
だからシャルル=エンヤを妃にし、フローネ=アンカスに冤罪をかけた連中に、法に則り裁きを下してフローネ=アンカスの地位を復権させた事も覚えている」
そうか、ヘリーは王太子でしたのね。
元婚約者ではなく……気心知れたヘリーは……王太子……。
あらら?
どうしてかしら?
気が抜けてきましたわ?
あらら?
どうしてかしら?
目頭が熱くなってきましたわ?
私の手に自分の手を添えるファビア様が、反対の手で胸ポケットからハンカチを取り出す。
するとそっと私の涙を拭ってくれる。
「マルク。
いや、今はアンカス伯爵と呼ばせてくれ。
アンカス伯爵。
生きている間に、冤罪だった事を晴らしてやれなくてすまなかった。
王家の都合で、いきすぎた処刑をしたと……」
「う、う……うわぁぁぁん!」
感情も昂り始めると、ヘリーの話を遮るように、うっかり野太い泣き声を声を上げてしまう。
ファビア様が添えた手を、なるべく優しく退けて、頬に添えられたハンカチをバッと奪って広げる。
「うっ、うっ、よ、よがっだぁぁぁ……うえぇぇぇん!」
言いながら、ハンカチを顔全体に当てて、感情を吐き出す。
こんな時ですけれど、臭え息が口から漏れるのは、乙女な心が許しませんわ!
「あー、っと……今のマルクは淑女だ、今のマルクはフローネ=アンカス、今はオッサンじゃねえ……女、女……」
「ヘリオス。
私の可愛いマルクは、女でも男でも泣き声は可愛いよ」
どんなやり取りですの?
いえ、オッサンの、本気と書いてマジ泣きは見苦しいですわ。
「ゔぉ゙ぉ゙ぉ゙ぃ゙、ゔぉ゙ぉ゙ぉ゙ぃ゙」
けれど止められませんわ!
だって……だってぇぇぇ!
「亡くなった後に地位を回復したとしても、許されるとは思っていない。
だが良かったと思って貰えたなら……」
「何を言っているの、ヘリオス。
フローネに冤罪をかけた人間達は、殺しても殺したりない。
けれど私はあの日、冤罪だとわかっていてフローネを殺した王家も、フローネを見殺しにする事に追従した私の生家も、決して許していないよ」
殺気立ったファビア様が、ヘリーに言い放つ。
「わかっている。
身にしみて……わかっている」
するとヘリーは、自嘲したような、苦しげな声を出した。
身にしみて?
どういう意味かしら?
ヘリーの言葉に、また違和感を感じてしまいますわね?
けれど、二人して勘違いしてますわ。
だって、だって私が泣いてしまったのは……。
「ヘリーが、あのボンクラカス婚約者で、なくっ、うっうっ、なぐでよがっだでずわ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!」
まずは誤解を解こうとしたものの、最後はオッサンの、物凄く見苦しい嗚咽まみれの声となってしまう。
「「そっちか……」」
するとファビア様とヘリーの幼馴染コンビが、声を揃えてそう呟いた。
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